《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く28
ヨナがいなくなって三日目の朝になった。
昨日まで僕は、ワユンと一緒に手あたり次第ヨナを探した。
最初は、一人でどこか散策にでも行ったのではないかと思った。
なにせ、ようやく自力で歩き回れるようになったんだ。
活することに慣れてきたころでもあったし。
けれど、ヨナが僕らに何も伝えず、勝手に一人で出ていくなんてことあるだろうか。
置いて行かれた人がどれだけ心配するかを知っているヨナが。
その後、妖軍団を使って片っ端から捜索しても見つからなかったことで、異常だと確信した。
それからは、ワユンやリュカ姉たち、それからハンナさんにも伝えて、協力してもらった。
妖軍団を使っても見つからなかったのだから、意味はないのかもしれない。それでもギルドには捜索願を出し、リュカ姉たちには町の中を探してもらった。
そして僕は、ヨナに案したところを片っ端から見て回った。
けれど、見つからなかった。
攫われたんじゃないか?
そんなことを考えたりもした。
けれど、それはほぼあり得ない。
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なにせヨナは、もうあの頃のように弱くない。
確かに魔法を妨害するはいくつかあるけど、それを考えてもヨナは異常なほど強い。
騙されて誰かについていったとか?
けど、ヨナは頭がいいし、悪意には敏な方だろう。
悪意の中で生きてきたようなものだし。
とするなら、一番可能が高いのはこれだ。
ヨナは、自分の意志で一人で旅立った。
僕らに言えば引き止められるであろうと考えて、あるいは、煩わしいことになると考えて、黙って行ってしまった。
これが可能として、一番高い。
たぶん僕は、その可能を考えたくなくて、前者のように考えていたんだろう。
引き止めることはできない。
それが、ヨナの意志なら――。
と、そこまで考えて、僕はギルドに著いた。
今朝、ギルドに出向くよう遣いが來たからだ。
僕の部屋を知っているのは、ギルド職員ではハンナさんだけなので、彼に呼ばれたんだろう。
二階へ上り、いつもの部屋の前で扉をノックする。
「失禮します」
「早朝よりお呼び出ししてしまい、申し訳ございません」
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案の定、部屋の中にいたのはハンナさんだった。
促されるまま、ハンナさんの向かいに著席する。
「早速ですが、オーワさん、あなたに指名の依頼があります」
「お斷りします」
即答した。
イライラしたんだ。
半ばヨナの目撃報でもあったのかと思って期待してたのに、この人は何を考えてるんだ?
顔を変えることなく、ハンナさんは続ける。
「依頼容は最後までお聞きください。
依頼は、先先日より起きている、魔人による貴族襲撃事件に関することです」
あぁ、そんなようなこと聞いたな。
ヨナを探している最中、冒険者たちの間で話題になっていたのだ。
「魔人は貴族ばかり狙っているそうで、その護衛をしろとのこと。
依頼人は、この國の國王です」
「國王? なぜ、國王が僕なんかに?」
反的に疑問が出てしまった。
「それはもちろん、先日のカオス・ドラゴン討伐の件で、実力が認められたからでしょう」
ハンナさんは淡々と返してくる。
けど、本當に聞きたかったことはそうじゃない。
僕はその件で、重傷を負っているという設定なんだ。
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それに、魔人一人くらい、王宮の兵で十分じゃないのか? 僕以上に信頼がおけて、かつ強いやつなんてたくさんいるのでは?
あきらかにこの依頼は、他の意図がある。
アドラー伯爵に仕掛けた細工がばれてしまったのだろうか?
噓を見破るスキルを持った者がいる。
でも、アドラー伯の記憶は完全に壊したはずだから、噓にはならないはず。
矛盾點が出てしまったのか?
それとも、それ以外にほかの能力を持った者がいるとか?
あるいは、噓を見抜くではなく、別の能力だったり?
十分あり得る話だった。
勇者なんてやつのを引いてるやつには、何が起きてもおかしくない。
それに、もしかしたら僕以外の異世界人がいる可能も否定できない。
確かめるべきだろうか?
いや、ここは無視を決め込むのが一番だ。
ければ設定に矛盾が生じるし、面倒になることが目に見えている。
そんなことより、まずはヨナの無事を確かめる方が先だ。
けど、王からの依頼を拒否することなんて、果たしてできるのか?
尋ねてみると、ハンナさんは首を振った。
「いえ、これは命令ではなく依頼という形なので、斷ることもできます」
「えっ?」
意味が分からない。
斷れる?
