盛大な結婚式は終わり、ようやく靜かな日常生活が訪れた。

遙斗は社長になるための業務の引継ぎで忙しくしているが、私も相変わらず宣伝部で慌ただしい毎日を送っている。

最近は食事時間を合わせることも難しく、平日はすれ違うことも多い。その反もあって、お互い休日を迎えると、朝から遙斗がベッドから解放してくれない。日曜の夜は、違う意味でぐったりとしている。

「お願い遙斗、今夜だけは一人で寢かせて。明日は朝早いから」

「それなら、夜は短めにしておくよ。今日はまだ一回だけだ。週末まで我慢できなくなる」

「きっ、昨日はほぼ一日中ベッドの上にいたじゃないっ！　もう、今夜は許して～」

「それは、里穂次第だな。俺を短い時間で満足させてくれたら考えるよ」

そうはいっても別室へ逃げれば済むことなのに、結局遙斗の言いなりになってしまう私もどうかしている……。

翌朝は広報宣伝部で立ち上げたプランで、子目線のアプリ改善案が完し、TSAグローバルと打上げを行う予定だった。

アプリのAIを擔當している桂木さんにも積極的に意見がしいと言われ、共同で改善案に取り組んでいた。

それと宣伝部にも新鋭がり、私をサポートしてくれるようになった。つまり部下のような存在ができたのだ。先輩と呼ばれるのもちょっと恥ずかしいけど、年下の割に気が利いて、慕ってくれている。

「里穂先輩、先週の頼まれていたデータ、確認しておきましたよ」

「ありがとう、加地かじ君」

加地 孝之たかゆき君は、五つ年下で、営業部から自ら希して広報宣伝部の方へ異してきたらしい。なぜか私のことも知っているらしく、初対面の挨拶時にはリップサービスなのか、憧れていますとまで言われてしまった。長は遙斗並みに１８０以上はあるし、切れ長の一重瞼が綺麗な爽やか系イケメンだ。最近は一緒に仕事をする機會も多い。

「里穂、今日も殘業じゃない。家庭は大丈夫なの？」

宣伝部の同僚である萬智に尋ねられ、メールをしておかないとまずいと思い返した。

「今週は仕方ないよ。話がまとまるまで遅いからって言ってあるし。それも今夜の打ち上げが終われば、仕事も一區切りできるでしょ」

最近は遙斗との結婚生活よりも仕事の進捗狀況の方が気になっている。やっと一息つけるところまできたのだから、今だけは仕方がない。ちょっと罪悪をじていた私は、明日こそ早く帰って遙斗においしいものでも作ろうと考えていた。それでも、彼の方が料理上手なこともあり、どこまで私の作った味を喜んでくれているのかは疑問だった。普段から、里穂が作るものなら何でもおいしいと言ってくれる。そうやって甘やかされてしまうから、料理の腕はいつまでも向上しないのだろう。