魔の氾濫が発生して冒険者ギルドアゼン村出張所から急依頼が発せられてより半日が経とうとしていた。

既には沈みアゼン村付近は夜の帳がおりており冒険者は討伐時に怪我をした者や討伐時に手したアイテムをアゼン村に持ち込む者など千差萬別である。

魔集団暴走スタンピードによる魔の大侵攻は予想されたよりは規模がなく冒険者たちは意外とアッサリ鎮靜化してしまったと訝しむ者もいるが、これはシローたち３人が大量の魔を討伐した事によるものだと気付いている者はない。

シローは魔の配置を【空間把握】で把握しており、全ての魔を殲滅する事もできるが敢えて魔がアゼン村に進めるように殲滅範囲にをあけていた。

これは冒険者に自分たちの戦いを邪魔をされたくないと思うのと、戦い方を見せたくないと思っての事である。

現在シローたち３人は他の冒険者たちとは違ってあの新迷宮の前までやってきていた。

迷宮は未だに魔を排出しており、それは永遠に魔を排出するのではないかと錯覚さえ起こさせ、そして迷宮の奧深さを誇示しているようでもある。

「凍てつけ！　アイスワールド！」

「準備は良いか？」

「はいっ！」

シローは叱咤激勵を與えるのではなく目標だけをアズハに提示し、その目標をけアズハは氷漬けにされた魔の群れに向って加速する。

氷漬けになっている魔はゴブリンジェネラルが率いるゴブリン軍団。

ゴブリンジェネラルは指揮下にあるゴブリンの能力を底上げするので配下のゴブリンたちの能力は軒並み２割増しとなっている。

そしてゴブリンジェネラルに率いられたゴブリンの中にはゴブリンナイトもおり、ゴブリンナイトは他のゴブリンとは違い金屬製の全鎧をに纏い、背丈ほどもある剣をる事で防力と理攻撃力は普通のゴブリンとは比肩できないほどの力をもっている。

更にゴブリンメイジは敵を攻撃するだけではなく、味方のゴブリンたちを補助し援護を行う。

迷宮のり口付近にゴブリンだけで數百はおり、更に迷宮からはオークやオーガの混軍団も排出されてきている。

アズハが氷漬けになっているゴブリンメイジの橫をシュンッとすり抜けるとゴブリンメイジの首から大量の飛沫が噴出す。

最初のころとは見違えるようなきを見せるアズハを見つめるシローの目もし緩む。

アズハとしてはシローに奴隷ではなく仲間だといわれて心が軽くなったものの奴隷には変わりなく、ここでシローに自分が有用な奴隷である事をアピールするのに必死であった。

自分を奴隷としてではなく人として見てくれるシローはアズハにとってこれ以上ないほどの優良件なので、シローに見放され売られでもしたら目も當てられないのだから。

そんな打算とも言える考えがアズハの思考を支配する。

何目の魔を狩っただろうか、アズハはいつの間にか自分の意識が戦闘に溶け込んでいるような覚を味わう。

何故か今までじていたプレッシャーも今はじる事なく、それどころか自分のが自然といてしまうような覚だ。

周囲の景がまるで空気のように無いかのような錯覚を、そして何より魔がただの藁人形のように見えそのきがスローモーションのように緩やかに流れる。

「が軽い・・・まるで羽が生えたように・・・足がこんなに軽やかにくなんて・・・き、気持ち良いっ！」

（やればできるじゃないか！　この調子で討伐數１０００を目指せよ！）

アズハが戦闘に集中していた頃、スノーはアズハを援護するように敵のきを封じ更に弱化する。

凜々しく佇んでいるだけで高名な畫家が描いた絵畫のように絵になるスノー。

そんなスノーを見るシローの視線はいつのまにか和になりそして何故か心臓が高鳴るのだった。

これまでもスノーを見ると鼓が早くなったり圧が上がるような覚に襲われていた事はあるが、鈍なシローはそれが魔を前にした張や高揚からくる鼓の高鳴りだと勘違いするのである。

