《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く 7
ドタドタとマッチョな野郎どもが駆けて寄ってくる様子は、なかなかに気が悪い。
おい、食事中だぞ。グロ畫とかマジ勘弁。
瞬く間に包囲網が完し、取り巻きの一人と張飛チックなひげの団長が前に出てくる。……もう超ひげでいいや。
「こんなところでのんきに飲み會とは、いいご分だな、オーワ君?」
「えぇまぁ。おかげさまでひと仕事終えることができたので」
「貴様!! 何様のつもりだ!!」
相変わらず小うるさいモブを超ひげが手で制した。なにそれ、お決まりなの? コントなの? 笑うところでしたか? あははは(棒)。
「どうやら、お仲間を救うことが出來たようだな。なによりだ」
「はい。ありがとうございます」
「その代り、八名ほど我が隊から被害が出てしまったがな」
見えない圧力に、思わず込みしてしまった。
怖い。
このおっさん、なんて迫力なんだ。
けれど、魔と殺し合いをしてきたからか、踏みとどまれた。
「それは、何と言っていいか……ご愁傷様です」
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「王國騎士団は、いわば鋭だ。その騎士が八名も犠牲になるなど、異例と言っていい。君の助けがあれば、このような事態は避けられたであろうに……」
団長の目が細くなる。
――ガァンと、大きな音がした。
見ると、機の上に乗り上がっていたマルコが、機の上であぐらをかいていた。右手には新しいジョッキが握られているから、たぶんそれを機に打ち付けたんだろう。
「おっさん。それは何か? あんたらの犠牲がその糞ガキの所為だって言いたいのか?」
「んなわけないじゃんマルコー。あの人たちは騎士サマだろう? そんなお強い騎士サマが、まさかCランク程度の冒険者に、それもまだ子供にそんなわけのわからない濡れ著せるわけないじゃーん」
「ちょ、ちょっとあんたたち……」
敵意剝きだしで睨むマルコに、いかにも小ばかにした様子でリュカ姉が追隨する。
カリファの様子を見ると、やっぱ二人の行は相當ヤバいっぽいけど、両方とも酔ってる上にさっきの口論で機嫌悪いからなぁ。止まらないだろうなぁ。
「隊長は貴様らなんぞと話しておらん!! 関係無い者は引っ込んでおれ!!」
取り巻きがやっぱり口を挾む。
「黙れよモブ野郎!! てめぇこそすっこんでろ!!」
「ていうかさ、私たちにオーガなすりつけといて謝の一つもないとか、騎士サマって案外常識ないよねー。あんたらの所為で私たち冒険者はほとんど壊滅したんだよ? 謝れよー」
「ちょ、ちょっと、ねぇ……はぁ、もうどうにでもなってよ」
激高するマルコと小ばかにするリュカ。二人とも遠慮する気はさらさらないようだ。
あぁカリファ、あきらめないでくれ。
「も、モブ……貴様ら!! 我は王國騎士団三番隊副隊長ブルーノであるぞ!!」
「ハッ知らねえな! 怒鳴り散らすしか能がねえおっさんにしか見えねえよ」
「なんか権力振りかざす男ってダサいよねーカリファー」
「はぁ……そうね」
カリファがため息をついて、いつもの高圧的な表に戻る。
あぁ、もうだめだ。収集つかないや。
「ホントダッサい。ていうか子供に責任り付けるとか、騎士どころか男として終わってるわよね。チョーやだ」
取り巻きが、お腰の剣に手をかける。
――相當強いな。
念のため、召喚魔法の準備をする。
「貴様らぁああっ!!」
モブ、吠える。
マルコの目つきが鋭くなり、リュカ姉が立て掛けておいた大剣に手を添えた。
カリファはなぜか、僕の頭に手を乗せる。
「怖かったでしょうおチビ? あんなおっさんどもの言うことなんて、聞かなくていいからね?」
ありえないくらい優しい聲だった。
二人が闘しようとしている ⇒ 止めんのムリ ⇒ 敵のきを封じるしかない ⇒ 隊長はプライド高そう ⇒ 周りの人の目とか、気にするだろうなぁ。
あぁ、やろうとしてることが分かったぞ。でもカリファ、それすごく屈辱的なんだけど?
