《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第154話 〜意外〜
「俺を弟子にしてくださいっす!」
「斷る」
俺の顔を見つめる目はかが開いていて、まるでおやつを前にした犬のようだ。
今にもぶんぶんと千切れんばかりに振られる尾が見えてきそうだ。
どうしてこうなった?
俺は天井を仰ぐ。
先ほど土下座をしていたラウルは同じ勢で今度は、俺の弟子にしてくれなんてのたまった。
「なぜっすか!」
「俺は弟子をとらないし、とれるようなじゃない。その上お前のことは何も知らない」
なんてことを言えば、ケリアも混ざってラウルの話を始める。
何なんだこいつら。
アメリアも笑ってないで止めてくれ。
あと、肩でプルプルと震えている夜は帰ったら覚えておけ。
ラウルが俺に土下座をした後、同じく話を聞いていたらしいアメリアの悪口を言っていた冒険者たちは慌ててギルドから出ていき、その空いた席に俺たちが座った。
本當は用もないのに居座る理由もないし、グラムと遭遇したときに起きる面倒なことを考えて冒険者ギルドを出ようとしたのだが、その前にラウルとケリア、そして糸目のせいかどこか胡散臭くじるマコトに阻まれ、冒険者ギルド職員から謝罪を含めた接待をけることになった。
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茶請けはラウルたちの話だ。
二人は仲だと思ったのだが、どうやらただの馴染だったらしい。
「私とラウル君は生まれた時からの付き合いなんです。私はこの通り足が悪いのでラウル君がの回りのお世話をしてくれています。ついでに心配なので何も用事をれていない日はこうして冒険者ギルドにいるんです」
「ばっ!?お前のためじゃねぇ!俺は暇だから銀ランク冒険者としての義務をだな!」
「ハイハイ、そう言って酔った冒険者の喧嘩を止めてくれたし、私の悪口を言っていた冒険者はいつの間にかこの町にいないんだけどなぁ」
「偶々だ!偶々……」
先ほど副ギルドマスターに注意されたのにもかかわらずまた言い合いを始める二人。
仲がいいな。
ここまで仲がいいと、俺の勘違いも間違っていなかったのではと思うんだが。
クロウ以上のツンデレがいることだし。
ケリアの足の不自由は生まれつきで、親が早くに死んでしまった後はラウルがずっとそばにいてくれたらしい。
偏見かもしれないが、ラウルに人の世話ができるとは思わなかった。
むしろ世話を焼かれる方だと思っていたのだが。
人は見かけにも格にもよらないな。
「ラウル君はご飯を作るのもそこら辺のシェフよりうまいですし、家事も全部できます。意外でしょう?」
まるで自分のことのように自慢するケリアにアメリアが頷いた。
「意外。とっても意外」
「そんなに繰り返すことねーだろーが」
ラウルが歯をむき出して唸る。
王族であるアメリアに対しての口調に、ケリアが顔を真っ青にした。
話していて思ったことだが、どうやらラウルの中にある実力図は俺がてっぺんで、その次に金ランク冒険者、続いて自分や銀ランク冒険者、その下にアメリアを含むその他と続くらしい。
ラウルの敬う基準は強いかどうか。
つまり、アメリアは戦えるような見た目をしていないからか、弱いと思われているようだ。
俺よりもアメリアの方が斷然強いと思うのだが。
魔力量で言えば魔族を超えている唯一の人間だろうし、生きた時間が違う。
対して俺は平和な場所から來て、暗殺者の癖にそれっぽいことは何もしていない。
しいて言うなら魔を大量殲滅したくらいだ。
それでもそのあとは何日か寢込んだ。
まあでも、アメリアがラウルの口調を気にしていないならいいか。
「何が得意なんだ?」
「えっと、ジェネラルボアのとじゃがいもの煮っすね。ニンジンとかもってますけど」
俺が聞くと、ラウルは照れたように頬をかきながら答える。
その姿はアメリアのときとは別人のようだ。
