顔の僕は異世界でがんばる》#1歪なつながり 6

ぺろりと、何か生溫かいものに舐められ、目を覚ました。

「ん……」

目の前には黃い、ドラゴンと呼べなくもない生がいた。

大きな目が「どうしよう」と言わんばかりにきょろきょろ泳いでいる。

「おはよう。何かあったの?」

まさかヨナが!?

思い立って見渡すと、昨日より幾分マシな寢息を立てるヨナが目にった。

規則正しい寢息は、聞いてるだけで心を落ち著かせてくれる。

「よかった。で、何かあったのか?」

――がさっ。

その時、すぐ近くで何かがく音がした。子供ドラゴンがけなさそうに鳴く。

そうか、こいつも寢ちゃってて、近づいてくる敵に気付けなかったんだな。

立ち上がり、迎撃する準備をした。

ここまで近いと逃げられない。

「君は左から頼む」

「くるっ!」

敵はなんだ? まさか警備兵か?

けれど、空はもうだいぶ白んできている。夜通し僕たちを探していたなんてあり得るだろうか。

草の上でとはいえそれなりに寢られたから、力は多回復している。

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ピクシーくらいなら、なんとか呼べそうだ。

と考えていたところで、敵の姿が見えた。野蠻そうな男……あの時の盜賊の一人だ!

