《顔の僕は異世界でがんばる》狡猾な冒険者 14
防を揃えた僕たちは、道行く人の視線をけながら鍛冶屋へと向かっている。
ちなみに、視線を一にけているのはワユンだ。當たり前だけど。
なのに當の本人はけろりとしているというか、それに気づいてないじ。
何この子、大なの? 『愚民どもなど歯牙にもかけませんわ、ふんっ!!』てことなの?
いやそれはない。
だとしたら、気づいてないのだろうか、見られまくってるってことに。
鈍なのか? いやいや、そんなわけないでしょう。
我慢してるだけかもしれないな。
「あのさ、ワユン」
「はい、なんでしょうか?」
「これ、羽織る?」
そう言って、僕は普段著の上著を巾著袋から取り出した。
ワユンはそれを見て、なぜか首を傾げる。
「お心遣いありがとうございます。でも、そんなに寒くありませんよ?」
「いや、恥ずかしいかな、と思って」
「恥ずかしい、ですか?」
『どうしてでしょう?』と言わんばかりに首を傾げる。
えっ? うそ、マジで気付いてなかったの?
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「いやその、その格好って、けっこう、その……出度高いじゃない? だからさ……」
あぁぁ、出度高いとか何言ってんの僕マジキモいんですけど!! いや言いたかったわけじゃないんです不可抗力なんです。
ワユンはようやく、僕の言わんとすることが理解できたようで、みるみるうちに赤くなり、慌てて上著を羽織った。
「えっとその……そんなに私の格好、え……えっちでしたか?」
ますます赤くなりながら聞いてくる。
恥ずかしいならもうし言葉のチョイス何とかならなかったのかと問いたいけれど、さっき出度とかほざいた僕に言われたくないだろう。
というか、よく考えたら、以前のボロ布一枚に比べればそうでもないのかもしれない。でも、やっぱまずいよなぁ。
「うぅっ」
答えあぐねる僕を見て察したのか、ワユンは赤くなりすぎてトマトのようになる。完した。
「あっ、でも別にそこまで骨じゃないから! 僕だってそういう目で見てたわけじゃないし! それよりもワユンがかわいいからみんな見てただけだからそんな気にしなくていいと思うな、うん。僕の思い過ごしだったかもしれない、いや思い過ごしだったわごめん!」
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我ながら苦しい言い訳だ。
けれどワユンはおずおずと顔を上げる。
「ほ、本當、ですか……?」
え、うそ信じちゃうの? アホの子なの?
「うん、ホントホント」
「~~~~っ」
小聲でぶつぶつつぶやきながら、ちょっとだけぶかぶかの袖から顔を出す指同士をもじもじ絡める。
やだ何この生かわいい。
ん? かわいい? さっき僕、この子にかわいいって言っちゃってた?
「あぁいや別に、そういう意味で言ったわけじゃなくてその……」
「? そういう意味、とは?」
こてんと首を傾げる。
うわぁ墓。アホの子とは紛れもなく僕だった。アホの子の人気は高い。つまり僕は人気者。なわけがない。
でもまぁ、勘違いされてるわけじゃなくてよかった。
勘違いされると『なにそういうのマジ困るんだけど』とか言われて、告ってもないのに振られるまである。
「いや、なんでもないよ」
「はぁ……」
ワユンはほけぇと聲をらしたが、
「ありがとうございます」
やがてはにかんだように笑って、お禮を言ってきた。
