晴れて自由のになったはいいけれど、それはそれで問題がある。

自由と言うのは、すなわち束縛が無いということ、もっと言うと縛ってもらえないということだ。

縛ってもらえているうちは、縛っている側に善かれ悪しかれ養ってもらえる。奴隷商のもとでも、最低限だったけど、それはあった。

けど、これからは自分で稼がなければならない。いや、ヨナを束縛している今、彼の分まで僕が稼がなきゃいけないんだ。

それだけじゃない。

結局、ヨナの呪いの正はエーミールさんでもわからなかった。けれど、呪いは命を奪うような種類ではないらしい。

エーミールさん曰く、おそらくヨナの容姿、異常に低い力や免疫力などに関わっているのではないか、とのこと。

もちろん斷定はできないし、諸手を挙げて信じることもできない。

けれど、今のところは、安靜にしてしっかりと食べてもらうことが第一だ。

當面の目標は、生活基盤を整え、できる限り早く資金を貯めること。

とするなら、向かうところは一つ――ハロワだ。

契約の翌日、僕はリュカさんとエーミールさんに連れられ、この世界のハロワ――冒険者ギルドに來ていた。

ギルドは二階建てのそこそこ巨大な石造建築で、り口がやけに広く、開け放たれている。

見た目はローマ建築に近いじで、裝飾付きのぶっとい柱が幾本も立っていた。

ここへ來る途中散策気分でここ＜プネウマ＞の町並みを見していたが、建はレンガ造りのかわいらしいものが多く、道は石畳で、どことなく中世ヨーロッパっぽいとじた。

いや、実際に中世のヨーロッパなんて見たことないから、何とも言えないけど。

とすると、この建はし古いのかな。とか思いながら、ギルドへ足を踏みれた。

ギルドはいたって事務的な造りになっていて、ってすぐ正面にいくつか付カウンターのようなものがあり、付のが機械の如くキビキビと働いていた。

冒険者は屈強なおっさんばかりでなく、優男やかわいらしいの子もいて、和気あいあいとやっているようなじだ。

よかった、これなら僕でもやっていけそう。

リュカさんが左のカウンターを指さした。

「左側が付で、右側が素材買い取りカウンター。とりあえずギルドに登録するなら、付だね」

「わかりました」

相槌を打つと、リュカさんが意地悪そうな笑みを浮かべた。

「お姉さんがついてってあげよっか？」

「いりませんよ」

ガキ扱いしやがって。こちとらもう十五だぞ？　もっと言うとあと半年で十六になる。

「あっはっは！　まぁ何かあったらお姉さんの名前呼ぶんだぞ？　リュカ姉ちゃーんって」

「大丈夫ですって！」

「おぉ怖い怖い。じゃがんばってね～」

ケタケタ笑いやがりながら、リュカさんは左にある階段の方へ歩いて行った。

エーミールさんは相変わらず眉一つかさない。

「エーミールさんも、ありがとうございました」

「……あぁ」

じっとこちらを見てひとことらし、右側の素材買い取りカウンターへと歩み去った。

さて、じゃあぼちぼち就活でもしましょうか。

付は若いの人だった。

やっぱり事務系の仕事はが多いのだろう。冒険者みたいな危険な仕事は男の方が適してるだろうし。

付さんが事務的に頭を下げる。

「こんにちは。ご用件はなんでしょう？」

「こ、こんにちは。ギルドに登録したくてここに來たのですが……」

