《顔の僕は異世界でがんばる》狡猾な冒険者 16
一週間が経ち、僕たちは再び鍛冶屋アレックスのもとを訪れていた。
ワユンの特注の防をけ取りに來たのだ。
見た目は、依然と全く変わりない。
いやいや、なんでもうし面積増やすとかしなかったのアレックスさん。明らかにチューブトップ小さいままじゃん。でもナイス。すてき。
ただし、ブーツや手甲など、細部がし異なっている。
脛まで覆うブーツと腕についた手甲は、前面だけい素材を使っているからすごく軽いらしい。
左太には小さな投げナイフを五本裝備している。
また、襟首のマスクは対毒に優れ、なおかつ呼吸を阻害しにくいという矛盾に満ちた高能を誇る。
なんか、前にもましてアサシンチックだ。
ワユンの格でアサシンってなんかちぐはぐなじがするけど、見た目は、なんていうか、いい。
この一週間、ワユンと一緒に行してきたが、最初は戸っていたものの、彼は大量発生地帯でも問題なくけていた。
彼はずっと前衛として戦ってきたらしく、特に相手の攻撃を躱してカウンターを與える技が凄まじかった。他にも『當て逃げ』や『死角に潛り込んでからの攻撃』は、リュカ姉にすら通用しそうな勢いだ。
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ヒット&アウェイの稱號は、彼に譲ろうと思う。
収穫は彼と半々にしようと思っていたが、頑なに拒否されてしまった。ほとんど僕の使い魔たちが倒しているから、ワユンは自分が倒した分だけで十分だそうだ。
でもそれじゃパーティーの意味ないよな。それに、パーティーならやっぱ平等に分け合うのが筋だろう。
そんな思いもあって、互いに話し合った結果、結局七対三に落ち著いた。
平等じゃないけど、まぁ自分の価値観を押し付けすぎるのもよくないだろう。
そして得た素材を、ワユンは自分の防を強化するために、毎日のようにこの鍛冶屋へ持ってきていたのだ。
思った以上に稼げることが分かってからは、投擲用の投げナイフも五本頼んでいた。
ワユンがしいて、きやすいというと、アレックスがにっと笑う。
「がはははっ!! そうか気にったか! よく似合ってるぜ、なぁ?」
「う、うん。に、似合ってる、と、思う」
こっちに振られて、反的に本音が出た。
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なんか気恥ずかしくて、そっぽ向いてしまう。いやだって、これはしょうがないだろ、慣れてないんだから。
キモがられてないか? 今ワユンに『キモッ』とか言われたら、いくら耐がある僕でも重癥は免れないだろう。
一瞬、死ぬほど張する。
「ほ、本當、ですか?」
「え、えっとその……うん」
「ありがとう、ございます」
ちらと見ると、ワユンははにかんでいた。なにこのラブコメ展開。一瞬僕のこと好きなんじゃないかって錯覚しちゃったじゃないか。
危ない危ない。
勘違いは火事のもと。命に関わるから要注意。
「仲いいなおめえら……ってどうした?」
「あ、い、いえ」
仲いいな、だと? それは僕たちに向かって言ってるのか?
初めて聞いたよそんな言葉。文字通り初めて、生まれてから、生涯で初めて。
不覚にもしちゃったじゃないか。思わずうるってきたのはのせいだと思いたい。自分を慘めだと思ったからじゃない、斷じて。
「まぁいいか。それよりもほれ、坊主の武だ」
そう言ってアレックスが取り出したのは、黒い刀に赤い紋様が刻まれた、なんか禍々しいじの脇差だった。
柄の先には赤黒い寶玉が組み込まれている。
「ちょっと振ってみても?」
「あぁいいぜ。ただし店に傷はつけるなよ?」
許可を得て三度振ってみる。
うん、軽い。でも脆いじはしないし、重心もちょうどいいじだ。
次に魔力を籠めてみる。
通りやすい!! しかも、増幅の幅が比べにならないくらい大きい。
僕の驚きを察してか、アレックスが自慢げに鼻を鳴らす。
「どうだ、すげぇだろ。その脇差にゃあ三個分の寶玉が組み込まれてるんだぜ? しかもブラッディ・オーガなんてレアなやつの角を使ってるから、軽量化しても強度は十分だ」
「三個? でも、どこに……」
魔力の増幅は武に込められた寶玉を通して行われるため、基本的にはその武の大きさに比例する。いい寶玉や素材を使っていれば別だけど。
