《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第166話 〜絶絶命〜 津田友也目線

今思うと、今日の佐藤君はしおかしかったかもしれない。

しばらく一緒に行をして知ったけど、佐藤君は石橋を叩いて渡るほどの心配だ。

特にカンティネン迷宮でのことを思い出しているのか、魔と戦うときは萬全の狀態で戦おうとしているし、呪いには人一倍気を付けている。

學校での佐藤君はし近寄りがたかったけど、今の佐藤君はみんなのことを第一に考えて、自分にできる限りの努力をしているのが、それほど佐藤君と話したことがない僕でもわかった。

普段の佐藤君なら、こんなに危険な場所でバラバラに行しようなんてきっと提案しない。

ふと頭によぎったのはカンティネン迷宮で見た佐藤君にかけられた呪いだ。

上野さんはあの時の呪いは解けたと言っていたが、あの時はまだ職業レベルが低かったため完全には解けていなかった可能もある。

または、新しい呪いにかかってしまっているのかもしれない。

怪しい人には接していないから、前者の方が可能は高いだろう。

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なんにせよ、萬事休すだ。

周りを木の魔に囲まれて、持っていた盾は砕かれ、握りこんだ一振りの剣は大きく震えている。

後ろには怪我をした上野さんと佐藤君がいるため一歩も下がることができない。

前には僕では到底倒すことができない強大な敵。

僕はこんなけない格のまま、自分が嫌いな自分のまま死にたくない。

生き殘るためには數も実力も不利なこの狀況を覆さなければならない。

こんな時、朝比奈君ならどうするのだろうか。

頭の中に憧れの人を思い浮かべる。

語の主人公のような彼ならきっと、こんな時でも冷靜に自分ができることを淡々とこなすのだろう。

だから僕も自分ができることをしなければならない。

「う、上野さん!」

けなく震える聲を張り上げて、顔は前を向いたまま上野さんを呼ぶ。

「ど、どうしたん!?」

上野さんは驚いて聲を裏返す。

確かに、僕が彼に聲をかけるのはこれがほぼ初めてだ。

だとしてもそんなに驚かなくてもいいのに。

でも、余計なことを考えたおかげでし落ち著くことができた。

「今の僕には殘念だけどこいつらを倒す力はない。このままだとここで三人とも死ぬ」

後ろで息を呑む音が聞こえた。

上野さんは足を負傷しているため逃げることができない。

佐藤君をここまで弱らせた敵を相手に僕が戦っても時間稼ぎすらできない。

「幸運なことに、こいつらは僕たちを嘗めているからじわじわといたぶるつもりだと思う。だから、まだしは時間がある」

「全然幸運やないやん!……まさか司君置いて逃げるとか言うつもりやないよね?」

佐藤君をかばいながら言った上野さんの言葉に苦笑する。

ここで佐藤君を置いて逃げることが一番の悪手だ。

勇者である佐藤君が死ぬことは、これからのことを考えるとここで一番避けなければならない。

「そうじゃないよ。僕には倒す力がない。だから、倒す力がある佐藤君に倒してもらうんだ」

カンティネン迷宮で重傷でも僕たちを守るために立ち続けた佐藤君。

今も、意識がないのに立ち上がろうともがいている。

それをさらに酷使しようというのだから僕はひどい男だと思う。

僕は背負った荷から一本の瓶を取り出して上野さんの方に放り投げた。

「こ、これって!」

瓶をけ取った上野さんはそれをけ取り、息を呑んだ。

おそらく上野さんも見覚えがあるはずだ。

カンティネン迷宮に潛る前に一人五本ずつ支給された生命力ポーションである。

ほとんどのクラスメイトは迷宮でポーションを使い切ってしまったし、とてもじゃないけど冒険者が買えるような値段の代ではないため、きっとそれが最後の一本だ。

生命力ポーションの効果はサラン団長の実演とカンティネン迷宮にて僕たちがをもって知っている。

きっと、佐藤君の傷も治るだろう。

「念のため『解呪』もしておいてほしい。佐藤君が今日おかしかったのは上野さんも分かっていたでしょう?」

「わ、分かった」

前を向いたままなので上野さんの表は見えないが、どうやら頷いてくれたらしい。

「……呪いよ、我が前から消え去れ――『解呪』」

カンティネン迷宮のときよりも詠唱が短くなっているのは上野さんの努力の賜だ。

魔法師の詠唱は職業レベルやスキルレベルが上がることで短くなり、最終的には詠唱なしで魔法が放てるようになるという。

七瀬君や細山さんのような冒険者の仕事で使うような魔法ならまだしも、解呪という使う場所が限られている魔法はレベルを上げるのが難しい。

「津田君、司君の解呪終わったよ!」

「わかった。完全に回復するまで時間を稼ぐから。後は頼んだよ」

剣を握りしめて僕は駆け出した。

剣道をしていたからといって、剣技のレベルが高いわけではない。

むしろ、剣道をしていたことによって剣技には必要のない癖がついているわけで、その癖を直すことを重點的に訓練していた僕はそれほど剣技のレベルが高いわけではないし、一応城で習ったことを忘れないように毎日素振りなどをしているが、それがについているのかはわからない。

鞭のようなきで襲い掛かってきた枝を避けて剣を振るう。

僕の攻撃は當たりはしたが、枝を切斷するでもなく、かすり傷をつけて終わる。

今まではこの攻撃で敵いっこないと諦めていただろう。

だが、今回の僕はひと味違う。

「津田君!もうちょいで司君の回復終わるで!!」

「了解!!!」

全方向から振るわれる枝を避ける。

だが、僕の反神経ではすべての枝を避けることができるわけではなく、數発はそのけることになった。

「ぐぁあ!?」

最後の攻撃によって僕は弾き飛ばされた。

背中に衝撃が走って意識が飛びそうになる。

「津田君!回復終わったで!」

上野さんの言葉に僕は立ち上がる。

上野さんの隣には先ほどまで重傷で立ち上がることすらできなかった佐藤君が立っていた。

「上野さん、津田君、ごめんな。あとは任せてほしい」

申し訳なさそうに眉を寄せた佐藤君は剣を構える。

僕は苦笑して言った。

「むしろ僕の方こそ申し訳ないよ。回復してすぐでだけど、あとは任せた」

鈍く痛むを引きずって、上野さんが立っているあたりまで下がる。

すれ違う時に力強く頷いた佐藤君に安堵して、僕の意識は闇に包まれた。

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