《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く 25
夜に町の外で、解呪祝いのパーティーをすることになった。
パーティーとはいえ、ただのバーベキューだけれど、せっかくなのでマルコやカリファも呼んだ。
ハンナさんは晝間の分の仕事を終えなければならないとのこと。
今ギルドは先の事件やギルド長の代など、いろいろと忙しいらしい。
錬金で巨大な金網を、そしてノームの力で土臺を造れば、即席のバーベキューセットの出來上がりだ。
火魔法で著火し、あとは食料をぶちまけるだけ。
リュカ姉がのった袋を持ち上げる。
「おりゃあっ! いっくぞ――!!」
「ちょっと牛(うしちち)!! それじゃせっかくのおが玉になっちゃうじゃない!!」
高級なを割り勘で買ったのだ。
カリファが聲を上げるのも當然と言えた。
「どんどん焼け! 俺の指示に従って焼け!」
「ちょっとマルコまで……もう」
食い、特にの前では周りが見えなくなる男、もとい狼。
飢えた獣には何を言っても無駄と、カリファはあきらめたようにため息をついて、こちらにやってきた。
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年下組の僕とワユンとヨナは丸いテーブルに座って、ワイングラスに注がれたジュースを飲んでいる。
そこに給仕係のリタさんからルービーをけ取ったカリファが腰を下ろす。
「しっかしホント、この子は絵になるわね~」
カリファは、ワイングラスを傾けるヨナを見てつぶやいた。
話は二人に何度かしてあったとはいえ、なんだかんだ初対面の彼たちだけど、軽く自己紹介しただけで普通に接することができている。
カリファは言うまでもないけど、ヨナもコミュ力が低いわけじゃないからな。
人當たりもいいし。
「そんなことないですよ。カリファさんも絵になってます」
「それ、あんまうれしくないわね……」
大ジョッキ片手にルービーを煽っていたカリファは苦笑いをする。
「ふふっ、冗談ですよ」
「まったく、生意気」
背筋をしゃんとばしてジュースを飲むヨナは、どこかの貴族のご令嬢のようだ。
前々から思っていたけど、やっぱしっかりとした教育をけていたのだろう。
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でも今日のヨナは、いつもよりテンションが高くて、し子供っぽい。
いや、呪いやら病気やらがなければ、もともとこうなのかもしれないな。
さてと。
僕は意地悪く口角を上げて、カリファを見る。
「まぁ紅茶とかよりは、今みたいにルービーがぶ飲みしてるほうがはるかに似合ってますけどねー」
「ちょっと、どういう意味よそれ?」
「ちょ、ちょっとオーワさん」
カリファを責められる機會もそうはないので、ここはヨナに加勢する。
カリファのジト目に、関係のないワユンがアワアワと揺してしまう。
ヨナと視線をわす。
「かっこいいって意味ですよね、オーワさん?」
「そうそう、カリファはかっこいいからさ」
「……なんか釈然としないわね」
「あわわ……」
カリファのジト目はなかなか迫力があるが、ヨナといれば特に危害を加えられることもないだろう。
ただ一人右往左往するワユンはし気の毒だけど。
「にく~にく~ミノのにく~。ベロに肩に腹の~」
「おいリュカ! 焼き過ぎだ! そっちさっさとひっくり返せ!」
「うるさいなぁ~どこのお大臣様だお前は~」
リュカとマルコが喧嘩しだすと、カリファの視線はそちらへ向かう。
ちなみにお大臣様ってのは、たぶん日本で言う奉行のことだと思う。
奉行が、こっちでは大臣なんだろう。
こういうマイナーチェンジはたまにみられる。
それにしてもわかりやすすぎるだろ、カリファ。
僕は思わずにやけてしまう。
「なによ」
「いえ。カリファは焼きもちやきだなぁと思いまして」
「なっ」
途端に赤面するところは、正直かわいい。
ヨナも小さくクスリと笑う。
ワユンは首をかしげている。
普段は鋭いはずなのに、ごとに関してからきしなのは、経験のなさによるものだろう。
ヨナは頭がいいからな、経験とかはあまり関係ないのかもしれない。
僕?
