顔の僕は異世界でがんばる》狡猾な冒険者 27

翌午前九時頃。

そろそろき過ぎで疲れてきたなぁとかなんとか思いつつ、昨晩の人たちと合流し、割り振りを行った。

王都組、商業都市組、貿易都市組。

それぞれ七人、六人、四人の割り振り。すごくてきとーだけど、まぁ大丈夫だろう。

奴隷三人組はとりあえず放置。もちろん拘束したままだ。やつらには今晩、重要な任務が待っている。

さすがにワイバーンで一斉に移と言うわけにはいかない。王都から順々に運んでいくと、あっという間に午後五時を回ってしまった。

そして代わりにチビとノッポを回収し、商業都市、ベーゼ伯亭の脇にやってきた。

「ルーヘンに、明日の十三時、中心街にオーワが現れると伝えてくれ」

ルーヘンはよほど一昨日のことがショックだったのか、引き籠ってしまっている。まぁ、あれだけのことがあったんだ、気まずいのは當然だろう。

けれどそれではダメだ。なんとしてもやつには明日の正午、町の中心街に來てもらわなければならない。

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「そっそんなこと、あいつが信じるわけ……」

チビの反論を一刀両斷。

「言えば信じるさ。信じなくとも、様子だけは確認しに來るはず」

それに後で、念押ししとくつもりだし。

ノッポがおずおずと口を開いた。

「で、ですが、俺たちなんかが會えるでしょうか……?」

「會うんだよ。まぁオーワについて報があるとかなんとか言えば大丈夫だろ。あぁ、ちゃんと見張りはつけとくから、もし勝手なことしたら……いや、お前らをればいいのか」

「わっ、わかったわかったから!! 必ず功させます!!」

初めからそう言えよ。無駄な時間使っちゃったじゃないか。

いそいそと正面門へ向かう二人にシャドウを張りつかせ、その間にアプサラスと合流する。

「お疲れ様、アプサラス」

うりうりでる。……相変わらず無表だなぁ。

ピクシーとノームを召喚し、二人に今晩までの命令を下した。

『思いつく限りありったけルーヘンの悪口を城壁に書き込んできてくれ。目立てば目立つほどいいけど、くれぐれも書いてる姿は誰かに見られないように頼む』

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結構難しい指令だけど、すぐにふんふん頷き、ぴゅんっと飛び立っていった。

ちなみにこの落書きには、特に意味が無い。まぁ強いて言えば、評判がし落ちるかな、くらい。ただの嫌がらせだ。

「アプサラスは大丈夫?」

こちらは一日中召喚しっぱなしだったから、ちょっと不安。けれど、特に力も使っていなかったからか、疲れている様子はない。

「じゃあルーヘンの部屋に潛んで、やつが帰ってきたらこれを多めにばら撒いてくれ」

そう言って、末狀の睡眠薬のった瓶を渡した。

たぶんあいつは寢てないだろうから、簡単に眠ってくれるだろう。まぁ、あれだけの量なら普通でも寢るけど、興してるだろうからなぁ。

帰ってきた二人組を拘束して抜けに閉じ込め、アプサラスを待った。

アプサラスはいつも通りほややんとしながら帰ってきたが、結果を尋ねるとサムズアップを返してくる。寢不足でテンションが高いのかな? いやそもそも妖に寢不足とかあるんだろうか?