取り巻きが今にも剣を抜こうとして――
「やめんかバカ者!!」
周りの空気をじて危険を察知したのか、超ひげが止めにった。
いや、遅いよ。
あやうくとんでもない屈辱味わうところだったじゃないか。
超ひげが僕を見下ろしてくる。
「今日のところは、これくらいにしておこう。だが寢る前にでも、もう一度、自分が正しいことをしたのかどうか、よーく考えてみることだな」
「わかりました。しかし言っておきますけど、僕たちは冒険者だけでなく、逃げ遅れた村々の人たちも助けましたから」
超ひげの目が見開かれる。
「なに?」
「ここの付近の村です。五つほどで、総勢百人は下らないでしょう。あなたたちが魔と戦っている間にも、彼らは魔の殘黨に襲われていましたよ?」
「言いがかりだ!! このホラ吹き小僧が!!」
「よさんかブルーノ!!」
取り巻きを怒鳴りつける超ひげの目は、僕から外れていない。
「だとして、儂らが魔を放置すれば、それ以上の被害が出ていたやもしれぬ」
「そうですね。けどそれが村の人たちを見捨てていい理由にはなりえませんよね?」
「時にはそう言う決斷も必要だ」
「今回の判斷が正しかったとは言い切れない、でしょう? どっちが正しいかなんて、誰もわからないはずです」
僕と超ひげは、數秒間睨みあい、やがて髭が踵を返した。
「君とはいずれ、じっくり話し合いたいものだ」
僕は嫌です。
なんてまさか言えるはずもなく、去っていくおっさんをただ見ていた。
また変なのに目をつけられちゃったなぁ。
「はぁ、まったくもう……今日はもうお開きにしましょう」
やがてカリファの言葉で、僕たちも酒場を後にした。
翌日、僕たちはテオサルの冒険者ギルドへやってきていた。
せっかくなので、大量発生が起きているところをあらかた掃除してから帰ろうと思っていたのだ。
「いやぁ~、さすがに護衛依頼が多いね~。しかも報酬が超豪華。なぁオーワ、せっかくだからワイバーン使って一儲けしないかい?」
ワイバーンタクシー。あるいはワイバーンの宅急便。
ていうか、大量発生の所為で人死にでてるんだぞ? 不謹慎じゃないか?
リュカ姉の言葉にわされちゃいけない。
護衛依頼が多いのは貿易都市や商業都市ならではだけど、非常事態なだけあって、報酬はかなり割高になっているようだ。
その分Bランク以上限定などと、指定されているものが多い。
「ダメだって。先に魔を駆除するのが先だよ」
「えぇ~、リュカ姉さんは今金欠なんだよぅ~。頼むよぉ~」
すがりつくなし。
っていうか、なんでリュカ姉はこんなにいつも通りなんだよ。昨日あんなことがったんだから、もうし気まずくなるのが普通だろ?
