顔の僕は異世界でがんばる》用な冒険者 10

気、快活。

それは人間関係を築く、あるいは良好に保つ訣であり、僕という存在の真逆を表すにふさわしい言葉だと思っている。

いや別に、だからそういう人間が嫌いだと言っているわけじゃない。むしろそういう人は僕に話しかけることすらなかったから、大好きだ。

無関係サイコー。

無関係を裝われるのが最もキツイいじめだとかぬかすアホウがいるが、それは違う。

それは今まで関係を持ってきたからこその言葉だ。

攻撃される方がつらいに決まってんだろ。

本當にずっといじめられ続けてきた僕なんかは、攻撃対象とならないように、むしろ無関係を目指して頑張っていた。

教室の隅に溜まる埃のように、敵からの注目を恐れる生きなのだ。

とまぁ自己の生分析はともかく、気、快活。そこに騒音だとか大雑把だとか加えれば、一人の人が形される。

僕とすら関係を築ける、人間関係を築くエキスパートとも言える存在だ。

「山登りをしよう、しょーねん!!」

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僕がいつものようにヨナの部屋で穏やかな朝食を摂っていると、突如ドアを蹴破るようにして突し、おはようの挨拶も無しにリュカ姉はそうんだ。

「げほっごほっ!!」

「おはようございます、リュカさん」

僕は思わずスープにむせてしまったが、ヨナは全くじず穏やかに頭を下げる。

もう慣れっこだとでも言うのだろうか。心臓に悪いからやめてもらいたい。

リュカ姉はむせた僕を気遣うそぶりも見せず、ヨナに笑いかける。

「おはようヨナちゃん。悪いけど今日、年借りてくよ?」

「ちょ、ちょっと待て。話が全く摑めない」

僕が割り込むと、リュカ姉はこちらを向いて、上機嫌に話しだす。

「いやさ、昇格したから防しいって言ってたじゃん?」

そういえば。

港町から帰ってきた後、ヨナの部屋でささやかな昇格祝いを催してもらったのだが、その時確かにそんなことも言った。

ちなみにその時敬語をやめろとリュカ姉から言われて、僕はタメ口を利いている。同時に、やけにリュカ姉って呼べとうるさく言われ、結局そう呼ぶことにもした。

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どうしての子って、呼ばれ方にこだわるんだろうか。

「でさ、ちょうど私の任務先にすごく上質なブラッククリスタルが採れる場所があるんだ。ちょっと危険なところなんだけど魔人倒した君なら大丈夫だろうし、お姉さんが連れてったげる」

