《顔の僕は異世界でがんばる》不用な冒険者 12
一時間ほどで、僕はり口近くまで下りてきてしまった。
大急ぎで戻ってきた。
各分岐ごと調べたい気持ちにもなったが、あまりに遅くなるとただでさえないほかの冒険者がいなくなってしまうからだ。まずはリュカ姉を見かけた人を探すのが先だと考えた。
しかし有力な手掛かりは得られなかった。そもそも人と出會えなかった。
「どうしよう」
思わず、つぶやいてしまう。
鼓は速くなるばかりで抑えが利かない。
急いでいたから、戦闘は最小限で済んだ。まだ余力はある。
もう一度登ろうか。
その時、り口から聲が聞こえてきた。冒険者だ。続くように聞こえてきたのは魔の威嚇する聲――この聲はクロだ。
誰かがクロに威嚇されている。
僕はすぐに駆け出した。
クロと対峙していたのは、二人の冒険者だった。一人は背中に槍を背負ったノッポで、もう一人は背は低いけれどガタイがいい髭面の男だ。
そして何より僕の目を引きつけたのは、髭面の男が持つ赤い大剣――
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――フランベ・ルージュ。
「おいお前ら。その大剣どこで手にれた?」
橫から聲をかけると、男たちは雷にでも打たれたかのように一瞬びくりとを直させ、おそるおそるこちらを向き、僕を見たとたんわかりやすいくらいに安堵した表に変わる。
「なんだ坊主? この剣に興味があるのか?」
ノッポがあからさまに舐めた目でニヤニヤとしながら言い放ってくる。
「それはリュカ姉の剣だ」
「いいや違うぜ。これは落ちてたんだ。だから拾った俺たちのものだ」
今度は髭面が大剣を構えて脅すように言う。
なんとなくわかった。リュカ姉がこんな奴らに負けるとは思えないけれど、とにかく何かがあって、こいつらはリュカ姉からフランを奪ったんだ。
「なんだ? 文句でもあるのか、小僧?」
ノッポも槍を抜き、睨みつけてくる。
攻撃されるーーびくりとした。けれど、一瞬。
睨み返す。
「リュカ姉に何があった?」
「がははっ! お前あのの仲間か? あぁ、あれは惜しいことしたなぁ、抱き心地は良さそうだったが暴れやがるもんで、つい、な……」
髭面が厭らしい笑みを浮かべる。聞くに値しない戯言だ。
「バカだろ、お前。お前らごときが、リュカ姉をどうこうできるはずがない。それより、早いこと何があったか教えろ」
リュカ姉にしろ、エーミールさんにしろ、強い人にはそれなりのオーラというか、雰囲気がある。
僕だって伊達に何年もいじめられてきていない。誰が危険で、誰が安全か、その區別くらいはつく。力を隠している強者ならともかく、こいつらは明らかに違う。ただの安牌――雑魚だ。
ノッポが盛大に笑い、槍を構えた。
「俺たちは急いでんだ、ガキ! あのとお前は『事故』で死んだ……イキがったのが運の盡きだったな!!」
そして勢いよく飛び出してきた。
思ったよりはキレがある。まぁ仮にもこの鉱山に來ているのだから、そこそこの腕ではあるんだろう。
でも、意味はない。
「ひゃっはぁ!!」
「黙れ」
王の力、発。とりあえず地面にキスしろと命令する。
「ちゅばぁっ!!」
「うぇっ……」
しまった、土下座させるはずだったのにホントにキスしやがった。しかもディープなやつ。
まぁいいか。
とりあえず後頭部を踏みにじり、大口開けてバカ面下げてる髭面を睨みつける。
「アプサラス、やれ」
相変わらずほやほやと漂っていたアプサラスはテンションそのままに、いまだ呆然とする髭面めがけて飛んで行った。
髭面をボコしてふん縛って草むらのに捨て、ノッポに何があったかを吐かせた。
その容を要約すると、広間でイレギュラーな魔に襲われていたこいつらを庇い、リュカ姉はけがを負ったとのこと。その衝撃でフランはリュカ姉の手を離れた。ほぼ同時に、魔の攻撃により広場の床が抜け、空となっていたその下へリュカ姉と魔は落ちてしまい、殘ったのがこいつらとフランだったという話だ。
思わず意思のないノッポのぐらをつかんだ。
「なんでほったらかしにしたんだ!? せめてフランをの中に投げれてやれば」
「あのに落ちて、生きているわけがない。だから放置して帰れば大剣の分、丸儲けだと思った」
まったく抑揚のない聲で、ノッポは僕の質問に答えた。
こいつ!!
