《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第29話 〜勇者の旅立ち〜

     〈城の會議室にて〉

召集をかけて數時間後、二十七あるいすの半分ほどが埋まった。

みんな、こっちの世界にきてから常に、顔が悪く、痩せて目の下にはクマがあるように思える。

ピンピンしているのは、俺と上野さん、そしてクラスで俺に次ぐ実力をもつ、職業が侍の朝比奈京介あさひなきょうすけ君くらいだ。

もっとも、朝比奈君に限っては元から無口無表だから、調不良さえも分からないからだが。

日本にいた頃も、ほとんど喋っているところを見たことがなく、ミステリアスな男だった。

唯一うちのクラスでは晶と仲が良く、晶が一方的に話しているのに相槌を打つ姿がよく見かけられた。

部活は剣道部で主將をしているはずだ。

部活の仲間からはとても慕われているらしい。

そう言えば、朝比奈君も晶と同様、ずっと同じクラスだ。

すごい偶然である。

そんなミステリアスな男だが、こちらの世界にきてからそのミステリアスに磨きがかかった気がする。

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「……全員集まらないのは分かっていたことだ。この人數で始めるぞ」

俺が立ち上がってそう言うと、しんとしていた空気がさらに張り詰めた。

鋭い視線が俺に突き刺さる。

「今更何を話そうってんだ?勇者様よぅ」

迷宮でトラップを起した渡部克己わたべかつみが睨んでくる。

勇者組として、日本にいた頃よりも仲良くなったつもりだったが、所詮はそんなものだったようだ。

俺は渡部に負けないくらい鋭い視線を返した。

それだけで何人かが怯む。

俺より強いやつはここにはいない。

晶がいなくなってから、新しく騎士団団長となったジールさんに稽古をつけてもらっているのだ。

そうそう負けない。

勇者として、負けられない。

晶以外には誰にも。

「これからについてだ」

晶以外のクラスメイト二十七人は定期的に集まって、この會議室で換をしている。

第一回の會議では全員の職業の報を換しあった。

もちろんその場にいなかった晶の分もだ。

俺が晶の職業を知っていたのはその為だ。

まあ、大方そのあたりだとは思っていたが。

「これからの事ですか?」

「おいおい、今俺達がどんな狀態か、お前が一番よく知ってるだろ?まさか魔王退治に行くなんて言わないよな?」

今のは、子バレー部のエースだった長戦士アマゾネス、坂田奈津さかたなつみさんと、野球部の四番、死霊師ネクロマンサーの田中海地たなかかいち君の言葉だ。

二人共、その運神経の高さから戦闘力を買われ、俺と同じ勇者組の一員だった。

いまや俺と敵対している筆頭だが。

はなかなかえげつない。

側から崩す作戦を迷いなく実行している。

俺を揺さぶるために。

「そのまさかだ。俺は王様に約束した通り、魔王討伐に向かう。それに一緒に行ってくれる人を探している」

會議室が靜まり返り、次の瞬間にはどっとざわめいた。

「噓だろ」

「この狀況で?」

「馬鹿じゃねーの?」

「いや、馬鹿なんだろ。そもそも、この狀況を作り出したのはあいつだろ?」

「そうか、逃げるのか」

「勇者の名が泣くな」

「えー?逃げるとかダサぁい!」

人が黙っていれば、好き勝手言ってくれる。

俺は力を加減しつつ、大理石をくり抜いてできた純白の機を叩いた。

ヒビをれないように慎重にしたおかげか、ざわめいている奴を黙らせる大きな音が出た上に、ヒビひとつっていなかった。

流石にこんな高価そうなをその場の勢いで壊して、後から高額の請求が來たら困る。

「……はぁ、まあいい。お前達には期待していなかった」

俺は深々とため息をついた。

期待は、していなかった。

だが、これでハッキリとしたことがある。

「これより、俺はお前達の元を離れる。グータラするなり喧嘩をするなり好きにすればいい」

俺は一番上座にあたる席を立った。

これが、俺の選択だ。

どうやら王様と王は俺をどうやってでも従わせたい様だ。

だから、この城を出る。

王様、そして王の言いなりなんてならない。

「俺も同行しよう」

しんと靜まり返った會議室に、聞きなれない聲が響いた。

聲のした方向を見ると、朝比奈京介君が立ち上がっている。

どうやらあの聲は彼の聲だったらしい。

初めて聲を聞いた。

朝比奈君が立ち上がったことで、今まで黙っていた數人も立ち上がる。

その中には上野さんと細山さんの姿もあった。

俺は頷いて彼らを連れ、會議室を出る。

「……ちょうど七人か。各チームで練習した連攜がそのまま使えそうだな」

「それに、解呪師の上野と治癒師の細山がいるから何かしら怪我をしても大丈夫そうだ」

俺の獨り言に朝比奈君が相槌を打つ。

こんなに喋ったところを見たのも初めてだ。

した。

「申し訳ないが、俺をリーダーとさせてもらう。何か反対意見はあるか?」

會議室から離れたところでそう問うが誰も聲をあげなかった。

何人かは力強く頷いてくれている。

「一時間後に必要なものをまとめて城門前に集合。全員揃ってから出発する」

號令とともに俺達は自分の部屋に駆け出す。

……王様や王が邪魔をしてこないとも限らない。

一応ジールさんに協力は取り付けてあるが、行はお早めに、だ。

そう言えば、朝比奈君はなぜ俺についてきてくれるのだろうか。

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