《顔の僕は異世界でがんばる》狡猾な冒険者 8
し遅めの朝食。
ブランチとも言う。ヨナと一緒に摂ると、すごく穏やかなひとときとなる。
昨日は散々だった。
だから今日は休日だ。
自由、最高!
大きくびをする。
今日のようにうららかな休日は、しゆっくりと起きて、ヨナとの優雅な時間を過ごす。
この後は品よくヨナと紅茶片手に読書、おしゃべりにふける予定だった。
――だむだむだむだむだむっ!!
それをぶち破るようなドラミングは、おそらくやつの犯行だろう。
いつも扉が壊れるんじゃないかと思うくらいたたき、勢いよく飛び込んでくるんだ。
こっちがどうぞとも言ってないのに、あの赤髪は!
ヨナの近くにおいてある枕へ手をばす。
「ヨナ、ちょっと借りるよ」
「あ、はい」
今日こそは反省させてやると思い、ヨナの枕を構える。
隙は一瞬だ。
やつの反応速度は人のそれを余裕で上回る。
でっかいを持ちながら、信じられない速度できやがるんだ。
まさに野生。
開いた瞬間、ゼロコンマを超える剎那を撃ちぬかなければ勝利は無い。
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腕に力を込める――取っ手が回される――
――今!!
「オーワさぶぅっ!!」
「あっ……ハ、ハンナさん……?」
バァンっとぶち抜くように扉を開けて飛び込んできたのは、茶髪の付嬢ーーハンナさん!?
赤髪の強襲に備えた枕は、見事茶髪の整った顔を捉え、運エネルギーは余すことなく破壊へと費やされる。
そして全エネルギーをハンナさんの顔へとぶつけた枕は、満足げに、悠々と、垂直に地面へ落下する。
にこやかな顔があった。
しかし極限まで細められたまぶたの奧は、ヒクヒクと痙攣する右頬は、表面とは別のを表している。
の気が引いていくのがわかった。
あぁぁ、ど、どうしよう?
とりあえず口を開いた。
「ご、ご用件はなんでしょうか?」
「その前に言うべきことがあると思うのですけれど……」
ハンナさんのこめかみのあたりが目に見えてピクピクしていた。
そりゃそうです。まずごめんなさいでした。
ってかよく考えたらリュカ姉たちは遠征中でした。けど呆気にとられた僕の心も察していただきたいのであります。
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これはすべてリュカ姉の日ごろの行いの悪さのせいなんです。
溢れ出る言い訳の一切を呑み込んで、深々と頭を下げた。
保、大事。
「ご、ごめんなさい」
「いえいえ、今のは突然押しかけた私も悪いのです」
ハンナさんは気にしてない風を裝いきれずに、そんなことをのたまった。
じゃあなんで謝罪を要求したのでありますか?
まぁそんなこと言えるはずもなく、話は進む。
ハンナさんによると、なんでも湖畔にてアングリー・ホーン(バッファロー型の魔。Cランク)などの魔が異常発生したらしい。
ついさっきルーヘンが帰ってきてそのことを伝えたそうなのだが、あの野郎、こともあろうに二人を置いて逃げ出してきたそうなのだ。
大方、奴隷に戦わせて自分はその隙にトカゲに乗ってトンズラ。おっさんは奴隷のことを見捨てられず、その場に殘ったってところだろうか。
奴隷に対する見方は人それぞれだけど、あのおっさんならそうしても不思議じゃない。
Cランククラスの大量発生はBランク任務だから、普通なら相応の人間に頼るべきなのだが、救助任務を出そうにも、Bランク以上の冒険者たちは地方へ遠征に行っているため、手配できないとのこと。
そこで、先日Bランクの大量発生を解決した僕に白羽の矢が立ったというわけ。
ハンナさんは、ひどく申し訳なさそうに続ける。
「本當はこんなこと間違っていると思いますが、ボーンさん、えっと被害者の一人はギルドの良心と言ってもいい、貴重な人材です。新人育にも力をれてくださっていて、尊敬している冒険者も多くいます。ここで彼を失うわけには……」
「わかりました。じゃあちょっと行ってきます」
そんな顔で頼まれたら、男ならだれでもそっこーオーケーするだろう。逆に言うとそっこーオーケーした僕は立派な男。
論理的な反論はけ付けません。
まぁCランクの大量発生くらいなら余裕かな。でも急いだ方がいいだろう。持ちこたえてくれていればいいけど。
なぜかハンナさんがうろたえている。
「こ、これは命令ではありませんよ!? すごく危険ですし、斷ってくださっても……」
「大量発生の処理は得意ですから大丈夫ですよ。ごめんなヨナ、明日はちゃんと休むから」
聲をかけると、ヨナはにっこりと口をほほ笑ませた。
「いえいえ。お気をつけて、行って來てください」
「あぁ」
踵を返し扉へ向かうと、ハンナさんの聲が追いかけてくる。
「あのっ、どうか無茶だけはしないようにお願いします! くれぐれもご自分の命優先で!」
「了解です!」
笑って親指を立て、外へ飛び出した。
ワイバーンに乗って約二時間。湖畔の周辺に到著した。
ようやく飛行に慣れてきたからか、気負っているからか。特に酔うこともなく、すぐに地上の様子を伺う。
「き、きもい……」
思わずつぶやいてしまうほど、うじゃうじゃと魔がいた。
まるで砂糖に群がる蟻のように、湖の周りに魔が集まっている。あのじだと、この広い森の中全域に魔がいるのだろう。
いったい、何がそんなに魅力的なんだ?
