《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第34話 〜新たな力〜

「アキラ、元気だして」

「……はぁ」

俺は迷宮の壁に寄りかかってため息をついた。

恐らく、今の俺の頭の上でキノコが栽培されているだろう。

ヒュージゴブリンを倒せなかった俺は自分の技のなさに、今すぐボス部屋に駆け込みたくなった。

アメリアがめてくれるが、それだけで復活する訳もない。

「ヒュージゴブリンは、冒険者ギルドの討伐推奨レベル七十以上。もともと、スキルのないアキラには倒せない相手」

一応フォローらしいものをしてくれているらしい。

だが、俺の気も晴れない。

晴れるわけがない。

「どうしてそんなに落ち込んでいるの?」

「……男がに守られるとは」

そう。

何が悔しいかと言うと、アメリアに守られた事が悔しいのだ。

面倒くさい男だって?

じゃあお前がに守られてみろよ……。

すっごい屈辱だから。

しかも、俺が死にかけるまで苦戦した相手をアメリアは重力魔法で一発だ。

死にたくなるね。

「……と言うか、冒険者ギルドなんかあるのか」

「うん。どの種族でも人気の職業。強くなりさえすれば楽に稼げる」

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その代わり死ぬけど。

そう言う、冷たい聲のアメリアに俺は知らずのうちに背筋をばす。

サラン団長が、死亡率のとても高い職業があるということはちらりと言っていたが、どうやら冒険業の事のようだ。

そして、アメリアはそれを快くは思っていない。

「アメリアは冒険者ギルドにってるのか?」

「うん。一応、稼げるから」

アメリアはそう言って、首元からドッグタグを取り出した。

二枚のタグがチェーンで繋がれてネックレスのように首から下げられている。

カッコイイな。

いいな。

「あげない」

「……自分の作るに決まってるだろ」

「アキラがしそうに見てたから」

「その言い方やめろ」

しげしげとタグをみると、一枚目にはアメリアの名前と種族、職業が書かれてあり、二枚目には何も書かれていない。

俺の不思議そうな表に、アメリアがきちんと説明してくれた。

初めはおバカキャラかと思っていたのに、やはり妹がいるからだろうか、しっかりした部分も見えてくる。

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おかしいな、俺も妹いるはずなのに。

「こっちのタグは、ランクを表す。によってランクが違うから、文字を表示する必要がない」

「ふーん。アメリアはどのランクなんだ?」

俺が聞くと、アメリアはしだけ顔を強ばらせた。

どうやら聞いてはいけない話題だったらしい。

でも、アメリアは答えてくれた。

「上から二番目。種族によって難易度が違うから、人族とエルフ族では基準が違う」

「へえ。じゃあエルフ族で、上から二番目っていうのは凄いのか?」

「まあ、凄い。でも、私の妹は一番上のランク」

また妹か。

アメリアと話していて、度々出てくるのがこの妹だ。

そして、妹の話をする度に、アメリアは今にも泣きそうな顔をする。

聞いてみたいが、聞けない。

そもそも、俺とアメリアは出會ってまだ數日。

今でこそ軽口を叩ける仲だが、本當なら俺の人見知りが発して無言の狀態が続いているはずである。

「お前のはシルバーだけど、一番上のランクはゴールドとかか?」

「そう。“モリガン”に四人しかいない金ランク。彼らが世界最強だった」

「だった?」

「アキラが今は最強。……それに、本當は、ゴールドの上にもう一つランクがある」

「それは何なんだ?」

「……確かブラック。初代勇者様が好きだったらしい。黒ランクはここ百數年空席だから、人族は誰も覚えていない。エルフ族でも知らない者が多い」

そう言えば、エルフ族は長壽だったな。

人族はエルフ族と比べると短命だが、繁力がある。

「ところで、アメリアは幾つなんだ?」

「……に年齢を聞いちゃいけません」

拳がとんできた。

だが、攻撃力400の拳は鳩尾にっても全く痛くない。

人族一般の限界攻撃力の四倍の力なはずなのだが、全く痛くない。

むしろ蚊に刺された方がかゆみを伴ってとても効く気がする。

そう考えれば、人族がどれだけ弱いのかが分かるよなぁ。

よく獣人族に勝ったものだ。

數で押しつぶしたのだろうか。

……あれ?俺が規格外なだけか?

