《顔の僕は異世界でがんばる》不用な冒険者 13 閑話 リュカ
〈リュカ視點〉
失敗したなぁ。
薄れていく意識の中で、私はそう思った。
あれからどれくらいの時間が経ったのかも、何メートル落とされたかもわからない。もっと言っちゃうと、中が痛すぎて、逆にどこが痛いのかさえわかんない。
幸いだったのは、私をこの奈落へ突き落した張本人であるイレギュラー、スカル・デーモンがもっと下まで落ちていったこと。
ざまぁみろ。
それにしても、暗いったら。
落とされたときはまだ夕方頃だったと思うけど、こんな暗いのは深いから? 知らぬ間に時間が経ってたとか? それとも、私の意識が落ちかけているからか?
まったく、どこで間違えたんだろう。
見ず知らずの冒険者を助けたとこ? 調子乗ってオーガを追っかけたところか? もっと前なら、この依頼をけたこと? それとも……。
――罰なのかなぁ。
今朝、いつもより早起きしてギルドへ向かった私は、弾む気持ちで、弾むような足取りで宿へと戻ってきた。
早起きは三文の徳と言うけれど、うまい言葉だと思う。この諺が誰に創られたのかはわからないけれど、その人に最大の敬意を表したい。
ありがとーう、異人さん! ん? なんか違う?
ちなみに運がよかったのは神様のおかげじゃない。私は神には祈らない、なんてカッコよくね?
まぁそもそも、人を幸福にしてくれる神なんて……いない。
仮にいたとしてだよ、そいつは逐一、人ひとりひとりの様子を見て、ここぞって時に手を差しべるようなやつじゃない。どうせ「あっ今寢てたわ(笑)」とか言って、なぁなぁにしてしまうようなやつだ。
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人を幸福にするのも人。幸福になるのも人。
だから私は、できる限り自分が幸せになれるよう、好き放題やることにしている。
だってさ、自分が自分を幸せにしなくて、他の誰が幸せにしてくれる?
家族のいない私には、自分しかいないからさ。
だから私よ、あの子の分まで幸福たれ! なんてね。
一段とばしで階段をのぼり、目的地へ。三階の端から二番目の扉の向こうを想像する。
オーワはヨナちゃんにべったりだからなぁ~、きっとそこで初々しいいちゃつきを披してくれるんだろう。さぁ、いじるぞ~!
でもあの子のところへ行く理由は、別にからかいたいからじゃない。
いや、もちろんからかうんだけど、今日の目的は素材集めにオーワを連れていくことなのだ。
今朝ギルドに呼び出された私は、そこでイレギュラーの様子を偵察してくるよう言われた。
イレギュラーイレギュラーと、最近はこの手の任務ばかりでやんなっちゃう。たまには自由に依頼をけたいなぁという私の願をあっさり跳ね除けた付嬢ーー茶髪の悪魔ハンナは、いつも通り小言を並べ立てて、場所を指定してきた。
示されたところは、良質な鉱石の採れる鉱山。私も何度か行ったことがある場所だ。
どうせ偵察だし、よく知ったとこだし、たぶん今回も大したイレギュラーじゃないしね……とかいろいろ考えて、結局一人で行くことに決めた私は、宿に來る途中でオーワのことを思い出した。
そうだ、せっかくだからあの子を連れてこうじゃないか。
あの子はまだ素材採集をしたことないだろうし、ちょうどいい。まぁDランクの冒険者が行くようなところじゃないけど、能力的には大丈夫! のはず。
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どうせ大した任務じゃないんだ。サクサクっと片付けて、オーワとふざけながら採集に勤しむとしようじゃないか。
となると、任務を除けば、これはハイキングと大差ない。二人でのハイキングとなれば、自然と浮かれてしまう。
いやさ、私だってよくないことだとは分かってるよ?
けど、けどだな、それくらいは許してくれよ、神様。あんたが働かないから、こんなことになっちゃったんだからさ。
これは私のせいじゃない。
とまぁそんな経緯でオーワを連れてくことに決めた私は、相変わらず妙なところで臆病な一面を見せつけてくれた彼をほぼ無理矢理に引きずって町を出た。
普通男の子って「危険」とか「冒険」とかいうタームが好きだと思うんだけどなぁ。それは私の思い込みか?
