《顔の僕は異世界でがんばる》恨みを抱く51
「ぐっ!!」
激痛に目が覚めた。
熱を全からじる。
僕は何をしていたんだ――
手元には、糸の切れたり人形のような、無機質な、。
――そうだ、この子が!!
なぜか撃は止んでいた。
兵士たちの中から聲がもれている。
「噓だろ……だらけだったじゃないか……」
「不死……?」
「ば、化け……」
それらは全く意味のない音だ。
僕に対する銃撃に巻き込まれたのであろう、先よりさらに中がだらけになってしまったの子をゆするが、反応がない。
の子の目からは、恐ろしいほど何もじない。
「う、わ、ぁあ」
    妙な音が口かられた。
どうしよう。
なにか手は?
治癒魔法はもはや発すらしなかった。
「あ、え? これ」
の芯から震えが來た。
治癒魔法が発しない。
気絶していたのがどれくらいかはわからないが、死が確定したんだ。
「いや、まだ……」
王の力発。
の子のへ波を送る。
細胞の分裂を指示する。
に波を送り付けているような、そんな無意味さをじた。
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抵抗すらない。
波は目標を見失い、ただ霧散した。
「どうして!?」
死んでも細胞はすぐに死滅するわけじゃないはず。
蘇生処置で蘇生した人なんていくらでもいる。
いくらだらけになっていても、傷さえ治せば間に合うはずだろ!
まだ時間も経ってない。
なぜ、蘇生できない!?
「怯むな!! やれっ!!」
聲とともに敵意が膨れ上がるのをじた。
ちらと目線をやると、最前列で銃を構えなおす兵たちが見えた。
邪魔だ。
    マグマのような粘度の高い熱が、のあたりから吹き上がってきた。
僕の部で衝が発生し、中の筋が収した。
    邪魔!!
潰れろ。
聞くだけで生理的に嫌悪を催すような、ぐちゅりという粘ついた音と、ひっという怯えた悲鳴が響いた。
聞き流しながら頭を回転させる。
「なにか、なにか……」
この子を救う方法は無いのか?
人を蘇らせるは?
<解放>を調べる。
四元素魔法、黒魔法、白魔法、闇魔法、聖魔法、星魔法、王魔法……。
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該當するものが見當たらない。
闇魔法には死者を使役する魔法もありそうだが、それではゾンビだ。
そうじゃないんだ!!
ゾンビじゃと変わらない。を造ってるだけだ。
「いや」
いや、待て。
蘇らせられないなら――
僕の中で何かがざわついた。
蘇生が無理なら、『造れば』いい。
獄したときに解放されたスキルを思い出す。
の子の額に手を乗せる。
<生命創造>発――
――人間の魂とか、とか、そういうモノについて、僕はある程度の答えを出しているように思う。
……所詮は、電気信號系だ。
複雑極まりないが、脳の構造を完全に模倣すれば、まったく同じ人間をつくることだってできる。
それに、九割以上もが殘っているのだから、欠損部を補修する程度難しくはない。
そうだ、ゼロから造るんじゃないから、これは修理だ。
なんら難しいことはない。
幸い脳はほぼ無事だ。貫通したが一つ程度なら、どうとでもなる。
そう言い聞かせる。
の理解? 僕が?
から沸き起こる猛烈な否定的を、神経系、分泌系を作することにより消滅せしめた。
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集中しろ。
先と同様に神経系、分泌系の作により、集中狀態を維持。
<錬金>の要領で、<生命創造>により読み取った伝子データをもとに、原子レベルから個の欠損部を補っていく。
材料は伝子データと一致するものを原子レベルで周囲から選択し、<錬金>の要領で作する。
赤球などの伝子データの存在しない部位はの骨髄細胞から高速で分化させる。
心臓、続いて各臓の補修。
タスク終了。
次は脳へ。
海馬の欠損は幸いほぼなく、殘存部からの再生に功。
「ぁっ!!!?」
激痛が走る。
僕の脳の中心、極小の點に強烈な熱が発生し、瞬間無數に絡まる糸狀のへ伝播した。
一気にび、全へと広がる。
「くっあぁ……」
視界が明滅した。
全へ広がった熱は脊髄を通してへ広がっていく。
痛みで吐き気がした。
こらえろ!!
