閃が走りその數瞬後には轟音そして衝撃波が津波のように押し寄せる。

その數舜後、數十もの魔がキラキラしたエフェクトに包まれアイテムを殘して消滅する。

魔が殘したアイテムは膨大な數でありそのアイテムを回収するのも一苦労ものであるが、その景を引き起こした者はそれが當然かの如く付き従う者に回収の指示を出す。

「ご主人様、もうアイテムポーチが一杯で座います！」

「そうか、では帰るとするか！」

肩まである金髪を揺らし自分の奴隷からの報告をける碧眼の年。

裝備は貴族のような服にマント、そして手に持った６０ｃｍほどの金屬製の杖である。どれも見た目が良く高価な素材が使われているように見え、シローが見たら金か、と吐き捨てるいで立ちである。

彼は迷宮都市ヘキサに拠點を構える魔導師であり、名をアキム・ベットーネという。

彼を知る者は彼の事を『紅蓮の魔師』と呼び、彼もその二つ名が気にっていた。

アキムの奴隷４人は全てであり、アキムの好きはヘキサでも有名であった。

そのアキムが『炎の迷宮』の１２層でたまたま銀髪のを見かけた。

そのは雪のように白いにキラキラとり輝いている銀髪、そしてエメラルドのようにしいグリーンの瞳をもつエルフであった。

存在するだけで周囲を明るくするであろう、そのに目を奪われたアキムは奴隷に聲をかけられるまで呼吸するのも忘れていたほどである。

アキムは無意識にそのエルフのに詰め寄って手を取ろうとしたーーーそしてアキムの手は弾かれたのである。

「なっ！」

アキムの手を弾いたのは黒髪黒目の年であった。

アキムは魔導師であるが、にも長けておりそこらにいる冒険者よりはるかに的能力は高い。

そんなアキムのきを見切りエルフのとアキムの間に割ってった子供が只者ではないと普通の狀態のアキムであれば考えつくのだったが、如何せん今のアキムはエルフのに心を奪われており冷靜に思考することも儘ならなかったのである。

「何だあんたは？」

黒髪黒目の年はいきなり距離を詰めてきたアキムを訝しみ、當然であるが警戒をしている。

対してアキムはエルフのと自分が親な関係になる邪魔をした黒髪黒目の年が悪の権化のように思えて仕方がなかった。

「貴様こそ何者だっ！？　この『紅蓮の魔師』たるアキム・ベットーネ様とそちらの見目麗しきご婦人との運命の出會いを邪魔する貴様こそ何者なのだっ！？」

無茶苦茶な理論であるが、これがアキムにとっては普通でありしいと自分が仲睦まじくれ合う邪魔をするものは悪なのだ。

「自分で自分に『様』をつけるとは呆れてものも言えないな。俺のスノーに近寄るな！」

シローのその言葉にエルフのは「俺のスノー……」と呟き顔を真っ赤に染める。

それを見ていた狼人のは悶えているスノーを正気に戻すように背中を何度かつっつく。

「俺のスノーだと？　彼は人スイートハートだっ！」

聲を荒げ話したこともないスノーを人スイートハートと呼ぶアキムに怒りを通り越して呆れるシローであった。

そして言われた本人であるスノーは背筋に冷たいをじアキムを先ほどまでシローが見敵殲滅していたＧフレアコックローチを見るときよりも虛ろな視線を浴びせる。

正にＧ以下の醜悪な存在を見る目である。

「……スノー、こいつ頭がおかしいのか？　それとも俺の耳がおかしいのかな？」

「シロー様の耳は正常です。この者の頭がおかしいのでしょう！」

「そうか……じゃぁ、行くか！」

「はいっ！」

シローとスノーは頭のおかしな者を見るのを止めて自分たちが進むべき道を進もうと一歩足を出そうとしたが、その瞬間、シローたちの進路を塞ぐ影が現れた。

シローたちの進路を塞いだのはアキムの奴隷たちである。

「ご主人様のを置いていきなさいっ！」

「いや、おかしいだろっ！」

シローは思わずアキムの奴隷たちに突っ込みをれる。

いくら奴隷とはいえ、アキムのたちなのに更にを増やそうというのか、とシローはこめかみを押さえた。

「ふふふ、ふぁ～っはっはっはっは！　この『紅蓮の魔師』たるアキム・ベットーネ様には何人もの人がいるのだよ！　そして何人もの人がいても良いのだよ！　それが『紅蓮の魔師』たるアキム・ベットーネ様なのだっ！」

