顔の僕は異世界でがんばる》狡猾な冒険者 閑話三

〈蛇足です〉

この世界には娯楽がない。

だが別に、皆無というわけじゃない。平民というか、普通の人たちには遊んでる余裕はないけれど、貴族だっているのだ。彼らが獨自に編み出したゲームなどはある。

貴族の中には暇人だっている。それはあの世界もこの世界も一緒というわけだ。

「アサシンゲットです!」

ヨナのうれしそうな聲が響いた。

「うぅぅ、ヨナさん容赦ないです……」

ワユンはうなだれている。

今ヨナとワユンがやっているボードゲームは『キリング』。アレンに教えてもらったゲームで、商業都市に行ってきたついでに買ってきたものだ。

冒険者側とモンスター側にわかれて戦うこのゲームは、將棋やチェスに近い。碁盤の目のような盤上の端と端に置かれた狀態でスタートし、どちらかのキングがとられた時點で終了だ。

冒険者の駒には、ウィザード、ガーディアン、アサシンがそれぞれ二つずつと、セイント(聖人)、ブレイブ(勇者)、キングが一つずつあり、モンスター側には、フェアリー、ゴーレム、サキュバスがそれぞれ二つずつと、リーパー(死神)、ドラゴン、ルシファー(魔王)が一つずつある。

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それぞれウィザードとフェアリー、ガーディアンとゴーレム、アサシンとサキュバス、セイントとリーパー、ブレイブとドラゴン、キングとルシファーが対応しており、それぞれのきも全く一緒だ。

殘りはソルジャーとゴブリンが九ずつある。

歩兵に役駒と、ここまでは將棋やチェスとほぼ同じだが、し違うところがある。

まず一つ目は、ドラゴンとブレイブだ。これらは機力自ないものの『普通の駒にはとられない』という異常な力が與えられえいる。

つまり、ただ敵陣へ突き進ませるだけで、躙することが出來るのだ。

もう一つは、セイントとリーパー。これらの駒は、かなりの機力と、ドラゴンとブレイブをとることが出來る攻撃力を持つ。

その代り他の役駒(歩兵以外)をとることはできないという、特化仕様だ。

また、とった駒を使うことはできない。

つまり、このゲームは『いかにしてドラゴン、あるいはブレイブを倒すか』が、カギなのだ。

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「ウィザードいただきです!」

「あぅえぅ……」

ヨナ、無雙狀態だ。

ルールを知ったばかりなのにこれだけの差が出るってことは、相當ヨナの頭がいいってことか? それともワユンがおバカなだけ?

結局自陣をほとんど丸にされ、ワユンはヨナに慘敗した。

「勝っちゃいました」

「あぅぅ……冒険者のはずなのに……」

冒険者ワユン、魔ヨナに狩られる。

「じゃあ次は僕とヨナかな」

「負けませんよ?」

対峙する。

今度はヨナが冒険者側だ。僕は魔側。召喚士として負けられないな。

僕もこのゲームを実際にやるのは初めてだが、將棋やチェスといったボード―ゲームはPC相手に結構やった。

駒をとっていくほど相手のの服がげていく『將棋』だ。麻雀より簡単にがせられるから結構お気にり。

だから完全な素人よりは戦える、はず。

先行はヨナ。

まずはブレイブの前にあるソルジャーを前進させる。

強力な駒をかすために道を開けるのは基本だけど、初めてでそれに気づくなんて、やっぱ頭いいな。

心しながら、僕も同様にゴブリンをかす。

ヨナ、ブレイブを前進。

対する僕は、ルシファーを斜め前へ。

守りを固めてから攻めるという魂膽だ。とりあえずブレイブの居る方からは離れないといけない。

戦いは、熾烈を極めた。

僕は序盤、初心者が引っ掛かりがちな疑似餌を撒いた。

疑似餌というのは、簡単に取れそうなところに遭えて駒を置き相手を釣って、逆に駒得を狙ったり、狀況を良くすることである。

このゲームの駒は將棋以上に特徴のある駒が揃っているために決まりやすいが、それでもヨナは一度引っかかったきり、それ以降はぴくりともつられない。

「……やるな、ヨナ」

「お褒めに預かり栄です」

「ふぇぇぇ……」

火花を散らす僕とヨナ。それを見てけない聲を上げるワユン。

ヨナはブレイブを僕の陣へと進めた。

対する僕は、ゴーレムを前衛に、フェアリーを敵陣へと近づける。

このゲームはドラゴンやリーパーが目立つが、他の駒もかなりユニークだ。

たとえばゴーレム(ガーディアン)。これらはソルジャーにはとられない上、後退もできるため機力もそれほど低くは無い。優秀な壁である。

そしてフェアリー(ウィザード)。これらは二マス飛ばして攻撃できるという特徴を持つ。間に自分の駒があっても先の駒へ攻撃できるので、比較的安全に敵陣へ切り込めるのだ。

最後にサキュパス(アサシン)。これはチェスで言うナイトと同じきが出來る。抜群の機力だ。

ヨナはブレイブを橫にかし、さらにゴブリンを狩っていく。

けれどその表は険しい。

あらかじめリーパーを牽制役に配置しておいたから、それ以上僕の陣へ進めないのだ。進めるためには、他の駒を持ってきてブレイブを補助しなければならない。

僕は進めたゴーレムとフェアリーを使ってセイントを追い詰めにかかる。その後ろに控えるのはドラゴンだ。

まだ時間はかかるが、確実にドラゴンを暴れさせることが出來る布陣を整えた形。初心者だろうと手加減はしまいぞ!