集中だ!!
痛覚をシャットダウン。全組織系へ指示を出し、平常狀態へ引き戻す。
この作業は、一ナノグラムほどのズレさえ許されない。
慎重に、丁寧に、一つずつ、ゆっくりと、けれど一切の無駄なく。
組み上げろ――
まさしく無限に近い作業量。
けれど超高速で一切の無駄も、ミスもなく進められていく様子は、機械による部品の組み立てにも似て、どこか気持ちのいいものだ。
一つ一つの作業にかかる時間は、おそらく普通の人間じゃじることすらできないほどごく短い。
それが無限に積み重なり、ついに自覚できるところまできて――
の口から、空気がれた。
「――やった」
思わず聲がれると、自分のに強制した命令がすべて解除された。
相當な反を予想して、構える。
「……あれ?」
けれど予想した痛みや苦痛はなく、代わりに無數の糸が絡まり、それが全にくまなくびているような、そんなあいまいなイメージだけが脳裏をよぎる。
糸は見えないほど細いが、一本一本が途方もない膨大なエネルギーを在しているのがわかった。
その糸をたどると、深いのような空間に行きついた。
奧をのぞき込む。
――――!!!!
瞬間イメージはテレビ映像のようにぱっと消え、それを合図に意識が浮上してきた。
我に返ると、周囲からの雑音が大きく聞こえる。
そういえば、ワユンたちはどうなった?
の子を橫たえ立ち上がると、目を覆いたくなるような慘狀が目にってきた。
き聲がおどろおどろしい歌のように響いている。
倒れる人々。
恐怖にうずくまる人々。
ほとんどまともに立てていない。
子供も多い。
<解放>エネルギーをじる。
たった數秒で、數百もの人の命が奪われたとわかった。
どす黒い湯気のようなものが見えた気がした。
ゆらゆらと憎悪を宿して漂っている。
視線をかすと、スローモーションのように構えをとる敵兵たちが正面に映った。
兵士たちは――『敵』はこちらを見て直していた。
震え――恐怖をじているのか?
けれど誰一人町の人には目もくれない。
自分たちが行った慘劇のほうが、よほど恐怖に値すると誰も気づかない。
怒りが聞こえた。
兵士たちの向こう側、裏口のほうからだ。
町を警備していた冒険者たちだ。
びは絶とも悲鳴ともとれない音だった。
けれどマグマのようながはっきりと込められていた。
兵士たちが冒険者たちの殺気をじたのか、我に返ったように振り返り、再び撃を始めた。
「いやぁあああっ!!!!」
悲鳴はどこからしたのか。
僕は混しているんだと思う。
頭はすごい勢いで働いているのに、がいてくれない。
なんで、なんでこんな?
なぜこんなことをしているんだ?
なぜ人間同士殺し合っているんだ?
強大で明確な『敵』がいる。
魔人。
そいつらはすでに目と鼻の先にまで迫ってきているというのに。
なぜ、そいつらを前にして、手を組むことができないんだ?
まるで理解ができなかった。
急に目の前の景から現実味が消えていくのをじた。
これほど強烈なのぶつかり合いがあって、それなのに彼らが人間と思えない。
脳の奧が、いや、たぶんこれは心が、どんどん溫度を失っていくのが分かった。
もうやめろよ。
こんなとこで無駄に削り合って、なんの意味がある?
でも止めないと、止まらないんだろうな。
止めるには、どうすればいい?
