《顔の僕は異世界でがんばる》#1歪なつながり 4
ヨナの調が悪化したのは、それから三週間後のことだった。
僕が拷問から帰ってくると、ヨナは壁際で、死んだように靜かになっていた。
死んではいないと、いつも彼の隣にいた僕だからわかる。
けれど、異常だ。
しかし獄の連中は彼をいないものとして扱っているのか、無視を決め込んでいる。
くそ、こいつらっ!!
「ヨナっ!!」
舌打ちと怒りを隠すこともせず、彼のもとへ駆け寄ろうとした。
「おいこらてめえっ!!」
「日課を忘れてんじゃねえか!?」
それが気に食わなかったのか、男どもが次々と立ち上がり、寄ってくる。
とたんに、足が竦んだ。
さっきまでの威勢は、野獣の一睨みで吹き飛んでしまったようだ。
十年以上にも渡って刻み込まれたいじめられっこは、一か月間死ぬ気で修業したところで抜け落ちなかったらしい。
「あ……」
聲が出ない。
その代り男どもが笑する。
「おらいつものやつくれてやるよっ!!」
「ぐっ!」
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腹に拳が突き刺さる。
特訓の果か、以前のように一撃で倒れることもなく、ある程度威力を殺すけ方もできている。
けれど群がってくる男どもの勢いと迫力が、怖い。
やはり自分は餌なのだとつくづく痛させられた。
なんでだよ。
死ぬ気で訓練することはできるのに、なんでこんなのにも立ち向かえないんだ。
憎いだろ?
ヨナのところに行かなきゃならないだろ?
毆れよ、立ち向かえよ僕。
なんでそのたった一歩が踏み出せないんだ!?
「おらぁああっ!!」
「ひっ! ぐっ……」
顔面への一撃をかろうじて避けると、怒りに燃えた目を間近で見てしまった。
思わずしりもちをついてしまう。
無理だ。
やっぱり僕には戦えない。
毆られていくうちに、諦念が心を覆い盡くした。
どうせ、無理なんだ……いつも通り組み伏せられて、気の済むまで毆られて……それで……。
ちらりと、ヨナの姿が見えた。
とたん、凍えるようなイメージが頭に流れ込んでくる。
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蝋燭だ。
それも、とびっきり細くて、短いやつ。今にも消えそうなくらいのかすかな火が、風に揺れている。
あとし、あとほんのし風が強くなれば、消えてしまうだろう。
消える……恐ろしくて、息が詰まった。
それだけはだめだ!
我に返ると、目の前で拳を振り上げる男と目があった。
「へへっ!!」
へらへらした笑いを浮かべている。
「じゃまだぁあああっ!!」
たまらず吠えていた。
一瞬笑い聲と攻撃が止み、靜かになる。
男の顔から笑みが消え、次第に怒りが現れていくのを見た。
「てめぇ……舐めてんのか……?」
関係ない。
こんなやつらに構ってる余裕なんてない。
「どけって言ってるんだ」
「あぁ!? もういっぺん言ってみろやコラッ!!」
――來る!!
その時、目の前の男から生気が消えた。
「なんだっ!?」
「こいつっ目が!?」
攻撃が止み、全員こちらの目を凝視している。
気が付くと、僕はスキル『王の力』を発していた。
王の力は人間相手でも使えるのかと、使った後で気づいた。こりゃあいい。
頭の中に今ったばかりの男の報がってきた。
持っているスキルは『剣LV1』だけだ。
ゴミだな。
どうすればれるのか、不思議なことに自然と理解できていた。
『やれ』
一言、僕はそう念じた。
その瞬間、男は隣の男に向かって毆りかかった。
「うがぁあああっ!!」
「なっ!? 何すんだてめえっ!!」
「おいやめろっ!!」
とたんに混が起きた。
僕のった男は容赦など一切せずに襲い掛かるものだから、やつらからすればたまったものじゃないだろう。
意識がこちらから外れたところで、僕は男どもの群れから距離を取り、ヨナのもとへ走った。
「てめえっ!!」
すぐに追いかけてきた戦闘の一人の方を振り返る。
『王の力』を一度解除し、今度はこいつに使った。
男は即座に振り返り、仲間を毆りつける。
「お前もかっ!?」
「どうなってやがるんだ!?」
とたんに疲れが襲ってきた。
息が切れ、めまいがする。
使用制限が無いというわけではないのだろう。
混をよそに、ヨナのもとへと駆け寄った。
ヨナの顔は伏せられているが、かすかに聞こえる息が荒い。すごく苦しそうだ。
「ヨナ、ちょっとごめんな」
肩を抱き、勢を変えてやろうとすると、し抵抗された。
「顔、は……見な……いで……」
「こんなときに何言って……」
そのまま抱きかかえ、仰向けにしてやると、それが目にった。
ヨナの顔は、潰れていた。
いや、変形していたのだ。
病気によるものか、ところどころ腫れ上がっていたりへこんでいたりと、原型が想像もできないほどひどかった。
そうか、それでこの子はずっと、顔を隠していたんだ。
「うぅ……だから……」
ヨナのうめき聲が、唯一病魔に侵されていない口かられた。
目だと思われる部分から、つぅっと一筋、涙が流れ出る。
「大丈夫だよ、ヨナ。気にすることなんて、何一つない」
それがどうしたというのか。
外見をどうこう言う奴なんて、それこそ、今まで僕を見下し、いじめてきたやつらと同じだ。生きる価値もない。
この子は唯一、僕に優しくしてくれた。