「見つけうぎゃああっ!!」

うれしそうに聲を上げる盜賊へ、出會い頭に子供ドラゴンが火を噴きつけた。

なかなかに大きい炎だ。思わず心してしまう。

「ヨナ、ちょっとごめんな」

「……ん」

目を覚ましたらしいヨナを抱き起して背負い、盜賊とは反対の方へ走り出した。

後ろで悲鳴と、いくつかの足音がするのを聞いて、思わず舌打ちする。

あいつらがいるってことは、この森はあの時の森なんだ。

そして、盜賊と奴隷商はグル……これは厄介なことになった。

盜賊はたぶん、この森を拠點としているんだろう。

とすれば、草木に紛れて逃げ切れる可能がぐんと低くなる。

この森がそれほど大きくなければいいんだけど。

「くるるぅ」

いつの間にか子供ドラゴンが追いついている。

その顔は不安でいっぱいといったじで、『たくさんきてるよ?』と語っていた。

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「出でよ、<ピクシー>」

とりあえず召喚しておくことにした。

昨日あれだけ酷使されて辛いだろうに、元気いっぱいうれしさいっぱいな様子で妖が魔方陣から飛び出してくる。

それを見て、からこわばりが抜けた。

どこまで相手にできるかわからないけれど、現在の最高戦力なのだから、この子で対抗できなければどのみちダメだろう。

ちょんちょんと、ドラゴンが右頬を突いてきた。

「なに?」

「くるっ」

ドラゴンは右斜め前を指さしている。たぶん敵が近づいていると知らせてくれているんだ。

「ピクシー、頼んだ」

アイアイサーと言わんばかりに敬禮を殘し、ピュンと飛んで行ってしまう。

し不安になったが、すぐに誰かの悲鳴と発音がしたために、思わずぐっと手を握った。

ピクシーは盜賊相手でも問題なく戦えるらしい。

「よくやった。で、それは?」

しして合流したピクシーはえっへりとを張り、後ろに引き連れるようにして持ってきた短剣をこちらの手に握らせてきた。

たぶん盜賊から奪ってきたものだろう。

「くるる」

ドラゴンが左を指さす。

敵はこちらを捕捉しつつあるようだ。

「すまない、頼む」

ピクシーはやる気満々な表ですぐに飛び出していった。

「くるっ」

すぐに後ろを指さしてくる。

くそっ、統率が取れすぎている。

あいつら、慣れているな。

せめてもう一匹ピクシーを召喚できたらと思うが、召喚魔法は一つにつき一匹しか召喚できないらしい。

これは弱ったな。

後ろの敵は、徐々に間合いを詰めてきていた。

逃げ切ることは難しいだろう。

迎撃するか。

し走って、すぐ後ろに視線をじたところで振り返る。

「よぉ、久しぶり――」

目があった瞬間、王の力を発した。

見たことあるような無いような髭面の男の顔から生気がなくなり、僕はスキルの功を確信する。

どうやら、盜賊一人よりは僕の能力の方が高いらしい。

『なるべく敵と遭遇しないよう、町まで案しろ』

命じると男はうなずいて、走り出した。

速度はこちらに合わせているらしい。

まだ一時間も移してないだろう。

しかし、すでにドラゴンに突かれなくてもわかるほどに、僕たちは囲まれていた。

もう逃げ切れない。

ならば戦うしかないが、ここでは不利だ。

せめて障害ない道に出なければ。

普通なら、多対一の場合障害を利用して敵を攪し、単になったところを叩くというのが定石なのだろうが、あいにく、そんな特殊な技量持ち合わせていない。

そもそも初めての喧嘩が昨日なんだ。

加えて、こいつらは森の中での狩りに慣れている。

『道へ向かってくれ』

そう命令したのは、數分前のことだ。

そして僕たちは森を抜けた。

続くように出てきたのは、見たことあるような盜賊たちだった。

十人はいる。

「へっへ……ようやく観念したようだな」

その中から髭面の斧男――お頭が聲をかけてきた。

『やれっ』

っていた盜賊をけしかけるも、何のためらいもなく一撃で倒されてしまう。

いかにも重そうな斧だというのに、まるで重さをじさせない早業だった。

王の力は……通じないか。

當然だが、僕より格上らしい。

「洗脳魔法を使うらしいな……小賢しい。降參すりゃあ優しく寢かせてやるが、どうする?」

髭面が見下すように言い放つと、周囲の取り巻きが笑い聲をあげる。

やるしかない。

「ヨナ、ちょっと待ってて」

「だ、め……」

ヨナをその場に寢かせ、立ち上がる。

笑い聲が一層大きくなった。

「ひゃひゃひゃっ! やる気かよ坊主!」

「はははっ、そう笑ってやるな。のために立ち上がるなんて勇敢じゃねえか」

「バカだけどなぁっ!!」

せいぜい笑っていやがれ。

すぐにほえ面かかせてやる。

「くるるぅっ!!」

「ひゃひゃひゃっかわいらしいペットだなおいっ!」

「かははっ似合いすぎだろ腹いてぇーーっ!!」

まるで怖くない唸り聲で威嚇する子供ドラゴンを見て、ますます笑い転げる取り巻きたち。

その聲をかき消すようにんだ。

「ピクシーやれぇっ!!」

瞬間、僕たちが出てきた森の方から、火の玉がいくつも飛來した。

「「ぎゃああっ!!」」

悲鳴とともに、盜賊たちが発に飲み込まれる。

どうだ、ピクシーの全力攻撃は!!

圧倒的不利な狀況を覆すには、奇襲しかない。

力の溫存なんて考えられない。

奇襲をかけるなら、全力しかなかった。

――砂埃の中から、何かが勢いよく飛び出してきた。

「やってくれたなコラァっ!!」

「……っっ!?」

頭領だ。

くそっ、あれ食らってまだぴんぴんしてるなんて。

瞬く間に近づいてくる。あんなでかい図してんのになんでそんな速いんだ!?

逃げようとして、悟った。

無理だ。

これは避けられない。

あっという間に距離を詰められた。

振り上げられた斧が、朝日をけてギラリとる。

――やられる!

と思った瞬間、子供ドラゴンが目の前に現れた。

「くぉっ!!」

「うぐあっ!?」

かわいらしい鳴き聲とともに放たれた炎は、髭面をとらえた。

頭領が聲を上げて仰け反るのを見て、僕はあわてて跳び下がり距離を取る。

助かった。

「ありが――」

「きゅぅっ!?」

禮を言おうとした瞬間、ドラゴンの小さなに巨大な斧がめり込むのを見た。

を突くような高い悲鳴が響き、次の瞬間には消える。

「舐め腐りやがって!!」

「っ!」

片腕で振り切った斧を両手に持ち袈裟に構え、いら立ちを前面に押し出すように飛び出してくる。

何か手は!?

と思ったら、今度はピクシーが飛んできた。

こちらを見て、笑顔で手を振ってくる。

バイバイと言うように。

「ピクシーッ!?」

何をする気だ?

と問う前に、ピクシーはまっすぐ飛び出していった。

「じゃまだあっ!!」

袈裟構えから斧を振り下ろす。

その作にしの無駄もない。

速い。

それは威力が高いということも意味している。

ピクシーは避けようともしなかった。

斧が直撃する瞬間、ピクシーのった。

――ピシャァッ!!

