《香滴る外資系エリートに甘く溶かされて》3-2. 忘れられないと當
「レナ!會いたかったよ!」
店にってすぐ金髪の男に話しかけられた。寫真で見た通りの甘いベビーフェイスに笑みを湛えた彼がいた。意外にも背が高くて驚く。顔のイメージからして、私と同じくらいの背丈だと思っていた。
レナはアプリ上で使っている名前だ。途中で本名は玲奈だと伝えたが、ノアはこちらの名前の方が呼びやすいらしい。ノア以外に私をそう呼ぶ人はいないのでなんだか不思議なじがする。
「ノア、こんばんは……って、わ!」
笑顔のノアにハグされた。イギリス人はハグより握手の文化だと聞いたことがある気がするが、記憶違いだったのかもしれない。目を白黒させているうちに頬同士が軽くれ合って、ますます驚いた。
「ごめん、會えたのが嬉しくてつい。許してくれる?」
「ええ、びっくりしたけど大丈夫…それよりも想像してたより背が高くて驚いたわ」
「ああ、なんか日本に來てから良く言われる。顔とのギャップがあるんだろ?別に向こうじゃ普通の長なんだけど」
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僅かにグリーンが混ざったブラウンの瞳が貓のように細められた。優しげなのに、まるでこちらを抜くような視線にそわそわする。
「……その、私なんか変かな。一応自分でチェックしてきたんだけど、仕事終わりにバタバタしてて」
「ううん、ただ綺麗だなと思って見惚れてた」
「そう、ありがとう」
「レナ、日本人なのに意外と照れないね?言われ慣れてるのかな」
「そういう訳じゃないけど」
ノアの口調が隨分軽かったから適當に流しただけだ。私と同様に、彼は異としての私に強い興味がある訳ではないらしい。これまでのメッセージの容からなんとなく察していたので驚きはない。むしろ、気楽に話しやすくて助かる。
壁際の席に通されて、メニューを開く。今夜の店は商業ビルの12階にったスパニッシュレストランだ。食に至るまで黒で統一されたモダンな裝いの店には続々とお客さんがってくる。ノアが職場の同僚に教えてもらった店だそうで、予め予約を取ってくれていた。お店の名だというパエリアと気になるタパスを數種類頼むことにする。
「レナはお酒飲める?」
「うん、程々にね。赤ワインのサングリアにしようかな」
「いいね。僕も飲みたい気分だしそれにしようっと」
ノアが店員さんを呼んで、ごく自然な日本語でオーダーを伝える。アプリでチャットしている時から思っていたが、日本語がかなり堪能だ。英語話者らしい特徴的な抑揚はあるものの、意思疎通は完璧に取れている。
「ねぇ、そういえば聞いてなかったんだけど、なんでノアはそんなに日本語が流暢なの?」
「ああ。実は學生時代に日本人のの子と付き合ってたんだ。留學でイギリスに來た子でさ、遠距離の時期も含めると3年半くらい付き合ったね」
「へぇ、そうなんだ」
「そうそう。んで、日本に興味を持って今ここにいるって訳さ」
甘い顔立ちの彼にお茶目なウィンクをされた。際期間としては長めだが、それだけで外國語がここまで上達するものなんだろうか。典型的な日本人らしく、英會話すら非常に怪しい私としては謎でしかない。
サングリアとタパスが運ばれてきて、2人で乾杯する。改めて互いの自己紹介をして、気がつけば仕事の話になっていた。服飾品業界と化粧品業界の販売戦略の違いからファッション業界全の今後のトレンド、果ては互いのキャリアについてまで。話題は盡きず、お酒がどんどん進む。本社から駐在員として送られてきているだけあって、ノアは優秀で話が上手い。赴任してからの苦労話も面白おかしく話してくれて、終始笑いが絶えなかった。
「ねぇ、レナ!もう1軒行こうよ!君って最高だ」
「ふふ、ノアって実はお酒弱いんじゃないの。テンション高すぎだよ」