張するな、僕。深呼吸、深呼吸。

噛み噛みになってしまった僕に、付のお姉さんは優しげな笑みを浮かべる。

「登録ですね？　説明はいかがいたしましょうか？」

ギルドのことは、ここへ來るまでにリュカさんからあらかた教わっていた。

冒険者ギルドは、日本にいたころのイメージ通り、人を害する魔の駆除や、生活に必要な資――素材の調達をメインとした職業、冒険者の同業者組合だ。

増えた魔の討伐や資の調達は依頼という形でここに集まる。

冒険者はその中からできそうなものを選んで注し、仕事し、達したらその依頼の難易度に応じて報酬が得られるというシステムだ。

念のため説明してもらったあと、筆を手渡された。

「では、ここにお名前と別、年齢を記してください」

そういえば全く気にしてなかったけど、なんで日本語なんだ？　地球でさえ、日本語は結構マイナーな部類にるというのに。

まぁ、そんなことは考えても無駄だろう。

名前だけナマエとカタカナ表記になっている。

ふり仮名欄もないから、カタカナで書けと言うことか？　苗字と名前の順番は？

考えてもよくわからなかったので、あきらめてオウワ・マダラメと書き込み、付さんに渡した。

すると付さんが、僕の顔と紙を見比べて眉をひそめた。

「本當に十五歳、ですか……？」

言われると思ったよ。

昨日もそのことで散々リュカさんに笑われた。

エーミールさんにも詰問されたし、挙句ヨナまで疑ってきた。

ちなみにリュカさんは十九、エーミールさんは二十、ヨナは十四だった。僕はヨナに年下だと思われていたらしい。

えーえーどうせ顔ですよ顔ですよ。何年も言われ続けたことだから慣れっこですよーだっ。

一杯の憎悪を込めて睨みつけた。

「……正真正銘十五です」

「し、失禮しました……」

くそ、まだ疑ってやがる。

「それでは登録料として千Ｇいただきます」

僕は巾著袋の中から銀貨一枚を出して、付さんに渡した。

この世界には鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、白金貨があり、それぞれ十Ｇ、百Ｇ、千Ｇ、一萬Ｇ、十萬Ｇとなっている。

「ではプレートをお作りしますので々お待ちください」

付さんはそそくさと奧へ下がり、ししてバーコード大の小さなカードを持ってきた。カードにはランクＦ・オウワと書かれている。

「これがプレートになります。プレートは魔石によってできた魔法道であり、に埋め込むことが可能で、必要に応じて取り出すことも出來ます。無くすと再発行には千Ｇほど費用をご負擔していただくため、普段は埋め込んでおくことをお勧めします。現在、オーワさんのランクはＦですが、依頼の達狀況に応じて上がっていくので、がんばってください」

ランクはＦからＳまで存在する。ランクが高いと様々な特権を得られ、難しい依頼もけられるようになるのだ。

「ありがとうございます。それと今魔石を持っているんですが、これはどうすればいいですか？」

魔石は、死んだ生きのに現れる魔力の結晶だ。

生きには魔力があって、それが魔法を使うエネルギーの源となっている。魔力は生きが死ぬときに結晶化し、それが魔石として殘るのだ。種類は生きによって様々あり、強い魔力を持っている魔ほどいい魔石を殘すとのこと。