それは雷鳴だった。

「カ……は……」

さしもの頭領も、さすがに堪えたらしい。きが止まり、口から煙を吹いている。

でも、だめだ。

センサーはいまだに警報を発していた。

溢れ出る野蠻な殺気が、まだ消えてない。

ピクシーは消えた。

もう手はない。逃げなければ。

ヨナを抱えて、背を向けて駆けだした。

「かしらぁっ!! 大丈夫ですかいっ!!」

「てめえやりやがったな!!」

「殺すっ!!」

背後からび聲がした。

振り返ると、頭領の向こうからは、撃から生き延びた殘黨三人が駆け出してきていた。

一人は頭領のもとへ、もう二人はこちらへ向かって駆けてくる。

ちょうどいい。

ヨナを再び寢かせ、頭領のもとへ駆け寄った一人に王の力を発した。

「っ……目がった!?」

「あいつ魔人かっ!?」

こちらに向かって來ていた二人が、立ち止まった。

どうやら王の力を発した瞬間、目がるらしい。

「ぐぁあああっ!? てめえダニー、何しやがる!?」

「おかしらっ!!」

「おいダニー!! 何やってんだてめえっ!!」

ダニーと呼ばれた盜賊は、僕の命令通り頭領を後ろから攻撃した。

こちらからは見えないが、たぶん背中に短剣が刺さっているのだろう。

「ちぃっ!! 舐めるなよオラァッ!!」

頭領はしかし、口からを流しながらもダニーの首をはねた。

くそ、まだ死なないのかあいつ。

どんだけタフなんだよ。もはや人間じゃない。

「はぁっ……はぁっ……」

息がうまく吸えない。

昨日の疲れが殘っていたんだ。

力を使いすぎている。

「おかしら……」

「俺は大丈夫だ!! あいつをやれっ!!」

「「……おうよっ!!」」

向かってくる。

せめてあと一回……くそ、やっぱ発しない。

その時、自分の手に短剣が握られているのを思い出した。

やるしかないのか。

足が竦んでいる。

與えられたものじゃなく、本當に自分の力だけで立ち向かう。

しかも、相手は殺しに慣れた殺人鬼二人だ。

……殺し合い。

考えただけで歯のが合わなくなるほど震えが走った。

でも、やるしかない。

たった一か月だけど本気で訓練した。

結局スキル習得までには至らなかったけど、それでも、もう僕は無力じゃない。

「う、うぉおおおっ!!」

短剣を抜き放ち、聲を上げて駆け出すと、から不要な力が抜けていった。

一歩踏み出せたんだ。

わずか數歩、一秒にも満たない時間に、世界の景がガラリと変化したのをじた。

一気に間合いが詰まり、僕は短剣を突き出した。

それは軽々と片手剣によって弾かれ、返す刀で切りつけられる。

「くぅっ」

かろうじてを捻り、躱す。

しかし衝撃。

蹴りが僕の脇腹を捕らえたのだとわかったときには、地面を転がっていた。

「うっぐぅ……」

……重い。

「ひゃひゃっ大したことねえなおいっ!! 拍子抜けだぜっ!!」

「へへっ次は俺が遊んでやるよっ!!」

もう片方が距離を詰めてくる。

大丈夫だ。

これくらいの攻撃、いつもけていた。

僕はすぐに立ち上がり、短剣を構えて駆けだした。

「おらっ!!」

「ぎゃぐっ!?」

もう何度目になるだろうか。

僕は毆り飛ばされ、地面に倒れこんだ。

「まだ、だ……」

歯を食いしばり、震える足に手をついて立ち上がる。

力はもうずいぶん前に底を盡き、もはや惰かしていた。

「へっ、もういい加減にしろよ」

「飽きたぜ飽きた。つまんねえ」

こいつらの攻撃は、本気ではなかった。

殺す気ではない。

僕は大事な商品だから、必要以上に傷をつけたり、ましてや殺すことはできないんだ。

だから、そこに付け込む。

勝てるとしたら、そこしかない。

「はぁ、はぁ……」

「まだやる気かよ。あぁ、その冗談みたいなしつこさだけは認めやるから……」

あきれたような表から一変、殺意に満ちた目に変わる。

「おとなしく寢てろっ!!」

一気に飛び出してきた。

僕は短剣を上段に構え、待ち構える。

もうし、あとし……。

「おらあっ!!」

剣が、僕の急所でなく、足をめがけて振り下ろされる。

目線が完全に下へ外れた。

いまだ!!

今まではずっとけるか躱してきた。

こいつは次もそう來ると思い込んでいる。僕は非力で、反撃する力なんて持っていないと。

だからこそ、決まる技がある。

完全に防を捨てた一撃――僕は短剣を投げつけた。

「ぐぅっ!?」

太もものあたりが大きく切られ、思わずき聲を上げる。

「えっ!?」

男は、眉間に短剣が突き刺さったまま素っ頓狂な聲を上げ、そのまま崩れ落ちた。

「僕の、勝ちだ……」

ひざまずき、息を切らせながら宣誓した。

そして突き刺さったままの短剣を引き抜く。

が噴き出したが、気にならなかった。

「て、てめえ……」

聲が聞こえる。

しかし、どこかぼんやりとしていた。

「ははっ……あとはお前だけ、だ……」

せめてもと、思い切り侮辱するように笑ってやった。

「……っ! もういい……殺して……」

聲がかすれている。

いや、僕の意識が薄れているのか。

「(なんだてめえらはっ!?)」

「――だ――れっ!!」

なんだ? 誰か來たのか?

「――て――せえっ!!」

「追えっ!!」

無數の足音に加え、悲鳴と怒聲が聞こえる。

なんか、遠くの方でしているみたいだ。

あぁ、結局僕は、死ぬのかなぁ……ヨナ、ごめん……助けてあげられそうにない……。

倒れる瞬間、何かやわらかいものに包まれた気がして、

「――――」

僕の意識は落ちていった。

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