顔の僕は異世界でがんばる》用な冒険者 11

二時間ほどで目的の採掘スポットに到著した。

坑道は分岐あり曲がり道ありという、無駄に複雑なものだったが、リュカ姉は何度も來ているのか、ほとんどまっすぐにここまで辿り著けた。

ここは山の頂上付近だという。道は曲がりくねりながらも緩やかな上り坂になっていて、進んで行けば自然と頂上へたどり著く。

途中、たくさんの魔に襲われたが、まだ一度もリュカ姉は武を取り出していない。全部僕に戦わせ、自分は服の襟をパタパタしたり、あくびしたりしてわれ関せずを貫き通していた。

ここの魔は結構強くて、妖二人と火魔法を駆使してなんとか倒せるレベルだ。

幸い接近戦になることは無かったが、正直疲れた。

リュカ姉も戦えよと言ったら、「労無くして得るものなしだぞ、しょーねん」だと。

全くいい気なもんだ。蟲よけに僕を連れてきたんじゃなかろうか。

「いや~オーワにはびっくりだね~」

立ち止まって心したようにリュカ姉が批評してくる。

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「いつの間に火魔法をマスターしたのさ? 使えるようになってから一週間とは思えない威力だよそれ。すでにウィザードとしても冒険者やってけるレベルじゃん」

しまった、あまりにも余裕がなくて、隠してたの忘れてた。

「え、えっと、そう、カリファが教えるの上手くてさ!」

「ふ~ん。でもそれに加えて召喚魔法に治癒魔法って、普通に常軌を逸してるよね、君」

一瞬いぶかしげな眼つきになって、すぐに戻る。

どきりとした。やましいことは何もないはずなのに、なぜか責められている気がした。

けれどリュカ姉はへらっと笑った。

「まぁ隠し事したいお年頃だもんね」

「あ、あはは……その言い方やめて」

詮索したそうな雰囲気だったが、それ以上は踏み込んでこなかった。

ほかの冒険者に対して必要以上の干渉はしないのが冒険者のルールらしい。初めて會った時もそうだったし、マルコも火魔法についていろいろ聞いてこなかった。

さてとと前置き、リュカ姉は何事もなかったかのように話題を変えてきた。

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「しょーねん、採掘は初めてだよね?」

「あぁ、うん」

「ならちょっと見てて」

そう言ってリュカ姉は、巾著袋から巨大なピッケルを取り出して、壁のっている部分のし上をめがけて思い切り振りおろした。ガツン、という音を立ててピッケルがめり込むと、再び振り上げ、しずらして振り下ろす。

なんだかすごく単純な作業だ。

しかし何度かそれをやると、いきなり壁が崩れ、中から青いを放つ鉱石が顔を出した。

最後にリュカ姉はむき出しになった鉱石を引っ摑むと、ふんぬと気合いをれて引き抜いてしまった。

「とまぁ、こんなじ。とにかくってるところの周りを壊していけば、ある程度のところで壁が勝手に崩れてくれるから」

「最後のだけは、ちょっと真似できそうにないんだけど」

爽やかに汗をぬぐうリュカ姉に軽く引く。あの細いのどこにそんなパワーがあるんだ。

「できるさ。鉱石とほかの巖は完全に分離してるから。さぁっ、やってみよ~」

納得はできなかったが、論より証拠だ。僕はリュカ姉からピッケルをけ取ると、ってる壁に向かって打ち下ろした。

リュカ姉のやっていた通り、ってる部分の周りをくりぬくイメージで作業を進める。思っていたより巖はらかく、すんなりと削れていった。

それでも最初だからか一周しただけでは崩れてくれず、二周したあたりで壁が崩れ、中から青くる鉱石が出てきた。

なるほど、巖と鉱石が癒著していないから崩れるのか。納得して鉱石を持ち、思い切り力を加える。

「あれ?」

ぼこり、と、なんともけない音を立てて鉱石が『外れた』。

「でしょ?」

「あ、うん」

か、簡単すぎる。リュカ姉は満足そうにうなずくと、僕にピッケルをもう一本渡してきた。

「ちなみにそれはアクアマリン。結構上質だけどブラッククリスタルには劣るね」

「ふーん」

僕が鉱石を巾著袋にれるのを見て、リュカ姉は口を開く。

「じゃあお姉さんはこれからひと仕事してくるけど、たぶん二、三時間……お晝過ぎには帰ってくるから、そういうことでよろしく。ここから上ならどこでもブラッククリスタルが採れるはずだから、がんばってね~」

「あぁ、ありがとう」

ちょっと真面目に禮を言うと、リュカ姉は意地悪く笑った。

「獨りでさびしくても泣くなよ~」

「泣かないよ!」

あっはっはと笑い聲を殘し、元來た道を戻って行った。

さてと、それじゃあぼちぼち始めるとしようか。

とりあえず敵に隙を突かれるのが一番怖いから、ピクシーに見張りをさせる。そしてスカルナイトに予備のピッケルを渡して、アプサラスには水の槍でさっきの作業をやらせることにした。

さぁ、張り切って採掘するとしようか。

採掘、それは人生を振り返る作業と言えた。

ひたすらピッケルを打ち下ろし、時に代わり映えのしない鉱石を摑んで引き抜く。延々とその繰り返しだ。たまに魔が來て焦る以外に、変わったきはない。

単調さに拍車をかけるのが音だ。

リュカ姉が騒がしかったから気づかなかったが、この広大な坑道の中には、僕とリュカ姉、ほか數人の人間しかいない。離れ離れになれば、無音に近くなるのだ。

ただカツーン、カツーンという単調な音が響いては消え、響いては消える。

単調になれば自然、思考は緩やかに論理を失い、思いにふける時間が生まれる。そうしていると、たとえ嫌だとしても、自然と経験してきたことを振り返ってしまうものである。そして僕には、あまりにもいい思い出がない。

