《裏切られた俺と魔紋の奴隷の異世界冒険譚》35話

微かにイーラのび聲が聞こえた気がする。

確認でセリアを見る。

「合図です。」

「よし。これからるが、今から宿に戻るまでは俺らの名前は口に出すな。俺がAアリアがBイーラがCセリナがDだ。様もつけるな。わかったか?」

「はい。」

セリナに鞭を渡す。

「ここから投げて壁の上に行かせるから、この鞭を垂れ下げてくれ。長さが足りないから、そこまでは自力で跳ぶ。俺が鞭を摑んだら引き上げろ。いいな?」

「はい。」

右手を橫に出し、右手のひらの上にセリナを乗せてしゃがませた。

こいつかなりバランスいいな。

普通は乗れねえぞ。

というかさすがに加護があっても重いな。

なんとか重さに耐えながら、橫投げでセリナを投げた。

離れる瞬間にセリナが跳んだせいで、さらに負荷がかかり、肩が外れるかと思ったわ。

そのせいか、角度を微妙にミスったみたいだ。

このままだと壁にぶつかると思ったら、セリナは壁に片足をついて、回転しながら上に跳んで壁の上にたった。

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ずいぶん用な真似をしやがるな。

セリナが鞭を垂らしたが、けっこう跳ばないと屆かねぇな。

裏路地まで下がり、助走をつけて、壁を蹴って跳んだ。

ちゃんと助走をつけたからか、思ったほどPPゲージは減らなくてすんだ。

鞭を摑んだ瞬間引っ張られた。

なんとか壁の上に著地したが、思ったより壁が薄い。よくこんな足場の狹いところに回転して著地したな。

上から城全を見て、ルートの確認を取る。

警備はいないみたいだな。

元からいないのか、イーラが引きつけてくれてるのか…どっちでもいいか。

「警備がいないみたいだから、一気に行くぞ。違和があったらすぐにいえ。」

「はい。」

鞭はセリナに預けたまま、俺が壁から飛び降りるとセリナも後から飛び降りた。

軽量の加護があるから大丈夫だろうと思ったが、かなり怖かった。

まぁ痛くなかったのが救いだな。

セリナは普通に著地したから、俺も平然を裝っておいた。

その後はルート通りに順調に進んだ。

予定通り進みすぎて気味が悪い。

「この城はもともと警備がいないのか?」

「非常時は原因の排除と重役の護衛のみとなるのだと思います。」

金とかは後回しということか。

ちなみにこれから會う男は重役にるのだろうか?

っていないことを祈ろう。

「もし部屋に護衛がいた場合、俺が引きつけるから、男だけを狙って即終わらせろ。」

「はい。」

全力で走ってきたから、壁を降りてから5分ほどで目的の部屋の前に著いた。

まだイーラの2度目のびはない。

扉を開ける。

「誰だ?ノックもしないとはふざけてるのか!」

まだ俺の位置からは見えないが、男が怒っているのはわかる。

お前より偉いやつだったらどうすんだ?

