《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第158話 〜大丈夫〜 アメリア・ローズクォーツ目線

アキラが帰ってきたのは朝日が昇りだすような、そんな時間だった。

私はリビングの椅子に座って、ゆっくりと黒が紺になり、明るいに染まっていくのを眺めていた。

キラキラとした朝日が窓から私の顔に當たるのを見つめていると、黒い影が開けっ放しの窓から部屋の中にってきて私はハッとする。

結局一睡もできなかったが、その顔を見て安心したからか急に眠気が襲ってきた。

ちなみにクロウは早々に寢室に引き上げていった。

年寄りだからきっともうしで起きてくるだろう。

「アキラ……!」

駆け寄ろうとしたが、アキラからむせ返るようなの濃い臭いがして、私はアキラの一歩手前で思わず足を止め、顔を顰める。

黒い外套にはよく見ないと分からないが黒とは違うが付著している。

それも、アキラのものではなく、グラム一人分でもないようにじた。

「悪い」

そんな私にアキラはそう言う。

それは、何に謝っているのだろうか。

出ていくとき私が止めたのに聞かなかったふりをしたこと?

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それとも、人間を、グラムを殺したこと?

が私の中で荒れ狂って、どうしてか涙があふれてきた。

「なぜ……どうして……」

涙を流してポツリと呟くと、私の髪をいつもより暴にかき混ぜて、アキラは淡々と話し始める。

グラムを殺す前に自分を見た同業者――同じくグラムの暗殺を依頼された暗殺者――を殺したこと。

そして人間を殺したときに何もがわいてこなかったこと。

窓を背にしているため晶の表は見えなかったが、きっと痛そうな顔をしている。

「今まで俺が暗殺者として中途半端だっただけだ。最初からこうしておけばサラン団長が死ぬこともなかったのにな」

アキラが言っているのはきっと召喚された後、レイティス國の王たちの企みを知ったときの話だろう。

この世界でも職業が暗殺者だからといって、本當に暗殺者を生業にしている人はない。

生まれたときに決まった職業は死ぬまで変えることは出來ないが、必ずしもそれが絶対であるわけではないのだ。

ウルのギルドマスター・リンガのように全く別の職に就いている人はいるし、大抵の場合は冒険者だ。

だというのに、アキラは暗殺者でいることを選んだ。

「違う!それはアキラのせいじゃ……」

「だとしても、俺はあのときあいつらを殺せた。殺さなかったのは、俺が甘かったからだ」

靜かな暗い聲で私の言葉を遮ったアキラにぞっとした。

アキラが言っている“あのとき”がいつを指すのかは私は知らない。

サラン・ミスレイの仇をとればアキラの気は済むと思っていた。

だというのに、今のアキラの顔は前に無理矢理眠らせたときより酷い。

でも今回は前のように眠らせても意味はないだろう。

私が、何とかしなければ。

私は涙を袖で暴に拭って顔を上げ、逆のアキラの顔を見上げる。

「……でも、そうしていたら私はアキラに出會えなかったかも。カンティネン迷宮であのスライムに喰われたまますべての魔力を吸い取られていたかもしれない。そうしたらキリカとも仲直りが出來なかった。……アキラ、ああしていたら、こうしていたらなんていくらでも想像できる。でも、私たちは今を生きているの」

“私たちは今を生きている”。

自分の口から出た言葉に自分でも驚いた。

過去の自分を、自分のしたことを消したいとさえ思ったことのある私が、他人にこんな言葉をかける日が來るとは。

「後悔するなとも、考え込むなとも言わない。けれど、どうかそれだけに囚われないで。これからをどうするかが一番大切なこと。そうでしょう?」

まだ薄暗い部屋の中でアキラの指がすいっとき、私が暴に拭った目元に優しくれる。

帰ってくる前に手を洗ってきたのか、その手は驚くほど冷たかった。

「……俺はアメリアのように長くを生きているわけじゃない。だから、そう簡単にうまく切り替えられない。……俺は、人を殺してもなんとも思わない俺が怖い。あのときレイティスの王様たちを殺しておけばよかったと思う俺が怖い」

これが、きっとアキラの本音だろう。

口に出して言うほど、レイティスの王を殺さなかったことを後悔しているのに、そう思う自分が怖いという。

アキラは子供だから、心がまだ不安定なのだろうか。

全てを吐き出すような聲音がどこか痛々しかった。

今まで平和な世界で暮らしていたアキラと長い人生の間に何度も地獄を目にしてきた私。

私たちの間にはお互いに分からないこと、理解できないことがたくさんある。

それでも、私はアキラと一緒に居たいと願った。

私は一歩踏み出して手をばす。

「ごめんなさい、私にはアキラがどうして怖がっているかがわからない。でも、大丈夫。怖くないよ。なくとも、私とヨルと一緒にいるときは」

自分よりも高いところにある頭をに引き寄せて、濡れ羽の髪をでた。

アキラは靜かにされるがままになっている。

母親を思わせるようにゆっくりと優しく、呟くように言う。

「どんなアキラでも、私は一緒にいたい。それはヨルも同じ。アキラは?」

そう問うと、掠れた聲の返事が部屋に響いた。

心做しか外套に包まれた肩が震えている気がする。

「……俺も、アメリアたちと一緒にいたい。俺が今後どうなっても、それだけは変わらない」

そう言うとアキラは顔を上げて、今度は上から私を抱きしめた。

「ありがとう、アメリア。まだ完全に立ち直ったわけじゃない。けど元気出た」

「アキラの力になれたのなら良かった。さ、シャワー浴びてきたら?」

私はアキラの背中をぽんぽんと叩いて促す。

アキラはを離すとし赤い目で頷いた。

きっとこうは思われたくないだろうが、アキラが素直で可い。

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