危険なところ。

その単語が妙に耳に殘った。つい先日死闘を繰り広げたばかりで、そうそうまた危険に突っ込むような真似はしたくない。

そんな僕の気持ちを無視して、リュカ姉はまるで子供にプレゼントを用意した親のような表で続ける。

「ブラッククリスタルは超レアなんだよ~? それ使えばAランクにも見劣りしない、メチャ強な防が造られるだろう」

「……それだけの素材なんだから、さぞかし危険なところにあるんでしょうね」

ジトォッとした視線を向けると、笑い飛ばされた。

「だーいじょうぶだって! もし私の任務がサクサク終わったら手伝ったげるからさ、行こうぜ、年? 最強裝備が君を待っている~」

やばい、斷りきれない。

頼みの綱はヨナだ。視線で合図する。

「いってらっしゃい、お気をつけて」

口に微笑をたたえて、たおやかに白い手を振っている。首にかけられたお土産のネックレスが、朝日をけて輝いていた。

どうやら僕の意思は屆かなかったようだ。

「……行ってきます」

僕はリュカ姉に引きずられ、宿を後にした。

僕たちは門のすぐ傍にある馬小屋に來ていた。馬小屋の中にいるのは馬ではなくて巨大なトカゲなので、正確にはトカゲ小屋なのだが。

リュカ姉はその中から一際大きい、黒褐のトカゲを連れてきた。

長は5メートルくらいか? 尾を抜いても3メートルありそう。高さも僕の背くらいある。コモドドラゴンみたいな見た目だ。大きさ以外。

たぶん盛大に引き攣っているであろう僕の顔を見て、リュカ姉は得意げな顔をする。

年は初めて? こいつはダッシュ・リザードって言って、よく冒険者の移に使われるんだ。馬よりも速いし、なにより足場の悪いところにも対応できるすごい子なんだよ」

ダッシュ・リザードはリュカ姉に顎の裏を掻きむしられて、気持ちよさそうに目を細める。

「この子はクロ。私のダッシュ・リザードなんだ。強そうだろ~?」

「……確かに」

人間の一匹や二匹食べてそうなくらい強そうです。

リュカ姉に教わってようやく乗ったはいいけれど、怖い。

いやだって、高すぎるんだもの。

しかしクロの表は冷たくペタッとしていて、乗り心地自は悪くない。

「よっと」

「……あの」

リュカ姉もクロにった。

それはいいのだけど、位置がおかしい。

リュカ姉さんは僕の背中にぴったりとくっつくように陣取り、僕のの前に腕をばして手綱を握っている。

つまり、今僕はリュカ姉に抱えられるような勢になっているのだ。

そのことに全く違和じないのか、リュカ姉は何? と返してきた。

「この格好、すごく恥ずかしいんだけど」

「でも年、乗り方わかんないでしょ? こいつに乗るの、結構難しいよ?」

當たり前じゃんと言いたげな聲だ。

いや確かに、やわらかいとかいい匂いとかいろいろうれしいんだけど、それ以上に恥ずかしさが半端じゃない。

なんの恥プレイですかこれ?

