《顔の僕は異世界でがんばる》狡猾な冒険者 26
「じゃあ言ったとおりによろしく。もしちょっとでも手を抜いたら餌にするから」
「わ、わかりました……」
貿易都市テオサルにチビを投下し、念りに脅す。
二人組を捕縛し拉致った後、僕はそれぞれにミッションを與えていた。
ノッポの方は王都クレンピアで、チビの方は貿易都市テオサルで、それぞれ噂を広めさせる。
容は、ルーヘンが無実の町娘を襲い、返り討ちに遭って賠償金を払ったということ、そしてオーワという冒険者に濡れを著せ、一度捨てた奴隷を取り戻したにも拘らず、逃げられたということだ。
すべて事実。ノンフィクション。
プネウマではハンナさんに報を流してもらっているし、明日にはジラーニィでも同じ報を流してもらう予定だ。
ノッポは臆病そうだし、あれだけやったのだから、たぶん真面目に作業してくれるだろう。問題はチビだけど、ちょくちょく様子見にくればいいだろう。
最悪おやつにしてもいいんだし。
港町<ミスナー>はいいや。たぶん僕の味方だろうし、あんまり大勢には影響しない。
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さてと、僕は僕でまだまだやりたいことが山ほどある。
とりあえず商業都市でルーヘンにまたちょっかい出して、プネウマで町長たちを脅して、かつての『ご主人様(笑)』にご挨拶ってところか。
まずは商業都市。
ちょうど日が暮れ始めたので、抜け道の中で仮眠をとることにした。
午後二十二時。
さっそく抜けから拷問部屋らしきところへ侵した。
シャドウに偵察させたところ、地下には數名、警備員が巡回しているらしい。さらにルーヘンの部屋の前にも警備兵が配置されているとのこと。
ちっ、ビビりめが。めんどくさいことするじゃないか。
まぁ予想はしてたけどな。
とりあえずいったん出して、今度は塀の外から敷地へ侵する。
ルーヘンの部屋は二階だ。だから侵するにはまず飛ぶ必要がある。
正直、警備兵に気付かれそうだから飛ぶの嫌なんだけどな。この際だからしょうがない。
右見て左見て、念のためシャドーと再召喚したピクシーに左右を張らせ、ノームとアプサラスに引き上げてもらう。
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端から二番目の窓に近づき、おそるおそる中を覗く。
……當然だが、カーテンが引かれ、中は見えなかった。
くそ、々しいことしやがってからに。カーテンなんか似合わなすぎるだろうが。
……しょうがないか。
直接ちょっかい出せないのは殘念だけど、どうせ今日は大したことするつもりじゃない。
二人に下ろしてもらい、シャドウとノームに指示を出して、僕たちは抜け道から外へ出た。そしてピクシーとアプサラスに頼んで塀からし顔を覗かせ、部を伺う。
シャドウが、窓に何かしている。
いや、ただノックしてるだけなんだけどさ。たぶん目が覚めてるだろうから――
――バタン!!
「誰だぁっ!!」
予想通り、勢いよく窓を開けてルーヘンがび聲を上げた。やっぱ僕を警戒して起きてたか。
しかしシャドウはすぐに闇へ紛れてしまったため、もうそこには何もいない。
代わりに、警備兵たちが集まってきた。
「どうされましたか?」
「侵者だぁ!! 誰かが僕ちんの部屋の窓を叩いてた!!」
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狂ったように喚くルーヘンに、若干警備兵が困しているような雰囲気が伝わってきた。
まぁ、王の力でルーヘンのパニックを煽ってるんだけどさ。にしてもどんだけ警戒してるんだよあいつ。
――と、
「うぎゃっ!!」
突如ルーヘンの悲鳴が起こり、次の瞬間ドサッと何かが地面に落ちる音がした。
「ルーヘン様!!」
慌てて駆け寄る警備兵。どうやらルーヘンが窓から落ちたらしい。
やべ、あそこまでしろなんて言ってなかったんだけどな。無意識にあいつへの恨みがノームたちに伝わってたか。
死んでなきゃいいけど。本番を控えてるっていうのに。
ノームには、遠くからルーヘンに石を投げつけろと命令した。シャドウには、窓をノックしてルーヘンをおびき出し、隙があれば嫌がらせもしろと言いつけてある。
どうやら、ノームがルーヘンの顔面に石をぶつけて意識を奪い、シャドウが部屋の中からやつの足を持ち上げたらしい。結果、ルーヘンは頭から地面に激突ってわけだ。
というか、あの中でよく侵できたな、シャドウ。
本當ならシャドウに一晩中嫌がらせさせておくつもりだったけど、あれじゃどうせ診療所送りだろうし、これ以上時間をかけるわけにはいかないから、これくらいにしといてやろう。
