顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く

轟音と地響き。

「なんだ!?」

「外だよ、行こう!」

リュカ姉の一聲と同時に、僕たちは他の冒険者たちとともに、ギルドの外へ出た。

「「「――――っっ!!」」」

全員が息を呑んだ。

町の一部が、消えていた。

いや、焼き盡くされたと言った方が正しいのか?

木造、煉瓦造り問わず、すべて押しつぶされ、黒こげとなっている。

悲鳴すら無い、完全なる靜寂。

人は、本當に理解できない狀況に陥ると、聲が出ないんだ。なんてことを、ぼんやりと思った。

「グォオオオ――――――――!!!!」

「っ!?」

直後、靜寂をぶち破る巨大な吠聲が、上空から落ちてきて、僕たちは思わず耳をふさいでうずくまってしまった。

若いとはいえ、歴戦の冒険者であるマルコたちでさえ、そうだ。

尋常じゃない。

――いったい、何が!?

上を向いて、絶句した。

まず、禍々しさをじた。

空を覆い盡くすほどの、黒い翼。

一薙ぎで町など消し飛ばしてしまえるほど長大な尾は、その先に巨大な鎌のような刃を裝備している。

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頭からは幾重にも角を生やし、その中の二本が前方へ攻撃的に突き出していた。

漆黒の龍が、そこにいた。

これが、本のドラゴンだって言うのか?

こんなの、人間がいくら束になったって、勝てるわけないじゃないか……。

「は、はは……なんだよ、あれ?」

リュカ姉が呆けた聲でポツリと言った。

「ドラゴン、じゃないのか?」

「たぶん、ね……でもあんなヤバそうなの、リュカ姉も見たことないよ」

つまり、ドラゴンの変異種ってことか? だとして、ランクはいったい?

いや、測れるわけないだろあんなの。スカル・デーモンとかの比じゃない――

「――っ!?」

――炯々(けいけい)と赤くる雙眼が、こちらを捉えた気がした。

それだけで、死を覚悟した。

『出でよ<ピクシー><アプサラス><ノーム><サラマンダー><シルフ><ドリアード><ワイバーン><ゴーレム><ビッグパンサー><ウィルム>!!』

的に、脳で戦える限りの使い魔を呼び出し、召喚魔法を発した。

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とその時、

「今こそ我ら王國騎士団の立ち上がる時ぞ!! かかれ!!」

町の中心部の方で怒聲が響き、種々の魔法が一斉にドラゴンへと発された。

騎士団だ。

魔法は次々とドラゴンに直撃するが、ほども効いてはいないようだ。

何やってるんだ!? そんなの無謀に決まっている。それくらいわかるだろうが!!

今はそれよりも、住人を避難させる方が先――

――でも、どこへ?

頭の中で上がった咄嗟の非難は、すぐに否定される。

あんなのから、逃げられるわけがない。

なにせ、たった一撃で、都市の一部を消し飛ばせるほどの力を持っているのだから――

無謀などと、騎士団は分かっていた。しかし、逃げ場がないこともすぐに理解して、誰もがおじけづくあの化けに、先陣を切って攻撃を仕掛けた。

それが自分たちの義務だと信じて。それが正義だと信じて。

王國騎士団は、伊達ではなかったということだ。

――なんとかして、助けなければ。

一瞬の思考のに、ドラゴンの顔が町の中心部へと向けられた。

「みんなっ頼む――」

しかし、遅かった。

ドラゴンは何のためらいもなく巨大な火の玉を放ち、その瞬間、熱波とまばゆいに視界が奪われる。

耳鳴りがした。

余りに巨大な音に、聴覚がマヒしてしまったらしい。

けれど、取るべき行は分かった。

『ワイバーン、ドリアード、頼む』

視力が回復するまでの間に、やつが攻撃を仕掛けてこないとも限らない。

なら、とにかくまずは、この場を離れなければ。

ワイバーンとドリアードは、すぐに行した。

ドリアードがみんなを蔦で捕捉し、ワイバーンの背に乗せ、飛ぶ作戦だ。

浮遊じて、とりあえず出できたことを悟る。

直後、視力が戻ってきた。

――町の中央部には、黒いが出來ていた。

「なんだよ、あれ……?」

僕のつぶやきに、誰も答えない。

ワイバーンは、命じてもいないのにぐんぐん高度を上げていく。

『どうした、ワイバーン?』

尋ねてすぐ、ワイバーンの背が震えているのをじた。

震え? まさか、ワイバーンが怖がっているのか?

と、直後、ドラゴンの周りに巨大な召喚陣が現れた。

同時にその中から、無數の小型ドラゴン――ワイバーンが出てくる。巨大なはずのワイバーンも、あのドラゴンと比較すると、まるでトンボほどに小さく見えた。

「召喚陣!? まさか、ロードクラス以上のドラゴンってこと!?」

前でカリファが悲鳴を上げる。

「ロードクラス?」

「召喚魔法を使える魔のことだよ。そういうのって種の最上位クラスなんだけど、そいつらのことをロードとかクイーン、キングって呼ぶんだ。まぁでも、妖やドラゴンのロード以上は、勇者たち以外見たことないって言われてるけどね」

