顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く 37

魔人はこちらを睥睨していた。

    背丈は高いが、人間とほぼ変わらない。けれど、オーラと言えばいいのか、異様な力強さをじる。圧力に、周りの空気が重さを持ったようにじた。

「気になって転移して見りゃあ、なんだこれは?

どもで十分だと思ったんだが……妙なことになってやがるな。

てめぇはなんだ? 俺のモノを盜むなんてこと、魔人でもできやしねぇ。

ただの『ユグリー』じゃあねえよな?」

「ユグリー?」

訪ね返すと、魔人は吐き捨てるように言う。

「あん? てめぇらのことだよ、この『強な異界種』ーーユグリーが」

「異界種?」

こいつ、僕が異世界人だと知っているのか?

いや、それより、さっき『俺のモノを盜む』と言った。

こいつ、僕が魔ったことに気づいているのか?

「オーワさん! だめですっ!」

びながら、ワユンが僕の前に立った。

「ワユン?」

「あの人は危ないんです!」

ワユンの聲は切羽詰まっていた。

後ろからだと表が見えないけど、しっぽがピンと立ち上がりふるふると震えてることから、だいたい想像がつく。

一度この町はあいつに襲われて、そのあとあいつは魔だけ殘して次の町へ向かった、ってところか。

    アレは強いんだろう。あのサイズで、カオス・ドラゴンからもじたことのない圧をじさせるのだから。

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    はっきり異常だった。

けれど、ものすごく怖いのだろうに、それに抗ってまでワユンは僕をかばってくれている。

そのことが言いようもなくうれしくて、こんな狀況なのにが弾んで仕方がなくなった。

守りたいーー

ワユンの肩に手をやり、隣に並ぶ。

「大丈夫だよ。ワユンはマルコを連れて、先に中へっててくれ。ちょっと危なくなるから」

「だめっ! 逃げましょうっ!」

「ひゃはははっ! 逃げる? 逃がすわけねぇだろうが。てめぇらは俺らに、いや、この星にとっちゃ害蟲でしかねぇんだよ! 一人殘らず駆除するに決まってんだろうがぁ!」

けたたましい笑い聲とともに、魔人の周りに何かが集まっていくのをじた。

即座に妖たちへ命令し、ワユンとマルコを回収、そしてギルドへ運び、その周囲を総勢で固めさせる。

離れ際、ワユンが抵抗するのがわかった。

悪魔の手にトライデントを模した雷が現れ、あたりが強烈なに覆われた。

的に僕は自分の周りと、念のためギルドの周りに魔法の結界を創り出す。

轟音が轟き、僕の周りに張った結界が軋んだ。

「ひゃはははっ! 俺の雷は一味違ぇ! 全部灰になりやがれぇっ!!」

続けて數発衝撃があった。

まずい、結界が破られる。

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スキルレベル八の結界だってのに、どんな威力してるんだ?

練習なしじゃ、レベル八でも効果が薄いのか。それとも、奴の雷が特別強力なのか。

    けれど対処は簡単だ。

結界をもう一枚張ると、一枚目の結界はまるでガラスのように砕け散る。追撃はもう一枚の結界が防いだ。

雷の雨が止んだ。

「ひゃははっ! ユグリーにしちゃやるじゃねぇか! 面白れぇ」

「僕はなんにも面白くないんだけどな」

だから早々に終わらせてもらう。

<王の力>発――

――強い抵抗があった。

無効化された?

それとも、奴のほうが個としての力が上だというのか?

いや、後者はあり得ない。

今のところ、奴の力は大したことない。

魔人が眉をゆがめた。

「てめぇ、魔人か? なぜユグリーどもに加勢しやがる」

「やめろ。僕は魔人でもなければユグリーとかいうのでもない。人間だ」

ユグリーとか意味不明な言葉で呼ばれるのは腹立たしい。

魔人はにやりと口をゆがめた。

「まぁいい。どっちにしろ、ボコして吐かせればいいだけのことだ。

來い、フォルゴレ」

召喚魔法か?

魔人の足元に黃る魔法陣が形され、そこから激しい稲妻が走る。

   汗が背筋を伝った。

   ヒリヒリと顔が焼けるほどの熱が発せられている。

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    何てエネルギーだ。

一秒足らずで陣は消え、魔人の周りには雷の塊のように見える、野球ボール大のが旋回している。

「ひゃははっ、栄に思え! 魔の中でも最高級の戦闘力を持つ、俺のとっておきだ!!」

魔人の手に、再び雷でできたトライデントが現れ、放たれる。

―-まずいっ!