「……ど、どういたしまして」
返事をするのにタイムラグが発生してしまうほど、その笑顔はかわいかった。
道中の高級魔法道店で二百キロまで収納可能な巾著袋を三十萬Gで買い、渋るワユンに余っていた巾著袋(十キロ用)を渡して、鍛冶屋に到著。
を言えばもっと高能なものがしかったが、この町の最高級がそれだったので、文句は言うまい。
三十萬は手痛い出費だが、どれだけ大量の荷を持ち運べるかと言うのは、錬金系統の魔の効果に大きく関わってくるのだから、そこに投資は惜しまないつもりだ。
「ごめんくださーい」
レンガ造りの、いかにも頑強そうな店にると、奧からイエティのような髭もじゃのおっさん――アレックスがぬぉっと現れた。
決して腕っぷしが強そうな家名をもってはいない。佐でもなければ錬金師でもない。
ワユンが後ろで「ひぇっ!」と小さく悲鳴をらす。
あれは半分モンスターだからな、気持ちはわからないでもない。
「おう、なんだ坊主か。剣ならまだできてないぞ」
「いえ、今日はこの子の防を作ってもらいたくて來たんです」
さっと橫にスライドすることで、後ろに隠れていたワユンをイエティにお披目する。
おびえながらも、ワユンはおずおずと頭を下げる。
「え、えぇと、ワユンと申します。どうぞよろしくお願いします」
「アレックスだ。ほぅ……しかしまたずいぶんな別嬪さんじゃないか。坊主のこれか?」
「ふぇっ!? め、めめ滅相もございませぬ!!」
小指を立てるアレックスに、ワユンは頭が飛んで行ってしまうのではと思わせるほど頭を振って否定した。
マッシヴのクセして、どうやらこのおっさんは乙脳をしているらしい。ちなみに乙脳とは、なんでもすぐにと結び付けたがる、なんともウザめんどくさい考え方を指す。
おい、だれかあの指へし折ってくれ。
ていうかワユン、そんな必死に否定しなくても。
否定されると軽く傷つく。まぁ実際その通りなんだけど。
「ワユンはパーティーメンバーですよ。しかもまだ知り合ったばかりです。それよりも、今ワユンが著てるものよりもいいものを依頼したいのですが、この素材で作るとしたらいくらくらいになりますか?」
余っていた素材をカウンターにぶちまけると、おっさんは真剣な表で味し始めた。
「うぅ~む。お前の短剣に使った材料の余りも使っていいなら、それなりのは作れるぞ? 値段は、そうだな、これだけ素材があれば三萬ってところか」
「三萬!? い、いいんですか……?」
三萬て、中古武の半額じゃねえか。しかも能はずっといいだろうし。
ワユンも口を開けて驚いている。
そんな僕たちの顔を見て、アレックスは二カッと笑った。
「まぁほとんど材料はそろってるしな。それにお前の短剣と防でえらく稼がせてもらったから、これくらいはサービスだ」
「「ありがとうございます」」
二人でお禮を言うと、照れくさそうにアレックスは作業に取り掛かった。
サイズを測り終わり、一週間後に取りに來ることを約束して、僕たちは店を後にした。
ったくおっさんめ。奧さんが出かけてるのをいいことに、ワユンのスリーサイズまで測りやがって。絶対役得とか思ってやがるよな。
けれど、イエティからセクハラまがいの神攻撃をけたにもかかわらず、なんだかワユンの機嫌はいいように見える。
というか、昨日に比べて、明るくなってきたような気がする。
「機嫌いいね?」
「えっ? す、すみません。ただちょっと、いつもと違うところにいるような気がして、がポカポカするんです」
がポカポカ? どういうことだ?