とりあえずシャドウとノームの召喚をいったん解除して、僕は都市を後にした。
次にプネウマ。
アプサラスに、殺さない程度に遠くから三人に魔法攻撃するよう命じて、町を後にする。
彼のことだ、最大限僕の意図を汲み取って、最高の結果を殘してくれるはず。
とにかく、怯えさせてくれ。
そして僕は、懐かしきかな奴隷商のもとを訪れていた。
午前一時三十四分。
ここへは特にバレ厳とか関係ないけれど、一応予定外にもシャドウがいてくれることだし、せっかくなので彼を纏って外套を羽織り、オーワ巨バージョンにて正門から堂々と場する。
警備兵たちは問答無用で錬金にて拘束し、サクサク進む。使い魔はアプサラスとシャドウ以外解除しておいた。
これでこいつらも、オーワにやられたとは思うまい。まぁばれてもいいんだけどさ。ここでは。
そして忌まわしき商人の部屋へと到著した。
扉を火魔法で破壊し、中へ。
「きゃあっ!!」の悲鳴。
「だっ、誰だ!!」ご主人様(笑)。
「お久しぶりです、元ご主人様」
白々しい口調で恭しくお辭儀する。ついでにピクシーを召喚し、明かりをつけた。
「フェアリー……まさか……」
怯えた表の中年は、隣に奴隷であろう、素っの若いをはべらせている。
行為の最中申し訳ございません。ってか結構な騒ぎだったと思うけど、よく続けられるよな。そんなんだからガキに逃げられるんだよ。
フードを取り払い、纏わりつかせていたシャドウを解除する。
「えぇ、そうです。いろいろお世話になったのでご挨拶に伺いました」
「なっなに……?」
「おかげさまで、晴れて罪人の仲間りですよ? どう落とし前つけてくれます?」
こいつがルーヘンとつながってると言うのは、僕の罪狀を見れば明らかだ。それに奴隷にされた恨みもあるし、ひどい扱いをけていたヨナのこともある。
まぁこいつが気にってくれてたおかげで獄できた、ってのもあるけど、差し引いたとしてもダメだ。ぎるてぃ。
錬金で拘束する。
「ひぃっ!! ゆ、許してくれ!! 脅されて仕方なかったんだ!!」
「へぇ、そうです? まぁあなたの事なんて知ったことじゃないんですけどね」
よかった臆病者で。というかそんなに自分大事なら、盜賊なんかと手を組んだりしなきゃいいのにな。
せっかくなのでパンサーを召喚し、おすわりさせる。
「なぁパンサー。贅たっぷりの人間ってどう?」
尋ねると、『大好きっ(はぁと)!!』と言わんばかりに舌を出して、ハッハッと唸る。犬かよ、君は。
それでも巨大な林の王者としての威圧は衰えていないらしく、それはもうガクブルと顎を震わせ、商人は怯えている。
「ひぃっ!! たた助けてくれぇ!!」
「う~ん。言うことなんでも聞いてくれたら、許してやらないこともないんだけどなぁ」
確かにこいつにはムカついてる。
けど、こいつにはそれなりに重要な役目をしてもらわなければならない。それに、確かに偉そうな顔して毆ってきたり、怒鳴ってきたけど、別に僕を害するのが目的じゃなかったというのもあった。ヨナを特別に害したわけでもない。
まぁ元をたどればこいつが悪いのだけど、それでもまだ、檻の中で僕をいじめてきたやつらの方が憎いくらいだ。
だからこのセリフは本當。
「きっ、聞きます!!」
「本當に? 何でもだよ?」
「もっ、もちろんですとも、へへ……」
びた笑顔だ。なんか腹立つな。
でもこういうやつは、扱いやすくていい。最悪王の力で無理やりとかも考えたけど、スムーズに事を運べそうだ。
「よしわかった。あぁでも、大丈夫だと思うけど、もし裏切ったりしたら遠慮なくこの子のおやつにするから。べつにお前なんて殺してもそんな困らないし」
「うっ裏切るなんてそんな、滅相もございませんよ、へへ……」
よしよし、では早速。
まずはルーヘンとの取引と、盜賊との不正取引の証拠を沒収し、それから金銭を々に、布をありったけ。加えて僕をいじめていた檻の連中のうち殘っているやつらと、盜賊との不正取引によって売られた奴隷、併せて二十人を解放させた。
衝撃だったのが、ルーヘンと、と言うよりギルド長を含む多くのお偉いさんとこいつが、裏で手を組んでいるということだった。
見て見ぬ振りするから、上玉を売れ。
そういうことだ。腐ってやがる。
奴隷商は終始助けが來ることを期待していたようだけど、殘念。部屋の周りはノームとウィルムが警護しているから、それはありえないのです。
「さてと、じゃあこの三人を僕の奴隷にして」
かつて僕を見下し、へらへら笑っていた男たちを指さす。
彼らは一様に青くなった。
「ふっふざけんな!! 誰がてめぇなんぞの……っ!!」
パンサーの一睨みで靜まる。