経験はなくとも、片思い&ふられる&人間観察、のなせる業ですよ。
なんなら告白してもいないのにふられるとかいうレアな験だってしてるし。
さらには告る気のない相手にすら……まぁいいや。
「べ、別に気にやきもちなんてしてないわよ! 私はあんたたちガキとは違って、オ・ト・ナ・の、なんだから」
「はいはい、そうですね」
「ちょっと――」
「おいっ!! それはまだ早いっ!!」
「わわっ」
カリファが聲を上げるが、それはマルコの怒聲にかき消された。
どうやらリュカ姉が別のたちを投下しようとしていたらしく、その手をマルコが抑えている。
當然、カリファの視線はそちらへ流れていた。
「ぷっ」「くすっ」
僕とヨナが同時に噴き出す。
「――っ! ……はぁ」
赤くなったカリファはため息をついて、僕とヨナを互に見やった。
「あんたたち、ホントよく似てるわ。よく見れば見た目も何となく似てないこともないし。実は兄弟とかじゃないの?」
「いや、それはないですよ」
だって僕はこの世界の人間じゃないし。
「それに、そんな似てないでしょう?」
ヨナは赤目で銀髪だし、何よりコミュ障じゃない。
それに僕はこんなに形じゃない。
似てるとか、そんなのヨナに失禮だろ。
「似てるだなんて、オーワさんに失禮ですよ」
「いやヨナ、それは僕のセリフ」
「やっぱ似てる。あんたもそう思うでしょ?」
カリファがワユンにふると、ジュースを飲みながらワユンはこくこくと頷く。
「それみなさい。なにより生意気なとこがクリソツよ。一度調べてみた方がいんじゃない?」
「はいはい」
適當に返事をしつつちらと金網のほうを見やる。
そろそろ腹も限界に近いのだ。
リュカ姉はしきりに金網の上のをペラペラとめくっていた。
「そろそろかなぁ~」
「まだだ! 勝手にひっくり返すんじゃない!」
「えいやっ」
「おいっ! ……ったく」
適當なリュカ姉と、やたらに厳しいマルコだ。
「そろそろベキャツ切っとくか。おいリュカ、ここは俺が見とくから切ってこい」
「うぇー、めんどいー。私が見てるからマルコが切ってよー」
「てめぇになんか任せられるか」
「えー? なんて誰が焼いたって同じじゃーん?」
「だからダメなんだお前は! いいか、一番詳しい奴が焼けば一番旨くなんだよ! 適當に焼くとかへの冒涜だ!」
さすが狼。
もはやこだわり通り越して卑しさすらじる。
見かねたリタさんが、あらかじめ用意していたらしいベキャツを運んでいく。
さすがに元貴族の奴隷だけあって、優秀だ。
「どうぞ」
「おぉ、気が利くじゃねぇか。どっかの脳筋とは違っていい嫁さんになるぜ?」
「ありがとうございます」
マルコのナンパを右から左へ流すリタさん、マジクール系。
てか、あんな風に流されてもショックけないとか、打たれ強すぎるだろマルコ。
僕なら余裕で一週間引きこもれる。
聞き耳を立てていたらしいカリファが大きくため息をついた。
マルコがこちらへ聲をかけてくる。
「おい野郎ども!」
「しゅ・く・じょ(淑)!!」
珍しくマルコにカリファが噛みつく。
「あぁ、淑だ? まぁいい、が焼けたぞ! 座ってないでさっさと取り來い!」
號令と同時に立ち上がる僕とワユン。
対してゆったりとしたきのカリファとヨナを見て、ワユンはちょっと顔を赤くした。
は高級なだけあって、しっかり脂がのっていて旨い。
ちなみに、この世界にも家畜というものは存在する。
そして、たぶん日本ほどじゃないにしろ、おいしくなる育て方を経験的に知っているようだ。
リスのように頬張るワユンの皿に、リュカ姉がを投下していく。
「おいひぃです~」
「ははっ、たくさんあるからどんどん食べなー」
「いいか、その皿のは全部食っていい。野菜、野菜の順で食え! おいコラお前、を食え!」
「え、えっと……」