「ご主人様、そろそろアズハの力も限界が近いと思います。一旦後退させた方が良いかと・・・」

戦闘を再開してから２時間は経っていないだろうが、アズハのきにしずつ遅れがでていたのを終始アズハを見て援護していたスノーには見て取れた。

し控えめにシローに意見を申するスノーの仕草は凜としてそれでいて華麗である。

そんなスノーの言葉がシローの耳に心地よく響く。

「・・・ご主人様？」

「え、あっ、そ、そうだね、・・・アズハ、後退だっ！　後ろに下がって休憩だ」

前線で魔を狩っているアズハはのはこれまでになく軽く息は切れているのだが決して苦しいとかが言う事を聞かないといった事はなく、それどころかまだまだ早くそして鋭くなれそうな狀態であった。

本人は調子が上がっていると錯覚をしているが、過度にアドレナリンが分泌され自分の調子が良いと錯覚を起こしているようである。

これはシローが【ステータスマイスター】を使いアズハのステータスを底上げしたからではあるが、その事はアズハは知らないしステータスを底上げしたからといって限界がなくなるわけでもない。

そんなアズハの耳にはシローの聲が聞こえておらず後退をするどころか前進を続けるのだった。

しかし、そんな狀態がいつまでも続くわけもなく、アズハは次第に魔の數に押され始めるのだった。

新しく発見された迷宮のり口から無盡蔵に湧き出てくるかと思える魔の軍勢、ゴブリン、オークだけではなくオーガにミノタウロスなどの力自慢の魔もちらほら見けられる。

そんな魔の大群にアズハは飲み込まれそうになる。

「ど、そうして・・・あんなに軽かったが・・・」

ゴブリンが振るう剣がアズハを掠る、今まで軽やかなステップで魔が攻撃する前に攻撃していたのにが思うようにかないアズハは徐々にに傷を増やしていく。

「も・・う・・・ここまで・・・なの？・・・」

「そうでもないぞ」

その聲と同時にアズハの周囲に群がっていた魔が吹き飛ぶ。

を撒き散らしアズハの周囲から吹き飛ばされるゴブリンやオークたち、魔たちを吹き飛ばしたのは今まで靜観していたシローである。

「言ったろ、俺はアズハの仲間だぞ。仲間を信頼して貰いたいな」

「えっ！？」

シローは牛斬を縦橫無盡に振るいアズハに近付く魔を死に追い遣る。

「そうですわね、私たちは仲間ですよ」

シローのやや後方に陣取っているスノーはシローとアズハの立ち位置を確認しながら援護を行っており、その姿はまるで戦場に舞い降りた神のようにしい。

ただししい顔は笑っているように見えるが目は笑っていない。

「ただ、仲間の前に私たちはご主人様の奴隷である事を忘れてはいけませんよ！　ご主人様の命令を無視するなんて、この戦いが落ち著いたら仕置きですね」

「そ、そ・・んな・・・」

青ざめるアズハを他所にシローとスノーは迷宮から溢れ出る魔を次から次へと殲滅していく。

「アズハは俺たちの後方で休息をとりつつドロップアイテムの回収だ！　力が回復するまで戦線復帰は認めないからな！」

「今度はしっかりと命令を守るのですよ！」

２人は殲滅の手を緩める事なくアズハに言い聞かせる。

そしてアズハは自分がシローの命令を無視したとは思ってもいなかったので、その事を言い聞かされ只オロオロとするだけであった。

そうこうしているにシローとスノーにより迷宮から溢れ出していた魔は殲滅させられていった。

しかし迷宮からはまだ魔が溢れ出ておりシローは魔を倒しながらユックリと迷宮の中にって行く。

そしてスノーもシローの後に続き迷宮の中にって行く。

當然、アズハも２人の後を追い迷宮にって行くのだが、何故だか先ほどまでの疲労が癒えているのが分かるほどに回復しているし、何箇所か怪我をしていたはずだがそれも傷痕がなくなっているのであった。

