顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く21

リュカ姉たちが目を覚ましたのは、処理を終えたすぐ後だった。

すぐにぼけっとしていた四人に、狀況をかいつまんで説明し、その後四人から僕が目を覚ますまでの間のことについて聞いた。

まず、リュカ姉とマルカリ(マルコとカリファ)だけど、どうやら三人はドラゴン戦から今ここに至るまで寢ていたそうだ。

おそらく、邪魔されないようアドラー伯が睡眠薬か何か盛っていたんだと思う。それか、単純にドラゴンからけたダメージが殘っていたのかもしれない。

次にワユン。

も僕と同じように、アドラー伯からドラゴンの処理について話を持ち掛けられていたらしい。

ただ彼の場合、僕たちを人質に、ほぼ恐喝のような狀態だったようだ。それで昨日お風呂で聲をかけたとき、あんなよそよそしかったのか。

換を終えた後、僕たちは二手に分かれた。

僕の召喚したワイバーンに乗り<プネウマ>へ向かったのは、リュカ姉とマルコ、カリファ、

それとリタさんだ。

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まさかとは思うけど、アドラー伯とベーゼ伯が手を組んでいることを考えると、もしかしたら、ベーゼ伯がヨナに対して何らかのちょっかいを出すとも限らない。

やり手の領主様()のことだから、アドラー伯が失敗した時のことも考えていておかしくはない。

何より、ハンナさんを安心させてあげたいし。

だから、三人には急いで戻ってもらった。

そして僕とワユンはクリムゾン・ワイバーンに乗り、アドラー伯のところへ向かっている。

これからやろうとしていることを考えると、いくら戦力的に余裕があるとはいえ危険に違いはないから、ワユンにも戻っていてもほしかったんだけど、どうしてもと言ってついてきてしまった。

単純に心配だったのかもしれないけど、何かを察してる風だったし、やっぱワユンは鋭い。

後ろのワユンへと、し意識を向けてみる。

「どうしました?」

「いや」

すぐに気づかれた。

僕が何か隠していることにも気づいているんだろうか。

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でも、たとえ気づかれているとして、今の<王の力>なら、使っても問題はないように思う。ただ相手を破するだけなら、<王の力>の本質には気づかれないだろうし。

「オーワさん!」

「あぁ」

ワユンの聲で我に返ると、遠くにアドラー一行が見えた。

歩兵もいる大部隊だからか、速度は遅いようで、まだ出発してからししか経っていない。

「ワユン、僕から離れないで」

「はいっ」

一聲かけ、ワイバーンを急がせ、ドリアードを召喚する。

ドリアードにスキル<増>、<群化>、発

『あそこにいる兵士たちを拘束しろ。でも荷は傷つかないようにしてくれ』

伝わるや否や數百もの妖は綿のように散り、戦闘が始まった。

戦闘はあっけなく終わった。

突如地面から生えた巨大な蔦により、リザード部隊は混、振り落とされた兵士たちはあっけなく蔓に絡めとられる。

したリザード部隊も、ワイバーンがにらみを利かせたとたん、大人しくなってしまった。

どうやら上下関係がわかるようだ。

全部隊を拘束し終え、目の前で餅をつくアドラー伯を見下ろす。

「言いたいことは山ほどありますが、とりあえず狀況を説明してもらえますか、伯爵?」

「き、貴様は、自分が何をしたのかわかっているのか!? これはヒト國に対する反逆罪だぞ!!」

威圧的に言ったつもりだったけど、逆に怒鳴られてしまった。貴族ってやつはさすがに肝が據わってるなぁ。

いや、プライドが無駄に高いだけか?

