《顔の僕は異世界でがんばる》狡猾な冒険者 閑話1
「ねぇ、あれだけ見下してた卑しい奴隷になった気分はどう? ねぇ、ねぇ?」
ボロボロのを著て土下座する、『元』貴族のお坊ちゃまルーヘンの周りを軽やかにぐるぐる回り、踵で地面をタップする。
しかしこれでは足りない。
某アスキーアートを再現するには、もう一人人員が必要だ。
そこでワユン登場。説明して、『元』貴族のお坊ちゃまを左右で囲み、いっせーのーせで床を踏み鳴らす。
まずは僕のターン。
「ねぇねぇ、落ちるとこまで落ちちゃったけど、今どんな気持ち?」
続いて、もじもじしながら、ワユンのターン。
「い、今どんな気持ち? ね、ねぇねぇ、どんな気持ち?」
『いいのかな、こんなことして』と言わんばかりにおずおずと、でもしっかりセリフを言い切るワユンまじかわいい。
あの後、判決が下ったところでようやく、暴は治まった。
僕の罪は全面的に撤回され、ルーヘンはベーゼ伯爵家からの絶縁の後、奴隷落ち。
予想通りと言うか、ベーゼ伯は容赦なくルーヘンを見限った。
世間か、もともと大して興味が無かったのか、問題を起こしたへの怒りか。
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心中など知ったことじゃないが、屑息子の父親にふさわしい屑野郎だ。
ルーヘンはそのことに一切反論せず、粛々と従っていた。
結果だけ見ると、計畫は功だ。
けれどなんとなく釈然としなかった僕は、最後、ベーゼ伯に追撃した。
「領主様、わたくしは彼に金銭ほか高価な魔石や鉱石も奪われております。また、彼がワユンへ暴行した時、まだ彼はわたくしの奴隷でありました。それらの保証は、どうなさるのでしょうか。息子を勘當したからと言って、もうこの件にご自分が無関係だなどと、まさか大貴族であらせられるあなた様が、おっしゃりませんよね?」
切り捨てて無関係。俺知ーらない。なんてのは許さない。
あんたの息子がやらかした。そしてそれを放置し、増長させた。そのことについては、あんたもいい面汚しだ。
僕のセリフは、『紛れもなくあんたの息子が起こした事件だ。無関係じゃない』という意味だ。腹の探り合いに長けた商人たちには、容易にわかるはず。
屑を生み出した元兇であることを、ここにいる人々の心にしっかりと刻み込んでやる。
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僕の言葉を聞いたときのべーぜ伯の顔は、今でも忘れられない。
「もちろん、相応の保証を約束しよう」
あれほどまでに無表で怒りをあらわにするやつを、僕は初めて見たと思う。
『調子に乗るなよ小僧』と言われたような気がした。
ちなみに糞冒険者たちのことは知らない。まぁ牢に戻ろうが死刑になろうが知ったことじゃないが。
その後いったん商業都市外の倉に全員を集め、お禮をした後、各人へ報酬のお金を渡し、今後の希を聞いた。
涙目になっておめでとうございますだのしただのと言ってくる彼たちは、やはりいいところのお嬢様方だったのだろう。自分たちはサクラなどという、結構汚いことさせられていたはずなのに、そんなことなど忘れているらしい。
ほぼ全員が故郷への帰還をんだため、近くの人(王都など)を先に送り屆けた。
送り屆けた先では必ず涙の再會とお禮がどうたらの話に巻き込まれたが、名前だけ伝えて、お禮は後日ということにしてもらった。くたくただということを伝えると、彼たちもその意を汲んで家族を説得してくれた、というのも大きい。
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遠くから來たという二人と帰る當てがないという一人を殘し、全員を送り屆け、プネウマへ戻るころには、すっかりあたりは暗くなっていた。
町長は言わずもがなだが、ギルド長たちまでもが、手のひらを返したようにびてきたのにはうんざりしたが、もう會うことは無いだろうと適當に応対して別れた。
今更いくらびたって遅いんだよ。むしろイライラするだけだ。
まぁ冒険者ギルドは今やばいって聞いてたし、ギルド長代の時期も近いだろうけどな。警備ギルドは、どうだろうか。どうでもいいか。
殘りの人たちにはとりあえず町の宿で止まってもらうことにして、僕たちはハンナさんの隠れ家へ帰った。
翌日からはまた、大忙しだった。
王都以北から來たという貓の獣人の兄妹――アレンとエレンを連れて、往復六時間もかかる北部城塞都市、<スクルム>まで送り屆けたあと、殘ったちょっと年上のお姉さん――エマを連れて、冒険者ギルドへ向かう。
彼に聞いたところ、付嬢ならできるかもとのことだったので、紹介することにしたのだ。ギルド長に頼むと二つ返事で快諾され、とりあえずは研修ということに。
まぁ見た目は綺麗だし、人當たりもいいから、問題は無いだろう。
外へ出るとすでに夕方。……僕、働き過ぎじゃありません?