荒ぶる大臣に、さすがにし怖じするヨナ。
「マルコ、ヨナを怖がらせないでください」
「そーだぞマルコ! の敵ー」
リュカ姉が即座に追撃を加える。
「これは親切だ。というかお前らはもっと野菜を食え!」
言い爭っていると、カリファが加わってきた。
「この油っぽすぎるのよ。もっとさっぱりしたのじゃないとキツイわ、ねぇヨナ」
「そうですね、さすがに野菜、はちょっと」
「弱者どもが。あれを見習え」
指さす方には、無心に野菜の順で口に放り込んでいくワユンの姿。
なおこちらには気づかない。
「おう、わんころ。いい食いっぷりじゃねえか」
「(はぐはぐはぐ……)……っ!!」
リスのようにほおばったまま、こちらを向いて真っ赤になった。
「のどに詰まらせないようにね。まだたくさんあるし、ゆっくり食べな」
言いながらワユンのほうへ移し、僕もを口へ運んでいく。
「次はもっとさっぱりしたの焼かない?」
「これとかどうでしょうか?」
カリファとヨナは一緒になって次のを投下し始めた。
「おい、一旦金網をだな……」
「あーはいはい大丈夫だから、マルコも食べたら?」
「てめっ……まぁいい」
カリファはあしらい方を心得ているな。
食べながら一通り焼き終え、皿に移してテーブルを囲んだ。
を食らうペースもゆっくりになり、飲みを飲みながら會話も弾む。
リュカ姉がジョッキをダンッと勢いよくテーブルにたたきつけ、口を開く。
「次のギルド長誰になるかなぁ~」
「リュカ姉、叩きつける意味あった?」
「オーワ、指摘しても無駄。
そうね、まぁあのデブに比べたら、誰だってマシじゃない?」
リュカ姉とカリファのだらだらしたやり取りに、ワユンが不思議そうに口を開く。
「ギルド長が変わると何か起きるのですか?」
「そうだなぁ~。ワユンちゃんたちは特に何もないかもしれないけど、リュカ姉たちは、特別任務とかしは減るのかな~」
「あと、たまにある任務失敗に対するお小言がなくなるわね」
カリファが嫌なものを思い出すように言うと、ワユンは首を傾げた。
「おこごと? 失敗すると怒られちゃうんですか?」
「主にの冒険者がね。あいつ、絶対無理難題吹っかけて、私たちと二人きりになろうって腹積もりだったのよ。ハンナがいなかったら、とか要求してきそうじゃない?」
「いや~、さすがにそれはないんじゃね?」
「いーや、あるわ! だってあいつ、いっつも私の足とかあんたのとか凝視してるもの」
「うへぇ」
カリファの言葉に、さすがのリュカ姉も気味が悪いとばかりに舌を出す。
あのギルド長、そんなことまでしてたのか。
そりゃ評判悪いわけだ。
けど、『見られたくないならそんな服著るなよ。 バカなのか?』なんて反論は、できないよなぁ。
見せるためにそんな出度高いんじゃないのだろうか?
っておかしな生きだ。
「見られたくねえなら、んな服著てんじゃねえよ。まぁあのデブはいつか殺してやるがな」
さらりとぶっこみやがったよ。
さすがマルコ、怖いもの知らずだな。
カリファが分かりやすく呆れたような表になる。
「ホントわかってないわね、マルコは」
「あん? どういうことだよ」
「なんでもないわ。
そういえばオーワ、あんたどっちのカレシなの?」
「ぶふっ!!」
急激な話題転換に、ワユンがジュースを噴出した。
僕は固まり、ヨナは特に衝撃をけた様子もなく平然とジュースを傾ける。
「ま、まだ付き合ってないですよ!」
「はぁ? こんな二人も侍らせておいて、あんたおかしいんじゃないの? それとも、二人とも手込めにでもする気?」
「ちょっ!! なんてことを……」
「手込め?」
ワユンはまたも首をかしげる。
いつかその細い首が折れちゃうんじゃないか、なんてアホな心配が浮かんだ。
というかワユン、あんな環境にいてそんな言葉も知らないのか?
