晶から連絡があった後、夜とアメリアは街中を駆け回った。

自力での避難が難しいお年寄りを夜に乗せて運ぶためだ。

夜の姿を見て最初は嫌がっていたお年寄り達も、死にたくはないのか、ここからでも魔が暴れているのが見えるようになってからは、渋々ながらも素直に夜の背中に乗ろうとしてくれた。。

『アメリア嬢、早く避難を！』

最後のひとりを乗せて、夜が尾でアメリアを背中に乗せようとするが、アメリアは首を振って避けた。

「ここから先の人たちはまだ避難できてない。それに、冒険者も來ていない今誰かがここに殘って食い止めないと」

ほとんどすぐ側まで魔は來ていた。

夜は迷う。

今アメリアから離れると、もしアメリアに何かあった場合、連絡手段もなく、居場所を突き止める手段もなくなってしまう。

晶が最も恐れていた狀況になるのだ。

「早く行って！」

はっと我に返ると、すぐそこまで魔は來ていた。

銀ランクのアメリアがやられるとは思えない弱小だ。

だが、言いようのない不安がをよぎる。

『・・・すぐに戻る』

背中にいる大勢の命を思い出して、夜は地面を蹴った。

この手は今更命を救うには汚れすぎているが、それでも、これ以上の犠牲者を出さないために。

「むしろこっちが追いかける事になるかもね」

アメリアはこちらに向かってくる魔達に手を向けた。

「グラビティ」

放出された魔力でアメリアの髪が舞い上がる。

そので、銀のドッグタグが久々の戦闘に揺れていた。

「今、我が手になにもかもを燃やす大火を！・・・炎の手」

セナが詠唱をして、その間に俺が魔立ちをひきつけ、詠唱が終わったあたりで離する。

魔法が完し、セナが差し出した手から巨大な炎の手がび、直線上の魔を焼き盡くした。

それでも魔達はそのを埋めるように集まってくる。

最前線で戦闘を始めて一時間近く経つが、魔の數は減ることを知らない。

冒険者ギルドでヤマトたちが言っていたように、ブルート迷宮の魔は弱點がまちまちであるために連攜が必須だった。

それでもこのようなパーティ編になったのは獣人族の特のせいだろう。

獣人族は獣のがっている。

まあ、それは誰もが分かることだ。

問題は、その獣のがなからず格に影響しているか事だろう。

狂暴な獣の獣人は怒りっぽく、喧嘩っ早い。

穏やかな獣の獣人は常に穏やかで、爭いを嫌う。

力が強い獣の獣人はやはり力が強い。

つまり、個で生活をする獣の獣人は集団行に向かないのだ。

パーティ編があんなにも冒険者頼りだったのもそのためだろう。

「アキラ、數分だけ前線持たせられるか？」

余裕のないセナの聲に後ろを振り返ると、セナは前線で戦っていた冒険者を二人擔いでいた。

二人共蟲の息で、あとし下がるのが遅ければ死んでいたかもしれない。

俺は頷いてその冒険者から短剣を拝借した。

ちょうど振り返る時に、數々の魔を切り裂いていたギルドから借りた短剣が々に砕けてしまったのだ。

その冒険者が持っている短剣が、いつまで経ってもなまる気配が見えなかったのを確認していたので、ちょっと気になっていて、この機に乗じて・・・という訳である。

しその場で振る。

長さは俺の手から肘までくらいで、重さもちょうどいいし、かなりの業だ。

「・・・そ、れ、あのクロウの、短剣、なんだからよ、絶対に、返しに來いよっ」

なるほど、通りで振りやすいと思った。

途切れ途切れに言う冒険者に頷き、その顔を覚える。

あの元魔王の右腕が勧めるクロウが打ったのだというのなら、かなり高かったに違いない。

そこまで金がない俺からしたら、貸してくれるだけ有難いな。

「悪いな、數分で戻る」

そう言ってセナは戦線から離した。

俺はニヤリと笑う。

これで、心置き無く戦える。

前線にはまだ數十人の冒険者がいるが、ここからは見えない。

向こうも、まさか黃ランクの冒険者如きが魔を全滅させたとは思わないだろう。

俺はそっと手を前に差し出した。

「影魔法、起」

サラン団長の言いつけ通り、俺は人の見える所では影魔法は使わない。

まあ、見られたとしても闇魔法の派生だと誤魔化せるだろうし、萬が一コントロールを失って人を襲わないように気配察知は常に全開だ。

この世に顕現した影は、空より暗い黒で地面を染め、嬉しそうに俺にすりついた。

は一切ないが、犬に懐かれるじがする。

「いいぞ、喰え。まあ、大した味はしないと思うけどな」

こいつが最初に喰らったのはミノタウロス。

そこからフェンリルやら、キメラやらレア度の高い魔ばかり喰っていたから舌がえているかもしれないな。

影魔法が通ったところから一滴の痕も殘さず魔が消え、それを見た魔達は恐れをなしたかのように影魔法から我先にと逃げようとした。