「頭大丈夫か？……大丈夫じゃないか、可そうに」

「誰が可そうだっ！　『紅蓮の魔師』たるアキム・ベットーふぇっ？……ま、まてぇぇぇぇっ！」

いつまでもアホを相手にする必要もないだろうとシローは【暗黒魔法】の『幻影』によりスノーたちが走って逃げる景をアキムに見せた。そしてその幻影を追って走り出すアキム。

當然の事ながらアキムの奴隷たちはアキムがいきなり走り出した事に驚き、更にそのアキムを追いかけてシローたちの前から姿を消すのであった。

そんな景を見ながらシローは頭をポリポリとかき呟く。

「どこの世界にも勘違い野郎っていうのはいるんだな……」

前世でアキムのような勘違い君を知っているシローとしては実害がないは良いのだけどな、と瞬考する。

「まったくであるな。しかしシロー殿、あやつが魔導師であれば面倒毎になりそうだが？」

「ああ、そうだな……」

ジーナは魔導師の稱號を持つアキムが今後面倒を興さなければ良いのだが、と考える。

「ご主人様……一あの方々は……」

「頭がおかしいんだろ？」

「……はぁ、そうなのですか？　……でも『紅蓮の魔師』といえば『魔導師』の稱號を與えられている有名人です。ですからこの國では貴族のような権力を持っています。あの方の向は要注意だと思います」

「アズハの言う通りです。あのクズ……アキムと言われた方にはこちらの言葉が通じないようですので今後は関わりにならないように注意が必要です」

（スノー君や、今あいつの事を『クズ』って言いましたよね？　確かにクズっぽいけど……まぁいいか！　今度絡んできたら奴の存在自を消し去ればいいんだし）

何やら騒な考えを巡らしているシローだったが、今のシローにならそれができてしまう。

シローたちが簡易家改め森の拠點に帰り寛いでいる頃、幻影を追いかけ続けたアキムが正気に戻り冒険者ギルドに帰還していた。

「くそっ！　一何だったんだっ！？」

周囲の視線など気にせず唾をまき散らしながら怒りを何もない空間にぶつけていたアキム。

４人の奴隷たちはアキムに近づくこともできずにアタフタするだけである。

ほどなくしてし落ち著きを取り戻したアキムが奴隷たちに指示を出す。

「あのスノーとかいうエルフのの元を突き止めろっ！　ついでにあの黒髪の、黒髪のガキの事もだっ！」

「「「「はいっ！」」」」

４人の奴隷たちは弾かれるように勢いよく冒険者ギルドの中に消えていく。

火炎鋼の鉱石をインゴットにするには魔力爐といわれる特殊な爐が必要だ。

この魔力爐を持つ工房は迷宮都市ヘキサにたった１ヶ所しかなく極めて希な爐である。

しかし迷宮都市ヘキサの郊外に２ヶ所目の工房ができていたら、恐らくその２ヶ所目の工房は世界でも有數の工房として名を馳せる事になるだろう。

しかし２ヶ所目の工房の事は関係者である４人を除き誰もその存在を知ることのない工房である。

つまりその工房は世界に名を馳せるどころか、ひっそりと誰にも知られないのであった。

「魔力爐最高っ！です。火炎鋼の鉱石がまるで鉄のように簡単に溶けるなんてっ！です」

テンションマックスの、皆は彼の事をクルルと呼ぶ。

そのクルルは魔力爐の中でドロドロとなって溶ける火炎鋼の鉱石を見て喜々とした表を見せる。

火炎鋼の鉱石がドロドロに溶けるほどの熱量であれば不純は既に燃え盡きており、純度の高い火炎鋼が目の前に存在している。

そんな狀況を喜々として見つめるクルルの目はまるで數十年い焦がれた男を見るような目である。

「すごいっ！です。この火炎鋼のインゴットの純度は半端ないっ！です」

出來上がった火炎鋼のインゴットを手に取ってウルトラレアスキルである【解析眼】を行使したクルルは本日何度目かの大聲をあげる。

スノーはそんなクルルを娘を見守る母親の視線で後ろから見つめているのであった。