「その赤い紋様だ。実はこの刀、中にし空があってだな、そこに形を変えた寶玉を組み込んであるってわけだ。當然、柄の中にも組み込まれてるぜ?」
「……それで強度に問題はないんですか?」
僕の聲が懐疑的になるのはしょうがない。
だって、戦闘中にポキリッなんてシャレにならないじゃん。
「ない。俺が言うんだ、安心しろ」
そう言ってを張るアレックスを見ると、信じないわけにはいかなかった。それに、なんだかんだいい武だと思うし。
ワユンが普段著に著替えたあと、僕たちはアレックスにお禮を言って、鍛冶屋を後にした。
今日は一日オフだ。
人間、休息は大切である。じゃなく、心のために。
いくら使い魔たちのおかげで楽できているとはいえ、日々、命がけの職場だ。気づかないうちに神はすり減っている。
一瞬の気の緩みが生死に関わる以上、冒険者にとって休息は半ば義務に近い。
そんなわけで暇な僕は、ワユンに町の中を案することにした。
まだ異世界に來て數か月の僕が、何年もこの町にいるワユンを案するというのもおかしな話だけれど、その長い期間、彼に自由は一切なかった。
當然、娯楽を楽しむことも。
とはいえ彼も、これからは自分の意志で楽しみの場を見つける必要があるのだ。
生きるために。
なのでこれは、彼の自立を手助けする者としての義務となる。
け、けけ決して、デデデートとかいった浮ついたものではないのだ!
「わ、ワユン?」
「はい」
ヤバいどもった。落ち著け僕。普段通りでいいんだ。
この日のために毎晩部屋でシミュレートしてきたじゃないか。案するべき場所もピックアップしてきた。
大丈夫、大丈夫。
なにやら深刻な空気をじ取ったのか、真剣な表のワユン。どうやら僕は相當固くなっているらしい。
「どこか行きたいところある?」
「行きたいところ、ですか?」
言って思った。
これはミスだ。町のことを知らないワユンに「どこ行きたい?」ってアホか。
「ごめん、いきなり行きたいところって言ってもわかんないよね」
「へっ? いえあの、す、すみませんっ!」
「いや、悪いのは僕だよ。ごめん」
お互いぺこぺこしてしまう。なんだかいつもと違う雰囲気なのは、たぶん僕の調子がおかしいからだろう。
ワユンの嗜好を思い出せ。
好きな食べ、甘い。これは晝休憩のときでいい。
好きな……そういえば、ワユンの好きなってなんだ? の子と言えば、やっぱファッションか? かわいい服? アクセサリー?
そういえば、武を見てるときは楽しそうだったよな。
なら、武屋?
想像してみる、ワユンと武とそれが有効な魔について考察する姿を。
……いや、なんか違うだろう。
それじゃいつもと大して変わらないじゃないか。
「ワユン、ちょっとよさげな服屋にでも行ってみない?」
「はい、お供します」
「……いやあの」
お供するのはこっちの方だと思うんだけど。やっぱ興味ないのかなぁ。
いや、行ってみないことにはわからないだろう。ワユンは初めてなんだ。
「まぁ、行ってみようか」
服屋、アクセサリー屋は、結果から言うとあまりよくなかった。
ワユンは、服を見た目で選ぶということを知らないらしく、加えてひけらかすのが好きでない格も相まって、自分で選んで試著してくれない。
僕が選んであげればよかったのだろうが、的センスなど皆無だ。それにぼっち歴=年齢を舐めてもらっては困る。『これを著てる君を見てみたい』だとか『かわうぃーね!』などと言った、いわゆるリア充タームを軽々と創出してのけるほど、僕のコミュ力は高くない。
アクセサリー関連も、同じ理由であまり盛り上がらなかった。
でも、どちらも観賞には堪えたらしく、退屈そうではなかった。まぁ、綺麗なもの見てしがるというより、珍しいを見て好奇心をそそられるってじだったけど。
これも一つのウィンドウショッピングなのだろうか。
そんなじでいまいち盛り上がらないなりにゆったりと観をして、ちょうどいい時間になったので、こぢんまりとした、けれどおしゃれな雰囲気の喫茶店に足を踏みれた。
喫茶店とはまた現代的であるが、それはこの町が発展していることを表している。喫茶店を利用するような、ある程度余裕のある人が多いということだ。
それは高ランク冒険者に限らない。
冒険者が多いこの町では、さまざまな原材料が安く手にる。それらを買い付けにやってくる商人も多ければ、珍しいものを求めて貴族の使いがやってくることも多い。
