降り立ってさらにハイ・ピクシーを百ほど追加投する。

もうしいけるかと思ったが、どうやら限界數に達してしまったらしいので、殘りはアプサラス五百匹で補うことにした。

魔法による結界、あるいは錬金による壁形はできない。

それだと避難してくる人や、ウンディーネによって運搬されてくる人の侵まで拒んでしまうからだ。

命令し、散らせたところで指揮を執っているらしいリュカ姉へ聲をかける。

「リュカ姉っ！　あとは妖たちが何とかするからみんなを休ませてっ！！」

「さっすがオーワ！　頼りになるぅ～！」

お気楽な聲が返ってきたが、パッと見てそんな余裕は全く無いようだった。

リュカ姉やマルコでさえボロボロなんだから、ほかの冒険者は言うまでもない。

おそらくワユンが中にいたことから、いくつかのグループに分けて代制で防衛戦を続けていたのだろうが、すでに限界を超えているんだろう。

リュカ姉は僕に対してかなり過保護なんだけど、それでも丸投げしてきたということは、そういうことだ。

妖軍団によってできた隙を見計らって、リュカ姉は全員を撤退させる。

そしてリュカ姉は珍しく真顔で

「ごめん、ちょっと限界っぽい……」

と言って、その場に頽れた。

いや、むしろ良く持ちこたえたよ。

け止めながら、そんなことを思う。

リュカ姉のは傷だらけだった。

「オーワさん！　私はまだ頑張れますっ！」

ハイ・ピクシーとアプサラスに治癒と運搬を任せると、今度はワユンが聲をかけてきた。

遠くでは、マルコが命令を無視してまだ戦っている。

強なやつらめ。

ワユンのほうを向く。

ワユンも、リュカ姉ほどではないにしろ傷が目立っていた。

さっきまで休んでいたとはいえ、あまり無理はさせたくない。

「いや、これくらいなんてことないから、戻って休んでて」

「でもっ……」

こういう時のワユンは寂しげな顔をしながらも食い下がる。

そういやここを発つ前、ワユンにはひどいこと言っちゃったからなぁ。

まぁ危険はないだろうし、注意してれば問題ないか。

「わかったよ」

「えっ？」

この返答は予想してなかったのか、ワユンがパッと顔を上げる。

「ただし、無理はしないで」

「はいっ！！」

元気のいい返事をして、ワユンは僕の隣に並んだ。

……一応、ハイ・ピクシーを一つけておこう。

ついでに治癒魔法もかけさせておけばいいだろう。

「さてと……」

妖たちだけでも十分だろうが、それでも我慢ならなかった。

弾戦は嫌だったけど、この気持ちを晴らすには直接ぶちのめすしかない。

人間のような二足歩行に、蝙蝠の羽、細長いしっぽ。

まるで話に出てくる紫の悪魔そのものといった容貌の魔たちを人睨みし、地面を蹴った。

數十メートルはあった距離が、わずかに一足で詰まった。

目の前の魔の手が反応を示して直する――その時には、僕の拳はその腹を突き破っていた。

「うぇ……」

ぐちゅっとして生暖かい、嫌な。

あまりの気持ち悪さに、思わず聲が出てしまう。

反撃を回避するためバックステップで距離を取り、一緒に持ってきてしまった魔から腕を引き抜いた。

こいつ、らかすぎるだろ。

なんか豆腐の中にでも手を突っ込んだくらいのしかなかったぞ。

＜＞スキルと＜能力強化＞系統のスキルがマックスだとこうなるのか。

圧倒的に力の差があると、どうやら戦闘経験とか全く関係ないらしい。

魔たちの追撃は妖たちによって完全に封殺されていた。

余裕をもって短剣を取り出し、構える。

実際はスキルレベルの差で、武を持たないほうが強いんだろうけど、あのは嫌だ。

再び接近し、一の首筋をとらえる。

まるで溶かしたバターでも切り裂くように、するりと短剣はその首を薙いだ。

待ち構えていたかのように、周りが反撃を加えてくる。

けれどそれは、まるでスローモーションのようだ。

全部確認し、余裕をもって回避する。

速さの次元が違うと、もはや予測とかそういったものは意味をなさない。

いくら反応が遅れようと、こちらのきは容易に相手を追い越した。

右の魔が、こちらの側頭部に向けて手刀を放つのがちらと見えた。

右を向いた時にはすでに紙數枚分ほどの距離しかなかった。

けれど、その紙數枚分の間にこちらは首をかしげてそれを躱し、ほぼ同時にクロス・カウンター気味に相手の元を短剣で突く。

魔は無表のまま、垂直に沈んだ。

が信じられないほど速くいていた。

耳元で鳴り響く轟音は、とても空気が出すような音に聞こえない。

くたびに石畳の地面を足が抉るのをじる。

きっと、アレックスが造った裝備じゃなければ、靴底はとうに突き破られていたはずだ。

腕を振るたび起きる音は、鞭のそれによく似ていた。

短剣を突き立つたびに鳴り響くのが風船を割ったような破裂音なのだから、やっぱ異常なんだろうな。

魔たちはそれでもこちらへ向かってきていた。

生の反応としては、明らかに異常だ。

象に挑む蟻はいない。

ふつう圧倒的に力の差があれば、逃げるだろうに。

こいつらに恐怖とかはないのか？

