《顔の僕は異世界でがんばる》不用な冒険者 3
今日はEランクの依頼『アイアン・アント』の駆除(出來高制。一匹につき百G)を領し、町の西、森とは逆の方角に広がるオルペア平原を街道沿いに歩いている。
アイアンアントはこの平原に出現して、行商や旅人を襲っているらしい。
ここ最近魔の大量発生が相次いでいるらしく、これもその類だという。リュカさんたちもその対応のため扱き使われているそうだ。
「大量発生、ねぇ」
にしては十分ほど歩いているのに、まだ一匹とも遭遇していない。やっぱこっちから探しに行かないとダメか。
街道からは離れよう。
街道を離れて、草原の中をしばらく歩く。
いい天気で、風も気持ちいい。ヨナの呪いを解いたらピクニックにでも連れ出そうか。
ヨナは僕の話に興味津々だった。
なんでも生まれてからこの方、一度も自由に外を歩き回った経験が無いらしい。
いったいどんな生活を送ってきたんだ、あの子は。
ただ町を散策して森に出かけただけだというのに、まるでおとぎ話を聞く子供みたいに食いついてきた。もういっそ、呪いとか無視して問答無用で連れ出そうか……まぁそんなことしないけど。
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と、ぼんやり歩いていると、遠くに黒りする集団が見えた。
「あれ……か?」
近づいていくと、向こうもこちらに気付いたらしく、巨大な牙をカチカチ鳴らして威嚇してきた。
でかい。ありんこじゃないよもはや。プレデターかよ。
大きさは大型犬と同じくらいで、固そうな甲殻を纏っている。數は八匹。あの大きさだと十分に群れと言えた。
なるほど確かに大量発生してるな。
慎重に近づいていくと、向こうは急に突進してきた。
やばい、まじ強そう。
「出でよ<ピクシー><アプサラス>」
手早く妖を召喚し、迎撃を命じる。
Eランクとは言え、相手は未知だ。とりあえず僕は見學ということで。これは逃げじゃない、戦略です。
智將、おうわ。
二人は一直線にアリの真上まで移し、ピクシーが火の玉を、アプサラスが水の槍のようなものを作り出した。そして上を見上げ、カチカチ顎を鳴らしているアリめがけて撃を開始する。
火の玉は一撃でアリを散させ、槍はその甲殻を楽々貫いていた。
あぁ、高いところから攻撃すれば一方的にボコせるわけか……意外と小賢しいところあるな二人とも。
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なんてのほほんと一方的な殺を見學していると、蟻の中の一匹が緑のいかにも毒っぽいを二人に向かって噴きかけた。
「あっ!!」
思わず聲を上げたが、二人はひょいと高度を上げ、難なくそれを躱した。というかが屆かなかった。
心配して損した。
結局一分足らずで戦闘が終わった。
ピクシーは戻ってくるなりえっへりとを張り、アプサラスは生気のない目でぼーっと宙空を眺めている。
かわいいなぁもう。
なんか急に褒めてやりたくなってきた。
「よくやった、二人とも」
人差し指と中指の二本で二人の頭をでてやると、ピクシーはうれしそうに顔を弛緩させたが、アプサラスは眉一つかさなかった。……この子、大丈夫かなぁ。
再び探索を開始する。
この平原には特に危険な魔は生息していないらしいが、たまにイレギュラーも出るらしい。
まぁそりゃゲームじゃないんだから、出てくる魔が固定されてるわけはないけど、何となく不安だ。慣れるまでは二人を散會させないほうがいいだろう。
歩きながら、次に解放するスキルのことを考える。
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召喚魔法は確かに強力だけど、そればかりに頼っていたら、昨日みたいに接近戦に持ち込まれたとき対処できない。
やっぱ、ある程度僕自も強くならなきゃだめだろう。あぁ、弾戦とか嫌なんだけどなぁ、怖いし。
とりあえず、まず圧倒的に足りないのが運能力だ。
決して音癡ってわけじゃない、と思いたいけど、それでもこの世界の人と比べたら話にならないレベルだろう。
たぶん、一般的な冒険者にすら遠く及んでない。
我が細くて小さなを見て思わずため息をつくと、ピクシーが僕の目を覗き込んできて、『だいじょうぶ?』と言うように首を傾げてきた。
「心配してくれてありがとう、ピクシー」
でてやると、顔をほころばせる。
あぁ、優しさが心にしみるよ。
というか、この世界の人間がでかすぎるからいけないんだ。
僕だって元の世界じゃ、ドチビってわけじゃなかった。背の順で前から五番目くらいだ……威張れることじゃないか。
でもこの世界の冒険者たちは、誰も彼も大きい。
そりゃあ個人差はあるけれど、僕はとびぬけて小さく、ひょろかった。弾戦なんかして勝てるわけがない。どこの地上最強のガキだよ。バカかよ。
そりゃあ、武道とかの強さはの大きさや能力だけで決まるわけじゃない、ってことくらいは分かってる。
でもそういった部分が大事であることは間違いないし、問答無用の殺し合いとなればなおさらだ。
だけど、リュカさんだってAランクだ。
そうだ。
リュカさんのは、確かに鍛えられて引き締まってる。