「悪かったよ。……さて、再開するか」

「まだやるの?」

「殘念ながら、俺は強くならなくちゃいけない理由があるもんでな。そのためには死にかけもするし、どんなに過酷な訓練にも耐える」

俺がそう言ってにやりと笑うと、アメリアも顔を赤くしてドッグタグを再び懐にれ、立ち上がった。

「じゃあ、私も手伝う。……ア、アキラのそばに居るって言ったから」

「……そっか。ありがとう」

傍からみると、素っ気ない対応かもしれない。

だが、これでも俺の最上級の照れだった。

その証拠に、顔に熱が上がってきている。

俺はくるりとアメリアに背を向けて、再び探索を開始した。

「上からホワイトバット」

「分かってる」

數メートル歩いたとき、アメリアが鋭い聲を上げた。

だが、俺はアメリアに言われる前に、羽音から何かが來るのは分かっていた。

俺達の目の前に現れたのは、白いコウモリ。

もちろん普通のコウモリではない。

人間ほど大きく、群れでなく一で行するのだ。

鋭く尖った爪と、強靭な歯で、きっとこれに噛まれると上半と下半は永遠に離れ離れになってしまうだろう。

レベル的にもなかなか強そうだ。

「聴覚でも視界でも、嗅覚でもない。もっと違う、言わば第六で相手のきを読んで」

「んな無茶なっ!!!」

夜刀神を背後から抜刀した勢いのまま、袈裟懸けに振り下ろす。

捉えたと思ったのだが、刃は首を落とすわけでもなく、白い皮をし傷つけただけに終わった。

「ホワイトバットは相手の認識をずらす。今のアキラにはぴったりの相手」

「先に言え、先に」

我が相方及び、戦闘の先生はよく生徒のことを考えていらっしゃる。

俺は今まで、視覚と聴覚で相手を認識し、戦ってきた。

もちろん、これまでにも姿を消す魔と戦ったりもしたのだが、それはそれは苦戦したものだ。

最終的には影魔法でぶった斬った。

「私が封印したのはスキルだけ。魔力は封印してない」

「新しい、魔法でも、作れば、いい、のか?」

會話をしている時でも、當たり前だが戦闘は続いている。

急所は避けているが、既に俺のにはかすり傷が大量生産されていた。

「魔力ねぇ……」

魔力だけかす覚は、わかる気がする。

初めて、向こうの世界で自分から気配を消したときから、自分の中に何かがあることは勘づいていたのだ。

そして、気配隠蔽のスキルとはイメージ的に、周囲に漂っている魔力と自分の魔力を同調させ、同調した魔力を全にくまなく張り巡らせるスキルだ。

……その、同調させた後の魔力を、ではなく周囲に放てば良いのではないだろうか。

視覚化するとするならば、霧のようなじで。

「……」

「アキラ!?敵の前で目をつぶったら!」

アメリアの聲は、集中している俺の耳にはらなかった。

魔力を同調させて、放つ。

「っっっ!?」

「お!いたいた」

何故か白いコウモリは俺の姿が見えないかのようにキョロキョロと當たりを見回していた。

最近、暗殺者らしい戦闘をしていなかったためか、後ろから標的を見るのは久しぶりだ。

暗殺者としては最悪な想だな。

俺は夜刀神を一閃。

數秒遅れて、コウモリの首がごろりと落ちた。

「アメリア、これでいいのか?」

「……」

「アメリア?」

アメリアは、そのしい顔を歪めて、何やら考え込んでいた。

肩を叩くとようやくこちらを見てくれる。

「大丈夫か?調子が悪いなら無理にそばにいなくてもいいんだぞ?」

「だ、大丈夫。アキラ、今のは何?」

俺は首をかしげた。

そんなに変なことをしたのだろうか。

「何って、魔力を周りと同調させて俺のから周囲に放っただけだけど?」

「アキラ、普通の人間は魔力を周りと同調させるなんか出來ないし、から離してコントロールするのも不可能。……一人を除いて」

俺はますます首を傾げる。

不可能って……たった今可能になったじゃないか。

「周囲の魔力はまだコントロールできるの?」

「ん?ああ、戻ってこい」

魔力を呼び寄せると、魔力は素直に俺のに戻ってきた。

アメリアは複雑そうな顔をしている。

「……どうかしたのか?」

流石に俺も心配になってきた。

そんなにヤバイ事をしたのだろうか。

俺の心配を他所に、アメリアが重々しく口を開いた。

その容は、俺を絶句させるのには十分だった。

「今のアキラと同じことをしていた人がいた。……それは、初代勇者様」

「は?」

どうやら、この世界の住民が崇めて止まない〝初代勇者様〟と同じことができるようになったようだ。

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