顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く 18

ちょっと慌てたリタさんに背負われ、無事、部屋に擔ぎ込まれた。

え? 何があったって? 

湯あたりですよ。風呂ったんだからそういうこともあるでしょう?

「お加減は?」

「な、なんとか……」

ベッドにを投げ出した僕の顔を覗き込むように、リタさんは聞いてきた。

あ、あまりにけない……。いや弁解するけど、いままで湯あたりしたことなんてなかったんですよ? たぶんすっごい疲れてたからです。

冷たいタオルを額に乗せられた。ついでに、手のひらをを頬に添えてくれる。タオルを濡らしたことで冷えたのか、冷んやりして……あぁ、気持ちいぃ……。

このメイドさん、いい人すぎでしょう。

リタさんは何かを気にするように、いや、僕の調を心配してくれているのだろう。そんなような顔をして言う。

「申し訳ございません。私がいながら……」

「い、いやそんな……すみません」

そんな顔しないでくださいよ、百パー僕が悪いんですから。

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なんか申し訳なさすぎて心苦しい。

扉が開く音がして、部屋に誰かってきた

「ご主人様!?」

リタさんがし取りして、慌てて頭を下げる。

しまった、領主かよ!! やつの前でこんな……。

せめてもとを無理に起こしそちらを見ると、小太りの優しげなおっさんがそこにいた。

あれ? イメージと違う?

「あぁ、無理せず橫になっていなさい」

「あ、えっと、すみません」

毒気を抜かれたというか、意外に優しい言葉に肩かし食らった気分だ。

しようという魂膽か?

「オーワ君、お加減はいかがかな?」

「大丈夫です。ちょっとふらついただけですから」

「それはよかった。いやいや、こちらのメイドがおりながら大変申し訳ない。あとできつく言っておきますので」

穏やかに返してくるが、一瞬、リタさんがピクリと反応したのをじた。

「いや、完全に僕の所為ですので、お気になさらないでください」

「そういうわけにもいかないだろう。病み上がりの君のお世話が、この者の仕事ですからな。

いやしかし、ドラゴン殺しの英雄だというのに奢った様子もなく、立派な若者じゃないか」

「あ、ども……」

なんか隨分持ち上げてくるな。

し世間話をわして、 アドラー伯が真面目な顔つきになる。

ようやく本題か。

「さて、調子の悪いところ申し訳ないのだが、明日、君たちには私とともに王都へ向かってほしい」

「王都へ?」

「今回のドラゴン討伐は、もはやギルドや領の問題じゃないのだよ。カオス・ドラゴンが討伐されたのは、伝記以外では初めてだ。ましてや、その素材が出回るなど。

加えて今回は、王國騎士団の一隊が壊滅しておる。とても知らぬ存ぜぬでは済まないのだ」

確かにその通りだろう。でも、それだとドラゴンの肝はどうなるんだ?

湯あたりでぼんやりした頭の中に、かろうじて疑問がよぎる。

僕の揺を察したか、伯爵は続ける。

「もちろん、君は英雄として歓迎されるだろう。他にも様々な報償を期待していい」

そういうことじゃないんですけど。

つっこもうにも、さも得意げに話してくるからなかなか切り込めない。

「領地を與えられるかもしれないな。そうなれば君も、私たち貴族の仲間りだ。その時はぜひ、懇意に頼むよ」

「はぁ」

それにしても予想外だな。配下になれって脅される、なくとも頼みこまれるくらいは想定してたけど、まさか一切ないとは。

「あの、ちょっといいですか?」

「おぉ、なんだね?」

「王都へ行ったとして、ドラゴンの素材はどうなりますか?」

一瞬、伯爵の顔が固まる。

「それは……そうだな、君に噓はつけまい。

カオス・ドラゴンの素材となると、まるまる全て君のものにはならないだろう。強制的に買い上げとなる。

も、もちろん、君に不利な條件にならないよう最大限配慮されるのは當然、どうしてもしい素材は優遇されるはずだ」

こちらの様子を見てしうろたえながらも、最後まで言い切ってくる。

そりゃそうだろうな。これで納得がいった。

伯爵は、おびえているんだ。王にも、僕にも。

伯爵が僕に手錠かけているのは、僕が不満をじて逃げないように、だ。みんなと會えないようにしたのも、たぶん同じ理由だろう。マルコとか、絶対反対しているはずだし。

この人がここまでするのも、王絡みならしょうがないのかなとも思う。

僕を連れて行けなければ王から罰せられるだろうし、この人からすれば死活問題だろう。

斷ろうと思えば斷れる。

でもこの人から悪意はじられないし、無理に押し通すのもどうなんだ?