翌日は引っ越しと言う名の宿探しに移り、冒険者ギルドで再発行手続きしてもらっていたギルド証をけ取り、生活用品を揃え直して、一日が過ぎた。
さらにその翌日、ベーゼ伯のもとを訪れ、白金貨三十枚、つまり三百萬Gもの大金を得て、それからワユンの裝備を返してもらった僕らは、その足で奴隷商からルーヘンを銅貨一枚(十G)で買い取り、プネウマ近くの倉へ。
そしてようやく、僕は気晴らしをすることが出來た。
調教過程を軽く思い出す。
倉のロビーで、『元』お坊ちゃまと対峙した。
ウオーオォーアッヒャアウオホーオオオッ!! テンション上がってきた!!
小躍りしそうになるを懸命に抑え、呼びかける。
「さてと、四號?」
「ふんっ、僕ちんはそんな名前じゃない。ろくに名前も覚えられんのか?」
いまだ反抗的な態度を示す『元』貴族の七り。四人目の奴隷だから四號だってこともわからないのかね。
「お前の名前は今日から四號だ。僕は優しいから、もう一度チャンスをやる。四號?」
「……」
だんまりを続ける。口元にムカつく笑みを浮かべていた。
うぅん、こいつ、すげえしてるよな。
「……」
「うぎゃぁああっ!!」
潰した。
ムカついたから、間を全力で蹴り上げたのだ。もちろんスキル<怪力>こみで。大絶を上げた『元』貴族……もう四號でいいや、四號は、間を抑えてを突き上げる形で地に伏せる。
無茶しやがって(敬禮)。
「うるさいよ」
「ぎゃあぅっ!!」
なんか気持ち悪いがしてよけいムカついたから、続けてその頭を踏みつけた。
悲鳴うるさいしキモい。
「だからうるさいって言ってるだろう?」
「へぎゅぅっ!!」
とりあえず悲鳴&キックのヘビーローテーションを繰り広げ、すげー靜かになったところで僕は爽やかに(たぶん)汗を拭う。
「まったく、手間のかかる奴隷だなぁ、もう。目上の人を睨みつけちゃいけないなんてこと、子供だってわかるってのに」
「……うぅ……」
もはや蟲の息。地面に半分めり込んだ頭をしも上げようとせず、き聲だけ殘す。
「本當に脆いなぁ、もう壊れちゃうのか。まぁ溫室育ちの雑魚だし、しょうがないのか」
まだ殺すわけにはいかない。つーか、これからっしょ? まぁとりあえずのところは治癒くらいしてやろう。
治癒すると、すぐに元気になった四號が毆りかかってきた。
いやいや、自分の分わかってないのかよ。こいつ最高にアホ。
「うぐっ!? あぁああああっ!!」
その瞬間、勝手にを押さえて苦しみだす。うへぇ、見てるだけで痛そうだ。やっぱ奴隷印はヤバいらしい。プーックスクス。
十秒ほどのた打ち回り、やがて荒い息を吐いてぐったりした四號を踏みつける。
「ご主人様に攻撃しようだなんて、頭の悪い奴隷だなぁ。どうやらまだ、お仕置きが足りないみたいだね」
「ひっ!!」
反的に、四號は間を抑えて丸くなった。どうやら最大のダメージソースはそこだったようだ。じゃあまぁ、嫌だけど、しょうがないからそこを狙うとしようか。
顔面と上半をいたぶると、すぐにガードが甘くなる。その隙を突いて蹴る、潰す、踏みにじるなど、様々な手段を講じた。
で、嫌ながして、蹴り飛ばす。
以下、永久ループ。いまでは決して反抗しない、従順なペットとなっております。
なんてことがあって、今に至る。
軽い茶番劇の後、ワユンはし憐れんだような目で四號を見ていた。
