《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く33
すぐに治癒魔法で拳を治し、シャドウを<召喚>および<増>、<群化>した。
數は五千。
自由に形を変えられるシャドウは、ペラッペラの紙上になって牢屋の中に収まっていた。
その中の一匹に命令する。
『僕の持ちが保管されている場所、それから食糧庫、あと出口を見つけて、僕を案しろ』
命令は一瞬で伝播し、一匹を殘してシャドウたちは一糸れることなく散會した。
<能力強化>によってが壊れないよう、強化系のスキルを査し、必要なだけ手していると、まもなく殘ったシャドウがついて來いと言わんばかりに僕の袖を引く。
五千にもなるとさすがに早いな。
<錬金>を使うと正不明の金屬でできた柵も簡単にれた。
なんか妙な質とか魔力とか混ざってたのに……さすがレベル八だな。
外へ飛び出し、シャドウの案に従って走る。
「なっ貴様!!」
見張りの厳格そうなおっさんに<王の力>を発し、意識と記憶を奪う。
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時間が惜しいから適當に直近の記憶を奪うだけにとどめた。
走ると<能力強化>レベル八が実できる。
速い。
まるで高速道路を走る車から顔を出したときみたいな轟音がするし、蹴り足が石の床にめり込むがある。
強化系スキルを手にれなかったら、まともに走ることすらできなかっただろうな。絶対がバラバラになってた。
優に百メートル位くらいはありそうな牢屋に囲まれた通路を、一秒足らずで駆け抜ける。
突き當りを右へ曲がり直進すると、階段が見えてきた。
ひとっ跳びに駆け上がると上の階も薄暗い監獄だった。
どうやら地下は何層にもわたっていて、僕はその最下層の最奧に収容されていたみたいだ。
把握もそこそこに駆けだそうとすると、大聲が響いた。
「獄だっ!!」
「捕えろ!! 総員でかかれ!!」
「お前は応援を呼べ!!」
何人もの兵士が集まってきた。
どうやら、最下層の出り口は厳重に守られているらしい。
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まぁ何人いようが関係はないけどな。
<王の力>発。
    わらわらと集まってきた看守たちが、人形のように一度に倒れた。
再び階段を上り、同じように兵を無力化しつつ突き進んで、ようやく監獄の一階へ出てきた。
ようやくとは言うけれど、かかった時間は一分足らず。
以前の獄より遙かに難易度が高かったにもかかわらず、この記録だ。
もう僕は、召喚魔法すら使わない素手にも関わらず、數十人の兵士など路傍の小石のように排除できてしまう域に達していた。
本當にこれでも人間なのか?
ちらと思う。
明らかに逸していると、それはそれで何か別の不安が出てくるもんなんだな。
ほんの十分くらい前まで力が足りないと思っていたのに、贅沢な話だ。
そんなことを考えていた。
そんな無駄な思考さえ生まれるほど、兵士は手ごたえも何もなかった。
荷を回収し、出口へ向かう。
荷(巾著袋)は雑に積まれた同種の袋の山の中に、服も同じようなじで保管されていたため、し探すのに時間をとられてしまった。
途中面倒になったけど、裝備はリュカ姉や鍛冶屋のアレックスとの絆でもある。
置いてくわけにはいかない。
服を著替え、防を裝備し、倉庫から外へ出る。
死んだように伏せる兵士たちの間を駆け抜け、出口から飛び出した――
――瞬間、甲高い怒聲が響く。
「放て!!」
目の前は炎で埋め盡くされ、迫っていた。
熱気にがジリジリと音を立てて焦げていく。
とっさに跳躍――した瞬間、僕は空中にいた。
「っ!?」
下を見ると、建も人も炎も、一様にミニチュアな玩のように見えた。
人はきっちり隊列を組んで、その中心にカミラがいる。
憤怒に、彼の端正な顔が歪に歪んでしまっていた。
この距離でもはっきりと見えるのは、視力も強化されているからか。
しかし、いくら倉庫で時間をとられたといっても、獄からまだ十分も経ってないぞ?
まさか、僕の獄を考えて、ずっと用意してたっていうのか?
