《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第52話 〜真実〜

凄まじい衝撃だ。

俺の影魔法が風の付與魔法が暴れるのを喰らっているからまだ被害はないが、そうでなければエルフが數人飛ぶくらいでは済まなかっただろうな。

何が何だか分かっていないアメリアが腕の中で悲鳴をあげる。

衝撃は全部俺がけ止めているから、きっとキリカが斬りかかってきた事に対しての悲鳴だろう。

「キリカ!アキラに何をしているの!?」

記憶が混しているのか、キリカに手をばすアメリア。

悪いな、アメリア。

俺は心の中でそう呟いてアメリアを抱いていた手を首元に落とした。

倒れ込むアメリアを再び抱きとめる。

今は説明をしている暇がない。

それに、アメリアには見せたくなかった。

妹がこれまでの事を全て仕組んでいた事など。

「おい、キリカ・ローズクォーツ。どうしてお前の剣はそんなに泣いているんだ?」

俺はアメリアが落ちたのを確認してから、キリカにそう聞いた。

決闘で剣をえてからずっとじていた疑問だ。

剣には振るう者のが全て乗せられているとサラン団長は言っていた。

最初は何のことだろう、この人遂に頭がおかしくなったかと思っていたけど、ようやく分かってきた。

迷宮の六十層くらいで剣を武とする人型の魔と遭遇したのだ。

所々が腐っていたから、リッチとかその辺りだろう。

彼らと剣をえているうちに、彼らの思念が剣を伝って伝わってきた。

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は何も考えていなく、ただ殺人衝があるとまでしか思われていないが、そうではなかった。

確かに、ほとんどは殺人のことしか考えていないだろう。

だが、その中にも確かに、『生きたい』と言うもあった。

不死のリッチが生きたいと言うのは、きっと人間に戻りたいという意味だろうと思う。

とにかく、剣からは本人も意識していないようなが伝わってくるのだ。

「キリカ、お前は何を泣いている?」

鍔迫り合いを押し込み、力技で距離をとらせる。

キリカは吹き飛ばされたが空中でを捩って手もつかずに著地した。

虛ろな碧眼が俺を見據える。

キリカの顔が歪んだ。

「私が泣いている?寢言は開けながら言うものではありませんよ。ほら、私はきちんと笑っているではありませんか」

ああ、あれは笑顔か。

笑顔のつもりなのか。

俺にはそうは見えなかった。

「なあお前、アメリアが憎かったのか?」

「憎い?」

俺が問いかけると、キリカは俯く。

いつしか、王も含めて魅了の解かれた人達は逃げ出すのをやめてキリカと俺の會話に耳を傾けだした。

俺はとりあえず離れたところにアメリアを橫たえた。

キリカはそれを分かっていて攻撃してこない。

「憎いに決まっているでしょう」

「それは、アメリアが忌み子だからではないだろう?」

俺がそう言うと、キリカは再び斬りかかってきた。

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だが、今度はれているせいで魔法も起されず、ただの斬撃だ。

もちろん、後ろのアメリアに風の一つでさえもいかないように細心の注意を払ってけ止める。

俺を見つめるキリカの瞳は先程よりも虛ろだった。

「忌み子?そんな伝承、まやかしですよ。確かに大昔はそんな話があって忌み子である片割れは殺されていたらしいですが、亡くなられたひいお爺様の代からは廃止となりました。災厄とやらがいつまで経っても現れなかったからです。おまけにエルフ族は子供が生まれにくい。曖昧な伝承などで貴重な子供を殺してしまうのは惜しかったのでしょう」

キリカはそう言って剣を引いた。

その瞳は橫たえられているアメリアを見ている。

「ああ、しいお姉様。エルフ族にも、ハイエルフにも現れなかったお髪と瞳のでお生まれになった。私のほんの數秒前に」

キリカは再び俺を見た。

虛ろだった瞳には業火が宿っていた。

「貴方には分からないでしょう。數百年前までは忌み子として差別されていた人に伝説の職業が現れ、大陸を上げてのお祭り騒ぎ。妹の私はただの付與魔法師。神子にかなう訳もない」