禮を言って、今度は注意しつつ僕を二階へ連れて行かせる。

真晝間だが、それゆえに警備兵の數も若干なく、多冷や冷やしながらも潛功。ぐっすりとお休みになられているお坊ちゃまに王の力をかけ、必ず明日の晝現れるよう念押しする。

ついでに金目のものをさらい、慎重に部屋を後にした。

プネウマに到著した後、昨日ノームに造らせた倉で仮眠をとった。

午後二十二時。

いよいよ奴隷三人組の出番だ。

倉のロビーに集めた三人の中から、とりあえず一番ムカつくブービー君(カースト最下位だった青年)を指さす。

「よし、じゃあ一號」

「誰が一號だ!!」

「敬語」

「あぁ!? うっぐぅううすみませんすみません!!」

便利だなぁ奴隷印。どうせだったらチビとノッポにもつければよかった。

なんてことを思いながら、ブービー君の枷を外し、代わりに僕とお揃いの外套を著せて町長宅に向かう。

「いいか? やるべきことは単純だ。この短剣もって侵して、殺さない程度に町長を襲え。そこに僕が割ってるから、あとは適當に戦ってボコされて倒れてろ」

「……ちっ、わかりましたよっ」

舌打ちする青年の考えは見えいていた。

いやいや、にやけた口元隠せてないよ? 『事故』を起こす気満々だね。

普通奴隷は、主人を害することが出來ない。

けれどこの場合、命令の中に『戦って』とあるから、その指示に従って僕と戦うことが出來る。逆手にとって、僕を殺す気だろう。

でもさ、スキル無しで僕に勝てるわけないじゃん。せっかくだから放置していじめてやろう。

まずは下処理だ。

奴隷一號を待機させ、外套とシャドウを纏って侵し、手早く警備兵を叩きのめして睡眠薬を飲ませる。そして再び外へ出て、青年に町長の部屋へ突させた。

庭へと回った僕は、町長の悲鳴を聞いてしして、窓から勢いよく飛び込んだ。

「たっ助けてくれぇええっ!!」

「町長!! かないでください!!」

我ながらなんと白々しいセリフだろう。

殺すなと命令してあるから、奴隷一號の攻撃はかろうじて町長から外れている。その妻は、あまりの景に聲も出ないようだった。

すぐに町長の前へ飛び出し、短剣を抜き放つ。

扉の方から、甲高い悲鳴が聞こえた。

あっ、かわいいの子。

金髪の娘は、元から大きな目をさらに真ん丸に見開いていた。

やっぱこういうの、やる気でるよね。自演だけど。

奴隷一號は目を走らせて、それはそれは殺気のこもった一撃を振り下ろした。

でもさ、遅すぎる。

ワユンとかと戦ってたからか、見てから回避余裕です。

「くぅっ!」

それでも接戦を演じなきゃ疑われるだろうし。

なんとかけ止めたふりをして、一號と切り結んでいく。

しばらくすると一號は、手を抜かれていることに気付いたのか、悔しそうに顔を歪めてめちゃくちゃに短剣を振り回し始めた。

そろそろいいかな。

スキル<怪力>発

一號の手から短剣を叩き落とし、柄の寶玉で腹を突く。

「おぐっ!!」

そしてくの字に曲がったところで後頭部にもう一撃お見舞いし、さらに床に伏した頭へダメ押しの一撃を叩きこんで意識を奪った。

うわ、が出とる……気絶させるのって大変なんだなぁ。

どさっと何かが落ちる音がした。

「お父さん!!」

の子が駆け寄った先では、町長がこちらを見て腰を抜かしていた。

「き、君は……」

「えぇ、オーワです。お怪我はありませんか?」

なるべく無表を裝って尋ねると、町長は怯えたように震えた。

「なっ、なんで助けてくれたんだね……? 私は、私たちは君を……」

「知ってます。正直、恨んでますよ、今でも。あなたたちのせいで、今じゃ僕は犯罪者ですから……でも、いくら恨んでようと、目の前で殺されそうになってる人を見殺しにするなんてこと、僕にはできませんから」

そう言って笑うと、町長はその以外にきれいな目にみるみる涙を溢れさせ、勢いよく土下座した。

「すまないっ!! 本當に悪かったと思ってるんだよ!! ただ、どうしてもベーゼ伯家に逆らうことが出來なかったんだ!! 家族を守るためには、仕方なく……」

娘の方は事がよくわかっていないようで、困している。

苦々しい顔を演じる僕、まじピエロ。さすがにちょっと思うところもあるけど、まぁこんなことしなきゃならないのもこいつらのせいだしな。

町長の肩に手を置いた。

「え……?」

「町長さん、わかってますよ。やむを得ない事があったってことくらい。ですがそのために、僕は処刑されたくない。それも、わかってくれますよね?」

顔を上げた町長は、僕の涙(演技)を見て、俯いた。

「あ、あぁ……そうだね、君の言うとおりだ。それでなんとかなるとは思えないが、私は素直に、自首するとしよう……」

絞り出した聲には、苦渋が滲んでいた。

さて、頃合いだ。

「いえ、その必要はありませんよ?」

「え?」

「僕は明日、ルーヘンに直談判しに行こうと思っているんです。僕の日ごろの行いからか、結構あれが濡れだったんじゃないかと言う噂も立っていますし、警備ギルドや冒険者ギルドのギルド長にも話はつけてありますから、たぶん、撤回できるでしょう。あとは、あなたが明日、『この契約はルーヘンに強制されたんだ』と証言してくだされば、それで萬事解決です」

「でっ、でも相手はあのベーゼ伯……」

一瞬目に喜びのが現れたが、再び揺れる。

どんだけ怖いんですか。どうやら脅されてって話も、あながちウソじゃないらしい。

「大丈夫ですよ。一昨日なんて、商人たちにルーヘンは負けたみたいですし」

「はい?」

信じられないという聲。

さも意外そうに僕は続ける。

「聞いてないんですか? なんでも、町娘を強しようとしたルーヘンに怒った商人たちが、ベーゼ伯に直談判したらしいですよ? そしたらあっさり、ベーゼ伯はルーヘンの過ちを認めたそうです」

「ベーゼ伯が、ご子息の過ちを……?」

「そうです。ルーヘンはもはや、ベーゼ伯に見限られてるのかもしれませんね。まぁいずれにせよ、これはチャンスです。ベーゼ伯の威を使って好き勝手やってるルーヘンに、社會の厳しさを教えてやりましょう」

そう言って力強く町長の手を握ると、彼はみるみるに活気づいた。

「そ、それなら!! ぜひ協力させてもらおうじゃないか!! いや、私としても君のように將來有な冒険者を失うのは痛かったんだよ。いやぁその年で、君は本當にできた男だねぇ。<ミスナー>を救った時といい、まったく、激した!! この件が終わった後も、ぜひ諸々手を貸そうじゃないか!! 君はこの町の英雄だ!!」

あぁぁ、ホントに調子のいいやつ。悪いと思ってるんだよね?

なんかむかついたけど、ここで機嫌を損ねるのもよくない。

僕は全神経を費やした想笑いでもって、その熱意にこたえた。

その他二件もほぼ同様にこなし、全員を懐させた僕はハンナさんの隠れ家に帰ってきていた。

現在午前四時。

翌朝の集合は、午前八時。

……二時間くらいなら、仮眠とれるかなぁ。

ピクシーにアラームをお願いし、僕は死んだようにベッドへ崩れ落ちた。

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