あぁ、そういえばこいつ、僕が來るまでカースト最下位だったやつか。まぁこいつが売れ殘りってのはうなずける。
「へ、へい、わかりやした。でもだんな、殘りはいいですかい?」
「あぁ、うん。殘りの人たちはちょっと仕事を頼むけどすぐ解放する予定だから」
ていうか奴隷なんていらないし。奴隷契約したのも無駄な抵抗しそうな奴だけだ。
奴隷印は、特殊な魔法道によって、左、心臓の位置に刻まれていた。
刻まれる、といっても焼印ではなく呪いのようなものらしいけど、にしても痛そうだ。
あぁ、奴隷になる前に逃げ出せてよかったなぁ。
「終わりましたぜだんな、へへ……」
「ん、ありがとう。じゃあ今日のところはこれくらいかな。とりあえず明後日の朝八時にプネウマの正門わきに集合ね」
そう言うと、奴隷商は固まった。
「ま、まだ何か……?」
「いやいや、あとはそんな大したことじゃないよ。ただみんなの前で『私はルーヘンに脅されました。オーワは無実です』って公言してくれるだけでいいからさ」
「へ、へぇ……」
「大丈夫。僕側の協力者はたくさんいるし、あんたもそのうちの一人になるだけでいいから。何も不正に取引したと言えなんて言ってないから。これが終わったら、自由だよ」
パンサーに凄まれて、奴隷商は頷くしかないようだった。
リヤカーのような形をした専用の荷臺を借り、それをパンサーに引かせて森の中を行く。明かりはいつものようにピクシーが擔當し、ノームとウィルムに引き続き戦闘は任せてある。
解放された奴隷たちはみんなポカンとしていて、何が何だかわからないという狀況だったが、僕が手を上げると注目してきた。
うぅ、張する……。
不正に取引されていた奴隷たちのほとんどは、見目麗しいお嬢さん方だった。四人ほど男もいたが、綺麗な顔立ちをしている。
僕は今日一番の正念場を迎えていた。
「え、えぇと、その、み、みなさん。僕の名前はオーワです。よろしく……」
なぜ自己紹介だ?
あまりにアホらしすぎて、他人事のように突っ込んでしまう。
落ち著け、言うことなんて決めてたじゃないか。
気を取り直して。
「み、みなさんを解放したのは、ある仕事を手伝ってほしいからです。それさえ済めば、皆さんは晴れて自由の。必要なら資金も工面しますし、帰る場所がある方は送り屆けます」
なんてたどたどしい演説だ。我ながら酷い容にあきれてしまう。
けれど、そんな様子が逆に功を奏したのか、場を包んでいた張のようなものが薄れていくのをじた。
ちなみに奴隷の三人組は黙らせてある。命令って超便利。
おずおずと、一人が尋ねてくる。
「し、仕事とは……?」
「テオサルやハンデル、クレンピアと言った主要な都市で、ある噂を広めてくれるだけで構いません。噂の容は……」
僕は一通り説明した。と言っても、糞冒険者二人組に広めさせてるのと同じ容だけど。
「そ、それだけで……?」
「えぇ。それだけとは言いますが、これは僕の進退に関わる重要なことなんです。上手くいかなければ僕は濡れを著せられたうえ、処刑されてしまいます」
だんだん慣れてきた。ちょっと悲壯漂う演技をしつつ、暗に『失敗したら君たち奴隷戻りだよ』と伝える。
続けて、今までの経緯を、軽い腳をつけつつ簡単に説明して、いかにルーヘンが屑であるか、いかにして僕がみんなを救ったか、そして何より、みんなの立場が今どのようになっているかを伝えた。
「――――どうか、憐れな僕を助けると思って、この仕事をお引きけしてくださると助かるのですが……」
涙を流すのは得意技だ。小學生のころは泣けば何とかなってたなんて時代もあった。あのころは平和だったなぁ。
目論見は功した。優しげなお嬢様と男の子たちということもあって、みんな快く承諾してくれる。
その後何人かに終わった後の待遇について質問され、丁寧にけ答えしていたころ、プネウマ周辺に到著した。
ノームに頼んで即席の地下室を造らせる。
「申し訳ございません。今日のところは倉しか用意できませんが、作戦中、寢食に困らないよう資金や資もちゃんと用意してありますので、今日のところはひとまずここでお休みください」
倉、と稱したが、とてもそんなものじゃない。
十分な大きさのロビーに、奧へ続く廊下には個々人の部屋まで備わっている。
部屋の中には土でできたベッドがあり、布団類の代わりに奴隷商から貰った布が置かれている。寢心地はよくないだろうが、それくらいは我慢してもらおう。
ロビーに水と食料を置き、念のためノームに見張りを頼んで、いったん仮眠を取るべくハンナさんの隠れ家へと引き上げることにした。
さ、さすがに疲れてきた……。
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