の人らしいくびれは完璧な曲線を描いてるし、傍目からは無駄ななんかはにしかついていないように見える。
でも、背がめちゃくちゃ高いってわけじゃないし、ムキムキでもない。
おなかだってやわらかくてすべすべだったし、腕も細くてきれいだった。太ももだってやわらかそうだし、おだって……とにかく、の人ってじのやわらかいだ、とくにおっぱいとか、おっぱいとか。ん? なんか余計な思考が混ざったか? いや、そんなことはない。
そんな彼でも接近戦では冒険者の中でトップクラスだって言っていた。なら、僕にだって不可能じゃないはず。
「よっし!!」
突然聲を上げたから、ピクシーが驚いてバランスを崩してしまった。
とにかく、平均的に戦えるくらいはがんばろう。
し歩いて、再びアリの群れに遭遇した。
二人の妖に一匹を殘して全滅させてくれと命じて、今、僕は大きなありんこと向き合っている。
あぁもう、あれ絶対アリじゃないよ、怖すぎるって。
アリはこちらを大きな複眼で油斷なく見つめ、カチカチと牙を鳴らしている。
アリの目が見えないなんて迷信だ、絶対。あいつちょー見てるもの、ガン飛ばしまくってるもの。
……確かギルドの危険度順位だと、オークの方がこいつより強いって話だったよな。
強そうだけど、大丈夫、大丈夫。
「はぁあああっ!!」
思いっきりんで駆け出した。
ぶと怖くなくなるというのは経験的にわかってる。思通り、張は薄れ、足の震えがなくなった。
アリもほぼ同時に飛び出してきた。
距離が近くなって、僕はあわてて短剣を突き出す。
アリは避けようともせず、額を突き出してきた。
――ガチィンッ。
「うわっ!!」
金屬音のような響きとともに、短剣は簡単に弾かれてしまった。
アリはすぐさま飛びついてくる。
やばいやばいやばいっ!!
防ごうとしたが、右腕がかない。
さっきの衝撃で痺れているんだ。
その瞬間飛び上がったアリに組み付かれ、地面にたたきつけられた。
かろうじて左腕でアリの首を抑えていたから噛み砕かれることはなかったが、目の前で鈍くり、カチカチとしきりに開閉する牙はいつでもこちらの命を奪える位置にある。
「うわぁあああっ!!」
――助けて!!
と思った瞬間、目の前にあったアリの顔面へ水平に水の槍が突き刺さり、アリは吹き飛んだ。
アプサラスの魔法だ。助かった……。
「はぁっ……はぁ……」
數秒間、仰向けになったままでいた。
悸が止まらなくて、息が苦しい。それにどっと出た冷や汗が気持ち悪い。
さっきのは本當にヤバかった。
くそ、この世界は本當に危険すぎる。油斷してなくても普通に死にかけるんだもんな。
落ち著いてきたところで、ピクシーが心配そうに見下ろしていることに気付いた。
アプサラスは上空であらぬ方を見てほけらーっとしている。
「はぁ……大丈夫、心配かけてごめんな」
二人にそう呼びかけ、のっそりと起き上がる。
まだショックのせいかちょっとふらふらするけど、なんとか立ち上がれた。
こりゃあ、なにかスキルとか強化系のスキルを解放するまで、接近戦はお預けだな。
「はぁ……行こうか」
ため息をついて、二人にそう呼びかけた。
太が真上に昇るころ、僕たちは近くの木でいったん休憩をとることにした。
この世界の人はお晝ご飯を食べないのが主流だが、ちょっとでも強くなるために、極力たくさん食べることにしている。
ベーコンと野菜をはさんだバケットサンドを取り出し、かじりつく。
野菜はタレスにマトマ、それにマヨネーズに似たドレッシングのかかった、いわゆるBLTサンド。
タレスはレタス、マトマはトマトに似ている。ベーコンはピグ系の魔から採れるを使用していて、元の世界のものよりジューシーだ。
奴隷商のところにいた時は気付かなかったが、この世界の食べはおいしい。なくとも元の世界より劣っているということはない。
あぁ、やっぱ食べるって幸せだなぁ。
とたんに疲れが取れるから不思議だ。まだ消化されてないはずだから、ただ胃にものを詰めただけなのに。
「ふぅ……」
水筒から水を飲み、一息ついた。
水にもお金がかかるが、そんな高いというわけじゃない。水を生み出す魔法道や魔法もあるし、僕の場合はアプサラスに作ってもらうという方法もあるから、不足するということもない。
町並みから文化レベルが中世程度だと邪推していたけど、優れた魔法道により獨自の進化を遂げているらしく、生活に不便はじない。強いて言うなら娯楽が足りないってところか。
「娯楽、かぁ……」
ヨナは今、一何をしているのだろうか。狹い部屋で一人、外へ出ることもかなわず僕の帰りを待っている。
それも辛いだろうなぁ。暇は過ぎれば苦痛だって言うぐらいだし……僕にはよくわからないけど。
「早く、治してあげないとな」
つぶやいて、サンドイッチを口に放り込み、立ち上がった。
ご飯食べてやる気十分。
とは言っても、アリの群れを見つけては何十分も移しているから全然効率が上がらない。このままじゃEランクに上がった意味がなくなってしまう。
さて、どうしたものか。
「あぁ、くそっ……」
ありんこなんてそこら中にうじゃうじゃいるものだろう? なんでわざわざ苦労して探さなきゃいけないんだ。
あれだろ? アリなんて一つの巣に百匹以上いるんだろ?