いや、あんな環境だから、言葉を知らないのか?
貴族がそんな言葉使うとは思えないものな。
……ルーヘンなら使っててもおかしくないけど。
ヨナのほうは知っているらしく、どうしようか戸っているようだ。
カリファもしまったといった表をしている。
純真な目で、ワユンがカリファを見上げる。
「手込めってなんですか?」
「えーと……」
こっち見んな、カリファ。
ワユンも、その視線につられるようにこっちを見てくる。
「え、えぇと……」
「えぇ、ちょっとオーワ!」
視線でリュカ姉にパスする。
従順なもので、ワユンの視線もつられてリュカ姉のほうへ。
「うーんと、ワユンちゃんにはちょっと早いかなぁ~、ねぇマルコ?」
バカリュカ姉! そっちは地雷だ。
「あん? 教えてやりゃあいいじゃねえか。なぁオーワ?」
意地悪く笑いながらこっちにふりやがった。
おのれマルコ。
「オーワさん……」
私一人知らないのは寂しいです、とでも言いたげな目だ。
「ワユン様。オーワ様がお困りのようなので、ここはわたくしが」
「リタさん!」
傍観を決め込んでいたはずのリタさんが、いつの間にかそばに來ていた。
まさかの救世主の登場に、僕は思わず嘆の聲を上げてしまう。
「手込めというのはですね」
きっとオブラートに包んでごまかしてくれる、はず。
「無理やり力で相手を押し倒して、をぶつけるという行為を差します。今の場合、オーワ様が、ワユン様、ヨナ様お二人を無理やり犯すという意味で用いられ――」
「うわぁあああっ!!」
一切のごまかし無く、ドストレートに言い放った。
慌てて大聲を上げるも、後の祭りだ。
「犯、す……って……う……」
ワユンは口をパクパクさせている。
犯すの意味くらいは分かるらしい。
「あぁぁ……」
「あちゃー」
カリファは頭を抱え、リュカ姉は苦笑いしていた。
「あら」
ヨナは困ったような聲で呟く。
「リ、リタさん、あんた……」
「何か問題でも? 私はご主人様(ワユン)が教えろと命じられたので、言いつけ通りにしただけですが?」
絶対わざとだこいつ。口角がし緩んでやがる。
仕返しだってか?
ワユンへ? それとも僕へ?
「あっはっはっは!!」
マルコはなぜかご機嫌だ。
ワユンは目に涙を浮かべ、真っ赤になってこちらを見ている。
「オーワさん……その、お、犯すんですか……?」
「犯さない!! カリファが勝手に言ってるだけだ!!」
「隠しても無駄だぜオーワ! おいチビ、男ってのはみんな、頭ん中尾のことでいっぱいなんだぜ? 特にあいつくらいの年の男はな」
「ふぇええっ!!!?」
ワユンは無意識だろうが、を掻き抱いて後ずさった。
「マルコォオオっ!!」
「くはははっ!!」
僕がぶと、マルコは高らかに笑い聲をあげた。
とりあえず、絶対あとで、マルコは殺す。
片づけを済ませ解散した後、僕はヨナの部屋に呼ばれた。
改めてお禮を言いたいとのことだったけど、これはもともと僕から提示した約束でもあったし、必要ないと返した。
けれども一通りお禮を言われて戸っていると、ヨナは一瞬、思いつめた表を浮かべた。
「どうしたの?」
「いえ、その……オーワさん、一つお願いをしてもいいでしょうか?」
ヨナからのお願いは珍しい。
僕に迷をかけることを極端に嫌っていたんだ。
些細なことを除けば、これが初めてではないだろうか。
「もちろんいいよ。何?」
「私を、オーワさんが今まで行った場所に連れて行ってください。オーワさんが今まで目にしたものの一端でいいので、私も見たいんです」
それは予想外の頼み事で、僕はし返答に戸ってしまった。
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