と、そんなことを考えてる場合じゃない。すぐにでも二人を見つけないと。
地上へ降りて手早く使い魔たちを召喚し、散會。ワイバーンは上空から、僕を含め殘りは森の中を探すことにする。
走り回っていると、奇妙なことが分かった。
魔は、どうやら湖に向かっているのではなく、湖周辺から湧いて出てきているようだ。
このじ、オークキングによるオークの大量召喚にそっくりだ。アングリー・ホーン他、種類が様々いることを除けば、ほとんど同じと言える。
まさか、魔人が?
でもこの辺に人の集落は無いし、だとしたら召喚する意味が分からない。
捜索は難航していた。
使い魔たちには捜索第一に行させ、魔は極力無視させているが、なにしろこの広さだ。あの二人のことはよく知らないから、シャドウの索敵能力も働かない。
二人も魔から逃げ隠れしてるんだからすぐに見つからないのは當然だけど、これじゃあ上空から無差別に撃することも、『ヒート・マーシュ』で一気に殲滅することもできない。
もう出したのだろうか。
あの二人はどちらもCランクの魔に後れを取るような実力じゃない。これだけの數になると厳しいだろうが、十分考えられることだ。
でも、その証拠がない。思った以上に面倒だな。
「お――――いっ!! どこにいますか――――っ!? 冒険者ギルドの者ですけど――――っ!!」
僕の聲程度じゃ、大量にいる魔の聲にかき消されてあまり響かない。
あぁ、くそっ。何か手がかりでもあれば……。
「そうだっ」
テントだ。
あいつらテントを張っていたから、そこに彼らの荷があるはず。それについた痕跡をシャドウに認識させればいい。なんで気づかなかったんだ僕!
鉄塊を錬金で変化させた棘で魔を蹴散らし、湖の方へと向かった。
湖に近づくにつれ魔の度が濃くなり、森を抜けた先は、文字通り足の踏み場も無い狀況だった。
瞬間、無數の魔が一斉にこちらを向く。
その速さは、一週間學校を休んだ後に教室へったときの、クラスメートの反応を思わせた。あれは人間の反応速度の限界に近い。
お前ら絶対狙ってやってただろ。ってか限界に挑戦してまで僕の顔を見たかったのか。なにそれ僕超人気者じゃん。
と、余裕ぶっていたが、すぐにそれが間違いだったと気づく。
アングリー・ホーンは、その名の通り攻撃的な魔だ。
異があれば、まず何を置いても排除しようとする。たとえはるか格上相手でもだ。
大量発生において、これほど厄介な相手もいない。
目の前で膨れ上がる剝きの殺気に、反的に使い魔を呼び出そうとがく。
一匹ではなんら脅威にならない。十でも、二十でもそうだ。森の中なら、木々のおかげで一斉に襲い掛かられることは無かった。
けれど、この數で、しかも開けた場所だ。
単騎はまずい。
使い魔たちはそれぞれ行しているため、僕は今一人だった。
一一が弱いからと、油斷していた。
久方ぶりにアラームが鳴り響く。
魔に対する余裕は、一瞬で霧散した。
一秒に満たない、剎那、後。
バッファローがく。
ちょうど、ワイバーンとパンサーの召喚を解いたところだ。
ここに召喚するためには、いったん召喚魔法を解除する必要がある。
解除からの再召喚。
考えうるかぎり最速の対応であり、何度も召喚魔法を使ってきた今なら、數秒程度で発可能なものだ。
けれど、間に合わない。
荒い鼻息と咆哮は大気を揺らし、足踏みは地面を揺らす。繰り出される突進の威力は、地鳴りする地面が雄弁に語っている――
――錬金発。
召喚をキャンセルし、錬金発。
その変更は、反的だった。
手持ちの鉄塊を素早くバリケードに変える。
ただのバリケードじゃない。
表面には無數の棘をつけている。頭からぶつかれば、致命傷は免れないだろう。
直後、轟音と斷末魔が響いた。
――まずい!
