《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第73話 ~“雑用の救世主”~
約一時間前ーーーーー
「これで黃ランクだ。迷宮行っても文句はないな?」
晶が今手に持って、ヤマトの前で扇型にして見せているのは、つい二時間ほど前にギルドから晶に出された依頼書。
その數五枚。
その全てに依頼が完全に達されたというハンコが押してあった。
「ゆ、有言実行だな、アキラ」
ヤマトはドヤ顔の晶に顔をひきつらせる。
隣で別の冒険者の付をしていたマイルも、驚きで目を見開いていた。
ギルドからの依頼と言っても、溜まりに溜まっていた雑用系の依頼を適當に晶に流しただけだ。
中にはこれまで數々の新人冒険者たちを泣かせてきた、偏屈な爺さんの肩叩きなんていう依頼もあったのだが、その依頼すらも晶はたった十分で終わらせてしまった。
しかもその依頼書には、今度から自分が出す依頼は全て晶に回すようにという言葉まで添えられている。
「お前、あの爺さんを満足させられるなんてどんな魔法使ったんだ?」
ボソリと呟くヤマトに、晶は首をかしげた。
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そして、さも當然のように言う。
「魔法って、俺は魔法なんか使ってないぞ?ただ爺さんと會話して肩んで依頼書にハンコ押してもらっただけだ。・・・ったく、何が一週間はかかるだよ。普通に十分で終わったじゃないか」
自分の所の冒険者そっちのけであんぐりと口を開けるマイルを、注意する気にもなれないヤマトは苦笑いをしながら晶のドッグタグを黃に変えた。
「他の依頼は?他には家の解作業におばさん達のお使いに創作料理のアイディア出しに・・・あとなんだっけ?」
晶は黃に変わったドッグタグをけ取って首にかける。
晶の中では簡単な依頼だったために、ランクアップしたという実がなかった。
「ああ、そうだ!」
依頼書に目を通していたヤマトが聲を上げる。
視線が俺たちに集中するのをじた。
ヤマトはそれに気づかないのか、興してを乗り出す。
「例のゴミ屋敷の掃除だったよな!あれどうやって片付けたんだ?」
晶はああと頷いて顎に手を當てる。
綺麗好きという訳ではないが、変なところで潔癖を発する晶も、生まれて初めて見る正真正銘の“ゴミ屋敷”というものを見て愕然とした。
「まず、家の解作業は、依頼主が結界魔法をちょろっと使えるみたいだったから、騒音防止の結界を張ってもらって、家を支える柱を全部叩き折って終了。別に倒すだけで良かったらしいからそこはそれで終わりだろ?」
晶はし上をぼんやりと見ながら指を折る。
「(いや、だからどうやってその柱を叩き折ったんだよ。確かあの家の柱には、一本だけ人間の縦の長さよりも太い木があった気がするんだが)」
ヤマトの心の中でのツッコミが晶に聞こえるはずもなく、また晶は、影魔法を剣の形にしてスッパリと切斷したなどと言えるはずもない。
ツッコミ不在のまま、続けた。
「おばさん達のお使いは、毎日アメリアと外食するうちに覚えた店とそこの定価、距離を計算して最短、最安で済ませた」
これが一番簡単だったと言う晶に、ヤマトは頭を抱える。
「(いやいや、一どんな頭してんだよ!普通そんなん覚えないし、そもそもあのおばさん達、絶対に一人じゃ無理な量を毎回要求してくるから、本當はあの依頼、パティーを組んでる冒険者専用だったんだよ!今回は間違って出しちゃったけど!)」
そんなヤマトの様子に気付かず、晶はまた指を折った。
「創作料理のアイディア出しの方は・・・まあ俺自料理するから、俺の経験を元にアドバイスしたらなぜか師事された」
なんでだろうなと首を傾げる晶に、ヤマトは付に額をぶつける。
「(料理店のシェフにも勝る料理の腕前の冒険者って何!店開けよ!!って言うか、依頼出してきた店のシェフ、この街じゃかなり有名な料理人なんだよ!)」
聲に出していなくて良かった。
もし出していたら、きっとヤマトの聲は既にガラガラに枯れていただろう。
顔を上げると、晶はし殘念な人を見るような目でヤマトを見ていた。
その事が更にヤマトの心を抉る。
ヤマトは表面上だけ立て直したつもりで続きを促す。
その額からはダラダラとが流れていた。
表面上も全く立て直っていなかった。
「うーん、まあ最後が一番大変だったんだけど、」
そう前置いて晶は握っていた指を開いて肩をすくめる。
「普通に掃除したんだけど、あんな立派なゴミ屋敷初めて見たもんだから最初戸っちゃって一時間もかかったぜ」
やれやれと効果音が付きそうな晶にヤマトはやっとの事で、へぇそうなんだという聲を絞り出した。
「おう。けど、結構楽しかったぜ?依頼主がずっと探してた金庫の鍵とかが見つかったらしくて発狂してたしな」
見えないところで握られたヤマトの拳がプルプルと震えた。
「(お前が掃除したのは元伯爵の屋敷!今はもう沒落してるけど、家の金庫に金銀財寶を蓄えてたとか言う伝説が殘ってて、ゴミ屋敷になったのはそれを狙う盜賊が荒らしたから!金庫は見つかったけど鍵は見つからないで、結局長らく放置されてたの!!)」
いつの間にか靜まり返って晶の話を聞いていた他の冒険者、ギルド職員達もヤマトと同様にしてを震わせる。
「あ、俺迷宮に急ぎの用があるからもう行くな!雑用系結構楽しかったからまた溜まったら回してくれよ」
天然なのか、鈍なのか、本當は気づいていたのか知らないが、妙な空気のギルドを晶は颯爽と出ていく。
その姿をヤマト達は無言で見送った。
「・・・“雑用の救世主”か」
誰かがポツリとらした聲にみんなが頷く。
ついでに、溜まっていたギルドの雑用をあらかた片付けてくれ、市民からのギルドの信頼を守ってくれた救世主でもある。
その日から晶はギルド、及び市民たちの達の間で“雑用の救世主”と呼ばれるようになったとか。
流石に本人に呼ぶ強者はいなかったが、その逸話が遊詩人達の手によって遙か後世まで語り継がれることを、晶は一生知らないままだった。
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