《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第156話 〜“闇の暗殺者”〜
あの後、俺たちは泊まっていたホテルの部屋で合流した。
クロウとリアはどこからか俺たちが飛んでいるのを見て急いで駆け付けてくれたらしい。
せっかくの二人きりだったのに、悪いことをしたな。
リアにこっぴどく説教されたが、グラムのことを話すと渋々説教をやめて許してくれた。
ラティスネイルはいつの間にかふらりとどこかに行き、ラウルとケリアはあんなことがあった後に家に帰るわけにもいかないため、有り余っている部屋の一つに二人で泊まっている。
ケリアは冒険者ギルドをやめてラウルと他の町に移るらしい。
まあ、ギルドマスターのあんな姿を見た後でいつも通りに働けるわけがないよな。
そして今は全員が寢靜まっている真夜中。
いわゆる丑三つ時といわれる時間帯だ。
俺は隣でぐっすりと寢息を立てているアメリアと夜を起こさないように気を付けながら起き上がった。
日常生活の邪魔になるからと普段はつけていない外套をに纏い、首に黒布を巻く。
今までも真っ黒だったが、それ以上に黒くなった。
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黒以外のがほとんどない。
これで完全に闇に溶け込むことが出來るだろう。
幸いなことに、今日は新月。
スキル『暗殺』で夜目がきく俺には関係ないが、余程のことがない限り俺の姿が見える人はいない。
「……行くのか」
「ああ」
いつの間に起きていたのか、クロウが部屋の戸口に立っていた。
今回は來るだろうなと思っていたのでいつものように驚くことはない。
「私が言ったことだが、無理をするなよ。"強化薬"で強化された人間は一般の魔族並みの強さだったとあの魔族の娘が言っていた」
いつの間にラティスネイルに聞いたのやら、クロウがそんな忠告をしてくる。
俺はそれに笑った。
俺が今更一般の魔族レベルで臆することはない。
それはクロウも知っているはずだから、きっと今になって申し訳なくなったとかそんな理由からだろう。
「らしくないな。俺はあんたに頼まれなくてもこうなっていた。あの城を出た時はサラン団長の仇を討つことだけ考えていたからな。ようやくそれが葉うんだ。祝ってくれてもいいくらいだが」
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俺は"夜刀神"を裝備してクロウの隣を通って部屋を出た。
クロウはその後をついてくる。
「ウルの宿でお前を始めて見たときからお前が誰かに復讐するために力をつけたことは知っていた。目を見れば一発で分かるからな」
「そうだろうな。でも、俺が言えたことではないが復讐なんて考えるだけで疲れる。それに、俺が復讐を遂げたとしてもあんたの心が晴れることはないだろう」
中に仕込んでいる暗を一つ一つ確認しながら俺が言うと、クロウが苦笑したような気がした。
人間、怒っているときが一番疲れるのだ。
年中怒っている人はきっと力が底なしなのだろう。
「それでも、この世界に、獣人族に蔓延る病の一部は確実に消滅する。グラムだけが甘いを啜っていたからな。他の人間はグラムに利用されていただけだ」
そんな信頼できる仲間もいない中、どうしてグラムがこれまで暗殺されなかったのか、それは"強化薬"漬けの強化人間の恩恵が大きいだろう。
彼らはただ命令にだけしたがう戦闘人形。
信頼なんて必要ないし、裏切る心配もないからな。
だが、今日戦って確信した。
俺なら彼らの目をかいくぐってグラムを殺すことが出來る。
スキル『気配隠蔽』のスキルレベルがマックスな俺は、スキルを発してただ歩いているだけでもカメラに撮影されず、もし熱を知するサーモグラフィーのような裝置があったとしても、赤外線センサーがあったとしても俺に反応することはない。
今まで、他の人間に見つけてもらえないこの"質"があまり好きではなかった。
特に子供の頃なんかは、何の遊びをしても俺一人だけ見つけてもらえないという孤獨で押しつぶされそうだった。
今でこそさぼりや居眠り用に有効活用しているが、スキルとなっても好きになることはなかった。
だが、今は違う。
生まれて初めて、この力が好きになれそうだ。
「強化人間は殺さない。が、もし同業者と出會ってしまったときは邪魔者として排除する。殺すのはグラムと俺の邪魔をする者だけ。それでいいか?依頼人殿」
「ああ。それで頼む。暗殺者殿」
どこか後悔したような目で俺を見ているクロウに嗤って、俺は窓から飛び出した。