僕の混をよそにハンナさんは続ける。
「けれど、今回の焦點はそこではありません。
問題は、その魔人の見た目です。魔人は『長い銀髪とけるように白いを持つ、小柄なだった』という目撃報があるのです」
「なっ……!?」
ヨナの特徴と合致している。
というか、確実にヨナだろう。
けど、ヨナは魔人じゃないだろ?
僕はオークキングくらいしか魔人を見たことがないが、あんなのと一緒にされるとは思えない。
いや、よく考えればわかる。
魔人はヒトと見分けがつかないんだ。
擬態できるのかもしれない。
それに一般人はそもそも魔人を見たことがないだろうし、だとすれば、し他と違うだけで魔人だと思い込んでしまう。
だからこそ、僕は<王の力>を人前で使わなかったんだし。
何より、ヨナの目は赤い。
普通の人とは明らかに違う。
魔人と勘違いされるのも無理はないんじゃないか?
考え込む僕をしり目に、ハンナさんは説明を続ける。
「被害は今のところ、商業都市のベーゼ伯爵家、アドラー伯爵家別荘、北上して<レブェーナ>のベーメル子爵家他、次々とあがっています。
アドラー伯爵は王都に滯在中であったため逃れましたが、他すべての家の當主含むご家族は慘殺されていたそうです」
「――っ!!」
慘殺。
ヨナが、人殺しを? どうして?
の気が引くのをじた。
けれど、そのあまりにも過激な表現は、ヨナによる犯行を否定していない。
ヨナは報復をするとき、恐ろしく殘酷になる時がある。
ハンナさんは続けた。
「また、これは報告していないことなのですが、三日前の真夜中、私の家の近くで大きな騒ぎがありました」
ハンナさんの家の近く……あの奴隷商のところか。
僕の理解を察したようにハンナさんは頷いて、続ける。
「えぇ、そうです。また、貴族たちのほかにも、一部商人など富裕層にも被害が出ていると聞きます。
被害者に共通しているのは、奴隷を所持している、ということです。
そしておそらく、國王はこのことに気づいて、王都にいる貴族と自分を守るため、魔人討伐部隊を編していることでしょう。北方前線にいる強力な戦士も員してるはずです。
では、改めてお聞きします。オーワさん、あなたはこの依頼をけますか?」
この犯人は、まず間違いなくヨナだ。
けど、機がわからない。
ヨナは確かに奴隷だったけど、だからと言って、奴隷を持っているというだけの理由で、何ら関係のない者を一族郎黨皆殺しになどするだろうか。
それに、移方法は?
たった二、三日でこれだけの範囲で事件を起こすなんて、飛行手段を持たないヨナには無謀なことに思えた。
いくらを強化したところで、徒歩での移は現実的じゃない。
疑問が多すぎる。
加えて、王からの依頼、というのはどうも怪しい。
戦力が足りてないなんてことはないだろうし、あったとして、僕より信頼のおける人ぐらいたくさんいるだろう。
あえてそれらじゃなくて僕を指名してくるのは妙だ。
罠だったらまずいことになる。
魔人に対する戦力を集めているだろうし、下手すれば捕まえられて、従屬させられる可能もある。
人間の最高戦力がどの程度のなのか、まだ未知數だ。
王宮の防衛の裏に、カオス・ドラゴンを倒した怪しい冒険者の確保。
いや、むしろ後者が本命かもしれない。
カオス・ドラゴンは、伝記でしか語られていない伝説の魔だ。
とにかく、はっきり危険だということは分かっている。
それでも僕は、頷くしかなかった。
「わかりました。
では、王都にある王宮へ向かってください。そこで指令が出ると思われます」
「はい」
返事と同時に席を立とうとすると、制された。
「まだ続きがあります。ここまではギルドとしての説明義務ですが、ここからは個人的なことです。
もうお気づきだとは思いますが、今回の依頼は奇妙です。一介のCランク冒険者に國からの指名依頼など……とにかく、十分に注意してください」
「はい」
そんなことわかってるって。
僕の返事を聞いて、ハンナさんの顔は険しさを増した。
「オーワさん。はっきりと申しまして、私は心配しています。そして確信しました。今のオーワさんでは、おそらくこの依頼失敗するでしょう。
今ならまだ間に合います。依頼は取り下げた方がよいかと」
「はい?」
言ってる意味が分からない。
「何言ってるんですか? ヨナが危ないかもしれないんだ。行くに決まってるでしょう。言ってる意味が分かりません」
「この程度の意味も分からないようでは、問題外ですね。あなたは今、冷靜に事を考えてません」
そんなことか。
「冷靜なわけないじゃないですか。こんなことがあったんだ。
でも、頭は回っています。油斷だってしません」
「ダメですね」
「何がっ!?」
つい、大聲になってしまう。
いけない、これじゃハンナさんの言う通りになってしまう。
落ち著くため大きく息を吐いた僕に、ハンナさんは諭すように言う。
「あなたは勘違いしています。別に、冷靜かどうかは問題じゃありません。冷靜でないと自覚できていればいいだけですから。
それ以上に重大な間違いがある」
「間違い?」
何が間違ってるって言うんだ?
