《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く40
ハイ・ピクシーを五十ほど集め、念のためここに避難している人たちの治癒を命じた。
防空壕は驚くほど広く、かなりの人數が避難してきていた。
それでも、元の人口から考えるとない。
もともと何人この町に住んでいたのかは知らないけれど、下手すれば萬近くいたかも。
ここには多く見積もっても千前後しかいない。
ワユンとリュカ姉はすでに治癒魔法をかけられていたが、念には念をれて一応僕がもう一度治癒する。
リュカ姉が起きるまでワユンと二人でその隣に付き添っていると、おずおずとワユンはこちらをうかがうように見る。
「オーワさん、あの、ヨナちゃんは……」
「詳しい話は、みんなが揃ったら話すよ」
恐れていた質問だった。
もっともらしいこと言っているけど、後回しにしたのは、どう話していいかわからなかったからだ。
ワユンは僕の失敗を悟ったのか、それ以上追及はしてこなかった。
これからどうしようか。
北方前線にいるアレンとエレンは助けに行きたいけど、もし魔人軍の大將がヨナだったら、王都には行きたくない。
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王都に行って戦うことになれば、僕は人からも魔人からも敵視されるはず。
なにより、ヨナと戦いたくない。
『次に會ったら、本気で攻撃します』
あの言葉は、本気だった。
闘いは避けられない。
人間の味方をするなら、魔人の大將であるヨナを倒すことが必須のはず。
説得も無理だ。
ヨナの意志は固かった。
たぶん、復讐を果たすまで止まらないだろう。
ヨナがやりたいことの邪魔はしたくない。
けど復讐は、どこまで行けば終わるんだ?
この國の貴族を皆殺しにすれば、終わるのか?
僕にはそうは思えなかった。
幾人もの兵士を殺したとき、ヨナは笑っていたのだから。
だから僕はヨナに手を貸すこともできない。
どうしたらいいんだろう。
「オ~ワ~、なに悩んでんの~?」
能天気な聲がして、そのほうを見ると、橫に寢ころんだままリュカ姉がこちらを見ていた。
「目、覚めたんだ。合はどう?」
「おかげさまで快調だぜ! ありがとね」
寢ころんだまま力こぶをつくって見せ、リュカ姉は笑いかけてくれた。
「ちっ、うるせぇのが起きてやがる」
「あっ、マルコにカリファ。おひさ~」
マルコとカリファもやってきて、円狀になるよう僕らの前に腰を下ろした。
マルコのめんどくさそうな聲に、リュカ姉は笑顔で手を振り、応じている。
「カリファ、もう大丈夫なんですか?」
「えぇ、もう平気みたい。おチビ、ありがとね」
「いいですよ。お禮なら、マルコから似合わないやつもらってますから」
「あっ、そうなの?」
「うぜぇ、だまれ」
マルコは僕とカリファの視線を一言で切って捨て、まじめな顔になってこちらを見てきた。
「んで、どうした? お前、あの銀髪の嬢ちゃん連れ戻しに行ったんじゃなかったか?」
みんなの視線が集まるのをじる。
とても逃げられそうな雰囲気じゃない、か……。
「い、言いにくかったら後でもいいんじゃない?」
「ダメだ。ここで逃げりゃ、後に響く」
カリファが気を遣うように言ってくれ、マルコがそれを拒否した。
リュカ姉のらかい聲がする。
「マルコー、あんたの顔が怖すぎるんだよ。オーワ、別に敵なんかいないし、誰も怒ってないから安心しな?」
「大丈夫。カリファもリュカ姉もありがとう」
これじゃまるで子供だな。
いや、僕はまだ子供なのかもしれない。
「結論から言うと、ダメだったよ。
ヨナを連れ戻すことはできなかった。
ヨナは僕が王都についた日の夜、王都に來たんだ。
目的は貴族たちの暗殺だって言ってた。
なんか、親子の恨みだって。
それが何よりも大事で、それをなさなきゃいけないから、もう僕たちとは一緒にいられないって、言われたんだ」
なんでもないって風を裝うと、軽い報告で終えるつもりでいたのに、言い始めてしまうと、言葉は次々と出てきた。
「僕はなんとか説得しようと思った。
そんなことをしてればこの國にいられなくなるし、いずれ殺されちゃうかもしれないしさ。
もっと楽しいことだってあるし、そんなことしてても幸せになれない、なんてことも言った。
でも、ダメだった。
ヨナは言ったんだ。
復讐をなさないと、救われないって。
そのこと、し共できちゃってさ。
僕は何も言い返せなかったよ」
復讐が大事だと思う気持ちは、よくわかってしまったから。
ヨナのためを思うなら、それは就させてあげるべきなんだ。
たとえ人をすべて敵に回したとしても。
「ヨナは普通の兵士たちを殺して、うれしそうに笑ってたよ。
こらえられないって風に。
たぶんヨナは、人そのものを憎んでいるんだと思う。
出會った時のヨナは、人の悪意のすべてをけてきたってじがしたくらい、酷かったからさ。
ヨナは、次に會うときは敵だって言ってた。
あの魔人から聞いた話だと、たぶんヨナは新しい魔王になったみたいだし」
「魔王……それで、あれだけ」
カリファが、納得いったというようにつぶやいた。
魔王と言われて納得できてしまうほど、ヨナの魔法の才能は優れていたんだ。
「僕は、失敗したんだ。
たぶん、あの時が最後だった。
何が起きてるのかわからないけれど、魔人たちを率いるまでになって、もう何人も関係ない人を殺してしまって、戦爭まで引き起こして、ヨナは引き返せないところまで來てる。
おかしくなっちゃったんだ」
ほんのし前まで、一緒に笑っていたのに。
「ヨナを連れ戻すとか息巻いておきながら、結局、何一つ変えられなかった。
僕程度じゃ、ヨナを、ヨナの心をかすことは、できないって、わかったんだ。
でも、未練はあって、でもそれは、僕のためで、ヨナのこと思うなら、復讐の邪魔はしちゃいけなくて、でもそれは、間違ってて――」
気が付くと、涙が出ていた。
自分でも何を言ってるのかよくわからなかった。
ただ、取り返しのつかない失敗をしてしまった、ということだけが実できてしまった。
二度とあの頃のように、ヨナと一緒にいられない。
から手が出るほどしかったものは、手の中にあった。
それを取り零してしまったんだ。
ワユンが心配そうに、僕の名前をつぶやくように呼んだ。
「どうしていいのかわからないんだ。
僕は一人じゃ何も決められない。
ヨナと敵対するのが怖い。
でも、ヨナの味方をすることもできない。
人と敵対して、無差別な殺をするには、多くの人と関わりを持ちすぎたみたいで、そんなことできそうにない。
でも逃げて、ヨナやかかわりのある人たちのこと全部忘れることもできない。
戦爭が始まれば、どっちかは必ず滅びるっていうのに」
あまり考えないようにしていたけど、魔人は星をかけた戦いだと言っていた。
理由はわからないけれど、やつらは僕たちを星にとって害になる存在だと思っているようだし、こちらからすれば、魔人は天敵だ。
大きな戦爭になる。
そして、敗北した種は淘汰されるだろう。
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