第一波によって、バリケードがところどころ凹んでいる。
焦りが浮かんだ直後、第二波に襲われる。
「……っ!!」
凹みはさらに大きくなる。
地面とバリケードの継ぎ目が、ぐらぐらと頼りなく揺れるのを見た。
手持ちの鉄塊は、たかだか五十キロ余りだ。當然、耐久度についての懸念はあった。
けど、これしかなかったということもある。
地中から金屬を取り出して形するのと、手持ちの金屬を作するのとでは発速度に雲泥の差がある。
地中からでも大して時間はかからない。
數秒だ。
でもその數秒が命取りになるということは、すでに嫌と言うほど學んできている。
魔法、魔発までの、わずかなタイムラグ。
これは、魔法使いや魔師にとって避けては通れない、決定的な弱點だ。
――バリケードの補強!
――いやだめだ!
一瞬脳裏に浮かんだ考えを、すぐに打ち消す。
すぐ守りにるのは悪い癖だ。
ここで補強にるなら、召喚魔法を発した方がいい。
すでに待機済みのワイバーンとパンサーを召喚するなら、そのほうが早く済む。二人に攻撃してもらえば敵の攻撃力も落ちるだろう――
――召喚魔法発。
発までの時間。
いつもなら一瞬で過ぎ去る魔方陣の輝きが、異常に長くじる。
バリケードが大きく揺れる――
――倒れる!!
「うわぁあああっ!! あっ!?」
瞬間、ワイバーンが姿を現し、僕を足で摑むと一気に上空へ飛び上がり、地面へ向けて火を噴いた。その行く先を目で追うと、地上ではパンサーが軽やかにバッファローの突進を躱し、反撃に出ているのが見える。
あ、危なかった。最近ちょっと余裕出てきてたから油斷してたみたいだ。
「ありがとう二人とも」
こんなところからじゃ聞こえないだろうけどお禮を言って、火魔法を放つ。
錬金のもう一つの弱點は、地面に手を付けないと発できないということだ。
正確に言うと、対象にれていないとダメ。
手持ちの金屬から錬するときは、それに手をれていないと発しないし、地中から取り出す時は地面に手をれていないとダメだ。
しかも、地中から取り出す時には、対象の距離が遠い金屬ほど作に時間がかかってしまう。
「はぁ……」
宙ぶらりんでため息をついてる様は、さぞけなくみえるだろうなぁ。
想像すると、またため息つきたくなって――。
「――っ!?」
一瞬、斜め前方、地上に異質な魔を捉える――同時に、視界が闇に染まった。
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【第2章完結済】 連載再開します! ※簡単なあらすじ 人型兵器で戦った僕はその代償で動けなくなってしまう。治すには、醫務室でセーラー服に白衣著たあの子と「あんなこと」しなきゃならない! なんで!? ※あらすじ 「この戦艦を、みんなを、僕が守るんだ!」 14歳の少年が、その思いを胸に戦い、「能力」を使った代償は、ヒロインとの「醫務室での秘め事」だった? 近未來。世界がサジタウイルスという未知の病禍に見舞われて50年後の世界。ここ絋國では「女ばかりが生まれ男性出生率が低い」というウイルスの置き土産に苦しんでいた。あり余る女性達は就職や結婚に難儀し、その社會的価値を喪失してしまう。そんな女性の尊厳が毀損した、生きづらさを抱えた世界。 最新鋭空中戦艦の「ふれあい體験乗艦」に選ばれた1人の男子と15人の女子。全員中學2年生。大人のいない中女子達を守るべく人型兵器で戦う暖斗だが、彼の持つ特殊能力で戦った代償として後遺癥で動けなくなってしまう。そんな彼を醫務室で白セーラーに白衣のコートを羽織り待ち続ける少女、愛依。暖斗の後遺癥を治す為に彼女がその手に持つ物は、なんと!? これは、女性の価値が暴落した世界でそれでも健気に、ひたむきに生きる女性達と、それを見守る1人の男子の物語――。 醫務室で絆を深めるふたり。旅路の果てに、ふたりの見る景色は? * * * 「二択です暖斗くん。わたしに『ほ乳瓶でミルクをもらう』のと、『はい、あ~ん♡』されるのとどっちがいい? どちらか選ばないと後遺癥治らないよ? ふふ」 「うう‥‥愛依。‥‥その設問は卑怯だよ? 『ほ乳瓶』斷固拒否‥‥いやしかし」 ※作者はアホです。「誰もやってない事」が大好きです。 「ベイビーアサルト 第一部」と、「第二部 ベイビーアサルト・マギアス」を同時進行。第一部での伏線を第二部で回収、またはその逆、もあるという、ちょっと特殊な構成です。 【舊題名】ベイビーアサルト~14才の撃墜王(エース)君は15人の同級生(ヒロイン)に、赤ちゃん扱いされたくない!! 「皆を守るんだ!」と戦った代償は、セーラー服に白衣ヒロインとの「強制赤ちゃんプレイ」だった?~ ※カクヨム様にて 1萬文字短編バージョンを掲載中。 題名変更するかもですが「ベイビーアサルト」の文言は必ず殘します。
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