《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第71話 ~クロウと夜~

「それで、どうなったの?」

細かく刻んだ野菜を炒めながらアメリアが聞く。

アメリアは大分料理の仕方が上手くなった。

料理はいつも晶の擔當なので、夜はアメリアが料理を不得意とすることに気づかなかったのだが、この調子で學んでいけば、まあ並程度には味しいものが作れるようになるかもしれない。

『その後、奴とは會わなかった。俺もこの街に來て奴の魔力を察知するまで忘れていたしな』

この街に來た日、どこからか魔力が飛んできた。

ちょうど、晶が影魔法を発した瞬間に。

晶の膨大な魔力に隠れるようにして夜の元まで屆いたのだ。

晶はまだ魔力の作にかけては夜に及ばない。

だから、クロウの魔力には気づかなかったのだろう。

あの場で、あの魔力に気づきそうなのはギルドマスターのリンガくらいだと思う。

「そう言えば、先代の勇者のパーティーの中に魔族並みに魔力の扱いに長けた者がいるってお父様から聞いたことがある。クロウの事だったのね」

夜は頷いた。

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勇者パーティーに選ばれる基準として、各部族の共通點がある。

それは、武又は魔法力に優れ、それに関して他の追隨を許さない、圧倒的な技を所持していること。

クロウの場合はそれが魔力の作だった。

『あの日、主殿とアメリア嬢が宿に戻る時、俺は奴に會いに行った』

「來たか、“アドレアの悪夢”」

初めて出會ったような丘の上で、クロウは夜の事を待っていた。

夜はその傲岸不遜の言いに黙って眉を顰める。

『自ら呼んだくせに隨分な言いだ。それと、俺は“夜”という名を授かったのだが。いつまでもその名で呼ぶな。百年も前だぞ』

夜が言うと、クロウはせせら笑う。

そして、夜の言葉を言い直した。

「まだ、百年しか経っていない。それに、ほぼ悠久の時を生きるお前ら魔は、百年ごとき瞬きをするように一瞬だろう」

確かに、獣人族の壽命は人族のプラス百年ほど。

倒されるまで生き続ける魔とは比べにならない。

『・・・そんなことより、何の用だ。わざわざ主殿が魔法を発するのと同じタイミングに、わざと隠すようにして魔力を飛ばしてきた理由は?』

主殿という言葉にクロウはピクリと反応する。

「どこか魔力に違和じると思ったら、名前といい、お前従魔になっていたのか。・・・あの“アドレアの悪夢”が人間に、しかも最弱と名高い人族に仕えているというのはいいのか?まあ、あの魔王ならむしろ自分から命令しそうだが」

夜はイライラと尾を振る。

そんな話をしに來た訳では無い。

そもそも、會うのはまだ二度目だ。

お前に俺の何がわかる、とびたい。

と言うか、それ以上にお前に魔王様の何がわかる。

『用件は』

もう一度促すと、クロウは深いため息をついた。

「お前の主、覚からするとあの膨大な魔力を持つ年の方だろう。々聞きたいことがあるから連れてこい。そうだな、壊れた剣を治してやるってことでどうだ?」

夜は黙ってクロウを見つめた。

その視線は普段晶やアメリアに向けているものと違い、それだけで殺せるのではないかと言うくらいとても鋭い。

クロウはやれやれと首を振った。

「気づいていなかったのか?あの剣は初代勇者が打った蔵された魔力が人間一人のそれと変わりない。その上、それを所持している本人も魔族に近い量の魔力の持ち主。ここからでも何をしているのか手を取るようにわかる。・・・今はあのエルフの王といいじだな」

夜はほうと心したような聲を出す。

本人としてはクロウのその技ではなく、ようやく進展しそうな晶とアメリアの関係についてなのだが。

それでもクロウがしばかり機嫌をよくしたので良しとしよう。

『だが、剣を直したいだけの用事ではあるまい。他には何を隠している』

クロウは顔の前で人差し指を左右に振った。

夜はその仕草にしイラッとじる。

「それをお前に言ったら間違いなくその主殿に連絡が行くだろうが。しは自分で答えを探してみろ。ヒントはそうだな、他の人間は持っていないをお前の主は持っている」

夜は無言で首をかしげた。

晶が持っていて他の人間が持っていないものとは何だろう。

夜に思い當たるものはない。

「あと、それが剣を修理するための材料だ。近日中に持ってこい」

風魔法を使ってこちらに飛んできたのは一枚の紙。

それには集めるのが難しそうな魔の部位が書いてある。

『こんなにもか』

「これだけしか、だ。・・・そう言えば先程もこんな會話をしたな」

クロウはくつくつと笑い、夜はその顔を凝視する。

初めて笑った顔を見た。

そしてその顔は、自らの種族の王族に対して復讐心を持っている者の顔ではなかった。

だが、復讐は果たされたのかなんて聞けるわけがない。 

間接的にとはいえ、夜のせいでもあるのだから。

「・・・あの時そんな事があったのね。だからあの日から夜はずっと考え込んでいるんだ」

アメリアは出來上がった料理を棚にあった皿に適當に盛り付けた。

ついでに果実を絞ってジュースもつけてやる。

『気づいていたのか』

夜の尾がぴんと立った。

自分の変化に気づいてくれたことが嬉しかったのだ。

「まあ、最初に気づいたのはアキラだけど」

しだけくすりと笑って、アメリアは料理を持って隣の工房に向かう。

ちょうどお晝の時間で、中でクロウは手を止めて待っていた。

「ああ、済まないな。慣れなかっただろう」

素直に禮を言われて、アメリアと夜は目を丸くする。

クロウはそれに気づかずに料理を黙々と口に運んだ。

料理に対して大した反応も無かったが、不味いとも言われていない。

どうやら口にあったらしい。

「ねえ、あなたの事は夜から聞いた。妹さんの復讐は果たされたの?」

ふと、アメリアは今思い出したかのようにそういった。

何を言うのかと夜はぎょっとしてアメリアを見る。

ピタリとクロウの手が止まった。

「・・・まだだ。妹を殺した王族、現王の甥はまだのうのうと生きてるよ」

そう答えたクロウの表はとても苦しそうだった。

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