僕が首をかしげると、ワユンは優しく目を細めた。
「優しい街、だったんですね、ここは。知りませんでした」
「優しい街、ねぇ……」
それはどうだろうか。
僕も含めこの町の人々は、今までワユンを見捨ててきた。日本だったらまず考えられないことだろう。
そんなこと、當の本人が一番わかってるはずなのに。僕もこの町も、決して優しくないということくらい。
複雑な気持ちを振り払い、巾著袋からクスリ専用袋を取り出した。
「ワユン、これから魔の討伐に行くわけだけど、もしもの時のために薬を渡しとくね」
「お薬、ですか?」
「そう。えっとこれが止用の塗り薬で、これが痛みを抑える塗り薬。あとこれがおなか痛くなったときにとりあえず飲んでおけばよくて、これがヘビ型の魔に噛まれたとき用の飲み薬。それから……」
左から『止、鎮痛……』などと蓋に書かれている小瓶をいくつか取り出して、ワユンに渡す。昨日のうちにわけておいたのだ。
「こ、こんなにたくさん……あのその、こんなお高い……」
個々はそれほど高くないが、中には珍しい薬もある。合計すればそれなりの値段になることは、仮にも冒険者であるワユンにはわかるのだろう。
「いや、それ全部手作りだから、タダだよ」
「手作り!? ……お薬って、自分で作れるものなんですか?」
「作れないこともない、とは思うけど」
どうなんだろうか。
勉強して実踐して、<調薬>のスキルさえにつければ作れるって言うのは、この場合の作れるとは意味が違うような気もする。
「結構頑張らなきゃいけないだろうね」
「はぁ」
「それよりもこっち來て」
ちょうどよく町の外に出たので、はぐらかすついでに街道から逸れて、町の塀のにワユンを連れてきた。
「えぇと、オーワさん? 私、その……」
「出でよ、<ワイバーン>」
ワイバーンを召喚する聲が、ワユンの話を遮ってしまった。
魔方陣が現れる瞬間、ワユンが赤くなっているのを確認する。
――ワイバーン登場。
「ふぇえっ!? あぁ、そうか……」
ワユンは悲鳴を上げるも、すぐに狀況を理解したようだ。呆けた顔でワイバーンを見上げている。
「ドラゴン・サマナー……初めてみました……」
「そんなたいそうなものじゃないよ」
僕自の力って言うより、ただ與えられただけだから。
「それより、話遮っちゃってごめん。さっきなんて言おうとしてたの?」
「へっ? あっ、すみませんすみませんなんでもございませぬただの勘違いでしたので申し訳ございません!!」
「そ、そう……」
なんかすごいまくしたてられた。
ま、いっか。
ワイバーン兄貴に頼んで、頭を下げてもらう。
「この辺りに乗って」
「は、はい……」
僕が指し示すところへ、ワユンはおそるおそる近づいていく。
そして一拍置いて、「えいっ」というかわいらしい掛け聲とともに、ワユンはその首にった。
「……の、乗れた!! 私、ドラゴンに乗っちゃってます!!」
きゅぅっと閉じられた目をゆっくりと開いた瞬間、ワユンは歓聲を上げる。
すごいはしゃぎっぷりだ。
一応湖から帰ってきたときも、意識が無かったとはいえ乗ってたんだけどな。
まぁ、子供のようにはしゃぐワユンにそんな無粋なこと言えるはずもなく、僕は苦笑してその後ろに飛び乗った。
「じゃあワユン、準備はいい?」
「はい!! きゃあっ!!」
ワユンの弾むような返事と同時に、ワイバーンは首を持ち上げる。
そして――
「きゃああああっ!!」
――勢いよく空へと舞いあがった。
ワユンの悲鳴は、恐怖と歓喜が半々にり混じっていて、なんか遊園地のジェットコースターを思い出させられた。
空を飛ぶなんて初めてだろうに、妙なところで勇敢だな。
飛び上がった後、ワイバーンにいったん滯空してもらい、ワユンに尋ねる。
「どう? 大丈夫?」
「最高です!! 空を飛べるなんて夢みたい!!」
「まだ浮いてるだけだけどね。飛ぶのはこれからだよ」
どうやらワユンは、こういったアトラクションが好きらしい。なんかキャラに似合わない気もするけど、それならばやることは一つだ。
『兄貴、最高速で空してください。楽しさ重視で』
命令すると同時にワイバーンのが撓み、次の瞬間、僕は調子に乗ったことを後悔した。
「――――っっ!?」
「きゃあああああっ!!」
速い速い速い!! お腹がふわってなるなんてもんじゃない!!
ジェットコースターなど所詮は道楽なのだと、はっきりとわかった。あんなの絶系じゃなくて失笑系だよ。ジェットコースター(笑)だよ。
そんなふざけた想をに抱いて、ワユンの歓聲を子守唄に僕の意識は薄れていった。
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