そのことは、何がどうなろうと変わりはしない。
「え?」
ヨナが疑問の聲をあげ、こちらを見た気がした。
彼の額に手を當て、熱があるかを確認する。
どうやら熱はないらしい。
とすると風邪ではないのだから、これは病気の進行によるものか。
くそっ、もう時間は殘されていない。
ちょうど男どもの方もひと段落ついたらしく、おそらくカーストの低い數人が恐る恐る近づいてきていた。
「ヨナ、ちょっと待ってて」
なんとしてもこの子は救う。
盜賊だろうが魔王だろうがなんでもきやがれ。
強く誓って、男どもを睨んだ。
「て、てめえがやったんだろ!? か、覚悟はできて……」
「邪魔してみろよ。僕には、お前たち全員を殺す力がある」
「「「っ!?」」」
息を呑む音が、こちらにまで聞こえてきた。
自分よりちょっと強そうだったり、ちょっと未知の相手になったとたんこのザマとはな。
えらくちっぽけなものを相手にしてきたらしい。
なんだかこんなやつら、どうでもよくなってきた。
それよりも今は出が先だ。
スキル『解放』発。
・魔法
『火魔法LV1』『水魔法LV1』『風魔法LV1』『土魔法LV1』『魔法LV1』『闇魔法LV1』『治癒魔法LV1』『調薬LV1』
・戦闘
『剣LV1』『短剣LV1』『槍LV1』『斧LV1』『投擲LV1』『棒LV1』『槌LV1』『格闘LV1』
・ステータス上昇系
『怪力LV1』
・召喚魔法
『召喚魔法<スライム>』『召喚魔法<ハム>』『召喚魔法<ピグ>』『召喚魔法<スカル>』『召喚魔法<ベビー・パンサー>』『召喚魔法<ベビー・サタン>』『召喚魔法<ベビー・ドラゴン>』『召喚魔法<アシッドスライム>』『召喚魔法<ウォータースライム>』『召喚魔法<フレアスライム>』『召喚魔法<ロックスライム>』……。
とたんに、ものすごい量の報がってきた。
特に召喚魔法の項目がひどい。
この時點ですでに數十の魔から選択できるらしい。なんかすごく偏ってる気がするけど、今考えてる暇はない。
ヨナを治すことができるとしたら『治癒魔法』だけど、レベル一でどこまで治せるのかはわからない。
やはり萬全を期すためにも、ここから出して醫者に診てもらうしかない。
そのためには、檻を破壊できる力と、出するために守衛を倒す、あるいはごまかせる力がいる。
召喚魔法しかないと思い一覧を追うが、名前と外観が一致しないのも結構いる。
召喚するのに必要なエネルギー順になっているのだろうから、結局一番下の魔を選んだ。
「……おぉ」
すると、召喚に必要な知識が頭の奧から湧いてきた。
なにか忘れていたものを思い出した覚に近い。
地面に手をかざし、唱えた。
「出でよ、<ピクシー>」
同時に、紫のでできた魔方陣のようなものが、地面に浮かび上がった。
ごっそりと何か力のようなものが抜けていく覚があったが、それ以上に気分が高揚していた。
こんな時だというのに、わくわくしているんだ。
その気持ちは、抑えることができない。
魔方陣が輝きを増し、次の瞬間そこには――
――手のひらサイズのの子がいた。
「は?」
キラキラと輝く金髪をなびかせ、背中にはトンボのような明な羽を生やしている。
緑のワンピが激キュート。
その子はひざまずく形で現れたが、翠をした目を開けるとすぐに羽を広げ、ぷんぷんと僕の目の前を縦橫無盡に飛び回り始めた。
……終わった。
めまいとともに膝が砕け、その場に頽れてしまう。
落膽は大きかった。
殘りのエネルギーではせいぜいベビーなんちゃらしか召喚できない。かといってこんなちっちゃな妖に何ができるわけでもないだろうし……。
ごめん。本當にごめんよ、ヨナ。
謝ろうと思いヨナの方を向こうとして、気づいた。
男どもの雰囲気がおかしい。
「おい……あれ、妖じゃ?」
「冗談言うな。召喚できるはずがねぇ」
「でも、確かにやつはピクシーって」
全員、僕の周りをうっとおしく飛び回る小さな妖を見て、驚いているようだ。
「ピクシー」
呼ぶと、ピクシーは目の前で靜止して、こちらの目をじっと見つめてきた。
「君、もしかして強いの?」
尋ねると、こくこくと頷き、誇らしげになだらかなを張って見せた。
そうだ、弱いはずがない。
何せこの子は、一か月以上もの特訓で得たエネルギーの大半を使って得られた魔なんだ。
そう思うと、急にこのミニチュアサイズの妖が頼もしい存在に思えてくる。
「じゃあ、この檻を壊すことってできる?」
聞くと、『まっかせて!!』と言わんばかりに、うれしそうにしきりに頷いて檻の方を向いた。
何をする気だ?
と思った瞬間、ピクシーの目の前にバレーボル大の炎の球が出現し、次の瞬間放たれた。
「うわあっ!!」
ズドォンという馬鹿でかい音ともに炎の塊は檻に直撃し、発した。
ダイナマイトとか、そんな雰囲気のものをじる発だ。
見たことないけど、たぶん威力も同じかそれ以上にあるだろう。
直撃した部分から大きくくりぬかれたように、鉄格子は吹き飛んでいた。
「ピクシー、よくやった!!」
思わず聲を大にして謝すると、ピクシーはえっへりとを張る。
全く疲れている気配がない。まだまだ余力は十分にある様子だ。
やった! この力があればいける!
確かな手ごたえをじ、僕はヨナを背負って檻の外へ出た。
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