クロを走らせていると、初めはビビりまくりだった年も、すぐに楽しんでるふうになる。
うぅん、こういうところ、やっぱ似てるなぁ。
すぐ目の前にある黒髪は、細くてちょっと癖がある。の違いはあれど、それでも似てる。線が細くて小さいところや、きれいなとくりっとした目なんかは瓜二つだ。
瞳のさえ赤だったら、私は絶対に間違えていたと思う。いや、間違えようとしたに決まってるね。
思わずし抱きしめると、すぐにくなって抵抗してくる。
あぁだからさ、そういうのもそっくりなんだよ。だからちょっかい出したくなる。ますます抱きめたくなる。
……そんでもって、すごくつらくなる。
道中は特に何事もなく、私は時折夢想に浸った。
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あの子が生きてたら、こんなじで探索に出てたんだろうな。それが約束だったし、あんなに楽しみにしてたんだし。
あの時私が今くらい強かったら、と思う。
けどそれは、たられば、だ。言い出せばキリがないし、あの時點での私にどうこうできたとは思えない。
惜しむらくは、襲ってきたやつらの顔が思い浮かばないことだ。だから手當たり次第、盜賊を狩らなきゃいけなくなっている。
まぁ、今の強さはそのおかげでもあるんだけどさ。とするなら、ベストだったのかも……。
「リュカ姉、リュカ姉?」
「へ?」
こちらを軽く振り返り、しきり呼ぶのは、あの子……ではなく黒髪の年だった。
……あぁ、そうか。びっくりした。妄想のせいで、一瞬混ざっちゃった。いけない、いけない。
「あれが目的地?」
そう言ってオーワが指さすのは、ただの山だった。
あぁそうか、突っ切るのは初めてだからか。
とするなら、あえて何でもないふうに言って反応を楽しむのもいい。びっくりさせられた仕返しだ。
あぁ、また意地の悪い笑い方になっているんだろうなぁ、なんて思いながら、腕の中で引き攣るオーワに思わず笑いそうになった。
くなりすぎだよ、しょーねん。
あぁ、幸せだなぁ。
道中の魔はすべてオーワに戦わせた。
いや、めんどくさいってのもあるけど、実際にオーワの戦いぷりを見たかったってのが一番の理由。
初めてこの子を拾った時、なんでこんな子が、病気のを庇いつつ、弱小とは言え一盜賊団を壊滅させられたのか不思議でしょうがなかった。
だってつきとか、明らかに戦い向きじゃないんだもの。
なんて思ってたら、いつの間にか火魔法を練習し出して、と思ったら、魔人を倒してその上治癒魔法で町の人を救ったなんてわけのわからないことしでかしてくれる。
おいおいしょーねん、治癒魔法は使えなかったんじゃなかったかい?
私は基本、他人の詮索はしない主義だ。だってめんどくさいから。
心なんて複雑なものにズカズカ踏みれば、絶対にしっぺ返し食らう。
『それの積み重ねで人間関係が~』とかのたまう人もいるけれど、そんなんなら私は別に深い人間関係はいらない、と思う。
人を幸福にするのは人だけど、それよりも不幸にする方が圧倒的に多いから。
よく人から『人付き合いの上手い子』とか評されるけど、そんなたいそうなもんじゃない。
波風立てるのが面倒だから、表面上上手く取り繕っているだけ。
強くなるために抑圧していた反で、心の機微がし人より欠けてるってのもある。人から何かされて怒るとか、そういうのがいまいち理解できないというか……まぁこれはこれで便利なんだけどさ。
めんどくさい。だからパーティーも必要な時しか組まない。
私は幸福になるためだけに生きている。
それでも、この子だけはどうしても気になってしまった。何をするのも気になってしょうがないし、何かあればすぐ手を貸したくなる。
『オーワはあの子じゃない。のめりこみ過ぎだ』なんてことを、この前エーミールに咎められた。エーミールは本當によく見てる。
『罪滅ぼしでもしているつもりなら、やめるんだな。てめぇにとってもあいつにとってもいいことなんざねぇ』これはマルコの言葉だったっけ。任務先で何があったか知らないけど、相変わらずお人好しだね。
二人に図星突かれて恥じったけど、それに罪の意識だってあるけど、でもやめられなかった。
たぶん一人では、もう限界なんだろうなぁ。
「リュカ姉も見てないで戦ってくれよ」
不意にオーワから聲がかけられた。