それをじたのか、僕以外には反抗できるからか、四號は反応する。
「薄汚い奴隷が、そんな目で僕ちんを見るなぎゃぁっ!!」
「おっと足がったクマ――――」
踏みつけてぐりぐり抉るように、丹念に潰す。
「オ、オーワさん、もうそのぐらいで……」
「ん、そう? まぁ、ワユンがそう言うんだったら……おい四號、ワユンに謝するんだ」
「あ、ありがとう、ございます」
頭を地面にこすり付ける姿を見て、ワユンは複雑そうな表をしている。以前の自分と重ねているのだろうか。
「そう言えばワユン、君はこいつに何もしなくていいのか? 恨みとかいろいろあるだろう?」
「う~ん、わたしはいいです。この前思いっきり言いたいこと言って、なんかすっきりしちゃいましたし、それにちょっとかわいそうですしね」
「こいつのことなんか気にしなくていいのに。自業自得だよ? こんなの」
「いえ、別に気にしてるとかじゃないです。わたしは解放されただけで、もう、十分ですから」
えへへ、と笑うワユンまじ天使。あんだけやられたんだ、やり返せばいいようなものを……やっぱ天使は違うなぁ。足の下のこいつとは、種が違う。
大天使ワユン(。パワー9500)と変態蛆蟲ルーヘン(闇。パワー500)。ありそう。
「そっか。それならいいや」
それなら、そろそろ本題にるとしよう。
「四號」
「はいっ!」
がばっと起き上がる。どうやら僕は調教師に向いているらしい。
「エーミールの目的は、なんだったんだ?」
この件で唯一気がかりなのは、エ-ミールだ。あれ以來、あいつの姿は見ていない。冒険者ギルドでも、あいつがどこへ行ったかは誰もわかっていないようだった。
もし、これからも僕たちを付け狙うようだったら、戦わなければならない。
四號は恐々口を開く。
「あ、あいつには、妹がいるんです……それも、奴隷落ちしたやつが。その報を持っていると言ったら、あ、あいつ、何のためらいもなく協力してくれました。まったく、ご、ご主人様に楯突くなんて、愚かなうがっ!?」
顔面を軽く蹴った。
お前が言うんじゃねぇお前が。……何のためらいもなく、ね。
「余計なことは言わなくていい。それで、そのあとどこへ行ったんだ?」
「やつの妹は、<ハンデル>と<クレンピア>間を輸送中、魔人に襲われました。顔のいいどもの死は無かったらしいから、いるなら魔大陸だって言ったら、顔一つ変えずに出ていきやがりましたぜ。まったく、バカなことだ、そんなものあきらめればうげっ!?」
おっと足がったクマ――――(棒読み)。
魔大陸、か……危険な場所だって言ってたくせに、何のためらいもなくとは。よほど大切な妹なんだろうな。
もしかしたら、ヨナに優しかったのは、彼と妹を重ねていたのかもしれない。
まぁ、今となっちゃ知る由もないが。魔大陸へ行ったのなら、もう會うこともないだろうし。とりあえず、さしあたって敵にはならないということが分かっただけでも良しとしよう。
「さてと」
「ひっ!!」
僕の一挙一にいちいち反応する四號を見下す。
「こいつ、どう処分したものかなぁ」
「しょっ!?」
殺してもいいしそこそこの魔が出る場所に捨てて來てもいい。でもそんな手間すら、煩わしいんだよな。
せめて僕の利益になるならいいんだけど……そうだ。奴隷商に売ればいいんだ。調教済みだとか適當なこと言って、それなりの値段で買わせよう。