思わずぶん毆りそうになって、踏みとどまる。こいつは今、意思のないり人形だ。噓も挑発もしていない。思ったことを正直に答えているだけだ。っている僕が一番よくわかっている。
--まずい。
だからこそ、まずいと思った。
こんなところで時間を食ってる暇はない。すぐにノッポに案しろと命令し、僕たちは再び坑道へと駆けこんだ。
広間は、およそ七合目ほどの位置にあった。
広い円形の空間の真ん中あたりに、確かにが開いている。
足を踏みれると、むわっとした熱気とし強めの硫黃臭に襲われた。
床のが、さっきまでとは違う。もっとバリバリして、くて脆いものでできている。天井は頂上まで吹き抜けていて、満天の星空が見えた。
「もしかして」
もしかして、ここは噴火口なのでは?
熱気、硫黃の臭い、円形の吹き抜け、山の中心部……考えていくほどに、疑問は確信へと変わっていく。
この床はれ出した地下の魔力と空気が結合してできているんだ。だからバリバリとしている。リュカ姉が言っていた、『ある時から急に魔が強くなった』というのはたぶん、ゆっくりと活を始めた火山によりくみ上げられた地下の魔力によって、魔が強化されたということなのだろう。
その憶測が本當かどうかは定かじゃない。けれど、それはどうでもいい。
噴火口は、地下深くのマグマだまりまで続いている。的には分からないが、キロメートル単位だったと思う。
--リュカ姉は、どこまで落ちていったんだ!?
さぁーっとの気が引き、思わず駆け出していた。
「はっ……はっ……」
心臓が狂ったように拍しているのに、手足に上手くが通っていない。
けれど無理やりにでも、脳を働かせる。
正確なことは分からないが、この程度の熱気と硫黃の臭いだ。噴火することはないだろう。
でもそんなこと、何のめにもならない。
もしがマグマだまりにまで通じていたら? いや、たとえその數百分の一でも、人が死ぬには十分な高さだ。せめてこの床と同じものがすぐ下にもあれば……。
に辿り著き、魔法道で下を照らした。
しかし底は見えない。が屆く範囲には何も存在せず、その先には、空間がなくなってしまったかのように、闇が漂っていた。
深い。
どれくらい深い?
この魔法道のはどこまで屆くんだ? 數メートルかそこらだろう。
じゃあリュカ姉が生きてる可能はまだある? でもこのじは、數メートルじゃ済まないような……。
これほどわかりやすい狀況だというのに、理解するには時間がかかった。
「……っっ!!」
理解して、中に聲をかけようとして、怖くなった。
もし、聲が返ってこなかったら?
けれど、かけるよりほかはない。覚悟して、大きく息を吸い込んだ。
「リュカ姉――――っ!!」
そしての底へと聲をかける。
僕の聲は闇に吸い込まれ、むなしく消えた。
返ってきてくれ。
數秒間、祈りながら待った。
しかし返事はなかった。
そんなはずはない、そんなはずは……。
否定の言葉だけが脳で空転して、何度も底へ聲をかけた。
しばらくして、のどの痛みで我に返った僕は、思わず地面に拳を落とした。
「……くそっ!!」
いやだが待て、落ちた衝撃で気絶して、返事ができないという可能もある。まだみを捨てるには早い。
改めての底を覗く。そのとき、ピクシーが僕の肩を叩いた。
そうだ、ピクシーに見てきてもらえばいいじゃないか。なんで気づかなかったんだろう。
「頼む」
頭を下げると、ピクシーは素早く闇の中へと消えていった。
しして、ピクシーはの底から出てきた。どうだったと聞く前に、うれしそうな表を見て理解する。
興で心臓が跳ねた。
「二人とも、僕をの底まで連れて行ってくれ。できるか?」
尋ねると、ピクシーとアプサラスは片手ずつ僕の腕をつかんで、浮上した。そしてゆっくりとの中へと移し、ふらふらと頼りなく降下する。
落とされるのではないか? という不安はあったが、贅沢は言うまい。今はとにかく、リュカ姉の無事を祈るだけだ。
見えるはずのないの底を凝視し、僕たちは降りて行った。
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