香滴る外資系エリートに甘く溶かされて》5-1. 心もも甘く溶かされて

「お茶をれてくるね。自由にくつろいでて」

私をリビングに通すと、そう言い殘して春都はキッチンへ消えていった。荷を置いた私はリビングを出て、洗面臺で手を洗う。鏡に映る自分の顔はあまり良くない。

以前見かけたクレンジングや用の洗顔料は無くなっていた。何とも言い難い複雑な気持ちを抱えながら、リビングへと戻った。ダイニングテーブルの椅子に座ろうかと思ったが、春都の顔を正面から見て話すのが怖くなってソファに座った。白い部屋に置かれた濃いブルーのソファは広々としていて、同じデザインのスツールまで置かれている。曲線的なフォルムがしい、何とも素敵なソファだ。

「そっちに座ったんだ」

春都が戻ってきた。部屋の隅に置いてあったシルバーの小さなサイドテーブルをソファの近くに持ってきて、その上に冷たい緑茶をれたグラスを置いてくれた。そのまま、春都もソファに腰掛ける。

春都の淹れてくれた緑茶を一口飲み、グラスをサイドテーブルに戻す。私が何も話さずにいると隣に座っていた彼が私を引き寄せた。自然と肩にもたれ掛かるような勢になる。優しい手つきで私の髪をでるばかりで、彼は何も言わない。

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それからしばらくして、私はゆっくりと口を開いた。遠い夏の日の記憶を呼び起こす。

「お店にいた頃、春都に……加賀谷さんにどう接したらいいかわからなくて相談したことが、あるんです。お晝にもし話しましたけど、あの頃の私は男が苦手で。しかも、加賀谷さんに出會うまで誰かを好きになったこともなくて」

ぎこちない口調でしずつ話す。上手く説明できる自信がなくてが強張っていった。

「ただ、経験のない私ですら分かるくらい…加賀谷さんが私に好意を寄せてくださっていることは分かっていたので、営業前にお店のお姉さんたちに相談してみたんです。でも、その時に嫌な話を聞いたのがずっと心に引っかかってしまって」

「嫌な話?」

「……遊びでの子を惚れさせて、自分のものにした翌朝に捨てたお客様がいたと。別のお店での話ですし、結局その後すぐに加賀谷さんはそんな人じゃなさそうだよねって話になったんですけど」

聲が震えてしまった。一度、呼吸をして話を続ける。

「年齢差もあるし、加賀谷さんはモテそうだし…それに、結構慣れしてますよね。私のこともよく褒めてくれてましたし。そういうこともあってずっと気掛かりで。でも、実際に加賀谷さんを前にするとそんなことないのかなって。私のこと、本當に好きなのかなって…都合良く、私がそう思い込みたかっただけなのかも————」

「っ、君のことが好きだ。初めて會った時から、ずっと」

それまで黙って話を聞いてくれていた春都が私の言葉を遮った。私の肩を引いて、強く抱き締める。その溫かさにとうとう耐え切れなくなって、涙が滲む。他にも伝えたいことがあったのに、気がつけば言葉を紡いでいた。

「……朝、目が覚めて違和を覚えたんです。この部屋は1人で暮らすには広すぎるし…誰かが、が暮らしているような痕跡があるのを見て息が止まりました。それに…偶然、加賀谷さんのスマホが鳴って…通知を見てしまったんです。の人からのメッセージで……今日泊まりに行くって書いてあって」

私の瞳から1滴ずつ涙が溢れ落ちて、彼の肩を濡らしていく。

「目を覚ました貴方に話を聞くことも、何も気づかなかったことにして貴方と付き合うことも考えてはみたんです…でも、私だってたくさん噓を吐いていたし、怖くなってしまって……貴方と上手くいかなかったら私は立ち直れなくなってしまいそうで…それで、何もかも諦めて逃げ出したんです。綺麗な思い出のまま、加賀谷さんを忘れてしまおうと思って」

それ以上、私は話すことが出來なくなってしまった。いつの間にか春都は私の肩口に顔を埋めるようにしていた。その勢のままさらに強く私を抱き締める。

そして、彼は話し始めた。

「……まず、謝らせてくれ。今思えば、君がそう思い込んでしまっても無理のない狀況だった。全面的に俺が悪い」

「そんな…私だって……」

「いや、玲奈は何も悪くない。不安にさせてごめん、本當にすまなかった」

「加賀谷さん……」

腕を緩め、涙が止まらない私の頬を指で拭いながら春都は話を続ける。

「このマンションはうちの會社…実家の持ちでね。他の部屋は貸しに出してるけど、この部屋は事務所用に殘してる。ただ、うちの家族は普段アメリカにいるから誰も使うことがなくてね。それで日本にいる俺が住んでるんだ」

管理人みたいなものだよと彼は言葉を続けた。

「うちの會社って…」

「不産業を営んでる。元々はこの一帯の大地主でね。ただ、縁あって父の代からアメリカでもビジネスを始めることになって、今は父と一番上の姉が中心になって経営してる。だから、この部屋の奧にはちょっとしたオフィスとゲストルームがあるんだ。仕事の関係で來日した家族がいつでも使えるようにしてる」

そう言うと、春都は一度話を區切って重い溜め息を吐いた。

「……君が見たメッセージの送り主はおそらく一番上の姉だと思う。が暮らしているような痕跡があったっていうのは、うちのハウスキーパーが気を遣ってくれたからだろうね。家族が來る時は必要な日用品を用意しておいてくれるんだ」

サラって名前じゃなかった?と聞かれて、私は頷いた。私の反応を見た加賀谷さんは項垂れる。

「はぁ………本當にタイミングが悪いというか、俺の説明が足りなくて……不安な思いをさせて申し訳なかった」

他にも聞きたいことがあったらなんでも聞いてと言われたが、予想外な事実を打ち明けられた私は唖然としていた。春都はそんな私にもう一度抱きついて、優しく背中をでてくれる。あの時、どうして彼が目を覚ますまで待つことが出來なかったのか。激しい後悔が込み上げてくる。

「この5年間、俺は玲奈のことを忘れたことがなかったよ。自暴自棄になって、荒れた時期もあったけど……君のことを忘れられなくて。仕事で気を紛らわしながら、どこかでまた會えることをただただ祈ってた」

彼は今、どんな顔をしているのだろう。後悔と申し訳なさをじながら、彼の話を靜かに聞く。

「君ともう二度と會えないならずっと1人で生きていくつもりだった。でも、こうして再會できた」

彼の聲がしずつ張していく。

「玲奈、俺はもう君を二度と逃がすつもりはないよ。會社でも伝えたけど————俺との未來を考えてしい」

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