一昨日から貴族たちが殺されていて、その犯人がヨナかもしれないから、依頼をけて確かめに行く。
もし犯人がヨナなら、他のやつらに殺されないよう、先に保護しなければならない。
「この依頼には、たしかにヨナさんが関係しています。けれど、本質的にこれはあなたを狙ったものなのです。
わざわざ命令でなく依頼という形をとった、斷れる余地を殘したのは、今回の事件とあなたのつながりを疑ってのことです。
あなたは魔人とのつながりを持っている、あるいは魔人ではないかと疑われている」
ハンナさんの聲は、今までにないほど張りつめていた。
冒険者を救出するよう依頼されたときにさえじたことのない雰囲気だ。
「王國にはあなたが重癥だと伝わっていると聞きました。
アドラー伯と渉した、のでしたよね?
ならばアドラー伯の裏切りか、あるいは別の理由かは知りませんが、とにかくあなたは隠し事をしていると看破されていて、虛言の理由が魔人とのつながりと勘繰られています。
そこで、重癥ならばけられるはずもない依頼をよこした。
斷ればとりあえずは白、斷らずに來るようなら疑いがさらに濃くなる。警備を厚くし、手助けをするようなら捕まえてやろうと罠を張っている。
どうでしょう?」
あり得ない話じゃない。というより、おそらくそうだろう。
思わず頷いてしまう。
けれど、だからどうだというんだ? それがわかってて、やるべきこともわかってる。危険だってこともわかってるし、楽観視なんてしていない。
むしろ、自分の力を過小評価してさえいる。
そのうえで、それでも大丈夫だろうという自信はある。
ハンナさんは、まるで子供に言い聞かせるように僕の目をじっと見つめてくる。
「知っての通り、人間は狡猾です。魔人なんかより、よっぽど質が悪い。
そしてこの依頼主はその人間を統べる王であり、現在、十分に魔大陸に通用するような、人間離れした化けを何人も王都に集めています。
魔や魔人を相手にするより、何倍も危険でしょう。
決して人間を、侮ってはいけません。
ヨナさんは、すでに怪の域にあるとカリファさんからは聞いております。守る必要など全くないと。
そんな中あなたは、ヨナさんのことだけを考えて突っ走るつもりですか? そして捕まったら、ヨナさんのせいにでもするつもりですか?
はっきりと申し上げまして、あまりにもヨナさんを過小評価し過ぎです。それは思い上がりも甚だしい。侮辱でしょう」
今まで何度も怒られたことはあったけど、ここまできついことを言われたのは初めてだと思った。
ここまでをわにしたハンナさんは初めてで、それも相まって、まるで心を抉ったようだった。
僕はヨナを、侮辱している?
ただ守りたいと思っただけじゃないか。
けれど、言葉の矢はしっかりと僕のを貫いていた。
図星だったというわけだ。
「こんなことを言うのは規則に反するでしょうが、正直なところ、こんな依頼はけてしくありません。
明らかに罠です。
將來有な冒険者を、いや、あなたを危険な目に合わせたくはないのですよ」
ハンナさんの目は、まるで母さんのように優しかった。
こんなふうに聲をかけられるのはすごく久しぶりのような気がして、し涙がにじんだ。
反論の言葉を忘れてしまった。
「ここまで言っても、あなたは行くんでしょうね。
でしたら、これだけは忘れないように。
あなたはまず、自分自のを守ることに専念してください。國王は、いえ、人間はすべて敵だと想定して行してください。
ヨナさんのことは、その後で構いません。ヨナさんは自分のことだけを考えて行してるでしょうから、大丈夫です」
「はい」
納得したという意思を示し、僕は席を立った。
ハンナさんはし不安げな表を浮かべていた。
ギルドを後にした僕は、ワユンに大のことを説明し、町を後にした。
ワユンは執拗についてきたがったけど、今回ばかりはさすがに連れていけない。
しかわいそうだけれど、はっきりと『邪魔だ』と告げ、代わりにリュカ姉たちへの伝言を頼んだ。
ワユンの悲しげな顔は、正直堪えた。
あんなに仲が良かったんだ。
そりゃあワユンだって、ヨナのことが心配だろうに……。
帰ってきたらちゃんと謝らなきゃな。
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