結界にぶつかった瞬間、破られると分かった。

威力が桁違いに上がっている。

それにも関わらず、範囲は先のそれより狹い。

エネルギーが凝され、貫通力を高めているんだ。

威力、そして作能力。

奴の雷魔法が、數段レベルアップしていた。

あっという間に皹がり、結界は砕かれた。

とっさに暗黒魔法でを覆う。

暗黒魔法は生命エネルギーだけじゃなく、他のエネルギーも吸収する。

雷の衝撃は緩和されるはずだった。

「ぐぁぁあああっ!!」

業火に焼かれた。そうじた。

の筋が強烈に収し、視界がブラックアウトしては元に戻る。

なぜだ?

まさか、僕の暗黒魔法でも防ぎきれなかったって言うのか?

雷が止むと、僕はその場に膝をついていた。

    かない。

黒い煙が立ち上るのを、どこか人ごとのように見ている。

痛みすらじなかった。

「ひゃはははっ!! 丸焼きいっちょあがりぃいっ!!

……ん? あぁ、これじゃ尋問もできなぇな。

ちっ、つまらねぇ。面白れぇ力持ってやがったが、所詮はユグリーってことかよ」

視界はなかったが、聴力は生きていた。

僕のは、すでに部から急激に再生を始めていた。

    先に解放されていたスキルの一つ「王の」、それと能力強化系スキルレベル8によって、もはや自然治癒は再生に近い域に達しているみたいだ。

    魔人の顔が見えた。1秒経たず視界が戻ってきた。

なに勝ち誇ってやがる。

この程度で死ぬわけがないだろう。

けど、あの威力の雷魔法は厄介だな。

用の魔法じゃないとはいえ、暗黒魔法ですら防げないとなると、防は不可能だ。

雷ゆえのスピード。

あの魔人自の魔法発速度の速さ。

いくら強化されてるからと言って、避けるのは難しいだろうな。

さて、どうしたものか。

「て、てめぇ……一どうなってやがる?」

考えているうちに視界も戻り、僕のに起きていることに魔人も気づいた。

殘りは治癒魔法で一気に治してしまう。

「さっきのが全力か? なら、次はこっちの番だ」

思い切り地面を蹴り、魔人めがけて跳躍する。

雷魔法は厄介だけど、それなら発させなければいい。

素人の僕でも今の能力とスキルがあれば、毆るだけでもダメージはあるはず。

魔人はこちらの勢いに驚いたのか、一瞬直した。

「おらっ!!」

何も考えず顔面パンチ――瞬間、全が焼けるような衝撃が走る。

僕は雷の中に突っ込んでいた。

が異常な痙攣をおこし、再び落ちていく。

「ひゃははっ! 甘ぇ甘ぇ!! てめぇら溫室育ちのユグリーとは違って、こっちは常に修羅場くぐってんだ。そんなテレフォンパンチ當たるかよ!!」

「くっ」

いつの間に魔法を発した?

というか、今のは魔法による回避か? それとも回避自は自力で、さらに魔法を放ったのか?

あの一瞬で?