それに通の便もいい。比較的港町<ミスナー>に近く、<ジラーニィ>を代表するいくつかの町から王都へ向かう主要な街道の中継地點でもある。
原材料が安くて人も多いとなれば、店も多くなり、それがさらに人を呼ぶ。こういったスパイラルによって、領土でも有數の都市として知られている。
そんなわけでそれなりに數ある喫茶店の中でも、ここは自信アリ。ハンナさんからの口コミがきっかけで知ったのだが、ここのケーキはうまい。
特にここのミルフィーユは、甘黨を自稱する僕をして、甘いと言わしめる甘さを持つ。
この世界の食文化で唯一足りないと思っていたのが甘味だったが、それはここを紹介されてから払拭された。
クッキーと濃厚な甘さを持つなめらかクリームが互に重なったそれは、イチゴのような果である<ロストベリー>を加えて、甘さの中にも絶妙な酸味を持つ、甘いのにくどすぎない上品な逸品に仕上がっている。
多値が張ることを差し引いても、ここには足繁く通う価値がある。
出てきたミルフィーユをワユンは珍しそうに観察し、すんすんと匂いを嗅いでいた。ともすれば店に対して失禮な行為だけれど、なんか子供みたいな雰囲気なのでむしろ微笑ましい。
「いい匂い……これはなんて言う食べでしょうか?」
「ミルフィーユ、って言うんだ。ケーキの一種。ここのはすごく甘くておいしいんだ。食べてみてよ」
言われるがままに一口食べたワユンを見て、ここに連れてきたのは正解だったと確信する。
なんて幸せそうな顔して食べるんだ。頬緩みすぎ、尾バタバタさせすぎ。
夢中で獲と格闘するワユンを見つつ、これからの予定をぼーっと考える。
この世界に娯楽は多くない。
貴族たちならいざ知らず、庶民の娯楽なんてショッピングか酒、くらいだ。ちょっと余裕があり多學もあれば、そこに本も加わる。
娯楽かぁ、やっぱこの後は武屋かなぁ。まぁ間違いはないだろうけど、でもなんかなぁ。
「オーワさん?」
「ん? なに?」
「えっと、その……私、こういうの初めてなので……すみません!」
なぜか頭を下げられてしまった。
「え? なんで謝るの?」
「あのその、せっかくのお休みなのに、お時間とらせてしまって……私なんかに付き合うの、めんどくさいというか、退屈ですよね? 私今も、ケーキに夢中になっちゃってましたし……」
「いや、それはむしろうれしいよ。おいしかった?」
「はい、とっても」
はにかむワユンは、だけどどこか影があるように見える。
そうだ、ワユンはこういう子だ。
まだ出會ってから一週間とはいえ、ほとんど四六時中一緒にいれば、いくら僕でもしくらいその人となりはわかる。
もともとぼっちという生きは、観察能力に長けているのだ。常に妬ましくうらやましく思いながら、人を見てるから。そして一人でその面について悶々と考えるのだ。
ワユンは、過剰なくらい気を遣う。加えてこの子は、僕に恩義をじているんだ。それはすごく心苦しいことだけど、事実、そうだ。
ならば何をしたところで、僕が楽しんでなければ気を遣ってしまうだろう。
きっと、僕が楽しんでないことを自分のせいにして、責めるはず。
なら僕は、どうすればいいのだろう……。
「……ねぇ、ワユン。僕に短剣の使い方教えてくれない?」
「はい?」
唐突過ぎただろうか。ワユンはぽかんとした。
「いや、そのさ、僕はあまり接近戦得意じゃないから、ワユンみたいにけたらいいなってずっと思ってたんだ。もしこの後時間作ってもらえたら、うれしい」
「へ? あっ、はい!! 私でよろしければぜひ!!」
一転、急に華やいだ顔を見て、僕は思った。
どうやら目論見は功したらしい。
でも、いったい何がそんなにうれしいのだろうか。僕にとってはありがたいんだけど、ワユンには何の利益もないはずなのに。
けっぱなしだった恩を返せる、とか?
でも僕がしたことと言えば、所詮自分にとって都合が言いようにワユンにを押し付けてただけだ。
「オーワさん?」
「あぁいや、なんでもない。じゃあよろしく」
考え過ぎだ。
深く考えることが悪いことだとは思わない。
けど、今は必要以上に悩んでいいときじゃない。せっかく教えてもらえるんだから、純粋にそのことだけに、沒頭しよう。
なにせ、イヌ耳との個人レッスンだぞ?
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