《『経験値12000倍』のチートを持つ俺が、200億年修行した結果……》5話 理論上最高の召喚

「……ひゃひゃひゃ、さてどんな魔じゃ? 種族はエンシェントドラゴンか? 覇鬼か? って……はぁ? 人間? なんじゃい、失敗じゃ。くそが」

ラムドはため息をつきながら、背後にある骨のイスに腰をかけた。

召喚された人間が、「もういい! 異世界~~」などと、なんだか訳のわからん事をんでいるが、そんなことはどうでもいい。

蟲けらのびなど無視、無視。

ラムドは、機の上にある本をパラっとめくる。

「何がイカンかったんじゃろう……間違いなく、理論上最高の召喚式だったはず……」

頭をぽりぽりとかきながら、

「パールドラゴンの魔眼が腐っとったんじゃろうか……それとも、ハイエルフの羽が足りんかった? ……んー」

自分の世界にり込んで唸っているラムド。

そんな彼を、召喚された人間――『閃せん』は睨みつけていた。

(……召喚されたのは何となくわかる。召喚による転生は二十回くらい経験しているからな。……で、こいつが召喚主のはずなんだが……なんで、こいつは召喚したばかりの俺を無視して、鈍になりそうな分厚い本を読んでいるんだ? これは、なんの放置プレイだ?)

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心の中でブツブツと、

(それはともかく……また終われなかった。もういいっつぅの。何回やればいいんだよ。こちとら、異世界転生には心底から飽き飽きしてんだよ。もう強さも限界まできたし、世界の理ことわりについて知らんこともほとんどないし、何より、ぶっちゃけ、どの異世界も大差ないし……もう、俺にとってはオワコンなんだよ、異世界転生とかぁ! 飽きたゲームを延々やらされるとか、どんな拷問?!)

閃は、魔法陣の上で育座りをして、深いため息をついた。

そんな閃をとにかく無視して、ラムドは、

「いや、やはり、どう考えても失敗などありえん……なくとも、人間などという下等種が出てくる事はありえん……どういう事なんじゃろうか……」

ラムドの心で言えば、この狀態は、一まわし一億円の天元突破神解放ガチャで、ノーマルランクのゴミを引いたようなもの。

この世界でのラムドの立場は石油王級なので、このメチャメチャ金のかかるガチャも、まだ何度か回せる。

一応、何らかの失敗をした時の予備として、もう一回分だけならすぐにでも回せるように準備はしてあるので、最悪、もう一度回せばいいだけの話。

つまり、決して取り返しのつかない失敗ではない。

が、だからといって、この「人間」を召喚してしまうなどという、わけのわからん失敗は許容できない。

「うーむ、もしかしたら、ただの人間ではないんじゃろうか……見たじ、なんの魔力もじんが……」

そこで、ラムドはイスから腰を上げて、閃の元まで近づき、

「やはり、何もじん。わしの『サードアイ』で見破れん隠蔽魔法はない。どう考えてもただのカス……うーむ」

(たかがサードアイで見破れるフェイクオーラなんざ使うかよ。そんなもん、なんの意味があるってんだ……あー、しっかし、まいったな。究極超神位の自魔法まで使って魂を潰したってのに、結局、終われなかった。ほんと、どうすりゃいいんだよ……どうすれば、俺は終わる事ができるんだ? いったい、どうすれば、この無限地獄から抜け出せるんだよ、くそがぁ!!)

そこで、ラムドが、閃の頭をコツンと小突き、

「おい、ぬし。何か蕓はできるか?」

「……蕓?」

「変わった特技は持っておらんのかと聞いておる。……いかんのう。頭も悪いのか」

やれやれとカブリを振るラムドを見て、閃は頬をヒクつかせる。

(たかが存在値78程度のカスが、ほざくじゃねぇか)

心の中でそう呟くと、ゆっくり立ち上がり、

「そうだな……じゃあ、こんな 『お遊び』 はどうだ?」

言いながら、センは、右手の人差指をラムドに向けて、

「――仮死、ランク1000。 ――擬態、ランク1000」

魔法を使った瞬間、ラムドの心臓は止まる。

そして、センの姿がラムドそっくりになった。

「ラムド・セノワール……上級召喚士。存在値の世界ランキングは……3位か。存在値80以下で、世界ランキング、トップスリー……はっ。典型的な中級世界エックスだな」

最高位の擬態になれば、ただ姿を変えるだけではなく、脳をトレースする事もできる。

センは、ラムドの脳を探りながら、研究室を出る。

ちなみに、世界のランクは、上から、

超最上級世界(通稱、アルファ)

最上級世界ベータ

上級世界ガンマ

中級世界エックス

下級世界マイナスエックス

最下級世界ダブルマイナスエックス

「――ほう。今、勇者がこの魔王城を攻めている真っ最中なのか。とんだスクランブルじゃねぇか。……ってか、この召喚士、ナンバーツーの実力者かつ宰相って立場なのに、なんで、その急事態をほっぽりだして、ガチャまわして遊んでんだ?」

エピソード記憶のツリーを揺らしてみると、

「ああ、なるほど。魔王に『戦力を増強した方がいい』と進言して、研究室にこもっていたのか……どうやら、ここの魔王は、ラムドに頭が上がらないらしいな。魔王の存在値は……ん? ……なんだ、この魔王……魔法が使えない? おいおい、剣技しか使えないのかよ。んーーー……だが、それでも90くらいはあるな。……ほむほむ。どうやら自分でその道を選んだらしい。どんだけ脳筋なんだよ。気合いりすぎだろ」

赤い絨毯がしかれている長い廊下を歩いていると、

「ラムド様!」

ラムド直屬の配下の一人であるエレが聲をかけてきた。

ムキムキの形をした、戦士型の吸鬼。

ラムドが召喚した者の中ではかなり當たりで、

存在値は、召喚された魔の中だと最高の52。

エレは、目の前までかけてくると、片膝をついて、

「いかがでしたか?」

「ん? あー、召喚の件か? いや、失敗してしもうた。なんも召喚できんかったわい。ひゃひゃひゃ」

高位の擬態であれば、人格をトレースする事も容易い。

配下は何の疑いも持たず、

「そ、そんな……ラムド様が召喚を失敗するなんて……」

「それほどの大召喚だったということじゃ。ちなみに、勇者は今、どのへんじゃ?」

「はっ。現在、第六ゲートを突破し、監獄エリアで、サリエリ様と戦闘中でございます」

サリエリは、存在値75の墮天使。

魔王軍序列三位。

世界ランキング12位の最高位モンスター。

だが、世界ランキング1位の勇者が相手では時間稼ぎしかできないだろう。

(ふむ。監獄エリアの場所は……なるほど、この辺か)

頭の中で詳細に思い浮かべた魔王城の見取り図と、サリエリについての報を掘り起こして、

(ラムドの頭の中にある報から計測するに……勇者の存在値は95~6ってところか。サリエリの能力とは相も悪いし、こりゃあ瞬殺かな……となると、勇者が王の間に辿りつくまで、あと十五分といった所か)

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