「そんなことないよ!君が聞き上手でつい楽しくなっちゃったんだ」
私としてもまだ話し足りなかったので、ノアの提案を了承した。會計を済ませ、次の店をどこにしようか考える。そんな私の様子を見て彼が聲を掛けてきた。
「最近よく通ってるバーがあるんだけど、良かったらそこにしない?」
「じゃあそこにしよう。まだ日本で暮らし始めてそんなに経ってないのにもう行きつけのバーがあるんだね」
苦笑しながら私がそう答えると、彼はわざとらしく肩を竦めて溜め息を吐く。
「なにせ、寂しい獨りだからね。夜を過ごす相手がいないからこそ、仕方なくバーに駆け込んでるのさ」
「なにそれ」
他もない話をしながら商業ビルを出た。夜のオフィス街を抜けて、繁華街が広がるエリアへと向かって歩いていると————不意にノアが立ち止まって、私を見つめた。
「ねぇ、レナ」
「急にどうしたの?」
「このままバーに行ってもいいけど、レナとなら2人きりで過ごすのもアリだなと思って」
「どういうこ、と……」
ふと彼の視線の先を見るとそこにはホテル街が広がっていた。まだし距離があるし、いかにもそういう目的のホテルというじではない。でも、きっとこれはそういう意味だろう。驚きのあまり、すぐさま視線を戻して彼の顔を凝視する。
「そういうことはしない…とは約束できないな。レナのこと凄く気にっちゃった。だから、してみたい」
「正直だね……」
「僕たち結構良い雰囲気だと思うんだけど、レナはどう?」
彼が近づいてきて、私の頬をでる。じわりと背筋に嫌な汗が流れ落ちた。
冷靜な表を取り繕っているが心は大混だ。はっきり言ってノアのことは異というより同僚に近い覚で見ている。仕事の話をもっとしてみたかったから2軒目をOKしたのであって、こういう雰囲気になることは全く想定していなかった。
考える素振りをしながら、さりげなく人通りの多い道までの距離を確認する。全力で走ればどうにかなりそうだが、それをしたらノアとはもう2度と會えない関係になるだろう。完全に縁を切ってしまうには惜しい人だった。それに、彼の外見や振る舞いから考えるに深刻にに飢えている訳ではなさそうだ。じっと彼を見つめて、意を決する。
「うーん、今日はバーに行かない?ノアといると楽しいけど、そういう意味で好きかどうかはまだ分かんないや」
「…………ごめん、やっぱり我慢できそうにないかも」
微妙な雰囲気にならないように敢えて笑顔でそう告げたのに、彼は私の腰を抱いて顔を近づけてきた。
「っ、ちょっと待って!!」
「レナ………」
恍惚とした表で私の顎に手を添えた男の目を見てようやく気がついた。ノアはかなり酔っぱらっているらしい。自分がそこそこ飲めるせいで気づくのが遅れた。
酔っているとはいえ、格の良い外國人男に腰を抱かれて逃げられる訳もない。があとしでれ合ってしまいそうだ。不本意だが、今は大人しくやり過ごすしかない。それよりも、このままホテルに連れていかれないように隙をつくことに専念しなければ。そう思って、強く眉を寄せて耐えようとしていたのに————ノアのが引き剝がされた。
「失せろ」
ノアよりも背の高い男が私の肩を優しく包み込む。遠い過去に、よく似た溫にこうして抱き締められたことがあるような気がした。
そっと、その腕にれて振り向くと彼がいた。
「加賀谷さん…なんで………」
何が起こっているのかけれられなくて瞬きを繰り返す。彼は怒るとこんな顔になるんだなと數年越しに知って驚く私が頭の片隅にいる。今の狀況を忘れて、そんなことに想いを馳せていると腕を摑まれた。
「おいで」
不穏なほどに低い聲でそう呟いた彼に腕を引かれて、私はその場を後にしたのだった。
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