「アキラ、待って!!行っちゃダメ!」
そんなお姫様の聲に気づかないふりをして。
グラムが住居としている建の、斜めに傾いた屋の上に闇に溶け込むような黒ずくめの俺がいた。
首には黒布が巻かれ、余った布と外套が風に靡いている。
俺は屋を凝視してじっとかなかった。
できる限り強化人間と戦闘にならないようにする必要がある。
おまけに事前準備も何もなしだ。
見回りの時間も分からない。
本當は何日かに分けて計畫的にした方がいいのだろうが、それだと俺の気が変わる可能と、俺たちの居場所がグラムにばれる危険がある。
失敗しないように慎重にタイミングを見計らなければならないな。
建の中を凝視して、どれほど時間がたっただろう。
しばらくして、俺ははため息をついて立ち上がると、左足を下げ、"夜刀神"を抜いて突然戦闘態勢にはいった。
俺の視線の先には何もないかのように見えたが、その瞬間には空気が揺らいで一人の男が浮かんでくる。
その男も俺と同じく黒づくめの軽裝だった。
邪魔者、同業者だ。
グラムがあんな奴だから、暗殺を考える人が俺たち以外にもいるとは思っていたが、これほど早く現れるとは思わなかった。
俺と恰好の違うところは短刀と直剣という得の違い、首に巻かれた黒布、そして漆黒の外套を羽織っているところだろうか。
やっぱりこの外套と黒布って邪魔だから暗殺者はつけないよな。
城から盜んだときはかっこいいと思っていたが、実用はそうでもない。
邪魔ではないが、なくてもいいというのが本音だ。
俺と男の睨み合いは男が耐え切れなくなったことで終了した。
「……同業者か。なぁ、お前はこいつを守ってるのか?それともお前のような大が、一介のギルドマスターを殺りに來たのか?」
俺も有名になったものだ。
暗殺は初めてだけどな。
「こいつと、俺の邪魔をするやつを殺りに來た」
男の質問に、俺は簡潔に答える。
つまりはお前を殺すという意味だ。
ラウルほどの馬鹿でなければ理解できるだろう。
明確な殺意だけを相手に伝える。
その殺気に男はぶるりとを震わせた。
たったこれだけの殺気で怯むなど、大したことないな。
強化人間に守られたグラムの暗殺をしようというのだから相當な手練れを期待していたんだが。
「そうか。あーあ、あの“闇の暗殺者”と依頼がかぶるとか、ついてねぇ」
と、男は心底殘念そうにため息をつく。
一応は戦闘態勢をとるも、逃げ腰となっていた。
あれでは、もし反応ができて剣を振るうことができたとしても剣に力が伝わらずに軽いものとなるだろう。
俺の出す殺気に、冷や汗すら滲んでいる。
俺はそんなヘタレ男に気にもとめず、ただ獲を眺めるような目で観察し、男が息を吐こうとした瞬間に一閃。
「…………!?」
男は何をされたのかも分からないまま、自らのが吹き出していくさまを、地面に倒れ込みながら呆然と見ていた。
ほとんど時間もかからず、屋の上でそいつは絶命する。
俺は男の遙か後ろで前に出していた右足を引き、短刀の糊を男の服で拭った。
初めて人間を殺したわけだが、何のも湧きあがらなかった。
それがスキル『暗殺』による補正なのか、俺が薄なのか分からない。
でも、人間を初めて殺したことによって戦意喪失するようなことにならなくて良かったとホッと息をついた。
そろそろ見張りが手薄になってきたな。
幸いにも、暗殺者同士の殺し合いが知されることはなかった。
強化人間は意外と鈍いのかもしれない。
俺は外から鍵を開けて窓から本命の部屋に侵した。
激しいいびきを立てている本命――グラムを見る。
「………」
"夜刀神"を持つ手が僅かに震えた。
先ほどはこんなことにならなかったのに。
震えを反対の手で震えを押さえつける。
そして靜かに、気配を消してターゲットの部屋にり込み、その首筋に"夜刀神"をつきつけた。
これを実行すれば、俺はもう元の平和な日常には戻れない。
「みんな、悪いな。こいつを殺れば、俺は一歩前へ進めるんだ。こいつを殺れば多くの人が助かる。あいつも……」
織田晶という、どこにでもいる高校生だった俺はそう呟いて、力いっぱい刃を引いた。
頭に浮かんだのは母さんと唯の顔だった。
グラムは數回痙攣して、間もなくうめき聲をあげて絶命した。
呆気ない。
クロウは今に至るまで何十年も苦痛に耐え続けたのに。
數々の人々を長らく苦しめ続けた悪黨の最期は、終わるのは一瞬だ。
人間を殺したことを後悔はしていない。
でも、復讐を遂げた満足が湧きあがることはなく、あるのはただにぽっかりとが開いたような喪失だけだった。
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