我に返ると、いつの間にか魔が全滅している。その中でオーワは、ぶすっとした表でこちらを睨んでいた。
いやいや、テキパキ倒せてて結構結構。そんでもってその顔、もっとむすっとさせてやろう。
「労無くして得るもの無しだぞ、しょーねん」
適當な言葉で応じると、オーワはますますむくれてしまった。
あぁ、こういうのいいなぁ。
オーワの戦い方は、どこか変だった。
明らかにたどたどしいのに魔法の威力は高いし、何より、召喚した魔との連攜がとれすぎてる。
聲に出して指示するでもなければアイコンタクトも取らない。なのに思い通りに魔をかしている節がある。
召喚士は今までに數人しか見てないけど、ここまで完璧に連攜がとれていた人はいない。
かと言って戦闘慣れしてるふうでもないし、うーむ。
と、し気になっていると、オーワの顔が不安そうになる。
なんか、親に叱られそうな子供みたいな……まぁ、これ以上の詮索はやめておこう。この子にだっていろいろあるだろうし。
だって、奴隷商のところから逃げ出してきたくらいだもの。
一人にしても問題なさそうだったから、オーワと別れて調査に向かった。
名殘惜しいけど、幸せになるには仕事もしなきゃだし、しょうがない。
報によると、ここ最近この鉱山での行方不明者が多いとのこと。だから特別強い魔がいるんじゃないかって疑ってるらしい。
でもさ、そもそもこの鉱山で行方不明になる人は多いんだぜ? ギルドさん、そこを忘れてもらっちゃあいけねぇなぁ。
いるかもわからないイレギュラーの調査とは、どうしたもんだろう。見つからなかったら、『見つかりませんでした~てへっ』で済むのでしょうかねぇ?
まぁ適當に二、三時間探して見つからなかったら、それでいいや。
茶髪に怒られるのは慣れてるし。
そもそもこの巨大な坑道の中で、一匹しかいない魔を見つけるなんて土臺無理な話だ。
Aランクにしかこの手の任務が與えられないって規則は、イレギュラーの強さを考えればまぁわかるけど、私たちだって人間ですよ?
無理なものは無理。
「ふわぁ~あ」
やる気も何もなく、あくびしながら下りていく。ついでにいつもは通らない道のマッピングを済ませていく。
おっ? ピンクのは珍しいなぁ。
ついでに採集もする。
この鉱山は、たまにとんでもなく希な鉱石も産み出してくれるから、ついつい手が出ちゃう。
魔は弱っちいし、本當に費用対効果の高い『金の生る山』だね。
そんなこんなで午後一時。
お目當ての魔は見つかりそうにないし、そろそろ戻って優雅にランチと行きましょうかねぇ。
「(オオオオオ!!)」
「お?」
なんて思っていると、道の先から吠え聲がした。
尋常じゃない大きさだ。
しかもその聲の中に、かすかに人のものも混ざってる。冒険者が運悪く接してしまったんだろう。
すぐに駆け出した。
聲もどんどん近づいてくる。
響く足音を聞く限り、こりゃそうとう大きな魔だね。
フランを抜いて構えると同時に、魔の外観が見えた。
その巨大な骸骨の悪鬼を見た瞬間、すぐに魔の名前が浮かぶ。
スカル・デーモン!?
三メートルもの高に、がっしりとした骨格は、道をほとんど占領している。頭に生えた攻撃的な角と異常に長くて太い腕は、見るからに兇暴そう。は骨だけじゃなく、骨の下に筋が存在していて、すっごく気持ち悪い。
冒険者の持つ魔法道で照らされて、なお一層悪鬼は悪魔っぽい外見になってる。
「たっ助けてくれぇっ!!」
そうんでいるのは髭の濃い冒険者で、その隣でひーひー言っているのはノッポの冒険者だ。
私の名前を知らないってことは、きっと山の向こうの街<ジラーニィ>の冒険者なんだろうな。
さてと、それよりもだ。
なんであんな超A級モンスターがこんなところに? あれは魔大陸にしかいないはず……とにかく、あの人たちを助けなきゃ。
あれと戦うには、し場所がよくない。狹すぎて攻撃が避けにくいしね。
フランを袈裟に構えて、火魔法で炎を纏わせる。そして冒険者が私の脇をすり抜けていくと同時に、剣を思い切り振りおろした。
するといつも通り、宙を切った剣から三日月狀の炎の鎌鼬が飛び出し、デーモンを捉える。続けざまに何度か放つと、デーモンは完全に進行を止めた。
この技――『炎月』が、『炎剣』なんて呼ばれる所以なのかな。
その名前は結構好き。だってカッチョイイじゃん?