頭の中に渦巻く疑問の解は出そうにない。

なら、試行回數を増やすまでだ。

治癒魔法で即回復し、錬金を発

足場を作って再び跳躍した。

「っ!? 面白れぇっ!!」

躱され、再び電撃に焼かれる。

拳がれる瞬間、奴のがぶれたように見えた。

くそっ、でもそれ以上が分からない。

今度は注意して見ていたのに。

治癒魔法をかけ、さらにちょっとした広場ほどの足場を作る。

足場が広ければ、戦いやすくなる。

著地――

「遅えっ!!」

「がっ!!」

ほぼ同時に、奴の蹴りが側頭部に直撃した。

同時に、またもが焼かれる。

「まだだ!!」

吹っ飛んでいる最中、さらに魔人が追い打ちをかけてきた。

とっさに暗黒魔法リーサル・タッチを発し、僕を包むように展開する。

魔人の蹴りがみぞおちに刺さり、またもが焼ける。

「ぐぁあっ!!」「ぐぅっ!?」

けれど、聲を上げたのは僕だけじゃなかった。

よし、かかった! リーサルタッチにれた。

一瞬ではあのレベルの相手を殺すには至らないだろうけど、無傷ではいられないはず。

よほど衝撃だったのかそれ以上の追撃はなく、僕は治癒魔法で回復する。

魔人はリーサル・タッチにれたほうの足を見て、こちらを向く。

にらみつけるような視線だ。

「暗黒魔法だと? てめぇ、それをどこで……?」

「言うとでも思ってるのか?」

いやまぁ、ただ知らないだけだけど。

魔人はにやりと笑った。

「まぁ、ボコして吐かせるだけだがな」

そして、何のためらいもなく突っ込んできた!?

とっさにリーサル・タッチを展開する。

「ぐぅっ!!」

予想外の攻撃に防が間に合わず、もろにやぐざキックを鳩尾に食らった。

続けて蹴り、そして蹴り。

―-速い!!

速すぎる。

奴は強化系のスキルレベルもマックスなのか? そんなことあり得るのか?

いやそもそも、強化レベルマックスでも、ここまで速くなるものか? これじゃあ僕よりもぜんぜん速いじゃないか!

これは元の能力の差なのか?

僕は床にたたきつけられ、跳ね上がったところに再び蹴りをれられた。

まるでサッカーボール扱いだ。

リフティングでもするかのように攻撃は続いていく。

かろうじて意識を失わないで済んでいるのは、の異常な丈夫さと攻撃をける覚悟があったからだろう。

速いだけじゃなく、巧みでもあった。

こちらが頭をガードすれば腹、腹をガードすれば頭と、すかさず隙を突いてくる。

は不可能だ。

今は回復に専念すべき。

そう判斷した僕はを丸めて治癒魔法を発する。

瞬く間に傷が癒え、再び傷つくのが分かった。

なんか不思議なじだ。

痛みに慣れてくると、自分の狀況を想像する余裕すらできてきた。

なにせリーサル・タッチがある以上、守るだけでも勝てるのだ。

「ひゃははははっ!!」

嵐のような攻撃の中、確かに笑い聲を聞いた。

なぜこの狀況で笑えるのか?

確かに、一見すれば圧倒的に攻めているのは魔人だ。

けれど治癒魔法をかけている限り僕にダメージはない。逆に自分の命が確実に削られていることくらい、はっきりとわかるはずなのに。

リーサル・タッチは兇悪な魔法だ。

るだけで効果があるのだから、防は不可能。

さらに、壽命そのものを削るような技だから、治癒魔法なども意味をなさない。

そしては抜群で、今みたいに纏えば回避不能のカウンターにもなる。

その分魔力消費は膨大だけど、僕の魔力からすれば微々たるものでしかない。

無効、回復無効でカウンターにも使え、命中度も高い文字通りの必殺技と考えれば、そのチートがわかる。

自分の壽命が削られている。

いくられている時間が短いとはいえ、これだけれ続ければ、自分でもわかるだろう。

ふつう、笑うか?

それに、なんで退かないんだ?

まさかこのまま押し切るつもりでいるのか?

こちらの魔力の底も知らないだろうに、なんて無茶な戦い方するんだ!

それだけ自分に自信があるということか?

それとも、自分の命をゴミくず同然としか思っていないのか?

やがて攻撃力が明らかに落ちるのが分かり、僕は火魔法を発した。

魔人は炎を避け、僕から距離をとる。

「はぁっ……はははっ」

「何がおかしいんだ?」

魔人は明らかに消耗していた。

息を切らし、ふらふらとしながら、それでも僕を睨みつけ笑っている。

よく見ると、から灰の煙が上がっていた。

焼けている……あいつ、雷魔法で無理やりかしてたから、あそこまで速くけたのか。

でもそれには気の遠くなるような作と、それに耐えうる神力が必要だ。

何より、どう考えても大きなダメージをけている。

あんな狀態で、そんなな魔力作が行えるものなのか?

あるとすれば、それは生理的な反を抑えるほどの意志があるってことだ。

何がそこまで、こいつを駆り立てるんだ?