ずっと抱えて、溜め込んできた劣等や嫉妬などが遂に発した。

視界の端に王の驚いたような顔が見える。

どうやら全くの初耳らしい。

親にも完璧に悟らせなかった演技力に嘆するよ。

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「分からないでしょうね。貴方にも、お姉様にも!皆からされて、ちゃんとそこにいる事を認識されて、今までのうのうと暮らしてきた貴方達には!」

やっと、鉄壁だった演技の仮面が剝がれる。

今まで大人ぶっていたキリカはまるでい子供のように泣きじゃくっていた。

「所詮私はお姉様の付屬品。私の努力なんて誰も理解しない。言うことは決まって流石妹さん。私の名前なんてほとんどの人が覚えていなかった。いくら剣を磨いてもお姉様を守るために頑張っているのねか、天才は凄いねくらいにしか思われない!」

俺は一歩一歩、キリカに近づいた。

泣きながら、キリカはむちゃくちゃなきで斬りかかってくる。

俺はそれをけ止めずにこのけた。

それを見た外野がどよめく。

「お姉様の為ではない!私は私の為に!私を認めてもらうために!他の同族達と同じくらいしか才能がない剣を磨いた!それなのに!私は天才ではない!!」

大して力の乗っていない剣が俺のを薄く切り刻む。

耐久力も化並みになった俺のはほとんど傷つかず、皮し裂けるくらいで筋まで屆かずに刃が止まった。

むしろキリカの剣の方がダメージをけていて、遂に刀がペキンッと折れた。

鍔と柄のみとなった剣を握る手を、俺はけ止める。

「私は、私は・・・。何もかもお姉様に奪われて、唯一私の努力を認めてくれたリアム様もお姉様の婚約者に。だから、魅了のレベルを上げて私が奪われた全てをお姉様から奪ってやったんですよ。リアム様を奪って、お父様を味方につけて、時間をかけてエルフ族全員に魅了をかけてお姉様を裏切らせて。殺すつもりなんてなくて、ただお姉様が私が同じ思いを味わえばいいと、そう思って。・・・いえ、死んでしまえばいいと思って矢をらせた。なのに矢は屆かず、魅了は解かれ、唯一の自慢だった剣も貴方に屆かなかった」

