《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第70話 ~クロウと夜の出會い~

「また來たのか」

うんざりとした顔のクロウの顔はもう既に見慣れており、その冷たい視線にも慣れた。アメリアはクロウの前に行って、再び昨日のように頭を下げる。

晶の命令があるために別行をする訳にはいかない夜は、また懇願と無視が続くのかと既に観戦勢にっていたのだが、今日のクロウはし違った。

ようやくアメリアの屈辱も実を結ぶのかと期待した夜だったが、直ぐにその期待は裏切られる。

「悪いが今日は鍛冶師の用事がっていて、一日中隣の工房にいる。ずっとそうしているつもりなら暇なのだろう?私のために晝食を作って持ってこい。食料はこの家にあるものを使っていい」

何を言われるかと思えば雑用だった。

夜のじとっとした視線に気づいたクロウはニヤリと意地悪く笑う。

「そこにいられても邪魔なだけだし、この際雑用に使おうと思ってな。我ながらいい案だ」

それだけ言うと、クロウは何やら金屬の塊と材料と思われる魔の一部を持ってさっさと隣の鍛冶工房へ行ってしまった。

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夜はため息をつく。

『どうする、アメリア嬢』

夜が見上げると、アメリアがちょうど人參によく似た紫の野菜を手に取っている所だった。

その反対側の手にはどこからか取り出した包丁を逆手に持って構えている。

流石の夜も目を剝いた。

『ちょ、ちょっと待て。アメリア嬢は何をしようとしている?』

「何って、何を作ろうか悩むだろうからとりあえず野菜を切ろうかと」

首をかしげて言うアメリアに、夜はとりあえず危ない持ち方をした包丁を取り上げる。

下手に騒いで家のものを壊したらクロウに何をされるかわからないからな。

それと、夜がついていながらアメリアに怪我をさせると晶の顔がどうなるか、想像するだけでも怖い。

『アメリア嬢まず野菜を切る前に軽く水ですすいだか?ほか、ここに砂がついている。それに、皮も剝かないとな』

どうにかしてアメリアに料理をさせないようにしなければ。

いや、石頭のクロウに、恐らくゲテモノに仕上がるであろうアメリアの食べを食べさせてアメリア嬢のこれまでの屈辱を晴らすのもまた一興。

と、そこまで考えてからいやいやと夜は首を振った。

もしゲテモノに仕上がって本當に倒れられでもしたら晶が困ることを思い出したのだ。

「そう言えば、クロウとヨルってどんな関係なの?」

野菜を丁寧に水洗いしているアメリアは、監視をするために絶妙なバランス覚で頭の上に乗っている夜に言った。

その時、し上を向いたために夜が落ちそうになり、慌ててアメリアにしがみつく。

『そうだな、し長くなるが大丈夫か?大した話でもないが』

アメリアが洗っている野菜を見て、夜は作る料理を決めた。

作り方を指示しながら話し出す。

『あれは多分百年ほど前か?魔王様の命令とはいえ獣人族領で暴れたことを悔いていたのだ。“アドレアの悪夢”と呼ばれるまで暴れる必要のある任務でもなかったなと』

そして、黒貓の姿で霊碑へ行った。

行って何をするつもりだったのかは自分でもわからない。

ただ、悪かったなとは思っていた。

クロウと出會ったのはそこでだ。

夜が霊碑のある丘に著いた時、先客がいたのだ。

霊碑の前で、誰かの名前を呼びながら魂の抜けた顔をして座り込んでいる、黒貓の獣人族だった。

夜は、自分が殺した人の族だと思ってそっと木に隠れた。

「おい“アドレアの悪夢”、居るんだろ?」

ただのタイミングのいい妄想かと思ったが、問いかけからの続きがないので、そろそろと木から顔を出す。

顔を覗かせると、黒貓の獣人族は真っ直ぐに夜を見ていた。

「久しぶりだな、魔王の城では世話になった。お前のその魔力で、俺から隠れられるなんて思わない方がいい」

そこでようやく、その獣人が魔王の元まで乗り込んできて、勝手にやられたかと思えば命からがら逃げ出した、勇者パーティーの一人だと言うことに気づいた。

「安心しろ、俺の妹はお前が殺したわけではない」

真っ赤に泣き腫らした目で霊碑を見上げてそう呟く。

夜は殺気を向けられてないのをいいことに、クロウの隣まで行って、同じように霊碑を見上げた。

『どういうことだ?』

「殺されたんだよ。同じ獣人族の、しかも王族に」

のない聲でそう言うクロウに、夜は息を呑んだ。

「あの日、災禍に包まれたアドレアから逃げ出すための船や馬車が住民の救助をしていた。妹はあと一歩の所で船に乗れたんだ」

クロウはぐっと手を握りしめた。

爪が食い込み、掌が裂けてが滴り落ちる。

「なのに馬鹿王族が、“お前は兄貴が勇者パーティーの英雄なのだから、兄貴に守ってもらえ”と妹を船から突き飛ばして自分たちが先に乗った」

食いしばった歯の隙間からき聲がれる。

その瞳は魔王の城で出會った時と違い、復讐と悲しみに溢れていた。

「俺は、その時ウルにいたんだ。間に合うわけがない。・・・結局、妹は倒壊した建の下敷きになって死んだ。あいつは、お前じゃない。同胞に殺されたんだ」

真っ黒な瞳から次から次へと雫が地面に落ち、大きなシミをつくる。

夜はじっと霊碑を見上げた。

それでも、自分が暴れたせいでクロウの妹が死んだことに変わりはない。

ほかの大勢の者も、自分が本能の赴くままに暴れたせいで死んでいったのだ。

「俺は妹の仇をとる。時間はかかるかもしれないが、必ず」

『そうか』

魔王の城での戦いで、クロウと勇者が最後まで粘ったせいでこちらの被害も甚大なものとなった。

一対一でなら負ける気はしないが、それでも復讐心に取り憑かれたクロウと手合わせするのは遠慮したい。

素っ気なく返答してしばらく霊碑を見上げていると、いつの間にかクロウは消えていた。

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