だが、一寸の隙もなく詰められた間のせいで逃げるに逃げられず、仲間ので圧死する魔が出てくる始末だ。

「見てていい気はしないが、なかなかの景だな」

今まで侵攻して獣人族達に恐怖を與え続けていた魔達が今度は何やら分からないものに恐怖して押し合い圧し合い。

建に潰されて子途切れていた獣人族や、出稼ぎに來ていて魔に切り裂かれた人族の人達を思うと愉快な気分だ。

全力で展開していた気配察知に人が引っかかり、俺は影魔法に戻るように言った。

俺の影にってきた影魔法に労いの言葉をかけて、近くの魔を切り刻む。

一匹一匹に時間をかけるとかなり面倒くさいので、丁寧に、一撃で敵を屠れるように短剣を振るう。

「悪い、アキラ！」

建のから現れたセナに、俺は片手をあげて応じる。

「なんか魔の數減ってないか？」

辺りを見回してそう言うセナに、俺はしらっと返した。

手を返して牛のような姿の魔のを掻き切る。

「さあ、気づかなかったな。ここの守りがあまりにもいんで向こうに行ったんじゃないか？」

まあ、本當は俺の魔法が喰らい盡くしたんだけども。

流石に全部は無理で、數百匹は殘ってしまったけど、二人でなら余裕で倒せる。

これならほかの場所の援護にも行けそうだ。

俺は余裕を持ってあたりを見回した。

そんな俺の橫を炎の塊が通り過ぎる。

「余所見なんて、余裕だな」

「當たり前だろ？誰がここまで前線を持たせたと思ってるんだ」

軽口を叩ける位にはセナも余裕らしい。

俺はおっと聲を上げた。

視線の先には、クロウから貰った材料リストに載っていた魔がいる。

「・・・よっと、材料ゲット」

一瞬で距離をめて短剣を振るう。

確か採取すればいいのは爪だったか。

俺はその魔の爪を懐に押し込んだ。

「そろそろ終わりそうだな。・・・じゃあ、余った魔力でとっておきをしようか」

いたずらっ子のようにセナが笑って詠唱を始めた。

他の魔法とは明らかに違う、詠唱をするのにも神経を尖らせているのが分かった。

俺は真剣な表のセナに促されるままに、セナの方に魔が行かないように細心の注意を払う。

「吹き出せ煉獄の炎、顕現し、一切を灰燼に帰さん・・・焔ほむら」

その詠唱が終わってから、辺りを見回しても何も起きなかった。

不発かと首をかしげたとき、地面がし揺れる。

「アキラ、こっちへ」

どんどん酷くなっていく揺れに冷や汗をかく俺に、不思議な微笑みを浮かべたセナが手招きをする。

よく見ると、揺れているのは魔達が集まっている所だけだった。

「おい、これなんだ？」

遂に気になって聞くと、セナは笑って口に人差し指を當てた。

ゴポリ、ゴポリとどこからともなく音がして、魔達の所の揺れが激しくなる。

逃げ出してもいいはずなのに、魔達の足はかなかった。

ドッと何かが吹きでて、その上にいた魔が一瞬のうちに跡形もなくなる。

魔石だけがゴトリと落ちてきた。

魔達がザワザワと揺れる。

俺の、もはや人ではない目はそれが何か、ちゃんと捉えていた。

「あれは・・・マグマ？」

日本にいた頃に阿蘇に行ったことがあるのだが、たしかそこでこんな畫を見た気がする。

ゆっくりとく赤いドロっとしたものが、しずつ、でも確かに木々を飲み込んでいく様を。

「おお、意外に博識だな。そう。魔法で強制的に地上まで出して、強制的に地中へ戻す。それがこの魔法だよ」

怖い。

目の前で不可視な攻撃によって消えていく仲間を見る魔の目は、明らかな恐怖に彩られていた。

中には敵なのに俺に懇願の視線を向けてくる馬鹿な奴もいる。

なぜ逃げ出さないのかと魔達の足元に目を向けると、高熱で足が溶けていた。

通りでけないわけだ。

足を構する細胞が溶けだして隣のやつと引っ付いているのだろう。

痛みをじれるのなら、死ぬほどの苦痛と、次は自分かという恐怖が絶え間なく襲っている魔法。

「えげつないな」

熱風がこちらまで來た。

きっと影魔法を知っている夜やアメリアがそばにいたなら、お前が言うかと突っ込んだだろう。

が、俺の影魔法は丸々飲み込んでくれるし、暗殺も後ろから恐怖をじる間も無く一瞬だ。

こんな魔法を大規模殲滅戦に使うなんて、拷問と遜ない。

人相手に向けられたら、そう思うと背筋がゾッとする。

俺は目を細めて、魔石を殘して消えていく魔達を見ていた。

セナの反則的なえげつない魔法のおもあって、俺達が任されたエリアは大方片付いた。

ようやく気が抜けるとほっとした時だった。

切羽詰まった夜から念話をけ取ったのは。

『主殿！アメリア嬢が、アメリア嬢が攫われた！！』

頭の中が、真っ白になった気がした。