《顔の僕は異世界でがんばる》不用な冒険者 7
翌日、言われた通り六時半に二人を起こし約束の七時に門へ行くと、コーウさんがマルコを連れて行ってしまった。
寢てるときのカリファさん、ヤバかったなぁいろいろ。いや、不可抗力だったんだよ、見えちゃったのは。僕は紳士だ、わざとなわけない。
なんてアホなこと考えていると、マルコが真剣な表で戻ってきて、依頼変更を伝えてきた。
「オークの大量発生、ですか?」
「あぁ。この町を出てすぐ近くにある林で起こってるらしい。とにかくそれを駆除しないと出発できねぇ。おいチビ、オーク掃討はDランクだが、大量発生はCだ。やれねぇようならここに殘れ」
今朝は合悪そうにしてたのに、偉そうなことを。
「行けますよ」
「言っとくが、俺は任務の邪魔になるような奴は切り捨てるからな。自分のは自分で守りやがれ。おいカリファ、シャキッとしろ。足もと掬われるぞ」
まだ辛そうにしながら大あくびをかますカリファさんの方を向いて、マルコは一喝した。
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「うぅ……でもその時は、マルコが助けてくれるでしょ~」
「話聞きやがれ二日酔い」
それはお前もだろ。よく見ればまだ青い顔してるし……大丈夫かこの二人?
ものすごく不安になったが、僕たちは門から港町を出た。
うぅ、今日中に帰れるかなぁ、ヨナに心配かけることにならなきゃいいけど。
町を出て、草原の中踏みしめられたことによって作られたような、舗裝もそこそこな街道を進む。右手の先に海、左手の先には林。大量発生は林のほうから起きているそうだ。
街道をまっすぐ進んでいると、いきなりオーク三が林の中からでてきていた。
奧からもオークの吠える聲が聞こえる。
まずは火魔法でーー
しかし唱える前に、カリファさんの放った火の槍によって三は一瞬で倒れた。発から放つまでのラグが恐ろしく短い。
「來るぞ」
マルコはすでに林の方を向いている。
僕も負けてられないな。
手早く二の妖を召喚し林の方へ。仲間の斷末魔を聞きつけてか、すぐに地響きのような足音を立ててオークたちがやってきた。
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「アプサラス!!」
アプサラスへ指示を出す。
同時にアプサラスは水の塊を出現させ、そこから無數の水の弾丸を放った。
ガトリングガンを思わせる銃撃の嵐がオークたちを捕らえ、瞬く間に倒していく。
カリファさんが口笛を鳴らした。
「やるじゃん、おチビ。これが妖の力ねぇ」
「おチビって言わないでください!」
「油斷すんなお前ら!!」
マルコに怒られてしまった。
なぜこうも高圧的なんだこいつは。
マルコは聲を上げた瞬間駆け出し、オークの群れに突っ込んでいく。と思ったら、群れの中からが噴水のように噴出した。
オークたちが切り裂かれたのだ。
でもマルコは素手……どういうことだ?
「ふふん、すごいでしょ。マルコは鎌鼬を全にまとって、攻撃の瞬間放つの。相手には鎌鼬が見えないから、こぶしを躱して油斷してるところを一撃ってことよ」
なぜかカリファさんが自慢げに説明してくる。
「さぁ、私もマルコにいいとこ見せなくっちゃ」
そう言ってカリファさんも魔法に集中する。
僕も戦うとしよう。
マルコが前衛、カリファが後衛。ひっきりなしに火の槍を飛ばしているのに、マルコはこちらを一瞥もしていないのに、炎に彼が巻き込まれる様子はみじんもない。
連攜は完璧だった。目も合わさずに息を揃える姿には、しさすらじる。
基本的に妖たちに戦いは任せ、僕は後ろからちょいちょい火魔法を放つだけにした。
接近戦に出ていけば邪魔になりそうだったからだ。まぁ訓練でもない限り、無理に接近戦をやるメリットはない。
何度か妖を再召喚し、カリファさんの息が上がるころ、ようやくオークの進行がひと段落した。
僕でさえ妖召喚による疲労が出始めているというのに、マルコさんは疲れた様子もなく何か考えるように戻ってくる。
カリファさんが聲をかけた。
「どうしたのマルコ?」
「いや……。おいチビ、てめぇ昨日、妖にここらを巡回させてたんだよな?」
「え? はい……」
「その時大量発生の兆しはあったか?」
言わんとしていることが分かった。
僕の表から答えを読み取ったらしいマルコは、僕の言葉を待たずして続ける。
「小規模の大量発生なら、まぁわからんでもないが、これは大きすぎる。どんなバカでも昨日巡回すれば、多の前兆は見つけられるはずだ」
バカという部分はひとまず置いておいて。
「罠、ってことですか? でもなんで?」
別に僕たちは狙われるようなことをしていない。いや、なら狙われているのは……。
森の中から、オークたちの吠える聲がかすかに聞こえた。
マルコさんがそちらを向き、忌々しそうに舌打ちする。
「ちっ、まだいやがるのか……おいチビ、<ミスナー>に一匹使いを出せ。念のためだ」
「はい」
ピクシーを向かわせた。
狙われているのがミスナーだとすれば、このオークたちはだ。冒険者たちをあぶりだし、その隙に町を占拠する。
けれど、ミスナーには大した冒険者はいない。とすると、これを仕掛けたのはマルコ達高ランクの冒険者が來ていることを知っている者の仕業ってことになる。
でも、それだとおかしい。なら僕たちが帰ってから襲撃すればいいだけだ。
いったい?
