《香滴る外資系エリートに甘く溶かされて》4-1. 初夏の日差しを浴びて
結局、私たちがホテルをチェックアウトしたのは晝頃だった。シャワーを浴びているうちに逆上せてしまった私は春都に丁寧に介抱してもらった。誰のせいで逆上せる羽目になったのかは問いただしたいが、ドライヤーやマッサージまでしてもらって至れり盡くせりだったので目を瞑ることにした。
前回も昨夜も寢る前に化粧を落とす余裕なんて全くなかったので、シャワーの後、春都に初めて素顔を見られて恥ずかしかった。當時はもちろん、今も化粧品を取り扱う會社にいるので割としっかりめにメイクしている。顔の落差にがっかりされないか心配だったが、春都は私の素顔を見て何故か極まっていた。
「俺はリリちゃん…じゃなかった、玲奈のことが本當に好きなんだなとしみじみ思うよ」
ベットにうつ伏せで寢そべる私の腰をタオル越しにマッサージしながら春都が慨深げに呟く。
「……ずっと謎だったんだけど、私のどこが好きなの」
お店で初めて出會った時から疑問だった。初対面の時に一目惚れしたというようなことを言っていたが、その理由は詳しく聞けていなかった。
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「それ、話し始めると1日じゃ足りないけど大丈夫?」
くすくすと笑いながら春都が嬉しそうに聞いてきた。概要だけ教えてくださいと端的に答えると「そんなクールなところも好きだよ」と背中に口づけられた。相変わらずこの男は気障だ。
「もちろん、最初は一目惚れだよ。俺は一目惚れなんて現象、信じてなかったのにね。なのに玲奈を見た瞬間に不思議とそう思っちゃったんだ。だから、自然とそのまま君を口説いてた」
「ええ……」
「でも、それだけじゃないよ。人柄や雰囲気にも惹かれたし、何より玲奈と一緒にいるとそれだけでドキドキしたんだ。あの頃、実は結構忙しかったんだけど君に會うために日中めちゃくちゃ仕事してた」
どこか遠い目をしながら春都は言葉を続ける。
「自分で言うのもなんだけど、俺は昔からモテるんだ。一目惚れしましたっての子に告白されることが本當に多くてね……そういう意味だと、玲奈は俺の外見よりも面を見てくれたような気がしたのも嬉しかったな」
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「そうだったっけ……でも、春都の顔が綺麗すぎて毎回張してたよ。おまけにどう見ても私のことが好きって顔に書いてあるし、本當にどうしたらいいのか分かんなかった」
「あはは、あの時の玲奈はかわいかったな。基本的には上手くけ流してるのに、時々真っ赤になってて堪らなくかわいかった」
「……思い出すと恥ずかしくなるのでやめてください」
「ふふ。でも、戸われてるのは俺も分かってたんだ。それに一度、職場の同僚を連れて行ったことがあったでしょ?あいつらにもリリちゃんは手強そうだって言われてたから、時間をかけて俺のことを好きになってもらおうと思ってた」
春都の聲がし暗くなった。そう、そんな彼の想いとは裏腹に私は逃げ出してしまった。この幸せな雰囲気を壊したくなくて、あの朝のことは未だ聞けずにいる。
「……そろそろチェックアウトだし、一旦ここまでにしようか。しずつんなことを話そうね」
私のに張が走ったことを察したのか、春都が後ろから覆いかぶさるように抱き締めてきた。格差があるので結構重たい。でも、ずっとこうしていたいと思えるほどに幸せだった。
その後は支度を整えて一緒にホテルを出た。マッサージをしてもらったとはいえ、昨夜の余韻のせいで歩くのがしんどい。さりげなく春都が私の腰を抱いて、歩調を落としてくれた。いかにも事後のカップルというような著合で恥ずかしかったが、支えてもらっていた方が圧倒的に楽だったので彼の好意に甘えることにした。
「玲奈、週末の予定は?」
まばゆい初夏の日差しの中、スーツ姿の彼が私の予定を尋ねる。彼の足取りからして商業ビルのある方に向かっているらしい。
「今週末はノアとのデートくらいで、それ以外の予定は……」
うっかり昨夜の予定のことまで言ってしまった私は本能的にヤバいと思った。私を見つめる彼は相変わらず笑顔だが、不穏な雰囲気が滲み出ている。
「へぇ?」
「……週末の予定はないです」
「その話は後でみっちり聞かせてもらうよ。本當に昨日はどうしてやろうかと思った…まぁ、彼のおかげで想定より早く玲奈を捕まえられた訳だけど」
黒い笑みを浮かべた彼はなんだか妙なことを言い放った。怪訝な顔つきで彼を見つめ返すとあっさり打ち明けられる。
「今度こそ絶対に玲奈を捕まえてやろうと思ってたからね。プロジェクト終了までに何が何でもアプローチするつもりだったよ。今はまだ慎重に報収集をしてる段階だったんだけど」
「え」