というか、じゃがのようなものだろうか。
うちの家ではとじゃがいも、ニンジンの他にこんにゃくをれたり、ゴボウや里芋をれたりしているな。
ジェネラルボアとは、中堅レベル冒険者なら余裕をもって倒すことが出來るイノシシのような魔だ。
豬突猛進をまさに現したような魔で、人間を察知するとまっすぐ突っ込んでくるからきが読みやすく、倒しやすいのだ。
そのはどれかというと牛のような味がして、焼いてもおいしい。
ちなみにジェネラルボアよりも一回りサイズが小さい普通のボアもいるが、こちらは食べることが出來ない代わりに分厚い皮でおおわれているため、その皮を売れば金にはなる。
「で、どうです?今ラウル君を弟子にすれば我が家に一緒に住むことも可能ですが!」
「やっぱりグルか」
話を逸らせたかと思ったが、諦めが悪いな。
山吹の髪と赤の髪が期待するように揺れた。
「殘念だが、俺たちは目指す場所があるんでな。悪いが定住はできない」
「目指す場所?アキラ様方はどちらに行かれるのですか?」
冒険者というのは一つか二つの町に定住して、それらの町にある冒険者ギルドで稼いで暮らすというのが普通だ。
どこの冒険者ギルドもランクが上の冒険者や強い冒険者をしがり、町に定住させようとする。
強者が近くにいるというのは神的に安心するし、もしも何かあったときはすぐに対処させることが出來るからだ。
でも、俺は普通の冒険者ではなく、冒険者ギルドに登録したのもブルート迷宮へるために必要だったからに過ぎない。
それに俺の家はただ一つ、母さんと唯がいる家であり、こちらの世界に"家"を呼ぶ場所を作るつもりはない。
この考えはアメリアと夜にも伝えてあるし、二人から了承も得た。
「真面目に答えれば、お前らはきっと馬鹿にする。そんなところだ」
誤魔化すようにそう答えた。
この冒険者ギルドに人族と獣人族との戦爭をんでいる奴がいるかもしれない以上、魔族領に行くことをぺらぺらと話せない。
まあ、例え正直に話したとしても信じる人はいるのだろうかとは思うが。
確かに勇者召喚で召喚はされたが、勇者ではないし、今のところ魔王を殺す気もない。
それを、今日出會ったばかりの彼らが――しかも片方は想像を絶する馬鹿が――理解できるわけがない。
「話せば俺たちが馬鹿にするところ?……ケリア分かったか?」
「さっぱり」
なぞなぞのようになってしまったな。
俺は出されたお茶を飲み干して立ち上がった。
「そろそろあいつらと合流しよう。ラウルとケリア、世話になったな」
あちらも思い思いの時間を過ごしていると思うが、クロウとリアを探さなければならない。
ラウルもケリアも名殘惜しそうな顔をしていたが、まだこの町にいることを告げれば、とたんに顔が輝いた。
先ほどはラウルのみを犬だと思ったがケリアもラウルと同じ表をしている。
「お茶、おいしかった」
アメリアも立ち上がり、ここから出ようといた。
「々お待ちいただいてもよろしいですかな?」
いざ扉に手がれようとしたとき、中から止める聲がした。
聞いたことのない聲だ。
周りにいた職員たちの聲ではないし、マコトの聲でもない。
俺たちがそろって振り返ると、そこには小太りの男が立っていた。
こちらの扉からった気配はなかったから、おそらく裏からったのだろう。
ということはギルドの関係者か。
……でも、それにしては気配が禍々しい。
それに俺たちの周りにいた職員たちの顔が悪くなっているような。
その男は無遠慮に嘗めまわすようにアメリアを見る。
「アメリア・ローズクォーツ様ですかな?我輩はこのウルク冒険者ギルドのギルドマスター、グラム・クラスターと申します。しお話したいことがございますので我輩の執務室にお越しいただけますかな」
にやりと笑うその顔に、俺は知らずのうちに顔を顰めていた。
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