クロはゆっくりと小屋から出ると、そのまま門へ向かう。

人々がたまにこちらをちらちら見てくるのをじていた。視線は本當に突き刺さるのだ、心に。

「やっぱ行くの止めーー」

「ハイヤッ! ゆけークロ!!」

リュカ姉が僕の聲を遮るようにしてクロの手綱を振ると、まるで弓から飛び出したかのように、クロは猛然と駆けだした。

「――っっ!?」

「ハッハー! 気持ちいだろ年?」

ではありえない速度だった。

風を全じるからか、速度は車より速い。実際のところどうなのかはわからないが、そんなことはこの恐怖の前では大した問題じゃない。

怖い。

「――はっ」

一瞬気を失っていたようだ。

しかし、クロの背中から伝わってくる衝撃に目を覚ます。

ドタドタと走っているわりには大きくはないが、それでも車とかとは全く違う。

「大丈夫かい年?」

「なんとか」

耳元で弾ける聲に、かろうじてそう返した。

せめてもの救いは、クロの背中がやわらかいことだった。これで固かったら絶対に痔になっていただろう。

數分もして、だいぶ慣れてきた。思ったほどは速度は出ていない。全力でチャリを漕いだ時よりは速いけど、車よりは遅いかな。

ちょっと楽しい。

となると當然、別のところが気になってきた。

「ぶっちぎれーーっ!!」

背後ではしゃぐリュカ姉のが、ぐにゅぐにゅと僕の背中で暴れている。

僕が振り落とされないようにと著してくれているのだろうけど、の代わりに意識が落ちてしまいそうだ。

顔が急激に熱くなるのをじた。

クロは街道を無視してオルペア平原を突っ切っていく。目の前に丘があろうと逸れることはない。

そして十分ほどもして森とその先に山が見えてきた。

進路変更しないところを考えると、あれが目的地なのだろうか。山登りって言ってたし。

尋ねてみた。

「リュカ姉、リュカ姉?」

「へ?」

聞こえずらいのか、リュカ姉は素っ頓狂な聲を上げた。

「あれが目的地か?」

「ん? そんなわけないじゃん。もっとずっと先だよ」

「じゃあなんで、こいつまっすぐ突っ込んでるんだ?」

「突っ切るから」

それが何か? と言われそうなじだ。

冷靜になって、目の前の森、そしてその先の山を観察する。

鬱蒼と木が生い茂っている。林とも言える。人が通った痕跡は、遠目に確認することが出來ない。

絶対に突っ切っていい場所じゃない、斷じて。

「いけぇークロ! ぶっちぎれー!」

「いやちょっ……待っ……」

靜止しようと思ったがすでに遅く、僕たちは枝葉によってできた網の中へ突っ込んだ。

と思ったら、リュカ姉にうしろから押しつぶされるようにして、僕はクロの背にへばりつかされていた。

「ちょっ……えっ?」

「クロはがうまく枝とか弾いてくれてるけど絶対安全ってわけじゃないから、ちょっと我慢だ、しょーねん」

そう言ってさらに押し付けてくる。

生理的な反応として、顔が熱くなるのをじた。

いやこれは健全な反応だから。いやらしいこととか考えてないからホント。

「ふふーん? うれしいんだオーワ?」

「なっ!? ちがっ」

「やらしいやつだなー、ほれほれ」

僕の背中で、リュカ姉のかながふにゅんふにゅんと形を変える。ほかにもいろんなところが著して……。

「やめてよ!」

我慢の限界だった。思わず怒鳴ってしまう。

「ありゃ、怒った? ごめんごめん、ちょっとからかっただけじゃんか~」

けれど気にしたふうもなくけたけたと楽しそうに耳元で笑って、リュカ姉は押し付けるのをやめた。

結局クロは、剝きだしとなっていたリュカ姉の背中を傷つけることなく悪路続く森を抜け、山を越えた。

まるで蛇のようにするすると木の間を抜け、風のように駆け抜ける様を見て、ちょっとダッシュ・リザードがしくなった。

騎乗用の魔を召喚するのも悪くないかもしれない。

それからしばらく草原が続き、荒野にり、一時間ほどで目的地に到著した。

目の前にあるのは、木が點々と生えているだけで、あとは山が完全に出した険しい山だった。

麓にある大きな部へのり口なのだろう。

近くには高い塀に囲まれた町らしきものがあり、そこから道が出ている。

片方は山へ、もう片方はきっと街道へ通じているのだろう。……さっきの山を突っ切る必要なかったのでは?

そのことを突っ込もうとして、いややっぱ無駄だろうと言葉を呑み込み、代わりに別のことを尋ねる。

「あの山って危険なところなんだよな? 麓に町があって大丈夫なのか?」

「んー、あれは町じゃないよ、ただの殘骸。昔はこの鉱山にもあんま強い魔がいなかったから栄えてたんだけど、ある時から急に強い魔たちが出るようになったらしくてね、捨てられたんだ。でもその代りにレアな鉱も出るようになったんだから、私としてはうれしいんだけどね」

うん? 強い魔が出るようになったから、レアな鉱も出る? いまいちつながらない。

そのことを尋ねてみると、リュカ姉は不思議そうな顔をして、すぐに納得したようにうなずいた。

「あぁ、そっか。鉱ってのは、要は魔石の親戚みたいなものなんだ。地面の下には魔力があって、それがいろんなものと結合してできてる。その中に強い魔の魔石が組み込まれれば、いい鉱石ができるんだよ」

わかったような、わからないような。

堆積巖みたいなものなのだろうか。まぁそれ以上突っ込んでも無駄だろう。興味ないし。

僕が納得したのを確認すると、リュカ姉が手綱を振り、クロは鉱山めがけて再びドタドタ駆け出した。

口にクロを待機させ、僕たちは部へった。

中は時折る巖がある以外真っ暗でちょっと不気味だったが、リュカ姉に渡された魔法道で照らすことでなんとか部が見渡せた。

壁がごつごつとした巖でできた、至って普通な窟に見える。

ぼぉっと見渡していると、リュカ姉が意地の悪い笑みを浮かべた。

「あれれ~、オーワビビっちゃった?」

「ビビってない」

できる限り無想を裝ってそう言うと、なぜかリュカ姉はうれしそうな顔をする。

「あははっ。まぁ採掘場所まではお姉さんが一緒に行ったげる」

「そりゃまたどーも」

適當に流して、僕たちは進み始めた。

道幅は広く、大勢で來ても問題ないように思える。天井の高さは三メートルくらいだろうか、道幅に比してはし低い。

気になったのは々熱い気溫と、かすかに漂う匂いだ。

「……リュカ姉、屁、こいた……?」

「それはボケかな? オーワ君。こんな見目麗しいレディにそのボケは、ちょっとセンスないな~」

軽くあしらわれてしまった。というか、見目麗しいとか自分で言うなよ。まぁセンスないってのは同だけど。

これは硫黃の臭いだ。

かすかだからまだ本格的に活しているわけじゃないんだろうけど、火山なんだろうな。

し進んですぐ分岐があり、その先にもいくつか分岐があった。

リュカ姉は握りこぶし大の赤い巖のようなものを取り出し、それを使って壁に印をつけた。

それは手でこすると消えるらしく、帰りには消すのがマナーだと言って僕にも一個渡してくる。

あらかじめ必要なものを揃えておいてくれたらしい。

「ありがとう」

「え? いやいやいいってことよ~」

ここでお禮はやや唐突だったかもしれないと思ったが、リュカ姉は照れを隠すようにへらへらと手を振って、先へ進んだ。

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