つまり。

採掘とは、暗黒時代を振り返ること、そして追験して心がねじ切れそうになることと同義なのだ。

「うぅぁあぁ……」

我慢できなくなってき聲を垂れ流し、僕は手を止めた。うぐぅ……をかきむしってその奧の心臓握りつぶしたい。

もうかれこれ數十回はこんな気持ちに苛まれている。僕の心は限界に近かった。

今、どれくらい経っただろう。巾著袋から時計の役割を果たす魔法道を取り出し、時間を確認した。

現在十一時四十五分。確か朝の八時ごろ町を出たから……まだ四十分しか作業をしていないことになる。

「う、うそだろ……」

矢のごとしとか言ったやつ誰だよ。なんて亀のごとき遅さだよこの野郎。

誰だかわからないけどとりあえず過去の偉人へ唾棄し、再びピッケルを振り上げた。

何度か時計を見て、肩を落として、やっとこ午後の一時半を回った。そろそろリュカ姉と合流する時間だなと思い、別れた地點まで戻って晝食のバケットサンドを食べている。

「大漁大漁~」

採集したとりどりの鉱石を眺め、愉悅に浸る。寂しいと自然に獨り言が生まれるよね。

実質三人で行ったからか、わりとすんなり集まった。特にアプサラスは一人で二人分くらいの働きはしてくれる。

「お前は優秀だな~」

ほけらーっとしている妖の頭をうりうりとで、褒める。でもちっとも反応してくれない。この子は普段何を考えているのだろう。何も考えてないのだろう。

「しっかしリュカ姉遅いなー」

食べ終えて一息ついても、まだリュカ姉は來ない。そもそもお晝過ぎって的には何時ぐらいを指すのだろうか。それによく考えると集合場所とかも聞いてないし。

「……はぁ」

思わずため息をついた。

リュカ姉ほど『だいたい』という言葉が似合う人はいない。何をするにも細かいことには頓著せず、基本大雑把だ。まぁあれでも一応はAランク冒険者なのだから、最悪の事態が起こらないことを見越してのだいたいなのだろうけど、事務作業とかできなさそうだよな。

「二時、かぁ」

もうし作業してようか。どうせ僕がどこにいようと見つけてくるだろうし、指定してなかったリュカ姉が悪いのだから問題ないな。

「三人とも、もうひと頑張りよろしくな」

三人の使い魔たちに聲をかけ、僕は再び上へ向かった。

それからかなり時間が経って、時刻は午後四時を回った。

お晝過ぎ、というならまぁそうなのだろう。けどこれは、いくらなんでもリュカ姉だって夕方頃と言うのでは?

「……遅い」

いい加減、単調な採掘作業に飽き飽きしていた。それに定期的な魔との戦いで、だいぶ疲労をじ始めている。

ここの魔のレベルはたぶん、Cランク後半から下手したらBランククラスにも匹敵するだろう。いつもに比べれば全然戦っていないけど、それでもそろそろ危なくなってくる。

「遅すぎる」

もしかしたら、からこちらの様子を伺っているかもしれない。それで僕が寂しそうな様子を見せたらからかうつもりでは?

いやいや、いくらリュカ姉でも、こんな危険な場所でそれはさすがに……ありえる。

「リュカ姉?」

背後、虛空にやや大きな聲をかける。

僕の聲は壁に反響し、むなしく響いて消えた。

返事はない。

さすがにそれはないか。いくらなんでもそこまで馬鹿じゃない。

となると、考えられるのは……。

「……はっ、まさか」

まさかとは思う。あのリュカ姉がピンチに陥っているなんて、ちょっと想像できない。けれど……

「まさかな……」

けれど、あるいは、とも思った。

あんなんでも、リュカ姉だってまだ十代のの子だ。いくら上位ランクの冒険者だと言っても、失敗するだってあるだろう。

そしてこの業界は、ほんのしのミスが命取りになるのだと、僕はたった數週間で思い知らされてきた。

心臓が、悸を早めた。

心配は、一度始めてしまうととめどなく広がっていく。

道に迷ったとか? それとも坑道が崩れた? あるいはイレギュラーな魔に……はたまた山賊に?

「はっ……はっ……」

気が付くと、呼吸が淺く、荒くなっていた。

「落ち著け……落ち著け……」

聲に出して自分に言い聞かせ、深呼吸した。

決まったわけじゃない。よく考えろ。

僕が慌てて駆け付けた先にいるのは、へらへらと笑うリュカ姉か、泣きじゃくるリュカ姉か。……容易に想像できるのは前者だ。リュカ姉ほど涙が似合わないもいない。

「でも……」

は僕と最初にあったとき、確かに泣いた。その顔は見ていないけど、それは確かだ。

どうする?

この坑道は、危険もそうだが、何より広すぎる。加えて僕は、ここに來るのは初めてだし、すでに疲れている。下手にけば、二次遭難になる可能の方が高い。

ここで待っていた方がいい。ちょっと手間取っているだけかもしれない。僕がリュカ姉を探し當てるより、リュカ姉が自力で危機をし、ここに來る可能の方がはるかに高い。

「でも……」

何かあったということは、間違いない。

「……ふぅー」

息を思い切り吐き、吸った。

とりあえず來た道を戻ってみよう。もしかしたら途中で何か発見できるかもしれないし、リュカ姉を見たって人に會えるかもしれない。

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