再び林の中からオークのび聲がして、僕たちは二度目の戦闘態勢をとった。
疑問はある。マルコ達も納得できてはいないようだ。
けれどまずはオークたちを何とかしないと。
しばらくして、オークの波が収まらない中、使いにやったピクシーが帰ってきた。
何やらあわてている様子だ。
やはり、不安は當たっていた。
港町が襲われている。やっぱり、この大量発生はだった。
でも、これだけの數のオークを扱える人なんて、存在するのだろうか。存在するなら、僕たち程度余裕で倒せてしまうのでは?
わざわざなんてマネしなくとも……萬全を期して、か? でもそれなら僕たちが帰ってからでも?
今日でなければいけない理由があるのか?
マルコさんが引き返してきた。
聞かれる前に口を開く。
「港町が襲われています」
「ちっやっぱそうか……オークキングだ」
マルコさんの顔が苦々しく歪む。
「オークキング?」
「それくらい知っとけガキ。魔人の一種で、オークを大量に召喚しやがる……くそっ、よりにもよってこんな町に」
「魔人……?」
どっかでちらりと聞いたことあるけど、確か魔大陸にいるんじゃなかったか? よくわからない。
僕が首を傾げると、マルコさんが信じられないというように眉をひそめた。
「てめぇまさか、んなことも知らねえってんじゃ」
そのまさかでございます。カリファさんが聲をかけてきた。
「マルコ、そろそろ」
「ちっ、説明は後だ糞ガキ。今は雑魚を片づけるぞ!」
マルコさんは盛大な舌打ちを殘し、再びオークに向かっていった。
しょうがないじゃん、知らないんだもの。
二度目の波をなんとか押し返し、僕たちは集まった。
さすがにマルコさんも息を上げているが、それ以上にカリファさんの消耗が激しい。
その場にぺたりと腰を落としてしまい、うつむいて息を荒げている。やはり魔法使いの方が継戦能力は劣るらしい。
「はぁっ……はっ……」
「カリファ、飲め」
マルコさんは自分の巾著袋から皮の水筒を取り出し、カリファさんに渡した。
カリファさんは無言でそれをけ取り、ちょっと飲んでは息をつく。
「ちっ、二日酔いさえなけりゃあ」
マルコさんも辛そうだ。というか二日酔いであれだけけるのか。
マルコさんは顔をしかめたまま、こちらを睨んできた。
「おいガキ、話の続きだ。魔人ってのは魔を従える――人間の一種だ。何が狙いかはわからないが、こうしてたまに人を襲ってくる。オークキングは最もよく現れる、いわば魔人の中じゃ下っ端だ」
マルコさんはカリファのことをちらちら気にしながら続ける。
「だが強い。やつを追い返すのはBランク任務だ。討伐するならAランクを含めた大パーティーを作るのが普通だな」
依頼と任務は異なる。
依頼と違い、任務はギルドからの強制指令となる。例えば今のマルコさんのように、試験もその一つだ。
「カリファ、落ち著いたか?」
「はぁ……ごめんなさい、マルコ」
「構わねぇ。それよりカリファ、ガキと一緒にここを任せるぞ? 俺は町へ向かう」
早口でとんでもないことを言い放った。
一人で行くつもりかこいつ?
「ちょっ」
「ちょっと待ってマルコ!! あなた一人で行くつもり!?」
待てよ、と言おうとしたら、カリファに被せられた。
「あぁ、港の冒険者はあてにならねぇ。今すぐにでも行かなきゃ取り返しがつかなくなっちまう」
「でもっ一人でなんて無謀よ!!」
どこかのドラマ顔負けの、人同士の世界が展開された。
無茶する旦那と心配して引き留める嫁。男だから非常に絵になるけど。
「ちょっと聞いてください!!」
ラブコメ中失禮します。本當に心苦しいですが。
「僕の使い魔に気を引きつけさせます。港へは三人で行きましょう」
「できるのおチビ?」
カリファさんが訝しげに見上げてくる。
「あんまり舐めないでくださいよ、僕の妖を。出でよアプサラス」
即座に再召喚し、できる限りオークの群れを引きつけておくよう指示を出すと、アプサラスは無表でこくりとうなずき森へって行った。
「じゃぁ行きましょう」
ドヤ顔で告げると、
「……ナイスだ」
マルコは顔を背けてそう言った。
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