《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第57話 〜“魔を従えし者”〜
「おかえり、アキラ。怪我は?」
「あるわけないだろう?それより、これはどういう・・・」
意識のない賊が積み上げられている場所を避けつつ先程までが囲んでいた中心部に向かうと、アメリアが駆け寄ってきた。
その後にはやけにツヤツヤした夜が來る。
エルフ族の戦士達が、アメリアでなく夜が通ると怯えたように道を開けた。
それを見て、思わず俺は半眼になる。
こいつ、なにかしたのか・・・。
いや、何をしたんだ?
『主殿が考えておることはよく分かっているつもりだが、俺は何もしていないぞ?』
「そうなのか?」
『おい、俺の言葉を信じんか!だが、まあ、俺の顔を見て人間が恐怖をじるのはやはり良いものだな』
悪人面(貓顔だけど)の夜にし不安をじて、アメリアに確認をとると、戦闘のために巨大化したためいつもの三倍程の大きさの球がぎゅむっと俺の頬を押した。
うむ、なかなかの。
後でアメリアと一緒にプニろう。
「夜、噓ついてないよ。この人たち、ヨルの顔を見た瞬間にバタバタ倒れていっただけだから。」
アメリアが言うのなら、本當なのだろう。
弱いな、賊。
賊たちの処理はエルフ騎士達に任せて、そんな會話をしていると、ウィリアムが夜を避けつつ恐る恐る近づいてきた。
「あのアキラ殿、し聞きたいことがあるのですが、宜しいですか?」
そう言いながら視線はアメリアに向いていた。
まずは一番位の高いアメリアにお伺いを、という訳か。
そんな禮儀を重んじるやつが會話を遮ってまで聞きたいこととは何なのだろう。
アメリアが頷くのをまって、ようやくウィリアムは俺を見る。
「あの、こちらのヨル殿はアキラ殿の従魔なのでしょうか」
「うーん。そうなのか?」
『そうであろうが!俺の額の紋章と、主殿の腕の紋章を見れば一目瞭然!』
ギャオギャオと吠える夜は放っておいて、俺はウィリアムを見た。
「らしいぞ」
「失禮ですが、アキラ殿の腕を拝見しても?」
腕に紋章なんて廚二病くさくて知り合いが誰も見ていないとはいえ、紋章を曬しながら街を歩くことは出來ない。
そのため、いくら暑くても黒裝束の袖をばしているのだ。
俺はぐいっと袖をあげて紋章を見せた。
黒いその紋章だが、夜と契約した時よりも濃くなっている気がした。
「あ、ありがとうございます。しかし、エルフ族として人族よりも遙かに長い時を生きてきましたが、“魔を従えし者”に死ぬまでに出會えるとは」
「“魔を従えし者”?」
どんどん廚二病っぽい名前が増えていく。
普通、こういう恥は主人公の役割だと思っていたのだが、俺達の主人公(勇者)は一どこで何をしているのやら。
まさか、あの馬鹿に限ってどこぞで野垂れ死んでいるとは思いにくい。
城からは出ているだろうが、だからこそ余計に行が読めなかった。
「たしか、エルフ族の言い回し」
『ああ、昔は憎い魔族を指した言葉だったが、突然現れた人族やエルフ族、獣人族の主殿のような者のことを言う』
アメリアと夜は意味を知っていたようだ。
「普通、魔は人と相容れない存在。データなど無いに等しい。それが、“魔を従えし者”によって研究可能になるのです!」
鼻息荒くウィリアムが夜を見た。
流石の夜も気持ちが悪いと思ったのか、小さくサイズを調節して俺の肩に飛び乗った。
「なるほど、ヨル殿の得意魔法はサイズ調節なのですね!」
などと見當違いなことを言いながら近づいてくる。
確かに、これは気持ち悪いな。
こいつ、リアムに褒められることしか考えていない。
「ウィリアム、珍しいのは分かるが、うちの子を怯えさせないでくれるか?」
「・・・はっ!!申し訳ありません!もう會えないかもしれないような珍しいものだったのでつい」
申し訳なさそうにしているが、ウィリアムの目は夜から離れなかった。
「なかなか往生際が悪い男」
「もはや執念だな、あれは」
『俺はあいつが嫌いだ』
好き勝手に想を述べる中、俺が擔いだままのボスがようやく目を覚ました。
さてさて、これから尋問だ。
出來れば、痛い思いをさせたくない。
早めに吐いてくれることを願おう。
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