同意しようとして、なんとか踏みとどまる。

くそっ、 頭がぼうっとする。

もっと考えろ。一つはっきりさせておかなきゃいけないことがある。

「わかりました。けれど王都へ行くにあたって、一つ、お願いがあります」

「おぉ、なんだね? 私にできることなら最大限配慮しようじゃないか」

「ありがとうございます。実は、友人に、強力な呪いにかかっている子がいるんです。その呪いを解くため、ドラゴンの肝だけは、どうしても確保したい」

「肝、かね……」

急に伯爵の顔が暗くなる。やっぱ肝は最重要素材だろうし、厳しいか?

しかし ほんと顔に出やすいなこの人。噓でも大丈夫とか言っとかないとまずいでしょうに。

大丈夫なのか?

いや、でもまぁ、この方が誠実そうでいいか。

「肝は最重要部位でもあるから斷言はできないが、こちらからも最大限口添えをしよう。申し訳ないが、それで勘弁願えないだろうか?」

超申し訳なさそう。でも僕だって、そこだけは譲れない。

「すみません、こちらも死活問題ですので、譲歩することはできません。

そこで提案なのですが、肝以外の部位は全てお譲りますので、戦いの中で肝は消えてしまった、ということにはできないでしょうか?」

伯爵が一瞬、悩むように目をひそめた。しかしすぐ、頭を振る。

「申し訳ないが、それもできない。王の側近には、見た者の噓を見抜くという、いわゆる魔眼の持ち主がいるのだ」

「魔眼、ですか……」

なにそれ中二くさい。ってふざけてる場合じゃないな。

噓を見抜くとはまた面倒な。というかそれ、本當か? いやでも、不思議な力とかいろいろあるし……。

本當だとして、度とかによれば騙せないこともないだろうけど、危ない橋には違いない。この人地位が大切そうだし、噓つけなさそうだしな。

さて、どうするか。

この狀況から逃げることもできる。でも、厄介なことにはなるだろう。

一度王都へ行ってみた方がいいか? でも、最悪肝を手にれられない可能もあるし……。

悩む僕を見て、伯爵の聲が必死になる。

「君が斷れば、私たちにそれを阻止する力はない。けれど王國の命により、相応の対処をしなければならないのだ。

そうなればこちらの被害は目に見えておるし、何より君は、都市を救ってくれた英雄なのだ。そんなことはしたくない。

君からしても、人類の敵として、これから様々な敵から狙われることになるだろう。當然、や知り合いに大変な迷をかけることになる。君だってそれは避けたいはずだ」

その時、リタさんが聞こえるほどはっきりと、息をのんだ。

懇願するように、伯爵が頭を下げたのだ。

「君と敵対すれば、紛爭になる。そうなれば、ただでさえ疲弊した土地だ。未曾有の大災害になってしまう。私を、私の領地とそこに住む民を救うと思って、頼む」

「ちょ、ちょっと、やめてください」

伯爵が一冒険者に頭を下げるなんて、よほどのことだろう。

リタさんがアワアワと困っている。

退路が斷たれたようだった。

さすがは貴族ってことか。幾多の渉事を乗り越えてきてるんだろう。僕がこういうのに弱いって事を見かしてるんだ。

くそっ、頭がぼうっとする。靄がかかってるみたいだ。

こんな時に湯あたりするなんて……まさか、これを狙って?

いやいや、さすがに湯あたりまで狙うなんて無理だろう。それに、普通に考えれば僕が寢てる間に王都まで連れてっちゃえばいいのに、そうしなかった。それは、まぎれもない誠意だ。

しょうがない、王都へ行ってみるか。この人の助力もあるし、なんとかなるはずだ。

「わかりました、王都に行きましょう。

もう一度言わせてもらいますが、僕としては、肝さえ確保できればそれでいいんです。それすら葉わないようなら、最悪、戦いも厭わないつもりですので、よろしくお願いします」

「たっ戦い……承知した。君の厚意に謝する」

戦いも厭わないというのはもちろんハッタリだけど、効果はあったらしく、伯爵は明らかに揺した。

「それからもう一つ、ワユン、えっと僕の友人達なんですけど、彼達は解放してください。彼たちが言うように、ドラゴンは僕が倒しました。なのでみんなは無関係です」

もしもの事を考えると、一人の方がいろいろとやりやすい。

「わかった。無事プネウマまで送り屆けよう」

伯爵がしっかりと頷く。

これでいいかな。

ほっとすると、目眩がして思わずベッドへ倒れ込んでしまう。

うぅ、こんな合悪いのか、湯あたりって。

「長々と申し訳ない。明日の予定などはメイドへ伝えておくので、君はゆっくりと休んでくれたまえ」

その言葉を聞いて、僕は目を閉じた。

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