《暗殺者である俺のステータスが勇者よりも明らかに強いのだが》第176話 〜取得方法〜 和木大輔目線
まあそんなこんなで目標が決まったはいいが、とっかかりが分からない。
スキル『洗脳』っぽいものを目指せばいい、それはわかる。
だが、俺は『洗脳』なんて見たことがない。
いや、見たことない方がいいんだろうけど。
參考にするものがあればいいのだが、レイティス城の王にかけられた呪いは覚的に何か違う気がする。
あれは洗脳というかそのまま呪いだ。
どう違うのかは覚で生きている俺には説明がつかないが、とりあえず違う。
そこまで悩んでから、俺はひとまず一人で考えることを諦めることにした。
やっぱり俺一人じゃ無理だ。
他の奴に聞いてみるか。
まずは実際にスキルを自力で取得した細山から。
「え?スキルの取得方法?」
晝飯の時間、みんなとし離れた場所で裝備品の點検をしていた細山に思い切って聞いてみた。
顔を上げた細山はぱちくりと目を瞬かせる。
「そ。俺には『悪食』を取得することはできないだろうけど、昨日の夜に津田に相談に乗ってもらって、思いついたのがあるんだよ。んで、それをどうやってスキルにすればいいのかわからなくて煮詰まってる。なんかコツとかないか?」
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ここまで頭を働かせたのは前回のテストの時にテスト前の數十分でテスト範囲を頭に詰め込んだ時以來だ。
テストの結果はもちろん散々だったが。
「なるほど、洗うだけなのに遅いと思ったら……。んー、コツねぇ。城にいた時に騎士の人たちに教えてもらったことを実踐しただけなんだけど」
俺は首を傾げた。
俺たちはステータスやスキルなどのことは基本的に一人一人についていた騎士団や専門職の人に教えてもらっていた。
つまり、みんなバラバラの人に教えてもらったため教わったこともバラバラだ。
おそらく津田も教わっていないのだろう。
でなければ、昨日津田が教えてくれていただろうし。
「あー。俺は聞いてないかも。調教師は調教したとの絆を深めることが最優先だったし」
俺につけられたのはどうやら人に教えることが向いていない人だったらしい。
そうでなくても調教師とか非戦闘職で、なおかつ戦力にならない人材の育なんてしている暇がなかっただろうし。
有能な人は戦闘職のやつらや細山のような戦闘に必要な職業の人につけられていた。
本當に、いろんな意味で実力主義というか、職業主義だよな。
同じような職業でも侍と騎士では扱いが違い、そしておそらく治癒師と解呪師でも違うのだろう。
あそこを出てから気づいたことだが、本當に城を出てよかったと思う。
「そうなの?じゃあ一応あとでみんなにも共有しておこうね」
それに比べて細山の公平さは眩しいね。
しかも有能で優しく、外見もいい。
もはや嫉妬心すら湧かない。
天は細山や佐藤に一も二も與えすぎだ。
「まず、スキルの取得に必要なのは強い心なの。目に見えないものだし、そもそも一人一人違うものだからここで躓く人が多いみたい。科學が進歩している世界で生きていた私たちにとってあまりよくわからないものだし、解明はされていない。だけど、ステータスと心は深く結びついているって私を教えてくれた騎士団の人が言っていたの」
そういうのを専門に研究している人もいるみたいだけどね、と呟いて細山は言葉を切った。
そういえば津田も昨日の夜に同じようなことを言っていた気がする。
「とりあえず念じてればいいのか?」
「そうじゃなくて、多分一瞬のことだと思う。私もそうだったし」
俺は首を傾げたが、細山もそれ以上に説明しようがないのか、それだけ言って細山は指を二本立てた。
「とりあえず次。二つ目は魔力ね。自分の魔力量で本當にそれが可能なのか。もし自分が所有している魔力以上の魔法を使おうとすれば、良くて魔力の枯渇で生死をさまよう。悪くて無理にから絞り出した魔力のせいで木端微塵。私の『悪食』はそれほど消費魔力が多いわけじゃなかったからその心配はなかったけど、もし和木君が考えているスキルが自分の魔力量以上の魔力を使うことになるのなら私は君を止めなければならない」
真剣な眼差しに俺は息を呑んだ。
そういえばこれだけ近くで細山と會話をしたのは初めてだし、これほど近くで細山の瞳を見るのは初めてだ。
吸い込まれるような瞳に、俺は呆然としたまま頷いた。
「昨日佐藤君が私に言ったでしょ?“一人でも欠けることがあれば耐えきれない”。それは私もなの。昨日まではその中に私はっていなかったけど、それももう終わりにしたから、和木君も約束して」
なるほどなと俺は頷いた。
『毒見』や『悪食』のときの細山の無謀ともとれる行は自己犠牲からくるものだったのか。
頷いた俺を見た細山は満足げに笑って三本目の指を立てた。
「最後に、既存のスキルであること。スキルを新しく作ることは神に選ばれたものにしかできないらしいの」
前半の言葉は手さぐりに目標を探している俺にとって衝撃的だったが、それよりも後半の言葉に興味をひかれた。
「神に選ばれたもの?なんじゃそりゃ、胡散臭い話だな。なんかの宗教か?」
俺の言葉に細山は眉を寄せて顔を振る。
「違うの。この世界での神様は創造神・アイテルという名前の一柱だけ。多くの人がアイテルが実在していると信じている。特に供を捧げたり祈ったりしているわけじゃないようだけど、それでも信じている人は多いから、特にエルフ族の前での発言には気をつけて」
どうやらエルフ族をアイテルの間には何らかの繋がりがあるらしい。
一番アイテルのことを信じているのもエルフ族だとか。
エルフ族は壽命も長いしエルフ族でけ継がれてきた伝承もあるという。
だから、他の種族もアイテルのことを信じている。
昔のことについて信憑が一番高いのがエルフ族だからだそうだ。
魔族は大陸の北半分が吹き飛んだことによって一度伝承がリセットされたのだとか、魔王が裏でっているから信用ならないだとか憶測が飛んでいるらしい。
アメリアさんもアイテルが実在するのだと信じてるのだろうか。
「まあそれは置いておいて、話を戻すね。既存のスキルかどうかわからなくても、もしこの世界にないスキルなら取得できずに終わるだけだから安心して。ということは、和木君が心配すべきなのは魔力量と強い心ね。一朝一夕でスキルが取得できるのならこの世界の人はみんな最強だし、私たちも日本に帰ってるだろうから、簡単だと考えないこと。煮詰まったりしたら私も相談に乗るから。頑張ろうね」
パチリとウィンクを飛ばして、細山は點検し終わった裝備品を手に、みんなのところに戻っていった。
不覚にも上がってしまった顔の熱を冷ますためにパタパタと手で頬のあたりを扇ぐ。
「うわあ、ウィンクが似合う子って初めて見た。こりゃあ佐藤が惚れるわけだ……」
細山と話している間ずっとじていた鋭い視線に俺は苦笑する。
津田の盾の側にいたとはいえ、俺だって死線をくぐってきたのだ。
日本にいた頃では絶対にわからなかっただろう視線くらいじとることができる。
「にしても、絶対にに敷かれるだろうな」
同級生の將來を思い、年頃の青年にはふさわしくない重いため息が口から洩れた。
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