まぁいい。

2人で中にっていく。

男はって左側にある機で何かをしていたようだが、俺らを見て瞬間的に顔を青ざめた。

どうやら護衛はいないようだ。

セリナに顔を向ける。

「間違いないか?」

「はい。こいつです。」

セリナが靜かに怒っている。

こんなセリナを見るのは初めてだ。

「なら好きにしろ。」

俺は男と反対側の壁際の椅子に座った。

「はい。」

セリナは1本の短剣をローブの中から取り出した。

「ま、待て!俺は王族じゃないから拐しようが殺そうが金にはならないぞ!あとちょっと待ってくれれば金を払える!だから見逃してくれ!」

男は慌てて立ち上がり、渉を始めようとした。

別に俺らは金目當てじゃねぇから無意味だな。

セリナは無言で近づき、短剣で男の右目を刺した。

けっこう容赦ねえな。

短剣を抜くと、遅れて男が痛みに気づいたのかぼうとしたが、セリナは逆の手で男の顎を突き上げ、開きかけた口を強制的に閉じさせた。

その時に男は舌の先端を挾んだのか、何かが口から飛び出て、も出ている。

男は崩れるように膝立ちとなった。

セリナはそんな男の姿を冷めた目で見下している。

男は恐怖で何もできなくなっているようだ。

セリナは短剣を逆手に持ち替え、男の左肩に突き刺す。

もう男は何が何だかわかっていないようだ。

もしかしたら痛みもわからなくなってるのかもな。

セリナは最後に短剣を橫に振りぬき、俺の元に戻ってきた。

遅れて男の首が淺く切れて、が噴き出す。

男は現狀を思い出したかのように首を手で押さえて止しようとする。

口からを出しながら詠唱しようとしているが、うまく唱えられないようだ。

セリナは俺の右隣に座り、微妙な表で男を見ている。

しばらくすると男はうつ伏せに倒れてかなくなった。

「…次に行きましょう。」

かなくなったことを確認したセリナが計畫の続行を促してくる。

だが俺にそのつもりはない。

「いや、復讐はこれで終わりだ。」

「え!?話が違う!」

「じゃあ聞くが、この男を殺してスッキリしたか?」

「…。」

「だろうな。お前は恨んでる相手を殺してもスッキリするどころか余計にモヤモヤするタイプだろうとは思ってた。だけど、この男は殺されて當然だと思ったから、俺は殺すように指示した。だからこの男を殺したのは俺の意思だが、お前は自分の意思でこの後の2人まで殺したいと思っているのか?」

「…でも…。」

「でも?」

「…あの2人は許せない。」

セリナは泣きそうなのを堪えている。

こういうときは泣いた方がスッキリするだろうにな。

セリナの頭に手を置き、引き寄せる。

「べつに許す必要はない。お前は何もしてないのにこんな仕打ちをしたあいつらが一方的な悪なんだからな。辛かったよな。お前はまだ子どもなんだ。辛いなら泣け。泣いて泣いて泣き疲れたら前に進めばいい。」

「…でも、私はもう一生奴隷です。これが私の許された最後の意思だから…。」

「確かに俺はお前を解放するつもりはないが、それなりの自由は許してやる。だからこれからを楽しく生きることを考えた方がいい。復讐なんて無理にするもんじゃない。」

復讐を勧めた俺が何いってんだって話だよな。

だけど、なんとなくセリナには俺みたいになってほしくはない。

「…でも…でも。」

セリナは完全な涙聲になって、言葉がもう出てこないようだ。

「お前はずっと頑張ってるのは知ってる。俺と會う前からずっとな。そりゃ辛かったよな。悲しかったよな。だからもうそんなに気を張らなくていい。今くらいは泣いてスッキリしておけ。復讐なんかよりスッキリできるぞ。」

我慢の限界だったのか、俺が話している途中で泣き始めていた。

泣き止むまでセリナの頭をローブ越しにでてやる。

これでしは心を開けばいいんだがな。

セリナとは今後ずっと一緒にいることになるんだからな。

気を張られ続けて心労で倒れられてもめんどうだ。

しばらくして泣き止んだようで、ズズッと鼻をすする音がした。

「どうだ?スッキリしたろ?」

「うん。」

「じゃあ帰るぞ。」

セリナの顔が急に険しくなった。

「ごめんなさい。気づくのが遅れました。」

どうしたのかと思ったら、虎のような男がってきた。

「失禮しまーす。の匂いがするからきたんだけど…おぉ、手遅れ。」

虎のような獣人は男の死を見た後、俺たちを見た。

「本當は俺も表の化けと戦いたかったのに団長のせいでクソだりー巡回とかハズレを引かされたとか思ってたら…。」

食獣が獲を見つけたかのような獰猛な笑顔を見せた。

「當たりじゃねえか!」

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