怒りが晴れてくると、だんだんと考えがまとまってくる。

「似てるな」

そうつぶやいたのは、しっかりと確認するためだ。

これは明らかに召喚魔法で召喚された魔の反応だ。

僕が命じれば、ピクシーたちは自特攻だってなんのためらいもなく行う。

けれど、違う點がある。

僕の召喚魔法は、生を召喚するのではなく、を持たないエネルギーの塊のようなものを召喚している。

力盡きれば、消えてなくなるのだ。

しかし、本當に違うのか？

こいつらは、を持った傀儡を召喚しているだけでは？

ずっと僕は、ピクシーたちの緒あふれる仕草に、彼たちには心があるのだと思っていた。

けれど、ずっと疑問だった。

リュカ姉を助けた時の、僕の苦渋の決斷。

使い潰しという、非道すぎるそれに対し、妖たちの反応はあっさりとしたものだった。

自特攻をなんの苦も無くやってのけた彼たちに、果たして心があるのか。

すべてのことに対し絶対服従するその姿は、まるで機械のように見える。

もしかしたら、緒を持っているようにふるまうのも、僕がんだからではないか？

仲間にい焦がれていた僕だ。

奧底でそんなことをんでいたとしてもおかしくはない。

 僕の召喚した魔のが殘らないのも、僕が見たくなかったから？

召喚獣がを持つなど、どこの文獻にも載っていない。

リュカ姉は、僕と召喚獣たちの仲は良すぎるのだと言う。

ほかの人が召喚した魔にが宿っていたことは、あっただろうか？

オーク・キングは？

奴が召喚した魔の中で唯一的だったのは、僕がる権利を奪ったあの単だけだ。

今目の前にいる魔たちに、はあるだろうか？

けど、僕はそれを否定したかった。

その結果、違和に気づきながらも、ずっと『仲良く』を演じていた。

その違和がさらに強くなったのが、カオス・ドラゴンとの戦闘前に覚醒した時だ。

的には、＜群化＞、そして＜増＞を行った瞬間。

全個の意思をコンピューターレベルで統一するなんてこと、があれば絶対にありえない。

他の個のために犠牲になる個も多く存在する。

それを何のためらいもなく全個がけれ、実行するのは、明らかにおかしい。

戦闘前、カオスドラゴンに対しワイバーンは怯えてるようだったのに、それが命令一つで何事もなかったかのように切り替わったのだから。

あたかも、僕を命令系統の最上位に置くＣＰＵのように、作用する。

それからは考えないようにしていたけれど、僕は徐々に妖たちとすら命令以外でのコミュニケーションがとれなくなってきてしまった。

でもいまだに、彼たちはがあるみたいにふるまっている。

それも、僕のみなのだろうか？

魔たちは全くと言っていいほどに手ごたえがなく、戦いながらもついつい余計なことを考えてしまう。

魔人の召喚魔法と人間の召喚魔法の違いは、つまるところ生に似たがあるかないかだけということになる。

けど、その違いすら埋める可能が出てきた。

＜王の力＞の一つ、＜創造魔法＞だ。

それ自は、召喚魔法の完全な上位互換、というか全くの別だろう。

けど、もしこれと＜召喚魔法＞が＜統合＞、ないし＜派生＞したら？

その時は、彼らのような意思のない生の軍勢を召喚できるようになってしまうのだろうか？

「きゃあっ！」

ワユンの悲鳴が聞こえた。

振り返ると、ワユンは一旦退いて、顔についたをぬぐっていた。

ハイ・ピクシーの治癒魔法で、の傷は全快している。

どうやら返りにびっくりしたようだ。

驚かせやがって。

けど、戦い中で余計なことを考えるのはよくないな。

ふだんなら、この程度の敵相手にワユンはそんなミス絶対に起こさない。

あれでも、し前までは常に修羅場に立たされ、それでも生き延びてきた歴戦の戦士だ。

僕なんかよりずっと経験を積んでいる。

ワユン、それにマルコだって、疲れ切っている。

治癒魔法では、神力までは治しきれない。

これ以上戦いは長引かせられないな。

＜王の力＞発。

できる限り多くの魔の意思を奪う。

『自害しろ』

たった一言念じただけで、周囲の魔は死した。

やっぱこれが一番手っ取り早い。

まぁ、手ごたえがなさ過ぎて憂さ晴らしにもならないけどな。

けれど、進化した＜王の力＞でも、すべての魔の意思は乗っ取れなかったらしい。

せいぜい百ちょっと、ってところか。

たぶん僕の脳がそれ以上把握しきれないんだろう。

けどそれくらいは、大した問題じゃない。

発まで一秒かからない上、連続で使用できるのだから。

問題は、二人にばれないように実行することだけだけど、マルコとは離れているし、ワユンに僕の様子をうかがう余裕はないはずだ。

あわよくば見えても、勝手に魔が死してるとしか見えないだろう。

ばれないように、適當にる個をばらしつつ、さっさと殲滅しよう――

「あぁん？　どうなってやがる？」

上空から聲がした。

その聲の主は、淺黒いをした人に見えた。

けれど、蝙蝠のような羽、、側頭部から生えるヤギの角、そして悪魔のようなしっぽが、それを否定する。

瞳はルビーのように赤く輝いていた。

この街を襲った張本人――魔人だ。