さらに盤面が進む。

僕のドラゴンはついに敵地への侵略を果たしたが、多の無茶が祟り、ゴーレムを犠牲にしてしまった。丸のフェアリーは防に劣るため、ドラゴンの補助に向かない。

対するヨナは、こちらがリーパーを寄せたために、いったん退き、後続としてアサシンを前進させていた。

ワユンは盤面を眺めつつ、うつらうつら舟をこいでいる。

盤面に目を戻す。

アサシンの機力は高い。

だが前方への攻撃手段を持たないのが弱點だ。

とりあえずはソルジャーを使えば足を止めることは容易い。逆にそれは、ブレイブのきを抑制してしまうことにもなる。

慌てず騒がず、ソルジャーを前進。

そしてついに、來るべき時が來た。

焦りからか、経験の薄さからか。

ヨナは一手、違えた。

リーパーの程圏に、ブレイブの片足が侵する。

「――っ!!」

僕は電石火、片手をばした。

ヨナが気付き、ブレイブの駒を戻そうとする。

『待った』である。

ルール違反だ。

――ワユンの巨が、盤面に落ちた。

立ち上がりかけて、手をらせたのだ。

盤上に形された、ある種しさを持った配置が、一瞬にして破壊された。

「いたたたたたっ!!」

一瞬、ほんのわずか、ヨナの口元がニヤリと歪む。

僕のを、唸り聲ともつかない掠れた音が通っていく。

「あぁっ!! すみませんすみません!! いたたたっ!! 申し訳ございません!!」

慌てて起き上がり謝ってくるワユンは痛みからか申し訳なさからか目に涙を貯めていて、僕は何とか怒りを抑えた。

「い、いいって、いいって。それより、だいじょうぶ?」

頬が引き攣っているのをじる。

全然怒りを隠せてなかった。

「うぅぅ……いろいろ、突き刺さりました……」

駒の形は立。貴族のボードゲームなのだ、チェスなどのように、駒にも形がある。

これは確かに、痛そうだ。

ワユンはをさすりながら、中を確認している。

服の上から見たところ、本當に突き刺さったはなさそうだ。

痣くらいにはなっているかもしれないけど。

「だ、大丈夫ですか……?」

ヨナが本當に心配そうに、ワユンのへ手をやり、さすり始める。

「あっつっ……」

「あっ、すみませんっ、痛いですか?」

「いえ……大丈夫ですっんっ……」

優しくさすられて、なぜかワユンが聲を上げる。

徐々にヨナの指がき出す。

「あのっ、ヨナ、さん……?」

「お、大きい……やわらかい……」

自分のとそれを互に見て、つぶやいた。

興味津々と言った様子だ。同年代の同を知らなかったからかもしれない。

「あっ、んっ」

「す、すごい……」

ヨナはもはや、虜となっていた。

何これエロい。というか、あの、どうすればいいの僕?

「んっ……っ……ヨナ、さんっ……」

「あれ? ここ、固くなって……?」

一點をつまむ。

ワユンが首を反らした。

「ちょっ! んぅっ……っっ」

「また固く……?」

ヤバいムリ耐えられない。

盤面に目を移し、駒を並べる作業に移った。

けれど二人の聲は聞こえてくる。

「あっ……それっ、っ……ヨナ、さんっ……だめっ」

「えっだめ?」

「んぁっ! ―――――――っ!!」

「へっ!?」

ヨナのびっくりしたような聲で、僕はたまらず顔を上げた。

ワユンは顔を真っ赤にして、くったりとしていた。

「なっ!?」

「えっ? ワユンさん? ちょっと……えっ!?」

ヨナはおろおろうろたえていた。

何が起きたのかわかっていない様子。いや、僕もわからないけども!

くったりしてしまったワユンをヨナの隣に寢かせ、先のゲームの続きをしている。

「ワユンさん、大丈夫でしょうか……私、つい夢中になってしまって……」

「あ、あぁ、たぶん、大丈夫だと思うよ。たぶん」

僕もヨナも、先に比べて彩を欠いていた。

あっさりとゴーレムをとられ、あっさりとアサシンをとる。

それでもだんだんと落ち著いてきた。

用意した紅茶をたまに飲みつつ、ぽつぽつ話をしながら、駒を進めていく。

ワユンの寢息は規則正しく、それが余計に穏やかな気持ちにさせてくれた。

靜かな時間だった。

そういえば、ヨナとこうして二人きりになるのは、ずいぶん久しぶりの気がする。

相変わらず顔を隠したままのヨナを見て、急に心が痛んだ。

「ごめん、ヨナ」

「へ?」

ヨナが驚いたように顔を上げた。

「ドラゴンの肝さ」

「あぁ……」

あれからいろいろあったけど、いまだに僕は、ドラゴンの手がかりすら摑めていなかった。

絶対に呪いを解いてやろうと誓ったのに、このたらく。

まったく、けないことだ。

けれどヨナは、微笑んでくれる。

「私なら大丈夫ですよ。ドラゴンなんて、簡単に見つけられるものじゃないでしょう? ましてやその肝なんて、數か月やそこらで手にりませんよ」

予想はしていた。ヨナならこう言ってくれると。

僕はそれでいて、弱音を吐いたんだろうか。

だとしたら、なんて小さいんだ。

ドラゴンを、セイントの程圏へあえて進ませた。

ヨナはその自殺行為に、一瞬直する。

「約束するよ。必ず近いうち、ドラゴンを倒すって」

「……はい」

そう言うと、ヨナは笑って、僕のドラゴンを狩った。

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