いずれにしろ、青い顔をして震えてるあたり、効いてはいるんだろう。

アドラー伯は続ける。

「巨大トカゲ一匹倒したくらいでいい気になっているようだが、このことを王が知れば、貴様なんぞ……」

「なら、王様の高貴なお耳にらないよう、ここで掃除しましょうか。ワイバーン!!」

聲をかけると同時に。ワイバーンが僕のすぐ後ろへ飛來する。

伯爵は聲も出さずに悲鳴を上げた。

「ま、待て、落ち著くのだ」

「えぇ。お互い立ち位置がわかったところで、落ち著いて、話し合いをしましょう」

つい最近何度も練習したおかげで、この手の話し合い(恫喝)に慣れてしまった。

なんか、どんどん汚れてくなぁ、僕。

清純なオーワ、さようなら。汚い僕、こんにちは。

ということで、恫喝開始。

尋問は滯りなく終了した。

狀況は大方、ゲイルに吐かせた通りだ。

僕を従え、王に贈りをして出世街道まっしぐらってこと。

さて、あとはこいつをどうするかだ。

こいつらをここで始末するのもありだ。

そうすれば、面倒なこと一切抜きにして肝を持って帰れる。

ただ、終わった後がし面倒だな。

これだけの地位の伯爵が今消えれば、まず間違いなく僕が疑われる。

別に、今ならどうとでもなりそうだけど。

とはいえ、このまま口約束だけして放置ってわけにもいかない。

……やっぱ一番都合がいいのは、こいつに口裏合わさせることか。

不安げな表のワユンを見る。

「なぁワユン。ちょっと頼みごとがあるんだけど」

「なんでしょう?」

拘束された兵士の向こう側にある、ドラゴンの素材り魔法袋が積まれた荷馬車を指さした。

「あそこにある素材の中に肝があるか確認して、あったらそのまま周囲を警戒していてくれ。盜られたら困る」

「はいっ」

これでよし。

何の疑問もなく駆けていくワユンを見ながら思う。

ワユンには、洗脳できることを知られたくない。

いや、この能力はもはや、洗脳どころじゃなかった。

思うがままにできてしまう。

<王の力>発

アドラー伯の雙眼から、が消えた。

記憶の消去、開始。

コンマ數秒にも満たない時間で、一個の魂たる記憶に素手でれ、破壊した。

僕に対する悪いイメージをすべて消去。

さすがに、偽の記憶を植え付けるほどの能力はないらしいが、とりあえずは十分だ。

次に脳の回路をいじくる。

麻薬中毒というものがある。

麻薬を嗅ぐことで脳の報酬系が異常に活化し、ドーパミンやエンドルフィンなどが分泌され、強い快楽が生まれる。

――快楽。

繰り返し行われる、あるいは通常起こり得ない強さの快楽が引き起こされることにより、その二つが極端に強く結びつくことで、中毒は起こる。

それはもはや、反に近い生理的なモノであり、意志の力ではどうにもならない。その狀態が異常であることすら、理解できないことすらある。

完全な依存だ。

能力の解放とともに、なんとなくそんなイメージが浮かんでいた。

それを利用して、僕に従うことで快楽が生まれるよう、繰り返し働きかけた。

僕の命令を聞きいた瞬間、そして言われたとおりに行した瞬間、異常にドーパミンを分泌させる。

まず起こり得ない量の『行――分泌』サイクルを、脳の電気刺激、分泌のやり取りだけ『あり得ない』速度で繰り返し、報酬回路を定著させた。

一連のプロセスに要した時間、わずか三分。

カップラーメンを作るほどの手軽さで、一つの個を作り替えた。

アドラー伯に話しかける。

「さて、伯爵にお願いしたいことがあるのですが」

「……? おぉ、なんだね? 救世主の君が言うことだ、何でも聞こうじゃないか!」

伯爵は一瞬、わけがわからないといった顔をしたが、すぐに明るい聲を上げた。

おそらく脳でこの狀況と記憶の辻褄が合わせられたのだろう。

人間の脳は、結構いい加減なところがある。

「僕は肝と素材の一部を持って帰ります。伯爵は王に、それらが戦いの中で失われてしまったと証言してください。

それと、今回の計畫は功し、僕と伯爵が協力関係にあるということも」

肝だけでもいいんだけど、それだと余計に怪しまれそうだ。

「はて、そんなことでよいのかね? そもそもこのドラゴンは君のだ。君ほどの力があって、加えてわしが進言すれば、一部と言わず半分くらい……」

「いえ、無駄に事を荒立てたくありませんし、伯爵のお立場もあるでしょう」

り人形には、なるべく権力を持っていてもらいたい。

「おぉ、さすがはオーワ殿! 目先のにおぼれることなく先を見據え、あまつさえわしのまで案じてくださるとは!」

そうと知ってか知らずか、アドラー伯は激したとばかりに聲を上げた。

「それから、僕はドラゴンにやられたケガでくこともできない、ということにしておいてください。召還に応じることができないのはそのためだと」

「わかった、そのように伝えよう」

アドラー伯がうなずくのを見て、僕は右手を差し出した。

「では、これから僕と伯爵は同盟です。どうかよろしくお願いします」

「おぉ、そうだな! こちらこそよろしく頼む」

伯爵はこちらの無禮な行為を全く気にすることなく、満面の笑顔で応じてきた。

「では、すぐに出発してください」

「あぁ、そうだな。余り遅れると、妙な疑いがかけられかねん」

僕がそういうと、伯爵は踵を返し、兵たちのもとへ歩み寄る。

「皆の者。わしはオーワ君と和解した。わしは今まで、とんでもない過ちを犯していたようだ! 彼は救國の英雄だ。今からはオーワ君をわし同様、いや、わし以上に丁重に扱うように!」

兵士たちはよく狀況が理解できていないようだったが、拘束を解いた後もこちらへ敵意を示すものはいなかった。

の目はいくつもあるが、まぁ、無視で構わないだろう。

どうせ流はない。

ドリアードに命じて魔石一欠片、髭一本、肝と鱗三枚、牙三本、左の爪二枚を回収させ、アドラー伯一行を見送っていた。

「伯爵様って、あんなじの良い方でしたっけ?」

ワユンが獨り言のようにつぶやく。

「まぁ、手のひら返しは貴族たちの十八番だからな。一方から見てじが悪くても、他方から見ればじがいいなんてこと當たり前だろ? 今はこちら側についたから、じがよく見えるだけだ」

「はい……でも、あれはなんか、まるで別人みたいでした」

別人、か。

人の魂は記憶にあるのではないか。

そんなことを考えたことがあった。

記憶が、それまでの経験がその人間のじ方に、あるいは考え方、行にまで影響する。

それは否定しようがない。

その問いに答えはないだろうが、もしそうなら、記憶を失った者はそれまでとは事実別人ということになる。

なら僕は、「アドラー伯」を別人に変えてしまったということになる。

まぁ、どうでもいいことか。

「じゃあ僕たちも行こうか。ヨナが待ってる」

「はい」

ワユンに聲をかけ、ワイバーンに飛び乗った。

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