《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第153話 〜“ヒガンバナ”〜 リア・ラグーン目線

右、左、右、右……。

もう覚えることが出來ないくらい、クロウ様の後を追って中心の通りから離れた場所に來た。

最初は行き先を當ててみようと考えていたが、私が通ったことのないような道を通られるともうお手上げ狀態だ。

ただでさえり組んでいる町なのだから、そこに住んでいても大通りはともかく脇道を完全に理解することは難しい。

今歩いている道も人気がなく薄暗く、ここが町のどこに位置しているのかも分からない。

歩きすぎてそろそろ足が痛くなってきた。

「クロウ様、あとどれくらいでつきますか?」

もう何度目かも分からないくらい聞いた。

落ちることない歩くスピードに、迷っているわけではないことは分かるが、知らない場所で不安になることは仕方のないことだと思う。

「あと數分で著く。……なんだ、お姫様暮らしに慣れてしまってもうバテたのか?」

それが挑発だと分かっているのに、からかうようなその口調に私は口を尖らせた。

「バテていません!行き先を言われなかったら誰でも不安になります」

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「ほう、知らない道をついていくことに不安を覚えるようになったか。昔は知らない道でも私の後をついて回っていたが」

いつの話をしているのだろう。

なくとも、私が記憶している限りは知らない道をついて行ったことなどないはずだが。

いや、あるかもしれない。

「なんだ、忘れたのか。お前の母親から隣町にお使いを頼まれて一緒に行ったことを。途中で私が道を外れて大回りしていたのについぞ気づかなかったな」

そういえばそんなこともあった。

クロウ様が私をちょくちょく騙し始めたのもあのころからだ。

あのときは馬鹿正直にクロウ様の言葉を信じて、數十年は大回りをして隣町まで行っていた。

おかげでいい運にもなったので別に騙されたことに関しては気にしていないのだが、自分の騙されやすさには絶した。

よく考えてみれば、隣町に行くのに二つも山を越えたりするはずないじゃないか。

それほど田舎ではなかった。

「あのときと今は違います!」

「そうでないと困る」

ぶっきらぼうに言われてしムカッときた。

どうしてこの人は言葉のキャッチボールができないのだろうか。

「クロウ様は全然変わっていません!昔と変わらず私を子ども扱いしますし、言葉のキャッチボールが下手です!」

本當に何も変わってない。

あのときのクロウ様がそのままこの場にいると言われても信じてしまいそうなくらいだ。

いくら獣人族の老いが顔やに出ないとはいえ、人間が何十年も同じなんてことはあり得るのだろうか。

「子供扱いもなにも、まだ子供だろう。それに、私は変わるつもりがないからな。言葉のキャッチボールなど、昔も今も必要だとじたことはない」

「ム!私はです!クロウ様がいつまでたっても獨りなのはそのせいですよ!せっかくお顔はいいのに、もったいない」

どうしてこの人は自分から一人であろうとするのだろう。

一人は寂しくて、悲しくて、そしてとても苦しいものではないか。

初めから何もなければ寂しさも悲しさも苦しさもじないかもしれない。

けれど、私は一人ではないときを知ってしまった。

クロウ様もそうであるはずなのに。

村のみんなが死んで、クロウ様もいなくて、私はそのときにぽっかりとが開いたような気がした。

一人というのはそういうものだ。

大切な人を失うということはそういうことだ。

そのぽっかりと開いたがふとした瞬間にズキズキと痛みだすのだ。

それがたまらなく苦しい。

今でこそ王城でたくさんの人間と出會って、一人であるとじなくなったけれど、クロウ様は違う。

私にはクロウ様が一人でいることをんでいるようには見えなかった。

なのに、この人は今も一人だ。

私がそう聞くと、クロウ様は自嘲気味に口の端を曲げた。