異常すぎる。
にしても、これはしくじったな。
ここまで高く上がってしまうと、落ちるまで格好の的になる。
まぁ<王の力>があるから問題はないけど。
どうやらスキルレベルは、高くなればなるほど上がりにくい代わりに、上がった時の効果が大きいみたいだ。
レベル一と二じゃそんな変わりはないようにじたけど、六と七、八はもはや次元が違う。
しの強化なら問題なかったんだけど、短期間でレベル八まで上げれば、そりゃ意識ときにズレも起きるか。
慣れるための練習もしなくちゃな。
<王の力>でもかけてやろうとした瞬間、カミラががばっと上を向く。
目があった。
「上だ!!」
一斉に軍隊がこちらを向き、炎を放ってくる。
し油斷し過ぎたか。
というか、あの人気づくの早すぎだろ。
他の奴らみんな勝ち誇ってたじゃないか。
索敵能力でも持ってるのか?
でもこれは余裕すぎるな。
まるで炎がスローモーションでいているように見える。
さっきはとっさのことでが勝手にいてしまったけれど、視力や反応速度まで上がってるらしい。
ちょうどいい。
ちょうどやってみたかったこともある。
スキル<錬金>を発。
どのレベルで可能になったのかはわからないけれど、<錬金>はいつのまにか鉱だけじゃなく他の様々なものをれるようになっていた。
この可能をじたのは、ついさっき檻の柵を壊した時だ。
あの金屬は、金屬だけじゃなくて魔力なんかも組み込まれてできていた。
魔法やスキルによってつくられたのだろう。
それをる際、魔力が邪魔するように働いてたのだけど、その魔力すられてしまったのだ。
気づいてから考えてみると、<錬金>は突き詰めれば原子をる魔だと、そういうような知識が『あった』。
ただ、気が付かなかったから使えなかっただけだ。
まぁ、使うような機會はなかったかもしれないけど。
今回るのは『大気』。
目の前の空間から水素と酸素だけを橫に押しのける。
イメージはその二つだけ吸い付ける薄い――魔力を、薄くばしていき、作用させる。
ゼロコンマ數秒。
スキルのおかげか、速度の上がった脳回路のおかげか、気の遠くなるような繊細な作業だが容易にできた。
一時的に、僕の目の前に無酸素、無水素空間を作り出す。
その空間にると、炎は一瞬にして消えた。
「なぜっ!?」
カミラの困したような聲が聞こえる。
<王の力>、発――
力の発を、一瞬躊躇した。
いや、さっきからずっと、心のどこかでためらっていたのかもしれない。
追撃の前に<王の力>を発することもできたのでは?
カミラの憎しみは、僕へ向けられたものだ。
それも言ってしまえば、繋がりだ。
罪悪があった。
それに、大切な人を奪われた辛さは、わからないけれど想像がつく。
僕だって、ワユンやヨナ、みんなが殺されたら、ああいう風なってしまうだろう。
カミラの怒りは、それだけベアードを大切に思っていたってことだ。
すごく大切に思っていたから、直接的には関係のない相手にも、怒りをぶつけてしまう。
だからかは知らないけど、今はなんとなく、その論理のない理不盡な怒りを、きれいだとじた。
そのを強引に奪い去るのは、どうなんだ?
   人間離れした、理不盡な力によって、他人の、一切の濁りのない、純粋な気持ちを、一方的に踏みにじる。
    脳裏に過ったのは、かつて僕を見下し足蹴にしていた奴らの、汚い笑。
   
――全員を昏睡させた。
結局、記憶には手が付けられなかった。
おそらくウソを見抜くだけじゃないであろう能力の持ち主――すでに<王の力>の一部を見破っているかもしれないほどの力は、脅威だ。
この先、大事な場面で障害になるかもしれない。
どうせならここで始末できるに越したことはなかった。
僕や他のみんなの安全を第一に考えるなら、殺すまではいかなくても、僕を敵視させないよう心をいじるべきだ。
でも、できなかった。
だから僕は弱いんだろうな。
「出でよ、ノーム」
マイナス思考を振り切るように、つぶやいた。
召喚したノームを<増>、<群化>し、王都の外までつながるトンネルを造らせる。
空から行ってもよかったが、目につく可能がある。
これ以上いろいろと波風立てるのも嫌だ。
それに王都の兵に危害を加えることは、そのまま人の戦力を削ることに繋がってしまう。
ただでさえ、魔人との間には力の差があるというのに、これ以上はだめだ。
數の暴力で、數秒にして長大なトンネルを完させた。
著地ーー強化された力で一気に駆け抜け、トンネルへ。そのまま王都の外一キロほどのところで地上へ。
そこからワイバーンを召喚、進化させ、クリムゾン・ワイバーン乗って上空へ飛び立つ。
トンネルはすぐに埋めさせた。
魔族の侵経路になっても面白くない。
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