《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く五
「くそっ!! とんだ無駄足食っちまった!!」
「オーワさん……」
眼下には、冒険者とオーガの死骸が散在し、そこにハイエナともオオカミともつかない魔が群がっている。
王國騎士たちから逃れ、上空から捜索を始めて十數分。地上はシャドウと妖軍団に任せているものの、まだ手がかりがない。
そもそも、壊滅したという連絡が今日來たとして、いくら急いだとしても一日以上は経ってしまっていることになる。
その間ここ付近にまだいるなんてことありえないわけで、よく考えたらどこか近くの村や町に潛伏していると考えた方が妥當だ。
しかも、あとしで日が落ちる。
「あの中に生き殘りがいなかったら……ここを焼き払おう」
「は、はぃ……」
これだけの數、人が死んでいる。しかも、全員Bランク以上の冒険者だ。
こんなにも、死は近にある。
改めて思い知らされた。
そして僕は、これらすべてのエネルギーを回収している。まるで、差し出された生贄を貪るがごとく。
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「うぐっ……」
「オーワさんっ!?」
考えた瞬間、胃が強烈に収し、嘔吐いてしまう。
ワユンが必死に背中をさすってくれる。
考えるな。今はリュカ姉たちのことを探すのが第一。
そのことを反芻して、なんとかおさめる。
「はぁ……ありがとう」
「い、いえ。……その、大丈夫、なんですか?」
「うん、大丈夫。ワユンは?」
「わ、私は、人の死に、慣れてますので」
その聲は暗い。同僚の奴隷が死ぬのを間近に見てきたのか、それとも、主人の命令で人殺しを何度かこなしているからか。
いずれにせよ、嫌なこと思い出させてしまったみたいだ。
「ごめん、変なこと聞いたね」
「あっ、い、いえ、すみません……」
下を向いたその時、ピクシーがやってきた。どうやら生存者を見つけたらしい。
ピクシーに導かれるようにして、死の山の中から一人の冒険者の傍らに來た。
強烈な打撃をけたせいで、左腕と肋骨が折れている。口からを流しているところを見ると、臓にも損傷があるらしい。
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でも、かろうじて息がある。吐も大したことないし、腹部にも膨張とかないから、たぶん、臓出も大したことはなさそうだ。
そんなことを考えながら治癒魔法を使っていくと、やがて、冒険者の息が穏やかになった。
「ふぅ。もう大丈夫、かな」
「よかった……」
張でを固くしていたワユンが、ほっと弛緩する。
「オーワさん、やりましたね!」
「……うん!」
ワユンの笑みを見て、し気分がもちなおった。
落ち込んでばかりもいられない。僕にも助けられるものがあるんだ。
結局三人の冒険者を救助して、殘りの冒険者からは持ちだけ回収し、サラマンダーとワイバーンに一帯を焼き払わせ、一番近くの村へ向かった。
すでに夜。
もはや地上を捜索するのは不可能だ。
――ダメかもしれない。
そんな思いを押し込める。
大丈夫。きっと、リュカ姉たちは、村にいる。
村の上空に到著し、ピクシーに明かりを燈させる。
「……そんな……」
ワユンのつぶやきは、そのまま僕の心を表していた。
目論見は甘かった。村なら無事だろうなんて。
先のオーガたちによるものだろうか、建は破壊され、柵は無殘にも破られている。
村は、すでに躙されていた。
この様子じゃ、きっと他の村も……だとしたらリュカ姉たちは?
「魔だぁっ!!」
「戦闘準備!!」
しかし近づいていくと、わらわらと村人たちが、壊されかけた建のから飛び出してきた。
隠れていたんだ!
「違います、魔じゃありません!! 僕たちは冒険者です!! これは使い魔。武を下ろしてください!!」
「オーワじゃん!! どうしてここに!?」
と、その中から、聞き覚えのある快活な聲が飛んできた。
頭と左腕に包帯を巻いたリュカ姉が、その手を子供のように振っているのが見える。
「リュカ姉!! ははっ……」
なんだよ、元気じゃないか……。
一聲上げると、から一気に張が抜けていくのをじた。
村長と思しき小さなおじいさんの家だった場所へると、かろうじて殘っていた部屋にマルコとカリファもいた。
しかし再會の喜びもつかの間、マルコが大けがを負っていまだ目を覚まさないのだとカリファが言う。
信じられなくてすぐに駆け寄るも、マルコは目を覚まさない。
一瞬手足から冷たいものが競り上がってきて、慌ててマルコの服をはだけさせる。
「マルコ、無茶するから……」
ずっと泣き通していたのだろう。
隣に來たカリファの吊り目には力が無く、真っ赤な目じりから頬へかけてくっきりと涙の跡が殘っている。
「オーワ、治せる?」
リュカ姉の言葉に、カリファはがばっと顔を上げた。
「治せるのおチビ!?」
「うん。たぶんですけど」
マルコの傍により狀態を確認している僕の襟首を、カリファがむんずと摑む。
「お願いおチビ!! マルコをっ!!」
「ちょっカリファ……」
「カリファ、落ち著きな。それじゃオーワが治せない」
リュカ姉がカリファを宥め、僕から引き離す。鬼気迫る、とはまさにこのことだな。責任重大だ。
「おチビ、マルコをお願い……」
「わかりました」
うなだれるカリファにしっかりと返し、治癒魔法を発した。
マルコは確かに重癥だったが、あの時のリュカ姉ほどではなかったため、オーガたちで貯めたエネルギーを使ってレベルを四に上げた治癒魔法で無事、完治できた。
今はまだ眠っているが、すぐにでも起きるだろう。
「マルコ……よかった……」
カリファはマルコの頬に手を添えてそうつぶやき、僕の方へ顔を向ける。
「おチビ、うぅん、オーワ、本當にありがとう」
「何を改まって。僕にとっても、マルコは――」
マルコは、なんだ? 友達?