「獨りでいい。……私はもう幸せになるつもりはないからな」

「―――――え」

ポツリと呟かれた言葉に私は目を見開いた。

「妹の復讐を考えた時點で自の幸せというのは考えなくなった。それを若者に押し付けた時點で私の地獄行きは決まっている」

"妹の復讐"というのは薄々と気づいていた。

村にいた頃、クロウ様に聞いたのだ。

大切な妹さんのことやその妹さんが"アドレアの悪夢"のときに同胞に殺されたことを。

殺した同胞のことは流石に教えてくれなかったが、その話をしていたときのクロウ様の瞳はひどく悲しげでそれでいて激しく燃え上がっていた。

他の思い出はほとんど忘れてしまったが、それだけは印象に殘っている。

だが、若者に押し付けたというのはどういうことだろうか。

復讐を他の人にやってもらうということ?

でも、それでクロウ様の気は晴れるとは思えない。

そして、その若者とは一誰なのか。

……ダメだ。

私ごときの頭ではとても理解しきれない。

直接聞いてみた方がはやいだろう。

「あの、クロウ様……」

「どうした、著いたぞ」

こちらを向いたその顔に先ほどまでのひどく痛々しい表はなく、いつもの顔だった。

それに拍子抜けした私は、結局聞こうとした言葉を飲み込んで目の前に視線を移す。

「わぁ!!」

目の前に広がる赤い絨毯に思わず歓聲を上げた。

見たことがない赤い花が群生している。

一面に咲き誇る花々はどこか暗い赤なのにしかった。

「ここに來る道中にも生えていてな。私の知らない花だったがアキラが教えてくれた。"ヒガンバナ"という名らしい」

中心から天に向かって手をばしているような花が所狹しと並んでいる。

手をばしてろうとする手はクロウ様に摑まれた。

「毒があるらしいからやめておいた方がいい。毒がある場所が分かればいいのだが、アキラもどこに毒があるかは忘れたようだ。まあ、あの男が花の名を知っていること自奇跡に思えるから仕方ないだろう」

「こんなに綺麗なのに毒が……」

でも、この花は手折ってしまうよりもこうして見に來る方がいいのかもしれない。

を飾るよりもこうして生えているところを見る方が綺麗だ。

「この"ヒガンバナ"の"ヒガン"というのはあの世、つまり死んだ後に行く世界のことらしい。つまりこの花は、死んだ後の世界の花というわけだな。まあ、本當の由來はアキラも知らんらしいが」

「"ヒガン"……。こんなにも綺麗なのにどうしてそんな名が……」

もうし良い名はなかったのだろうか。

毒といい名前といい、どこか殘酷な花だ。

風に揺れる花を見て、私はし顔をしかめた。

「それでも、しいだろう」

「はい。……でもどうしてここに?」

斜め上にあるクロウ様の顔はじっとその花々を見ている。

そのままの狀態で、クロウ様し困ったように眉を寄せて首を傾げた。

「どうして……。昨日町を歩いているときにたまたまここに行きついたんで、誰かに見せたくなった。……それだけだと思う。他意はないはずだ」

たまたま行き著いただけで他の人に見せたくなるような人ではないと思うのだが。

でも、昔からクロウ様はこういうしい花がお好きだった。

湖に浮かぶ薄い桃の花や、天から降っている雨のように咲いている紫の花。

そんな場所を昔から私だけに教えてくれた。

ここに連れてきてくださったのもそれの延長なのかもしれない。

だけど、私はこの場所を生涯忘れることはないだろう。

城にってからというもの、花がこんなにしいものだということも忘れていた。

「こんな奧まった場所、お前では覚えることなどできないだろうし、迷うから絶対に一人では來るなよ」

なんだかんだ言って最終的には心配をしているような言葉も相変わらずのようだ。

「では、クロウ様以外と來ることはないですね。二人だけのがまた増えました」

「なんだ、それは覚えていたのか」

私がそう言って笑うと、クロウ様は顔を"ヒガンバナ"に向けたままうっすらと、本當によく見なければ分からない程度に微笑んだ。

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