後ろから説明してくれるリュカ姉の口調は、震えを隠せていなかった。

「たぶん、形から言って、カオス・ドラゴンに違いないかな……はは、本當にいるんだ、あんなの」

ワイバーンの軍勢は瞬く間に町を覆い隠し、その一部がこちらへと向かってきた。

「わわっ來た!!」

「わかってる!!」

たちをワイバーンの周りに展開し、逃げ続ける。

町を助けようなどと言う気はさらさら起きなかった。

無理だ。

あんなのに立ち向かったとして、犬死するに決まっている。

ワイバーン一でも恐ろしいというのに、こちらに來た一部だけでも數えきれないほどいる。全部合わせれば、優に三ケタを超すだろう。

加えて、ドラゴンの最上位種だ。

こんなの、戦いにすらならない。

「カオス……ドラゴン・ロードの一ってか。ははっ、おとぎ話の化けに遭えるなんて、ついてるぜ。あれ倒せば英雄だぜ?」

「冗談言わないでマルコ!! おチビ、もっと速くならないの!?」

「これが限界ですよ!!」

「うわわっ赤いの來てる!!」

どうやらワイバーンの上位種もいるらしく、赤いワイバーンが突出してきた。

「くそっ!! みんな頼む!!」

瞬間、一斉に妖たちが魔法を連する。

瞬く間に背後は黒い煙に包まれ、ちらと見ると、地上へ落ちていくワイバーンが見えた。

「やるじゃんおチビ!!」

「オーワさん!! 上です!!」

カリファの歓聲とワユンの絶差した。

上を見ると、いつの間に迂回してきたのか、一回り大きいワイバーンが降下してきていた。

「ちぃっ!!」

「はぁああっ!!」

すでに気づいていたらしいマルコとリュカが、一斉に攻撃する。

リュカ姉の火の斬撃とマルコの風の斬撃が、ワイバーンの片翼を捉えた。

「どんなもんよ!!」

「油斷すんなリュカ!!」

直後、左右からワイバーンが現れる。

「左は任せて!!」

「わかりました!! ワユンっ!!」

「はいっ!!」

ワユンが右のワイバーンへ向け跳躍すると同時に、ワイバーンの片翼を取り出した金屬による錬金で拘束し、さらに金屬で足場を作る。

直後、ワイバーンが斷末魔を上げた。

ワユンがその上に著地し、ワイバーンの眼球を抉ったのだ。

ワユンを錬金で回収すると、左で発音が鳴り響く。

カリファの火魔法がワイバーンに炸裂したのだろう。

『みんな、後ろは頼む!!』

すぐに妖へ指令を出した。

追いついてくるのは、上位種だけのようだ。

を抱えているとはいえ、僕のワイバーンは、他の同種より速く飛べるらしい。

けれど、數はそれほど多くないとはいえ、上位種だ。

いくら妖たちでも、力を併せなければ対処しきれないだろう。

「わわわっどんどん來る!!」

「対処は頼む!! ワイバーン、全速力で飛ぶことだけを意識しろ!! 周りは僕が見る!!」

ワイバーンがしでも速く飛べるよう、かじ取りを僕がすることにした。

これは完璧に意思疎通がとれないと逆効果にしかならないが、ワイバーンは僕に服従しているため、問題ない。

とたんに、スピードがさらに速まった。

同時に、僕は周囲へ目を配り、方向のイメージを送っていく。

しかし、意識を集中していると、否が応でもわかってしまった。

徐々に、囲まれてきている。

どうやらワイバーンたちは、やみくもにこちらを追いかけていたわけではなく、逃がさないよう、上手く調節しながら追って來ているようなのだ。

異常な連攜力だ。まるで、全部で一の魔のよう。

加えていまだに召喚が続いているのか、それとも町の方にはそれほど數は要らないと悟ったか、數がさらに増えてきている。

――このままじゃ、逃げ切れない。

それは明らかだった。

けど、全員が死力を盡くしている。

打開策なんて、考えている暇がない。

とにかく今は、逃げ続けるしかない。

どれくらい逃げ続けただろうか。

「あぁっいやぁあっ!!」

カリファのび聲の直後、ワイバーンの左翼に、赤いワイバーンが食らいついてきた。

がくんと、速度が落ちる。

同時に、上下左右から一斉にワイバーンの群れが襲いかかってきた。

『來てくれ!!』

とっさに妖たちを呼び戻し対処させる。

とにかく魔法を撃たせ、僕も錬金で加勢する。

全員の魔法や攻撃が飛びい、ワイバーンの斷末魔と咆哮が鼓を叩いた。

何が何だかわからない。

全方位、ワイバーンの牙に囲まれた。

が、生臭い息が、叩きつけられる。

「あぁアあああ!!」

標的すら定めず、がむしゃらに攻撃を続ける。

何度もワイバーンの牙が、爪が、を掠めていく。

最前線に立つ妖がやがて消え始め、その度に召喚魔法で再召喚を繰り返した。

もう何十匹も倒しているだろう。

特にリュカ姉やマルコの戦が大きい。

けれど、一向に數が減らない。

それどころか、度が増してさえいた。

視界はもはや、ワイバーンの牙に覆い盡くされている。

時間の経過などわからない。

ただひたすら迎撃し続けた。

けれど、量が違いすぎる。

やがて一の敵ワイバーンが、僕のワイバーンの首に齧りついた。

同時に、ワイバーンの姿が消え――

「「やぁああああっ!!」」

「わわわわっ!!」

「「――――っ!!」」

僕たちは空中へ放り出された。

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