自分のの回復力に違和をじるも悪い違和ではない為にアズハは再び戦線復帰するのだった。

勿論、それはステータスが上がった事もあるがシローが【神聖魔法】によって回復させているからでもある。

更にオーガなどの魔から奪った【再生】や【疲労回復】をシローから譲渡された事も大きな要因であった。

「・・・取り敢えず魔は殲滅できたか・・・」

「そのようです」

「周囲に魔の臭いはありません」

いつの間にか魔がいなくなっていたと思ったらシローの【空間把握】にもアズハの【嗅覚】や【聴覚】にも魔の気配はじられなかった。

シローはこのまま迷宮探索をしたかったが、流石にスノーとアズハの疲労が気になった事もありアゼン村に戻る事にした。

◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「っ！」

シロー、スノー、アズハ、３人のギルドカードをけ取り確認したアゼン村の付嬢兼所長のアリシアーナは絶句した。

アリシアーナは３人の間を目まぐるしく視線をかす。

しかし目とは裏腹に口は開きっぱなしでそんなアリシアーナをシローは歳は兎も角として人が臺無しだと苦笑いをする。

「急依頼の報告と報酬を貰いに來た。早く処理をしてくれ」

堪らずアリシアーナに処理を促すが、アリシアーナから帰ってきた返答はシローの満足するものではなかった。

「ほ、報告ご苦労様でした！　ほ、報酬に関しては２日後に改めてお支払いしますので、それまでお待ち下さい！」

シローが２日も待たされるのかと考えるのを見て取ったアリシアーナは弁明をする。

「當ギルド出張所の処理能力を考えますと報収集や事後処理などに多時間が掛かります、申し訳座いませんがご了承下さい」

人員不足かとシローは溜息を一つ吐く。

「報酬は他の支部でもけ取れるよな？」

「申し訳ありませんが、急依頼の報酬はその場でけ渡しが原則となっております・・・」

面倒臭いものだと更に溜息を吐くシローにアリシアーナはコメカミをひくつかせながら張した面持ちでけ答えする。

流石にたった３人で千匹にもおよぶ魔を狩ったシローたちに急依頼を発した時の威勢はないアリシアーナであった。

いつまでも押し問答をしても埒が明かないと思ったシローはスノーとアズハを伴い冒険者ギルドの出張所を後にする。

「２人とも、流石に疲れただろう？　２日後の報酬をけ取るまで休息にあてるから何かしたい事があったら自由にして良いぞ」

シローの言葉にアズハは反応し、嬉しくて飛び上がりそうな気持ちになる。

「有難うございます、しかし私たちはご主人様の奴隷です。ご主人様のの回りのお世話をさせて頂きます！」

スノーは鼻息荒くシローの世話をすると言って聞かない。

そして思い出したように一言付け加える。

「それにアズハの仕置きがまだですから！」

「っ！？」

「・・・アズハの仕置きはするんだね？」

「當然ですっ！」

アズハは天國から地獄に落とされたような落膽が見て取れた。

その落膽はまさに地面にめり込んでしまうほどだ。

「暫く考えて決めるか、取り敢えず今日はゆっくりと休もう」

■ 個人報 ■

アズハ

狼人　15歳　

シローの奴隷

■ 能力 ■

ＨＰ：144/144

ＭＰ：16/16

ＳＴＲ：100

ＶＩＴ：100

ＡＧＩ：120

ＤＥＸ：75

ＩＮＴ：25

ＭＮＤ：35

ＬＵＫ：50

■　種族スキル　■

嗅覚Ｌｖ３

聴覚Ｌｖ３

■ ユニークスキル ■

神狼化（封印・討伐數：４８２／１，０００）

■ スーパーレアスキル ■

再生Ｌｖ１（ＮＥＷ）

■ レアスキル ■

罠士Ｌｖ３

隠Ｌｖ３

疲労回復Ｌｖ１（ＮＥＷ）

■ ノーマルスキル ■

Ｌｖ４（ＵＰ）

短剣Ｌｖ５（ＵＰ）