「なんて顔してやがる……やらねぇならこっちから行くぜ!!」

雷のトライデントだ。

今度は土魔法で巨大な壁を作り、完全に防いだ。

魔人が壁を蹴り砕く――それを先読みして、僕は錬金でトラップを仕掛けていた。

魔人のを、魔力を込めた強化金屬の鎖で拘束した。金屬同士の結合を原子レベルで強化する。そういったがあった。これは限界まで高まった錬金スキルによるものか、それとも他のスキルによるものか。

   並みの鉄なら容易に引きちぎるであろう魔人のきを完全に制した。

「くっ!!」

金屬によって簀巻きにされ、地面に倒れた魔人に近づいていく。

「なぜ殺さねぇ?」

「聞きたいことがある。異界種って何のことだ?」

なんとしても聞き出しておかなきゃならないことの一つだ。

異世界から來た人という意味なら、僕のほかにも異世界人がいることになる。

魔人はどうでもいいという風に答える。

「てめぇらのことだよ」

「僕たち?」

「ユグリーだ」

どうやら僕を異世界人と言っているわけではなくて、人間を異界種と言っているらしい。

「なんで異界なんだ?

まさか、みんな異世界人だとでも?」

「突然てめぇらが現れて、俺たちを襲ったからだろうが」

「襲った?」

ん? 異世界人が魔人を襲ったのか? それじゃ、こいつらが恨んでるのってそのせい?

あれか? 異世界でよくある、実は魔人は悪くなくて人間が悪いとかそういうことなのか? 魔人は被害者で、異世界から來た人間から被害をけたとか?

突然、魔人がけたたましく笑い始めた。

「ひゃはははっ!! なんだなんだ!? てめぇ同でもしたってか? 正義がどうとか、どっちが悪いだとか、んなこと考えてたりしてねぇよな!?」

から読んだのだろうか。

図星を突かれ言葉に詰まった。

魔人は笑うのをやめ、心底いやそうな表をする。

「あぁぁ、糞わりぃ……俺はてめぇらみたいなのが一番嫌いだ。

ユグリーだとかそういうの一切に抜きにしてだ。

   善悪考えてますってか? それで自分だけが上等だとでも言いてぇのか。悪いと思うんなら死にやがれ!!」

魔人が拘束から抜け出そうとに力を籠めるのが分かった。

けれど、鋼鉄で中ぐるぐる巻きにしているんだ。

その程度で壊せるわけ……

「おらぁああああっ!!」

鋼鉄が砕け散り、瞬間、視界が回った。

左ほほを毆られたようだ。

追撃に飛び出してきた魔人のからは、焦げ臭いにおいがした。

「ぐっ!!」

こちらの脇腹を狙った中段蹴り。

しかし、衝撃はほとんどなかった。

「がはぁああっ!!」

魔人は吐し、その場に頽れた。

しかし、なお立ち上がろうと、全に雷を流している。

「くそがっ……け、けっつってんだよ!!」

「なんでそこまでして、戦うんだ?」

純粋に疑問だった。

壽命が削れようとお構いなし。

それだけでなく殘りないであろう命を削ってでも続けようとする姿は、勇敢を通り越し、無謀すら通り越して狂っているように見える。

「殺してぇからに、決まってるだろうが」

「意味が分からない」

「難しいこたぁねぇだろうが。てめぇだって同じだろう」

なに言ってやがる。

「同じ? お前みたいな殺人狂いと一緒にするな」

「ひゃはっ! 同じさ……てめぇも自分の思いに従って、戦ってんだろうが……俺から言わせりゃあ、てめぇの戦いっぷりも異常だぜ?」

焦點の定まらない魔人の笑みはひどく不気味で、印象的だった。

「難しい理由なんざねぇ。

俺は、俺のやりたいようにやってるだけだ……てめぇらみたいのを皆殺しにしてやりてぇ。それだけだ」

途切れ途切れだが、はっきりと意思のこもった言葉だ。

「わからない。そんなに恨むようなことがあったのか? なくとも、お前が殺した人間は、それに無関係だっただろう?」

「わかる必要ねぇ……俺は、てめぇら異界種を、滅ぼしてやらねぇと、気が、済まねぇ……」

限界だな。

全快時のこいつに通じずとも、今のこいつなら容易にれる。

だから、聞き出そうと思えば簡単なことだった。

けどなんとなく、會話がしたかった。

噓をつかれようとも、生きた言葉を聞いておきたいと思ったんだ。

<王の力>発

あとは、決して會話などとは呼べない、機械的な尋問を行うだけだ。

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