そのままへたり込むキリカと共に俺もその場に座った。

俺はいつもアメリアにしているようにキリカの頭をでた。

アメリアはきっと許してくれるだろう。

何しろ、アメリア自慢の妹なのだから。

「なあキリカ、し昔話をしようか」

「昔、話?今ですか」

「今じゃないとダメなんだよ」

そろそろ暗くなってきた空を見上げて俺は微笑んだ。

「とあるエルフの國にその子は王として生まれた。そして、雙子の姉としてな」

キリカは靜かに目を見開いた。

まあ分かるよな。

俺、こういう話を分からないようにするのが苦手なんだよ。

でも、キリカはちゃんと聞かないといけない。

臺の下にいる外野達もな。

アメリアもキリカの仮面が剝がれだした時にはもう意識が戻っていたようだし、今まで起き上がってこなかったと言うことは俺に任せてくれるという事だろう。

「雙子は顔はそっくりだったが髪と瞳のが全く違ったんだ。」

俺はゆっくりと話し出した。

──

姉の名はアメリア。

妹はキリカと言った。

二人はのエルフ族でも、歴代のハイエルフの中でも上位にるくらいの貌で、姉は勉學に、妹は武に秀でていた。

だけど、二人は外見の他にもう一つ違う點があった。

それは職業だ。

姉のほうの職業、神子はその名の通り、神の子。

存在するだけで全ては彼の思いのままにき、また彼は無限の魔力を有していた。そして、弓だけだが、武にも才能があったんだ。

対して妹の方は珍しくはあるが大してレアでもない付與魔法師。

この時はまだ、エルフ族は実力主義でもなく、平和をする種族のため職業のレア度の違いは問題ではなかった。

その中で、事件は起こった。

キリカは父である王に抱かれて逃げたし、子供だったからほとんど覚えていないだろうけど、アメリアは全部覚えていたんだ。

それは、雙子が生まれてから七年程の月日がたったとき。

エルフ族領にある迷宮から魔が溢れ出してきた。

原因は妹が迷宮での鍛錬中に誤って魔を呼び寄せる餌を撒いてしまったこと。

エルフ族領の迷宮は人族領にある迷宮とは真逆で理攻撃しかほとんど効かない魔しかいないから、コツコツと鍛錬するにはうってつけだった。

を呼び寄せることはエルフ族でもある。

問題はその量だった。

妹は通常の十倍の餌を撒いてしまった。

もちろん、妹に悪気はない。

大方、魔を一人で倒せるようになったからもっと出來ると、子供らしく何も考えずに行したのだろう。

當時のエルフ族領迷宮の到達地點は七十三階層。

だが、その撒き餌のせいでそれより更に深層に居るであろう魔まで呼び寄せられてしまった。

それも數十匹どころではなく數百、數千匹も。

王はすぐに非戦闘員を避難させた。

討伐隊が編され、何人ものエルフが死んだ。

そんな中、避難していたはずの姉がやってきて、魔法生を使って重力魔法と言う、古の伝説でしかなかった魔法を使って魔法攻撃がほとんど効かないはずの魔を一掃。

さらにその數日後には蘇生魔法で死者を蘇生。

実質エルフ側の損害はゼロに抑えられ、人々は姉に謝し、崇めた。

自分が何をしてどんな慘劇だったのかも知らない妹は突然崇められだした姉に劣等を覚えだした。

本當はそのまま無事に出來事は人々の頭から消しさられて風化するはずだった。

だがその數百年後、また事件が起きるんだ。

それは、エルフ族領に遊詩人がやって來た事だった。

昔話を聞きたがった遊詩人のせいで再び事件は公に曬され、その上、原因が妹だったことをエルフ族の全員が知ってしまった。

死者は幸いでなかったものの、死ぬ瞬間のことを覚えて戦えなくなった者や四肢が欠損した者もいた。

恐怖に駆られた者ほど何をするかわからない者はいない。

もしかしたら妹のが危険に曬されるかもしれない。

娘をする王がとった行は一つ。

自分の持つエクストラスキルで同胞の記憶を消すことだった。

姉にも知らされることなく、人々の記憶から完全にキリカの存在が消えた。

全てを覚えているのは姉と王のみ。

キリカの存在は人々の間から消しさられ、それを知らされなかったキリカ本人は突然同胞から無視された。

・・・いや、知らない人として扱われるようになった。

──

これが、真実だ。

実は、俺はこの語を迷宮にいる時にアメリアから聞いていた。

その時は作り話と思っていたのだが、エルフ族領に來てから現実味を増していき、この語自思い出したのはキリカがんでいる時だった。

エルフ族領にきてからじていた違和の正がこれだったのだ。

「どうして、どうしてお父様は教えてくださらなかったのですか・・・」

長すぎて頭上で星が瞬いている中、キリカがポツリと呟いた。

いつの間にか王がキリカの隣に座って星を見上げている。

俺の隣にはアメリアが、他のエルフ達も思い思いの場所で星を見上げている。

日本などの空気の汚れであまり見えない星空ではなく、眩く輝く星空を。

「理由は二つある。一つは言ったところで君は何も覚えていない、ただ撒き餌の量を間違えただけ。確認しなかった、當時のキリカの従者が悪かった事だったから。二つ目は、君が悪くないとはいえ、同胞を殺したことには変わりない。その事を心優しい君がれられないと思った。」