後ろを見ると、明らかに不機嫌なマルコと、気まずそうにするカリファ、それから頭を押さえてうーうー唸っているワユンが目にった。
なんかもう、どよーんってじの効果音が聞こえてきそうだ。漫畫かよ。年ジャンクかよ。あぁ、『ツーピース』は今どこまで進んだかなぁ。
「うぅぅ……脳みそぐわんぐわん……」
「ワユン、無理しないで休んでなよ?」
「あっ、す、すみません、大丈夫です。皆さんが働いている中、私だけ休むなんて……」
「いや、気にしなくていいから……」
なんてやり取りをしていると、マルコがあからさまに舌打ちをした。
「ちっ。おいメスガキ。邪魔だっつってんだよ。足手まといはクソして寢てろ」
「えっ? あっ、そのすみません!!」
「なっ!? 何やってやがる!?」
ワユン、必殺の土下座。
マルコがぎょっとして仰け反った。
しまった、最近やってなかったから油斷した。
「ワユン、頭上げて! それからマルコ、言いすぎです! 八つ當たりは止めてください」
「そうだぞマルコー。いじめとかカッコ悪ー」
「牛(うしちち)は黙りなさいよ! でもマルコ、土下座させるのはちょっと……」
「ち、違えよ! おいコラメスガキ、いいから起きやがれ……ってなんだこいつ!?」
マルコが頭を挙げさせようとして、またもやぎょっとした。
たぶん、ワユンの異常な力に驚いたんだろう。粘著力に定評のあるわん娘です。
それでも何とか引き上げた後、僕たちはワユンを庇いつつマルコをいじる。
「そもそもメスガキって、の子にそれは無いでしょう?」
「そうだそうだー。土下座しろ土下座ー」
「うるせえぞてめえら!」
「そうよ牛! 黙りなさいよ!」
リュカ姉に怒鳴った後、カリファはマルコの方を向く。
「でもマルコ、メスガキはないと思うわ」
「てめえもかカリファ!」
「ワユン、メスガキって呼ばれるの嫌だよね?」
「え、えっと……」
ワユンに尋ねると、彼は僕とマルコを互に見やる。
僕は目配せをした。
「い、嫌、です、よ? たぶん……」
「オーワてめぇ!! 汚ねえぞ!!」
「の子にメスガキなんて言うやつに、汚いなんて言われたくありませんよ」
「ワユンちゃんワユンちゃん……」
リュカ姉がワユンに耳打ちする。
ワユンは『えっ?』と聲を上げた後、おずおずとマルコの方を向く。
「え、えっとですね? 八つ當たりとかちょーダサいー、です」
「んだとリュカてめぇ!」
「なんで私なんだよー。言ったのワユンちゃんだよー?」
「リュカ姉、ワユンを使って遊ばないでください」
「え? オーワまで!?」
と、ものすごくどうでもいい會話をしていたら、なんか場が和んだ。
どうやらマルコは、いじられキャラとしても使えるらしい。
「さてと、それじゃあ今日はこれとこれの駆除を――――っっ!?」
突如、轟音が鳴り響き、地面が大きく揺れた。
【書籍化・コミカライズ】三食晝寢付き生活を約束してください、公爵様
【書籍発売中】2022年7月8日 2巻発予定! 書下ろしも収録。 (本編完結) 伯爵家の娘である、リーシャは常に目の下に隈がある。 しかも、肌も髪もボロボロ身體もやせ細り、纏うドレスはそこそこでも姿と全くあっていない。 それに比べ、後妻に入った女性の娘は片親が平民出身ながらも、愛らしく美しい顔だちをしていて、これではどちらが正當な貴族の血を引いているかわからないなとリーシャは社交界で嘲笑されていた。 そんなある日、リーシャに結婚の話がもたらされる。 相手は、イケメン堅物仕事人間のリンドベルド公爵。 かの公爵は結婚したくはないが、周囲からの結婚の打診がうるさく、そして令嬢に付きまとわれるのが面倒で、仕事に口をはさまず、お互いの私生活にも口を出さない、仮面夫婦になってくれるような令嬢を探していた。 そして、リンドベルド公爵に興味を示さないリーシャが選ばれた。 リーシャは結婚に際して一つの條件を提示する。 それは、三食晝寢付きなおかつ最低限の生活を提供してくれるのならば、結婚しますと。 実はリーシャは仕事を放棄して遊びまわる父親の仕事と義理の母親の仕事を兼任した結果、常に忙しく寢不足続きだったのだ。 この忙しさから解放される! なんて素晴らしい! 涙しながら結婚する。 ※設定はゆるめです。 ※7/9、11:ジャンル別異世界戀愛日間1位、日間総合1位、7/12:週間総合1位、7/26:月間総合1位。ブックマーク、評価ありがとうございます。 ※コミカライズ企畫進行中です。
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