売ったお金で何かおいしいものでも買って食べれば、まさに飯ウマだ。
じゃあ最後に。
「ついてこい四號」
「は、はい……」
恐々返事を返してくる四號を連れて、倉から出てヨナの部屋に向かう。
ヨナが『恨み晴らしてやるぜひゃっほーうっ!!』なんて格じゃないのは分かっているけど、しくらいは思うところはあろう。
さすがに調教シーンをヨナの前で繰り広げるわけにはいかなかったが、これくらい大人しくなればいい。
部屋にる前、四號に相したらどうなるか念りに教え込み、中へ。
――ヨナはベッドの上で、ナイフを手に持っていた。
「あぁ、オーワさん。お待ちしておりました」
それはそれはいい笑顔で、待ちけていた。
「えぇと、ヨナ、それは?」
「ナイフです。私、力が弱いので」
それが何か? と言うようなじで小首を傾げる。
えぇと、力が弱いので……その先はなんでしょう?
「それより、外で何を?」
「あ、うん。ちょっと調教をね。し手間取っちゃったけど」
「まぁ、なんて頭の悪い屑なんでしょうか。害悪以外の何でもないので人類のために片も殘らないくらいズタズタのミンチにして火葬して壺にでも押し込めて海に投げれるべきだと思うんですけどどうでしょう?」
いつもと変わらないトーン、変わらない穏やかな口調だ。顔はほとんど隠れてしまっているから怒っているのかどうかすらわからない。
それが恐ろしく不気味だった。
病んでる系子ヨナさんは、超に持つタイプでした。
「そ、それはし面倒くさいんじゃないかなー、と。それにこいつ、売り払って金にしようと思ってるし」
真っ青な顔をしてガクブル震える四號に思わず同してしまう。
「そうですか……まぁ、オーワさんがそうおっしゃるなら……」
「あっでも死ななきゃ何してもいいからっ。たいていの傷くらい治癒魔法で治せるしね」
ちょっと落ち込んだヨナに慌ててフォローをれる。
「でも、そこまでお手を煩わせるわけには……」
「いやいやいいんだって! ヨナがすっきりできることの方が大事だからさ!」
「そうですか、それでは……」
必死だった。なんとなく、ヨナの鬱憤がそのうちこちらへ飛び火するのではないかと思ってしまう。ヤンでれ化だけは避けなくては、なんとしても。
うぬぼれているわけではないけれど、どうしても、ヨナとワユンが僕を巡って殺し合うなんて非現実的な妄想をしてしまう。それなんて『學校日々』? 主人公十中八九巻き込まれて死ぬじゃん。
僕の死亡フラグがとどまることを知りません。
ヨナの手に握られたナイフがハッタリでも何でもないことを知った僕は、とりあえず四號に猿轡をさせ、汚れてもいいように皮を床に敷いた。宿に迷だけはかけないようにしないとね。
ヨナによる想像を絶するような殘ショーの後。
廃人寸前となってしまった殘行廃棄(殘な行為の結果、生み出された廃棄)を見下ろした。
飽きた。
きっとワユンは、ずっとこうやって暴力をけ続けてたんだろうけど、毎日こんなこと繰り返すだなんて正直気がしれない。まぁ最初は、憂さ晴らしにちょうどいいって思ったけどさ。
ヨナもさすがにすっきりしたらしいし、とっとと売り払うとするか。
また明日から、二人がいる日常に戻れると思うと、自然に頬が緩んだ。
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