「そうだ」
なぜ思いつかなかったんだこの方法を。バカなのか僕。
思わずほくそ笑んで、歩き始めた。
それからしばらく歩いて、たむろしているアリたちを発見した。
すぐさま二人に指示を出して、一匹を殘して全滅させる。
さぁ、生贄になってもらおうじゃないか。
生け捕りにした一匹へ王の力を発する。すると、アリはカチカチとガンを飛ばすのをやめた。
「さっそく案しくれ」
命令すると、アリは機械のように回れ右をして、かさかさと巣へ向かって歩き始めた。
ふははは、僕に逆らったのが運の盡きだ。さぁ、むざむざと仲間のもとへ天敵を引きれ、裏切り者の汚名をけて死ぬがいい!
圧倒的優位に立つと態度ってでかくなるよね?
巣は隠されることもなく、堂々とあった。せいぜい草が周りにあって見えにくい程度だ。
隠す必要が無いのは、たくさんいるから。常に警護兵がいれば、攻めてくる天敵の心配もないのだろう。
「二人とも、無理はしないでくれ」
そう妖たちに指示を出すと、二人はの奧へと侵した。
日が落ちる頃、町へ帰ってきた。
町は外壁に囲まれていて、完全に夜になると門が閉じてしまう。
門の脇には小さな扉があるので閉じたあとでも出りは可能だが、なんとなく使いたくない。
だって誰も使ってないし、警備員にじろじろ見られるんだもの。
夜になると町には街燈がつく。
魔法道による街燈はそれほどたくさん設置されているわけではないが、一つ一つがかなりの明るいため、十分町を照らせている。
橙のは、落ち著きのある雰囲気を醸していた。
ギルドへると、昨日とはうって変わって、バカにされることはなく、代わりに茶化されたり聲かけられたりと違う意味でめんどくさい。
想笑いを駆使してなんとか潛り抜け、素材カウンターで魔石を売りはらい、付のもとへ到著した。
「こ、こんばんは」
「こんばんは。大変ですね、オーワさん」
「えぇ、散々です」
僕がうんざりしたように言うと、昨日のことで顔なじみになった茶髪ボブの優しそうなお姉さん――ハンナさんは、同するように苦笑いした。
「あはは……お仕事の方はどうです?」
この場合、遠回しに『依頼ちゃんとクリアしてるだろうなあぁん?』と聞いているのだ。
の子の外見には騙されちゃいけない。十中八九トラップだ。
ソースは僕。
笑顔に騙されて気づけば一週間ずっと掃除當番してたなんてことになる。で便利屋と言われてた時のショックったらない。
もう、騙されない。冷靜に対処するべし。
「たくさんアリ退治してきましたよ。これがアイアン・アントの牙です。ケースありますか?」
「ケース?」
首を傾げられてしまった。
「えぇ、でないと散らかっちゃうので」
「そ、そんなに……?」
と言いつつ、すぐにケースを取り出してくれた。
この人、適応力高いな。
僕が巾著袋の口を開け、掻きだすようにケースの中へ牙をぶちまけると、ハンナさんの口元が引き攣る。
「さ、さすがですね……」
「たぶん二百近くあると思います」
「……々お待ちください」
ハンナさんは重たそうにケースを引き寄せ、數を數え始めた。
巣を襲撃したのは正解だったな。
結局一つの巣には三十から五十匹のアリが住んでいて、アプサラスとピクシーは二人だけで制圧してしまったのだ。
いくらなんでも強すぎるだろと思ったが、さすがにエネルギー的には無理があったらしく、ピクシーは一つ襲撃するたびに、アプサラスも二つから三つ襲撃したところでそれぞれ消えてしまった。
合計で五つの巣を襲撃したため、召喚する僕もくたくただ。
しかし実りは大きい。スキル『解放』に昨日の倍近い効率でエネルギーが蓄えられたのだ。
これからさらに強いスキルを手にれて、もっともっと効率が上がっていくことだろう。
冒険者としての生活は、すこぶる順調だ。
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