「魔石は向かって右手のカウンターにて、常に買い取らせていただいております」

「わかりました、ありがとうございます」

お禮を言って、カウンターを後にした。

魔石を売って一通りの用事を済ませたところで、ギルドを後にした。

魔石は森の中で遭遇したオークとゴブリンと豚型の魔ピグのもので、魔の死を発見してくれたリュカさんからもらったものだ。

占めて百五十Ｇ。

まぁそんなに數もなかったし、こんなものだろう。

Ｆランクが注できる依頼で殘っていたのは『薬草採集（百グラム十Ｇ）』『町の掃除（三丁目）』『家の修理』『ゴブリン討伐（十匹）』だけだった。

低いランクの冒険者は大勢いるため、早い時間に來ないとめぼしいものは売り切れてしまうらしい。

とりあえず鍛えることもかねて、一番稼げそうなゴブリンに決めた。

期限は三日、報酬は三百Ｇと、ずいぶん緩いものだった。

「あと必要なものは、服か」

ヨナの分と自分の分、最低でも二著ずつはしい。

ヨナの下著とかはわからなかったからリュカさんに任せたが、なぜか服はお前が買えと言われてしまった。

ちなみに今、下著は履いてません。ノーパン。フルちん。出狂かよ。

「……えっと……」

リュカさんにもらった地図を、同じくリュカさんにもらった巾著袋から取り出した。

この巾著袋は魔法道で、見た目の割に最大十キロまでを突っ込めるという代だ。

『結構高いんだから謝しろよ～』と冗談めかして言っていたが、エーミールさんも小さくうなずいていたから、それなりのブツなんだろう。

もらってばかりで、ホント申し訳ないな。

というか、リュカさんはなんであんなに僕を気にかけてくれるのだろう。なんか裏があったり……って、いかんいかん。

命の恩人疑うとか、さすがにダメだろ。

「ここか」

地図で確認し、店へ向かった。

服は四著で二千Ｇもしなかった。言われた通り安くてそれなりの服が買えてよかったと思う。

僕はシャツに長ズボンというなんの面白味もない服を二著、ヨナにはワンピースを二著買った。

は白と薄桃。選ぶのがめんどくさかったとかじゃなくて、ヨナは外に出ることが出來ないから、簡単に著れてしかもかわいいものを選んだつもりだ。

防は高価なため、普通鍛冶屋に頼んで作ってもらうらしい。

中古が流行らないのは武とは違い、サイズがすごく重要だからだ。そうでなくとも防は武よりはるかに高い。高い金出して合わない防を買っていくやつはいない。

頼むには品質に応じた魔石や素材を持っていくことと、それなりの資金を用意する必要があるらしいので、とりあえずはあきらめた。

とそんなことを考えながら歩いていると、森に著いた。

森へ侵して周りを見渡し、誰もいないことを確認する。

地面に向かって手をかざした。

「出でよ、『ピクシー』『スカルナイト』『ベビードラゴン』」

び聲とともに魔方陣が現れ、三の魔――使い魔が姿を現した。

中二病？　男はみんなそれを抱えて生きていくんだよ。

適當な場所にを掘らせ、巖で蓋をした。

「お前たち、森の中を適當に駆けまわって魔を倒してきてくれ。魔石を奪ってくるのを忘れないように。ゴブリンは牙も採集してくること。持ちきれなくなったらここに來て、にれるんだ。あとほかの冒険者には手を出すなよ？　見つけたら逃げろ。とりあえず五時間後にここへまた集合」

こくこくとうなずきを返してくる使い魔たち。

うんうん、かわいいやつらめ。骸骨でさえかわいく見える。……いや、それはないな。

ゴブリンの牙を集めさせるのは、駆除したことを証明するためだ。ほかの素材は、その時々で集めればいい。

「じゃあ散會っ」

一聲命令すると、弾かれたように散っていく。

あっ、でもベビーは……。

「ちょい待ちベビー」

よたよた飛んでいく子供ドラゴンを引き留める。

「君はオークとは戦うなよ？　見つけたら逃げろ」

「くるるっ！」

甲高い聲で『らじゃですっ！！』と聲を上げ（幻聴）、再び飛んで行った。

あの子だけは心配だ。まぁ死ぬことはないんだけどな。

「さて、じゃあ僕も行くか」

聲に出すことで気持ちを引き締め、武を取り出した。

取り出したのは、包丁がし大きくなったような短剣と木でできた杖。

短剣はリュカさんが回収しておいてくれた盜賊の裝備品で、杖はエーミールさんのおさがりだ。盜賊の裝備は全部売ってお金したらしいが、筋力の弱い僕でも使えそうなだけ殘しておいてくれたらしい。

杖を持っていると、魔法の威力が上がったり、魔力の回復が早まる。

魔力は力ともリンクしているため、魔力が減れば力も減るし、逆もしかりとのこと。だから杖は結構重要なアイテムだ。

基本的に僕は魔法使いとしてやっていこうと思う。召喚士とかそんなじのやつ。

一か月間鍛えたが、どうしてもこの世界の連中には筋力的にも骨格的にも勝てそうにない。

だから接近戦は僕には無理だと判斷した。

その代りスキルはいくらでも解放できるから、魔法使いとしては十分大できるだろう。

せっかく異世界なんだ、僕だってしくらいは名を上げてみたいと思う。

けれどみんな（使い魔たち）に戦わせて、僕だけぼけっとしているつもりはない。オーク以外とは戦って、しでも接近戦に慣れておこうと思う。

全く接近戦ができない魔法使いでは、とても大できるとは思えないしな。

さて、行こうか。

森へ一歩、足を踏み出した。