と、こんなこと考えてる場合じゃないか。
デーモンはすぐに立ち上がり、向かってきた。
食い止めるためもう何度か放ち、後ろを確認する。
よし、とりあえずさっきの人たちは逃げたみたいだから、し下の広間におびき出そう。
すぐに回れ右して、走り出した。
走りながら時折後ろを振り返り、デーモンをい出す。
あれだけ何度も『炎月』をくらってぴんぴんしてるなんて、やっぱ化けだなぁ。
全くダメージを負ったふうのないデーモンを見て、思わず心してしまう。
けれど勝算はあった。
というか、勝ち目なかったら見ず知らずのおっさん助けようなんて思わなかったと思う。
そりゃ、困ってる人がいれば手を差しべたいとは思う。
でも、命をかけるにはそれなりの理由がないとダメだ。
私はに厚くない。
勝算というのは、単純な経験論だ。
スカル・デーモンは一度倒している。接戦だったけど、今の私なら八割方勝てるだろう。
だめでも逃げられるしね。
いくつか戦闘パターンをシミュレーションして、広間へ突した。
「はっ……はっ……」
デーモンを攪すべく、距離を取りつつその周りをき回る。
戦闘は、ちょっと攻撃食らっちゃってるけど、まぁ予定通り進んでいた。
デーモンの骨は固い。
けれど関節部分はそうでもない。
攻撃力はアホみたいに高いけどスピードは大したことないから、基本的に遠距離から攻撃していれば問題はない。
そんでもって、上に下に攻撃を散らして、隙を見つけて――
「やぁっ!!」
スキル『地』によって加速し、一気に懐へ潛り込み、関節を狙う。
何度も切りつけた右腕の肘関節をうまくフランが捉え、ぶっとい腕を切り飛ばした。
すぐに左腕の反撃が來るが、今度はタイミングよく躱せ、バックステップで距離を取る。
「はぁっ……はっ……よしっ、いいじ」
自分を鼓舞して士気を高める。長期戦になるときは、こういうことも大事だ。ついでに、忌々しげに睨んでくるデーモンにあっかんベーをした。
ここまでくればもう安心。あとは繰り返せばいいだけだ。
さっきまでと同様に、距離を取りながら火魔法と『炎月』で気を引き、隙を伺う。
あーあ、だいぶ時間かかっちゃってるなぁ。心配してるよね、オーワ。ってか心配してなかったら逆に傷つくわ。
余裕が出てくると、雑念もっちゃうなぁ。まぁ大丈夫か。
結構怪我しちゃったし、これはごまかせそうにない。あっ、でも、オーワって治癒魔法使えるんだよね?
あたふたしながら私の傷を治す年の姿を思い浮かべる。
あの子には悪いけど、心配させるのも面白いかもしれない。わざと酷い怪我っぽく演技するのもいいかも。際どいところ怪我したらどんな反応してくれるかな?
なんてことを考えながら、終わりの見えない戦闘にのめりこんでいった。
「オオオ……」
斷末魔とともに、ようやくデーモンが倒れてくれた。
ふぅ~と大きく息を吐き、思わず膝をつく。
思ったよりもはるかに時間がかかってしまった。
なんかだんだん強くなってるような気がしたのは、力の配分を間違えたせいだろう。私が付かれたから、デーモンが強くなっているとじただけ。
最近長期戦やってなかったし。
さすがにもうけないス。両腕を切り落とした後に何度かを切りつけ、さらに『炎月』を放ってようやくダウンって……どんだけタフなんですかあんたは。
「はっ……はっ……はぁ~、うっ……」
イタッ? ……あぁ、これだけの戦いは久々だったからかなぁ、足、攣ってら。
ぷるぷると震える太ももの裏を慎重にばしていく。
でも、これでもう安心だ。あとは近づいてとどめを刺すだけ――
「ひゃっひゃっひゃ!! よくやったぞ冒険者!!」
「がはは、だがあいつは俺たちがもらった!!」
直後、正面から男たちの聲がした。
近い。
しまった、油斷した。
すぐに顔を上げると、武を振り上げこちらへ向かってくる男たちが目にった。
――橫取りだ。
すぐにわかった。
行方不明者が多いのは、単にデーモンの所為だけじゃなかったんだ。こいつらが主犯格で、戦いに疲れた冒険者たちの裝備や採集品を奪っていた――。
よくあることだ。一瞬で儒教が理解できた。
即立ち上がろうとして、太ももの裏が再び痛んだ。
「くぅっ!?」
でも、大丈夫。この程度のことで、あんなやつらに負けるほど私はヤワじゃない。
ふん縛って、ギルドに突き出してやる。
――え?