「まぁ、その話は別の機會にするとして。予定がないなら著替えて食事にしよう」
俺に玲奈の服を選ばせて?と艶やかに微笑まれて、そのまま商業ビルに連れていかれた。奇しくも昨日會社終わりに駆け込んだ例の商業施設だった。ここの化粧室のフィッティングルームには今日もお世話になりそうだ。
私の意見を伺いつつも、私の服も自分の服も春都は即決で購していく。何故か私の服は何著か購されてしまった。「うーん、どれも似合うけど今日はこれがいいかな」と言って渡されたのはエメラルドグリーンのワンピースだった。手足以外の出がないデザインで、首の後ろでバックリボンを結べるようになっている。
「跡つけちゃったからね。俺からしか見えてないだろうけど一応」
耳元で囁かれて、そのまま首筋に口づけられる。そういえば、昨夜何度も甘噛みされたような気がする。
「……さっき試著した時に店員さんが赤い顔でこっちを見てた気が」
「あー、見られちゃったか」
春都は平然としているが、私は猛烈に恥ずかしくなってきた。ワンピースをけ取って、はやく著替えに行こうとすると「まだ買いは終わってないよ?」と春都は再び歩き始めた。
「え、ここは1人で行ってくるよ」
「いや、俺に選ばせて」
春都に連れて行かれた先にはランジェリーショップがあった。メンズ商品の取り扱いもあるようだが、どう見ても客しかいない店に男連れでるのは気が引ける。慌てて店員さんに目配せしたが、特に問題はなさそうだった。ただ、店員さんは春都を見て頬を朱に染めている。
こうして晝間の街を一緒に歩くのは初めてだが、私たちが注目を集めているのは嫌と言うほど分かる。春都の容姿は視線を集める。ただでさえ長でスタイルが良いのに顔まで超絶形なのだ。私だって何も知らない狀態で彼を街で見掛けたら振り返りたくなるだろう。
そんな貌の男が隣にいるにぴったりくっついて、満面の笑みであれこれ世話を焼いているのだ。流れ弾で私までじろじろ見られて何だか落ち著かない。普段1人で歩いている時はこんなに人目をじることはまずない。
ただでさえそんなじなのに、客しかいないランジェリーショップに連れてこられたせいで周囲からの視線が突き刺さって仕方ない。早々と會計を済ませて店を出たい。近くにあったシンプルなヌーディベージュの下著を手に取る。下著は一度洗ってから著る派だが、個包裝されているし、これならそのままにつけるのも許容範囲だ。飾り気がまるでない気皆無なインナーだが、それはこの際良しとする。そう思って私は會計に向かおうとしたのだが、春都に腕を摑まれた。
「そういうの機能的だし、男としても意外と唆られるんだけど玲奈にはこういうのが似合いそうだよ。バリエーションも富だし何セットか買おうか。サイズはこの辺りだよね?」
春都は店の奧にディスプレイされていたデザインの高いセクシーな下著を手に取った。當たり前のように私のサイズを把握していて訳が分からない。真剣な顔でランジェリーを味していた春都は手を上げて店員さんを呼ぶ。
「すいません、これとそれと後……あ、でも著心地分かんないし1セットだけにしておいた方がいいかな。玲奈はここのランジェリー普段から使ってる?なら、今日は1セットだけにしておこう。うーん、この2つならどっちがいい?」
首を橫に振ってどうにかリアクションしたが、春都の勢いに押されて呆気に取られた。こちらへ呼ばれた店員さんも私と同じ顔をしている。
1つは水のレースに白や薄紫の花びらのモチーフがい付けられた清楚なデザインのもので、夏っぽい爽やかな印象だ。もう1つはダークブルーをベースに銀糸で刺繍が施されている。こちらのデザインの方がけが高く、濃な夜の気配を漂わせている。
どちらも文句無しに素敵だった。だけど、自分で買うのであれば前者の清楚なランジェリーを選ぶところだ。ダークブルーの下著は布地がなめで普段使いするには心許ない。ちらりと春都の顔を伺うと、私の心を見かしたような微笑を浮かべていた。腕を組みながら、悪戯っぽく首を傾げて私の答えを待っている。
「…………こっちにします」
「わかった。じゃあ、このデザインのものを1揃いお願いします。同じデザインのスリップやガウンもあれば一緒に包んでおいてください。ああ、 あとこれも」
私が持っていたシンプルなインナーと自分用の下著も合わせて、春都はテキパキと會計の準備をお願いした。この數分で凄く気疲れした。
「今度見せてくれるの、楽しみにしてる」
今更ながら、あの下著を自分がにつけると思うと恥ずかしくなってきた。小さく唸って自分の目元を片手で押さえる私を見て、春都は満足げな笑みを浮かべている。そのまま頬に軽くキスされて、すっかり忘れていた周囲の客たちがめき立つ聲を聞いた私はますます頭が痛くなったのだった。
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