これしかない。
この場すべての意識あるものから、意識を奪うには力がいる。
    力ーーそれの発生源は、さっき覗いた。
イメージした。
糸の発生源、暗いの底、未知の空間へと意識を垂らしていき、意識が霧散する寸前さらなる深奧へ呼びかけると、奧で何かが脈した。
同時に、糸から全へとエネルギーが供給されるのをじる。
意識が戻り、慘狀が目にる。
「もう、やめろ」
れた言葉が耳へ屆くよりも早く、僕の発した波は全個のへ作用し、爭いは制された。
すべての個の自由と意識を奪い、治癒魔法ですべての個を修復し、錬金で兵士たちを拘束し、自分たちの足で牢へと向かわせた。
木の妖ドリアード軍団を召喚し、外に待機してるであろう王とその側近も拘束し、意識と自由を奪い運ばせた。
冒険者や町の人たちは、どうするか。
このままにしておけば、結局兵士たちを皆殺しにしてしまうだろうし、やはり記憶を奪うのが一番いいか?
そこまで考えて、ふと疑問に思った。
――僕はいつから捕食者に、いじめの実行犯に――支配者に対して、甘くなったんだろう?
以前の僕ならこんな理不盡に手心を加えはしなかったはずだ。
きっと『敵』の命なんて考えなかった。
潰すだけなら何も考えなくていい。
なにより、そのために、記憶を、を奪おうだなんて。
なぜ、そんなことを?
その答えは単純で、けれど認めるのは恐ろしく苦しいものだ。
わかりきったことだった。
僕が支配者側に移ったからだ。
自分が理不盡を行う側に立ったから、僕は――
そして、いつの間にか、最も大切にしたかったものまで、簡単に奪おうとした。
それはたぶん、あまりにも僕自が人間と離れてしまったからだ。
同種と見れない――ましてや、関係なんて。
しあたりを見渡し、まるで人形のように立ち盡くすワユンとリュカ姉、カリファを見つけた。
彼たちが無事だということはなぜかわかっていたが、今はさらに、彼たちの位置もおぼろげに把握できていた。
無事だとわかっていた。る必要などないということも。
にもかかわらず、僕は彼たちにさえ、平気で<王の力>を使っていた。
ぞっとして、の覚を失って、膝をついてしまっていた。
気づいてしまったからだ。
いや、気づいていたのに、目を逸らしていたことに、気づいた。
思い通りにならないもの、敵対するものを、理不盡な力で押さえつける。
僕がやっていることは、僕が最も嫌う、そして絶対に許せないことの一つだ。
相手の心を無視して、自分の思うままに相手をる。
支配する。
関係も糞もない。
汚くて、醜い。
そういう理不盡を僕はけてきた。
それと対極にあるもの、最も純粋なものを求めてきた。
だから、許しちゃいけない。
支配者は報いをける。
げられてきたものは、あるいはその意志はいずれ反旗を翻し、相応の罰を支配者に食らわせるものだ。
そうでなくちゃならない。
けれど結論付けても、なお聲が響く。
でも今は例外じゃないか?
ここにいる兵士は鋭たちで、人間の奧の手である兵の扱いにも慣れている。
初見だと僕でさえ対応できないほどに力を持っている。
そんな戦力をみすみす失ってしまうのは、まずいだろう?
なにより、ラインハルトと王は使える。
れば、僕の都合に合わせて戦況をコントロールできるかもしれない。
「あぁ」
汚い、汚い、汚い。
吐き気がした。
がムカムカして、抉りだしてやりたいほどだ。
なんて、汚い――
――許しちゃいけないんだ。
許されちゃいけない。
冒険者たちの怒りは尊いものだ。
するもの、親しいものを失って、そこから生じる。
それを汚すことは何人にも許されない。
けれど、戦力が必要だ。
人間が勝つには、いや、勝たなくても、せめてヨナを発見し、説得できるまでの間持ちこたえてもらわないとならない。
ヨナを相手にするんだ。
他の魔人の相手まではできない。
「そんなの、自分のためじゃないかよ」
思わずつぶやいてしまう。
そう。結局自分のために、他人の神聖なものを奪おうとしているんだ。
あるいは王都の戦力だけでも魔人の相手ができるのかもしれないが、先日の魔人の力量を考えてしまうと、どうしてもそれは楽観的としか思えなかった。
を汚さず、戦力も減らさない手は?
    そんなもの、あるわけがないのだ。あれば、とっくにーー。
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