顔を上げた時、風景に違和があった。
デーモンが起き上がり、後ろから冒険者に迫っていたのだ。しかも、奪ったはずの右腕が再生していた。
うそ……なんで!? 再生能力なんて持ってないはず――
「危ない!!」
「はぁ? 何言って……」
なぜか、駆け出していた。
咄嗟だったからか、それとも普段のクセか……一瞬疑問が過り、でもそんなこと考える間もなく、気が付けば私は冒険者二人を蹴り飛ばし、デーモンの右拳をフランでけ止めていた。
「~~っ!?」
衝撃は、予想をはるかに超えていた。こいつ、戦い始めた頃より強くなっている?
スキル『怪力』発。
なんとかこれで、押し返して――
――その時、背中から激痛が走った。
攣ったのだ。
「うぅっ!!」
瞬間、痛みに反応してが強張ってしまった。
ほんの一瞬だ。
しかし決定的な隙と言えた。
デーモンは素早く右腕を引き、私のおなかへと巨大な拳を下ろした。
「っ!?」
何が起こったのかわからなかった。
その時、私は確かに意識を飛ばしていた。
気が付くとフランは私の手になく、気が付くと、私は押しつぶされるように地面へと叩きつけられていた。
「……ごはぁっ!?」
鉄の味、の匂いが口いっぱいに広がった。
メキメキという音は、地面からしているのか、それとも私ので鳴っているのか。
ほとんど地面と一になっていたからか、それすらわからない。
何度も意識が飛んで、気が付くと。
私は落ちていた。
それから先は、必死だった。
なんとか落下の衝撃を抑えるために、おなかの上にあったでかい拳を橫に逸らし先にあるぶっとい手首を抱え、デーモンを突き落すようにして振り切り、その反発を得て斜め上に飛んだ。
痛みは完全に忘れていた。あれが火事場の馬鹿力ってやつなんだと思う。
そして背中から地面にたたきつけられた。
あぁ、今のが走馬燈ってやつなのか?
いつの間にか夢想にふけっていたことに気が付き、ぞわっとした。
何か考えなくちゃと思うと、年のことが浮かぶ。
オーワ、心配してるだろうなぁ。
あの子、普段は臆病なくせして、危険なときはすごく勇敢だってヨナちゃん言ってたし。魔人との戦いだってがんばってたみたいだしさ。
きっと不安そうな顔まるだしで探してるんだろうなぁ。
想像して、の気が引いた。
私のバカ! なんであの子を連れてきちゃったんだろう。
でもまさか、あんな強いイレギュラーだとはなぁ……これは完全に私のミスだ。いくらデーモンが傷ついてるからって、今のあの子が勝つのは難しいと思う。
デーモンと出會わなければいいけど……。
あぁ、暗いこと考えてちゃだめだ。
別のこと別のこと。
明るいこと考えようとして、それでもとびっきり暗い思い出が蘇ってきて、どうしようもなくなる。
だらけで、それでもどこか満足そうな顔をしたかわいらしい男の子。私の腕の中で冷たくなっていくその子は、最後に言った。
『僕の分まで、幸せになって』
絶が脳に鳴り響き、我に返った。
最後に思い出したのがこれってことは、やっぱり私は死にかけてるんだなぁ。
うっすらと、目の前にかわいらしい男の子の幻影が浮かんだ。
『リュカ姉、リュカ姉?』
ははっ、なんだよぉその顔。久しぶりに會えたんだから、笑いな?
その子の顔は今にも泣きそうで、必死で。
だから私は笑わなくちゃと思った。
私も笑うから、あんたも笑いな?
あの頃と違って言葉にはなってなかった。たぶん笑うこともできてない。
それでも、幻影はどこかほっとした表になった。
あぁ、この幻覚はよくないなぁ。マジで死の一歩手前、ってじ? これは連れてかれるパターンだわ。
でも、迎えがこの子なら、まぁそれもありかなと思える。
誓いは守れたかな? 最後にいい思いさせてもらったから、ギリギリセーフかも。
その思いをするために犯した罪は、重い。一人の年の魂を無礙に扱ったのだから。
だから、これがその代償と言うなら、甘んじてけようじゃないか。最近の私の行と言い、たぶん限界だったのかも、しれんしなぁ。
私は消えゆく意識の中、最後に祈った。
グータラな神様、最後に祈らせてください。
――どうかあの子に幸ありますように。
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