もちろん、王はいつか伝えるつもりだった。

病気と戦死さえ気を使っていればほぼ無限に近い年月を生きるハイエルフにとって今のアメリアとキリカでも赤ん坊同然。

だからあと百年程待ってから言うつもりだったとか。

が、キリカの完璧な演技は王を騙し、遂に溜まったものが噴き出したのだ。

それを知らない王は、弛んだ兵士達の訓練という噓を信じて魅了の使用を事実上許可し、アメリアはエルフ族領から追放されてドロドロのスライムのような魔に食われ、俺と出會ったという訳だ。

「お、姉様は、全て知っていたのですか?知っていて魅了を?」

「ううん。魅了をかけられていることも気づいてなかったよ。・・・流石はキリカ。よっぽど練習したんだね。」

よしよしと普段自分がされているようにキリカの頭をでるアメリア。

「では、全て私の勘違い?お姉様は何も悪くなくて、私の空回りだったということですか?」

「それは違う。悪かったのは君がまだ子供だと決めつけて教えなかった私だ。本當にすまない、キリカ。流石はキリカだよ。私も、あまりにも薄くかけられていたから自分に魅了がかかっている事を気づけなかった。」

そう言ってキリカを抱きしめる王。

キリカは長らくじていなかったその溫もりに涙を流した。

「私は、お父様にも、お姉様にも他の方々にも大変失禮なことをっ」

「キリカ、私は気にしていない。キリカが毎朝早くから夜遅くまで頑張っているのを、キリカの努力を知っていたから、頑張れた。あの事件のときも恐怖をじずに魔を殲滅した」

ありがとう。

そう言って微笑むアメリアに、キリカの涙腺は崩壊した。

「お姉様、お父様、アキラ様、皆様、申し訳ありませんっ!ごめん、なさいっ」

泣きながら、お互いを抱きしめ合う雙子と父親。

その周りのエルフ達も涙を流している。

俺はその場からそっと抜け出して広場の周りに生えている木に登ってその幹にを預けた。

耐えられなかった。

母と唯を思い出して。

俺と唯も、本當は雙子なのだ。

俺が生まれた直後に日付が変わり、唯は一つ下ということになってしまったが、二卵雙生児として俺達は生まれた。

二人も産んだ母は元々弱かった調を崩しがちになり、父がほぼ一人で育ててくれた。

大きくなった今だから分かる。

朝早くから朝食、晝食の準備と弁當三つを作って俺達を起こし、ご飯を食べさせて稚園に送り屆け、自分はそのまま仕事。

仕事が終わってヘトヘトなのに稚園まで俺達を迎えに來て家に帰ると晩ご飯を作り俺達と母に食べさせて

寢かせ、自分は一人で食を洗い、洗濯をして日付が変わった頃に就寢。

俺達の夜泣きもあっただろうからほとんど寢れてないに違いない。

それでも、あいつは俺と唯を小學校五年生まで育ててくれ、それまでずっと母の面倒と家事と仕事までしていた。

誰の手も借りず、一人で。

だから、俺は小學校五年生の時に突然居なくなったあいつを恨んではいない。

確かに、逃げ出したことには怒りをじるが、それでもそれ以上に謝していた。

だから、アメリアとキリカに嫉妬した。

そして共した。

今回のことは、それぞれが一人で抱え込もうとしたから起きた悲劇だ。

もし、相談しあっていたらこんなことにはならなかっただろう。

あいつと同じように。

あちらの世界に戻ったら本気であいつを、俺達の父親を探してみよう。

幸せに暮らしているのなら、それ以上の干渉はしない。

でももし、不自由にしているのなら、もう一度一緒に暮らしてくれるように。

唯もきっと賛してくれるだろう。

そう、しよう。

そう思ったのを最後に、俺の記憶は闇の中に沈んだ。

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