一瞬の逡巡。
僕はこの人たちと、どういう関係だ?
知り合い? でも、知り合いのためにここまで心配したりするか?
友達、なのか?
「――助けたい人、だったからさ」
「それでもよ。本當にありがとう」
「私からもお禮を言わせてもらうよ。オーワ、あんがと」
カリファに続いて、にっと笑いながらリュカ姉がお禮を言ってくる。
その顔を見て、カリファが食って掛かる。
「あんたは関係ないでしょう!?」
「なんでよー。関係あるじゃんよー」
「ないわよ!! マルコが重傷だってのに涙の一つも流さなかったくせに!!」
「心の中で泣いてたんだよー。それはもうちょちょ切れてたんだから」
「絶対に噓!!」
キャンキャンキャンキャン、子供かよ。まぁ、張の糸が解けたんだろうな。
しかしうるさい。
一応怪我人が寢てるんですよ? 看護婦さんに叱られちゃいますよ?
「う、うるせぇ……」
マルコの聲で騒が収まったのは、そのすぐ後のことだった。
マルコのそれはそれは無想なお禮を聞いた後、僕はリュカ姉の傷も手當てして、村長さんに話を聞くことにした。
三人がお世話になったんだ。何か僕にできることがあれば、手を貸そうと思う。
というわけで、僕、リュカ姉、ワユンは、村長さんほか二人の幹部(?)の対面に座っている。
カリファにはマルコの傍についていてもらうことにした。
この村は、南の大農村地域と貿易都市をつなぐ、いわば中継地點の一つらしい。
村長さんの話だと、オーガ軍の一部によって警備兵が殺され、柵などが破壊されたために、魔の再來を恐れてここ二日ほどずっと隠れているのだそうだ。
昨日リュカ姉たちが來たときは匿ったが、それは彼たちが用心棒をすることと引き換えということ。すでに何度か魔に襲われていて、今も警戒は怠れないらしい。
「テオサルからの援助も、この急時には見込めないのじゃ。じゃから、早いところこの村を捨てるべきだとは思うのじゃが、村には怪我人も多い。この狀態で移するのは……」
村長さんと二人は、沈み込んだ様子でそう締めくくった。
「けが人含めて、この村には何人ぐらい住んでいるんですか?」
「生き殘りは、せいぜい五十、と言ったところかの……」
五十人か。それくらいなら何とかなるな。
「村長さん、移するとしたらテオサルですか?」
「そうじゃが……?」
「でしたら、なんとかできると思います」
訝しげな表で見てくる三人に、僕が治癒魔法を使えるということ、それからワイバーンで何度か往復すれば村人全員を運べるということ、運んでる間も他の使い魔に村を守らせることが出來ることを伝えた。
「そ、そんなことが、お主に……?」
「とりあえずけが人の治療から始めましょう。あまりにも酷いと治せないこともありますから、それだけはご理解ください」
いまだ信じられないと言った表の三人をたきつけるようにして、僕たちは行を開始した。
翌朝には、村の人たちの治療は大終わった。
ただ、傷口から細菌がったのか、染癥を起こしているような人の病気は、レベル四でも治せない。
とりあえずギルドから支給されたものを含め、あるだけの薬から効きそうなものを使ってみたが様子見だ。
本當はそんなふうに薬を使っちゃいけないんだろうけど、無いよりはマシだろう。あとは都市の醫者に診てもらうしかない。
さて、次は移だ。
と思っていた矢先、リュカ姉に聲をかけられた。
「オーワ。君はし寢な? 運送くらい私たちがやるからさ」
「え? でも……」
「だ、大丈夫ですよ? 私、ワイバーンさんと上手くやれると思います!」
「おっ? 言うねぇワユンちゃん」
ワユンも追撃してくる。いつの間に仲良くなったんだあんたら。リュカ姉のそういう社には、ホント呆れる。
「粋がってんじゃねぇぞ糞ガキ。ガキはガキらしく、素直に言うこと聞いてろ」
「おチビ、しくらい私たちに恩を返させなさいよね」
ここぞとばかりに出てきたな、二人とも。というかマルコ、ケンカ売ってるの? 今なら一方的にボコせると思うけど、それでもやる気?
怪我人こそ黙ってクソして寢ていてください。
「ケンカ売ってるんですかマルコ?」
「あれあれ? マールコー。あんたは寢てた方がいいんじゃないのー?」
「ちっ」
リュカ姉の道化とマルコのあからさまな舌打ち。それを見ていたカリファが、なぜか嬉しそうに笑った。
まぁ、いいか。ありがたく寢させてもらおう。
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